涼州群雄の動き
各国を渡り歩く張宝により、各勢力の情報がもたらされることとなった。初めに語られたのは、涼州の内戦についてだった。
張宝「涼州では、馬騰殿が劉備様支援を名目に曹操支援の韓遂と涼州を真っ二つに割る大規模な内戦に発展しました。その顛末について、お伝えします」
【涼州 北部】
韓遂「えぇい、馬騰の奴め。なぜわからぬ。曹操殿を支援し、我らが共同して、五斗米道などとくだらぬことを申している漢中へと攻め込む好機を見逃すなど。このままでは、曹操と袁紹が抜きん出るだけではないか。我らで争っている場合ではないというに」
???「殿、涼州を治める8つの豪族の全てが殿に従うとのことです」
韓遂「よくやった成公英。閻行は、まだ戻らぬか」
閻行「殿、異民族の羌族と氐族は、馬騰につきました。申し訳ありませぬ」
韓遂「仕方あるまい。八部衆を動員し、馬騰を討つ」
八部衆とは、涼州の8つの豪族の呼び名である。侯選・馬玩・成宜・楊秋・張横・李堪・程銀・梁興の8人である。それと韓遂に仕える成公英・閻行・張恭・黄華・張進、そして楊秋の部下である孔桂叔林と共に大軍を動員して、馬騰軍へと攻めかかった。
【涼州 南部】
馬騰「韓遂の阿呆めが。帝を簒奪する曹操ではなく劉備殿に手を貸すことこそ大義となぜわからぬ」
龐徳「殿、我が叔父の龐子夏、その妻の趙蛾、その2人の息子で従兄弟の龐淯が馬騰様に手を貸したいとのことです」
龐子夏「甥の危機と聞いては、隠居もしておられませぬ」
趙蛾「馬騰様には、父を殺した李寿に復讐した際に大変お世話になりました。その御恩を返せるのならこの身体に鞭を打ち韓遂を討ちましょう」
龐淯「徳に負けぬ働きを致します」
馬騰「感謝する」
姜冏「殿、私からも3人推挙したい者がおります。入ってくるのだ」
???「尹奉次曾と申します。生まれ育った天水の危機と知り、いても経っても居られず馳せ参じました」
???「同じく。楊阜義山と申します。初陣ですが使ってください」
???「趙昂偉章と申します。お役に立ちたく馳せ参じました」
そこに1人の女性が入ってくる。
???「私も天水の危機を共に戦わせてください」
その女性を一目見て、その美しさに馬超は一瞬見惚れたがすぐに聞き返す。
馬超「女の身でありながら戦場に立ちたいと申すのか?」
???「いけませんか?」
馬超「いや、今は1人でも戦える者が欲しいのが現状だ。事実、我が妹もやる気満々だからな。あれで8になるとはとても思えん」
???「妹君が?これは失礼しました。私の名は王異と申します」
馬超「そうか良い名だな。お前たちは、俺が預かるということで構わないだろうか?」
尹奉「はっ。必ずやお役に立ちましょう」
楊阜「韓遂なんて怖くないぞ」
趙昂「必ずやこの地を守り通しましょう」
王異「韓遂を討つ」
???「馬休兄・馬鉄兄・馬岱、私たちも馬超兄様の元で戦うんだよね」
馬休「全く雲緑は、誰に似たのだ」
馬鉄「馬休にぃさん、良いじゃないか。僕たち兄妹の中では、馬超兄さんの次に雲緑が強いんだからさ」
馬岱「まぁ、安心しててよ。この僕が本家のみんなのことは守るからさ。勿論、若のこともね」
馬騰たちは、遊牧民族である姜族の血を引いている。それゆえ、生まれた時から皆戦闘狂。8歳になったら普通に狩猟もするし戦にも出る。馬雲緑、8歳の初陣である。
