兗州争乱(結)
イナゴによる食糧不足は深刻で曹操はこれ以上の兗州各地を取り戻すことはできないと頭を悩ませていた。そこに袁紹からの手紙が来た。
伝令「袁紹様からの手紙です」
曹操「本初から?何だ。兵糧を援助してやるから妻子を人質に出し、昔のように子分に戻れか。それも一つの手かも知れんな。わかったと伝えよう」
程昱「何を弱気になっているのです。曹操様は、自分の才能が袁紹如きに劣ると考えておいでか?茨の道を目指すと決めた貴方様が志を曲げて人の配下に甘んじることに何の屈辱も感じないのですか?もし、本当にそうだとしたら、私は仕えるべき殿を見誤ったようだ。これにて郷里に帰らせてもらう」
曹操「程昱よ。お前のいう通りだ。袁紹に貴様の援助は受けぬと伝えよ」
伝令「はっ」
そこに東阿の棗祗が来た。
棗祗「曹操様が兵糧でお困りと聞き、蓄えていた兵糧を持ってまいりました。これで、残る定陶・鉅野・東緡を落としてください」
曹操「棗祗よ。こんなに大量の兵糧をどうやって?」
棗祗「なーに、備蓄の強化に努めていたのです。臨時で徴収したりとかはしていません。どうぞ殿が使ってください」
曹操「感謝するぞ。残る3城を攻撃して、呂布を捕える。行くぞ」
兵糧を手に入れた曹操は、休む間も無く定陶へと攻撃を仕掛ける。
【定陶】
定陶を守備していたのは、王楷・許汜・張楊・蕭建・劉何・徐翕・毛暉の兗州反乱組であった。
王楷「曹操軍の勢い、これ程とは。このままでは、不味い。許汜よ。共に劉表様の元に身を寄せんか?」
許汜「うむ。これ程までに呂布が頼りにならぬとは思わなかった。それが良いであろう」
王楷と許汜は、こっそりと定陶を抜け出すと劉表の元に身を寄せたのである。そして、ここにも2人、馴染みのもとに身を寄せようと考えている2人がいた。
徐翕「徐州への大虐殺の意趣返しにと反乱に加担したがこうなっては座して死を待つだけだ」
毛暉「なら臧覇の元に身を寄せようぜ」
徐翕「うむ。それが良さそうだな」
徐翕と毛暉もこっそりと定陶を抜け出し、臧覇の元に身を寄せた。そんなことも知らず。起きたら悲惨なことになっていた。守る4将がバッタリと消えたのだ。蕭建と劉何は、張楊を裏切り裏切り、その首を曹操に差し出すことで降伏した。
張楊「何じゃこれは」
蕭建「こうなっては、致し方ない」
劉何「御覚悟を張楊殿」
張楊の配下であった楊醜・繆尚・薛洪は、この知らせを聞くと曹操に降伏した。定陶にも援軍を送った呂布であったが又しても間に合わなかったのである。そして、曹操軍の次なる進軍先は、鉅野であった。
【鉅野】
鉅野を守備する将は、黒山賊であった張燕の配下である孫軽・王当・杜長・章誑・張弘・李鄒・趙庶・薛蘭・李封である。
章誑は、曹豹配下の許耽に仕えていたのだが劉備への反乱が成功した暁に呂布を呼び寄せようと呂布と交渉のために送り込んでいた。呂布は、その話を聞き、劉備への反乱が失敗したことに安堵し、章誑を迎え入れたのも突き出すためであった。しかし、討死なら尚良いと考え此度、鉅野の最前線に配置した。
張弘・李鄒・趙庶は、鉅野周辺の豪族であり、曹操から呂布へと鞍替えしたが旗色が思った以上に悪く、曹操に頭を下げるべきか悩んでいた。
薛蘭・李封は、呂布が丁原の元にいた頃から政務を担当していた高官で武闘派でもあり、呂布の信頼も厚く鉅野の陣頭指揮を任されていた。
章誑「(何で、俺が最前線なんだ。曹操軍が来たら寝返ってやる)」
そう考える章誑の前に太い体型で、丸みを帯びた大男が来たのだ。
章誑「曹操軍だな。降伏す。グベッ」
許褚「またやっちまっただぁ。話聞かずにぶちのめしちまっただよぉ」
典韋「この馬鹿野郎。まぁ、どうせ小物だろう。気にすんなよな」
許褚「典韋、ここはオイラに任せて曹操様のこと頼んだんだなぁ」
典韋「おぅよ。俺とお前が居りゃ呂布軍なんて、恐れるに足らずってもんよ」
許褚「んだなぁ」
許褚との出会い頭の一撃。信念なく寝返りを繰り返そうとする男の哀れな最期であった。だが、それとは裏腹に曹操軍の勢いと精強さを目の当たりにした張弘・李鄒・趙庶は、曹操軍への内通の手紙を書き、それを許褚の横にいる男に届けるように使者に頼んだ。
使者「鉅野にいる張弘様の使いで参りました」
許褚「呂布軍が何のようなんだなぁ。曹操様に牙向いた奴らは全員皆殺しなんだなぁ」
使者「ヒィーーーーーーーー」
???「許褚殿、それぐらいにしておいてあげてください。使者殿、失礼しました。話は、この呂虔子恪がお聞きしましょう」
