馬騰vs韓遂(急)
両者一時休戦となったこのタイミングで、曹操から馬騰への使節として、韋端という者が訪れた。
馬騰「遠路はるばる御苦労様である韋端殿」
韋端「寛大な持て成し、感謝致します。我が殿曹操様は、馬騰殿と韓遂殿による共同での涼州統治を望んでおられます」
馬騰「曹操の命令を聞くなどごめん被る」
傅幹「馬騰様、お待ちください。曹操は天子様を庇護しておられます。曹操の要求を聞かないということは漢室に逆らうことと同義ですぞ」
韋端「傅幹殿は、話のわかる方のようですなぁ。いかにも、これは我が殿の願いであると共に献帝様の願いでもある。お聞き届けいただけぬのであれば、強硬手段に出ることもやぶさかではありますまい」
馬騰「漢室を意のままに操る逆賊が」
韋端「その言葉は聞き捨てなりませぬな。我が殿への侮辱は漢室への侮辱。相応の代償があると思ってお話くだされ(兗州が荒れてる今。馬騰と韓遂に国境を脅かされるわけには行くまい。火種を残しておけば、長安へと攻め込むことは考えられまい)」
姜冏「殿、ここは承諾しておくと良いかと」
姜冏はそう言った後、馬騰の耳元で告げる。
姜冏「韋端は、殿と韓遂の間に火種を燻らせておきたいのです。兗州にて何か変事があったのでしょう。ここは、要求を飲み、その後、韓遂に我が軍へ仕掛けさせるように仕向け、涼州を平定するのが良いかと」
馬騰はそれを聞き頷いた。
馬騰「すまぬ韋端殿、どうやら頭に血が登っていたようだ。数々の無礼、容赦願いたい。韋端殿の申す通り。韓遂とは和睦いたそう」
韋端「賢明な判断でございますなぁ(隣の男が馬騰に何かを吹き込んでから態度が変わった?何を吹き込んだのだ。何か企んでいるのか?涼州の田舎者どもが。息子の康と誕を残しておくのが良いか)もう一つ頼みがあるのですがよろしいですかな?」
韋端には2人の息子が居た。長男の韋康元将、次男の韋誕仲将。どちらも韋端とは比べ物にならないほど優秀であった。
馬騰「なんですかな?」
韋端「我が息子の康と誕を我々が馬騰様に手を出さないという証として人質に預かってもらいたいのです」
馬騰「そのようなことをせずとも我が軍は曹操殿へ攻撃はせん。遠慮なく帰るが良い」
韋端「そうは参りません。これはお互いの信頼関係なのです」
馬騰「ふむぅ。そういうことであれば、仕方ありませんな。ですがこちらは曹操殿に人質を出すつもりはない。それでも置いていくというのであれば、殺されても文句は、言いますまいな?」
韋端「(確かにそうだ。コイツは曹操様に膝を折ったわけではない。人質を出すはずがない。私は愚かな提案をした?確かにこの場合、息子2人が殺されても何も言えん。なんたることだ)それでも構いません」
馬騰「そうか。では、御子息は、我が息子馬超に預けるとしよう。では、韋端殿、遠路はるばる御苦労であった。曹操殿にもよろしく伝えておいてくれ」
韋端「はっ(これでは、まるで曹操様が馬騰に膝を折ったようなものではないか。この外交、鍾繇様になんと申せば良いのだ)」
韋端は韋康と韋誕を置いて、鍾繇の元へと帰る。
韋康「父上、何故、我々が馬騰の人質に馬騰から人質の提案があったのですか?」
韋端「いや、そのすまん。馬騰の隣にいた男が耳打ちしたことが気になり、誰かを置いていく手立てがないかと口走ってしまった」
韋誕「父上の悪い癖だ。凡庸なのに優秀を装おうとする」
韋端「誕、父に対して無礼な物言いであるぞ」