そして、ここにも不思議なことが起こっていた。涼州の内乱が10年も早いこともあり、本来魏の将に見出される者が姜冏に見出されたのである。そして、不思議な縁がここに。史実では、お互い憎しみ合う馬超と王異だが。喧嘩するほど仲が良いという話もある。惹かれ合う部分がお互いにあったのだろう。そんな2人の出会いでもあった。
馬騰「良き仲間たち。家族と共に戦えることを誇りに思おう。全軍、韓遂軍に向け進軍開始。姜冏・傅幹、お前たちの知謀、頼りにしているぞ」
姜冏「はっ、お任せください」
傅幹「必ずや勝利を掴みましょうぞ」
???「お待ちください寿成」
馬騰「牝冥よ。見送り来てくれたのか?」
牝冥「何を言ってるのかしら?勿論、私も戦いに向かうのよ。可愛い息子たちや娘の初陣を側で見守ってあげたいじゃない。それに、私の可愛がっている桃夭ちゃんとまだ幼い馬柳ちゃんを人質に取ろうとするだなんて許せないわ」
馬超「ですが母上、それでは、誰が馬柳と桃夭義母さんを守るのですか」
牝冥「大丈夫よ。こんなこともあろうかと思ってね。兄上に預けてきたから」
馬超「趙沐蓼叔父上にですか?」
牝冥「えぇ。それに兄上ったら氐族にも働きかけて、大規模な援軍を送るとか言ってたわ。ということで、私もついていって良いわよね」
馬騰「もっ勿論だとも」
馬休「雲緑は、母上に似たのだ」
馬鉄「そのようだな」
牝冥「あら、馬休・馬鉄、初陣だからって気抜いてると討死するわよ」
馬休・馬鉄「はい」
馬雲緑「母上ー」
牝冥「ヨシヨシ、可愛い雲緑ちゃん。暴れるのです」
馬雲緑「了解なのです」
両軍の国境線にて、大規模な戦が始まる。
【異民族連合】
馬騰の妻である牝冥は、羌族であった。馬騰の危機を知り、親族を助けるため氐族と交渉する牝冥の兄、趙沐蓼。
趙沐蓼「阿貴殿・千万殿、如何か?」
阿貴「確かに趙沐蓼殿のいう通りだな。匈奴から別れた烏桓に、一定の影響力を与えつつ何も言わない劉備殿の方が我ら野この先も安泰ということか」
千万「でもよ。ここにぶっちゃけ近いのはどっちって話だよな。劉備よりも曹操殿だろうし。巻き添えくって滅ぼされるのは俺はごめんだぜ」
趙沐蓼は、北方の異民族に顔がよく聞いた。それゆえ鮮卑や烏桓・匈奴とも親交があり、烏桓の丘力居から劉備のことについて聞いた時にピンと来たのだ。それゆえ、義弟となった馬騰が言葉巧みに丸め込まれて曹操に付かないか危惧したいのである。その馬騰が劉備に付くと決め、趙沐蓼も運命を共にすると腹を決めた。馬騰たち臣下の家族を預かり守らなければならないゆえ最低限の兵力しか援軍として送れなかった。ならどうするか他の異民族を巻き込めば良い。単純な話だった。
趙沐蓼「曹操が治めることになれば、遅かれ早かれ異民族は討滅されるか武力によって臣従を迫られよう。そうなってからでは、遅いのだ」
阿貴「千万、決めたぞ。俺たち氐族も劉備に付く」
千万「阿貴が決めたんなら従うけどよ。ところで、趙沐蓼殿は、馬騰の家臣の家族を守るって話だけどどれぐらい兵出す予定なんだ」
趙沐蓼「なーに一個師団隊は出そうかと思っております」
阿貴「馬鹿な!そんなに出せば、守りが」
趙沐蓼「ハッハッハ。心配めされるな。姜族の底力はこんなものでは無いですからな」
阿貴「千万、全師団隊を動員するぞ」
千万「おぅ、負けてられねぇわな」
趙沐蓼は、張り合った一個師団体とは、だいたい10万程である。その数を動員しても守れるだけの兵がいるなどと言われて、張り合わないわけにはいかなかったのである。こうして、羌族と氐族による異民族連合30万の大軍が馬騰軍の援軍へと進発したのである。
ここまでお読みくださりありがとうございます。