使者「話の通じる方が居て助かりました」
呂虔「何か言いましたかな?」
使者「いえ、こちらを」
呂虔「成程、了解しました。あなた方を受け入れるとそう申してください」
使者「助かります。それでは」
使者が立ち去っていく。
呂虔「全く、忠義を知らない、浅ましい奴らだ。呂布が来たと騒いで、殿を裏切り、旗色が悪くなると戻ろうとする。そういう奴らは、同じことを何度も繰り返すだけだ。許褚殿、門が開いたと同時に殲滅しますよ」
許褚「了解したんだなぁ。呂虔が居て、ほんと助かったんだなぁ。オイラだけならきっと力任せに使者をぶん殴って、鉅野の陥落に時間がかかったと思うんだなぁ」
呂虔「そう思うのなら、力だけでなく知恵も身に付けるといいのでは?」
許褚「オイラには無理なんだなぁ」
間も無く鉅野の門は、曹操側に寝返った3人により、開け放たれる。孫軽・王当・杜長の3人は、張弘らを斬り捨てると薛蘭と李封を逃し、そこに留まった。
張弘「何と裏切りを認めてくださるとは、感謝せねば門を開け放つのだ」
孫軽「貴様、何をしている。まさか裏切りか。覚悟せよ」
張弘「こんなところで。グハッ」
孫軽「クソ、遅かったか。至急、薛蘭殿の元に向かわなければ」
李鄒「こちらも門を開けるのだ」
王当「貴様、何をしている?」
李鄒「クソ、バレたのなら仕方ない相手をしよう。なっ何!俺の剣が効かない」
王当「気が済んだか」
李鄒「グワァー」
王当「こちらも遅かったか。我らは新参者。せめて、殿に古くから仕えるお二人は逃さねばなるまい」
趙庶「2人とも、門を開けたようだな。こちらも門を開け放つのだ」
杜長「貴様ーーーーーーーー何をしている?」
趙庶「クソ、バレたか!皆は、そのまま門を開け放つのだ。こやつの相手は、ワシがする」
杜長「言ってくれるなぁ」
趙庶「ぐっ。コイツ強い。おっ押し切られる。ギョェーーーー」
杜長「クソ、間に合わなかった。不穏な気配を感じておきながらなんたる様だ。こうなっては致し方なし。ここを死に場所と心得よう」
このように3箇所の門を全て開け放たれてしまい平地となった鉅野城。悩む薛蘭の元に孫軽が来る。
孫軽「薛蘭殿、我らが付いていながら申し訳ありません。薛蘭殿は、李封殿と共にこの城を脱出し、殿の元に戻ってください」
薛蘭「孫軽、何を言っている。戻るのならお前たちも共に」
李封「そうだぞ孫軽。元は敵同士だったかもしれんが今は肩を並べて背を預けられる中だ」
孫軽「こんな賊の俺にその言葉だけで十分です。ここを脱出し、必ずや呂布様と我らの仇討ちを」
薛蘭「待て、待つんだ孫軽」
李封「薛蘭。孫軽の想いを無駄にしては、それこそ意味はない。此処は窮地を脱し、呂布様の元に戻り、事の顛末を告げるのが良いだろう」
薛蘭「うむ。孫軽・王当・杜長よ。すまぬ」
薛蘭と李封は、孫軽らの奮戦で何とか鉅野を脱し、援軍に自らが兵を率いてきた呂布の元へと合流した。それと同じ頃、孫軽らに最後の時が迫っていた。
孫軽「ハハハ、まだこんな化け物がいやがったとはな」
王当「だが、俺たちの勝ちだ」
杜長「目的は達したからな」
許褚「何だか知らねぇけど。これで、終わりなんだなぁ」
許褚の一撃により、吹き飛ばされ絶命する3人。
孫軽「グフッ(張燕様、申し訳ありません。呂布様のことを頼みます)」
王当「ガハッ(族としていずれ野垂れ死ぬと思っていた。そんな俺が。最後は、殿の忠臣である2人を逃すためにここまで戦えたのだ悔いはない)」
杜長「ブヘッ(もうちょっと張燕様や呂布様と暴れたかったぜ)」
呂虔「皮肉なことに族であるこやつらの方がよっぽど忠臣だな。願わくば味方でありたかったものだ。これで、鉅野は落とした」
そこに怒りに燃える呂布が到来した。
呂布「貴様ら、よくも孫軽・王当・杜長を許さん許さんぞ」
食い止める許褚だが呂布の一撃を前に巨体の体が数歩程吹き飛ばされる。
呂布「ほぅ、俺の一撃に耐えるとは、だが兵らは無理であったようだな」
呂虔「呂布か!この化け物が」
許褚「重い一撃だったんだなぁ」
呂布「反応が鈍い男のようだな。今身体に来ているのか」
許褚「お前が曹操様の敵だから引くことはできないんだなぁ」
呂布「もう良い。俺の目的は果たした。後は、兵どもを蹂躙しておくだけだ」
呂布は、孫軽・王当・杜長の亡骸を確保すると曹操軍の兵士を蹂躙して、その場を後にした。まるで、亡き配下に捧げる生贄のように。
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