韋康「わかりました。父上の代わりに馬騰の様子を探れば良いのですね?」
韋端「あっあぁ。その通りだ康よ」
韋康「わかりました。馬騰に何か動きがあれば、曹操様に知らせましょう。怪しい動きはせず凡愚を装うことにします」
韋端「頼んだぞ康」
去っていく韋端。
韋誕「兄上、何はともあれ兗州の争乱からまだマシな地に来れて良かったんじゃね」
韋康「あぁ、そうだな(馬騰よりも警戒すべきは、馬超であろう。幸いにも馬超の預かりとなった。探れる機会もあろう)」
馬騰と韓遂が和睦のため久々に顔を合わせることとなる。
馬騰「久しぶりだな韓遂よ」
韓遂「馬騰、曹操様に膝を折る決心をしたようで何よりだ」
馬騰「まぁ、仕方あるまい担いでいたお方が和睦してしまったのでな」
韓遂「では、また共に歩もうではないか涼州の民のため」
馬騰「あぁ、そうだな(今に見ていろ韓遂。涼州の覇者は、ワシだ)」
韓遂「(馬騰め。何かを企んでいるようだな。涼州は渡さんぞ)」
2人は、お互い不敵な笑みを浮かべながら握手を交わしていたのだった。暫しの平穏な時の中で馬騰の元に1人の男が訪ねてくる。
???「涼州豪族が1人楊秋様の使者として参りました孔桂叔林と申します」
馬騰「韓遂の犬が何のようだ」
孔桂「我が殿は、韓遂を裏切る覚悟ができております」
馬騰「ほぅ。韓遂を裏切るとな。しかし、生憎、我らは、和睦を結んだ。必要のないことだ」
孔桂「涼州制覇に乗り出していた馬騰殿がその野望を諦めたとは思えません。今でなくても何れ大きく動くことでしょう。その時、我らは馬騰殿に呼応すると約束いたします。如何ですかな?」
馬騰「悪くはない条件だ。だが、そちらが裏切らない保証が何一つないのではな」
孔桂「我が殿、楊秋様の御息女である楊笙鈴様と馬騰殿の御子息である馬超殿との秘密裏の婚姻で如何ですかな?」
馬騰「成程、政略結婚とは、大きく出たな。良いであろう」
孔桂「感謝致します」
韓遂配下の涼州豪族である楊秋の狙いは、勿論全く違う。真の狙いは、娘である楊笙鈴を利用した馬超の暗殺である。韓遂が馬騰に勝つためには、カリスマ的な武力を誇る馬超の排除が欠かせないのである。妻となったものになら油断すると考えたのだ。
楊秋「笙鈴よ。馬超がお前に心を許したらこの短刀で、胸を貫くのだ」
楊笙鈴「父上、了解しました(父上にとって私は、馬超を暗殺する道具としての価値しかないのね)」
こうして、涼州で内乱が始まり1年で、劉備と曹操が和睦を結んだこの年、韓遂と馬騰も和睦することとなる。そして、馬超の元に楊秋の娘である楊笙鈴が嫁に来る最後の夜。
馬超「やはり、政略結婚となってしまったな」
王異「馬超様。貴方の側に居られるだけで私は」
馬超「こうして、俺の首元にきつーく跡を付けるほど嫉妬深いお前が!?」
王異「好きな人が別の女の物となってしまうのです。少しぐらい私の証を刻むぐらいしないと」
馬超「王異よ。そのようなことをせずとも俺はお前を側室に迎えるつもりだ。御飾りの正室がこうして向こうからやってきたのだ。もう我慢する必要もあるまい」
王異「ずっと側に居られるのですね」
馬超「あぁ」
馬超と王異は、韓遂と馬騰が和睦となってから約束通り、恋仲となっていた。そして、王異のお腹の中には、新しい命が宿っていたのである。火種を残したまま、涼州の動きは新たな局面を迎えることとなる。
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