蘆江を巡る戦い(転)
劉備軍による夜襲から一夜明け、被害を確認した孫策軍に改めて、昨日の凄惨さが思い浮かぶ。兵は2万の死者を出し、凌操・李術・徐逸・祖郎の4将を失った。凌操のやり切った顔とは別に李術・徐逸・祖郎の顔には、恐怖の顔が浮かんでいた。それがより昨日の張遼による夜襲を呼び覚まし、兵たちは口々に『遼来来』とトラウマみたいに植え付けられていた。当然こんな状態で戦えるわけもない。早めに片をつけ、蘆江を奪取するという孫策たちの思惑は、崩れ去ったと言える。だが、簡単に諦めることなどできない。孫策は、動ける兵を束ね。劉備軍に最後の突撃を仕掛ける。
【蘆江城】
蘆江城では、双方が予定通り潰しあってくれていることに劉勲がほくそ笑んでいた。
劉勲「戦局は圧倒的劉備軍の有利か。やはり侮れんな劉備軍は。流石、我が帝を討ち取ったのだ。孫策如きにやられてくれるなよ」
袁胤「ヒッヒッヒ。これでは我が復讐も達せられよう」
陸康「孫策軍をこうも容易くあしらうとは、侮れませんな劉備軍は」
橋玄「殿、どうかお考え直しを。双方との関係を取り持つのです」
劉勲「まだいうか橋玄。劉備と孫策がこうも見事に潰しあってくれているのだ。取り持つつもりなど毛頭ない。最後に弱った片方を我らが喰ってしまいぞ」
橋玄「しかし」
劉勲「下がれ」
橋玄「ぐっ(いっそのこと我が娘を劉備と孫策に嫁がせ義兄弟とすれば、これ以上無駄な争いを続けることはあるまい)」
橋玄の娘とは、大喬と小喬のことである。その美しさは、中華に並ぶものなき姉妹との呼び声も高かった。
【孫策軍本陣】
打ち捨てられていたわけではなく。孫策軍本陣近くに丁寧に寝かされていた凌操・李術・徐逸・祖郎の遺体を前に孫策は、謝る。
孫策「李術・徐逸・祖郎、俺について来たばかりに申し訳ない。それに凌操、お前が討ち死にする程の敵将がいたというのか!すまない、俺が宴に現を抜かしたせいで」
周瑜「伯符、泣いても凌操たちは帰ってこない。こちらの被害は甚大だ。昨夜、被害を食い止めるため火消しにあたろうとしていた李術・徐逸・祖郎の3人を確実に狙った張遼。これは、俺のミスでもある。俺が敵に知恵者は居ないと断定したばかりに」
孫策「公瑾。そう責めるな。この戦の総大将は俺だ。全ての責任は、俺にある。劉備を田舎者と侮り、劉備との同盟を重視する親父を臆病者と断罪し、蘆江の奪取を決断した。その結果が俺について来た側近4人を失う結果となったのだ。この罪は重い。だが、俺は諦めることなどできん。劉備が荊州への足掛かりを得れば、肥沃な荊州の地を奪取しようと考えるのは当然のこと。そうなれば、我らの未来はない。俺は、劉備の従属として生き残るのはごめんだ。やられっぱなしも性に合わねえ。勝手を言ってるのはわかってるが俺の突撃について来てくれ。頼む」
周瑜「伯符、お前を1人になどするものか。俺も共に行く」
孫権「兄上について来た時から一蓮托生です。昨日の屈辱を晴らしましょう」
蒋欽「孫策様が怖気づいてんじゃねぇかと思ったが杞憂で安心したぜ」
陳武「我らが武勇で目にもの見せてやるぜ」
周泰「、、、孫策様と孫権様のことを守る」
董襲「やってやろうじゃねぇか」
呂範「このまま帰るのは少し癪ですからね」
孫河「最後まで孫策様と共に」
奮起する将と違い兵士たちはすっかり怯え切っていた。
孫策軍兵士「もう無理だ。あんな化け物と戦いたくない」
8万のうち5万もの兵がすっかり怯えきっていて、全く使い物にならなかった。
【劉丁軍本陣】
朝になり、陣営へと戻って来た張遼と甘寧を出迎える義賢。
義賢「2人ともよくやってくれました。これで孫策軍は、短期決戦を焦る余り、最後の突撃へと舵を切るでしょう」
張遼「起きていらしたのですか?宴に現を抜かす輩を討つなど造作もない」
甘寧「軍師殿、後は頼みますよ。俺は、まぁ、疲れたんで」
義賢「えぇ、2人とも御苦労様でした。手負の虎ほど怖いと言いますからね。最後まで気を緩めず対処するとしましょう」
昨晩の甘寧と張遼の奇襲は実に連携が取れていた。甘寧が焼いた兵糧の火を消そうとやって来た兵を張遼が襲撃し、鎮火の陣頭指揮を取っていた3人の将を討ち取った。それゆえ、被害を軽微にすることができなかった。兵たちも怯え切っているため、今日動員できる孫策軍の兵数は多く見積もっても3万程度だろう。それらを徹底的に排除するだけ。そうすれば、蘆江を奪取しようとした孫策軍を追い出し、袁術残党軍を叩き、荊州への足掛かりを確保することができるだろう。義賢は、趙雲・黄忠・太史慈・田豫・呂布・高順の6将に迎撃を命じる。
義賢「昨夜、張遼殿と甘寧殿による奇襲で、敵軍は大混乱の本陣突撃という選択肢しか取れぬでしょう。この戦いの勝ちを決定づけるため諸将らの奮戦に期待します。呂布将軍、敵将周瑜は武芸にも秀でていると聞きます。さらに相手は背水の陣の覚悟です。油断せず対処を。太史慈殿は、孫策の相手をお願いします。決して、油断しないように。趙雲殿は、周泰を。黄忠殿は、蒋欽を。高順殿は、董襲を。田豫殿は、陳武を。樊玉鳳殿は、孫河を。俺が呂範に対します」
呂布「知略に優れ武にも優れる男周瑜か。相手にとって不足はない」
趙雲「周泰とやらは、身体に多数の傷を持つ男と聞き及んでいる。それだけの傷を負ってるということは、数多の修羅場を潜り抜けて来たということだ。気を引き締めねば」
黄忠「蒋欽とやらが相手か。まだまだ若いもんには負けんわい」
高順「董襲か、孫策の南揚州制圧の際に配下に加わった猛将だそうだな。相手をしてくれよう」
田豫「陳武ってのは、孫策に古くから仕える将らしいな」
樊玉鳳「孫河ですか。孫策により気に入られ孫性を与えられた男。相手にとって不足は、ありませんね」
孫策との蘆江を巡る最終局面は、真正面からの殴り合いとなりそうである。
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