126/821

兗州争乱(承)

　この時の曹操は、青州・豫州・司隷・兗州を支配していた。兗州の反乱を当初青州や豫州・司隷の者たちに当たらせ自身は、徐州侵攻を継続するつもりであったがそれに待ったをかけたのが賈詡と満寵であった。

　曹操「反乱など青州の鮑信、兗州の郭嘉、豫州の曹昂、司隷の曹丕に任せておけば良い。我らは構わず徐州をこの機に奪うぞ」

　賈詡「お待ちください。兗州は、今殿が仰ったすべての地点を結ぶ重要な拠点です」

　満寵「賈詡殿の申す通りです。徐州攻撃を優先して、兗州が落ちては、意味がありません。ここは、速やかに兗州へと戻り呂布を打ち倒すべきです」

　曹操「2人がそう申すか。確かにその通りだ。子考、ここは任せる」

　曹仁「はっ」

　こうして、曹操は兗州へと速やかに戻ることを決めた。そして、ここまでの悲惨な状況に絶句していたのだ。

　郭嘉「曹操殿、お戻り頂けて感謝するよ」

　曹操「まさか、これほど多くの城が裏切ろうとはな」

　郭嘉「曹操殿、１つ謝らせてもらいたいんだけどいいかい？」

　曹操「どうした申してみよ」

　郭嘉「この反乱はね。私と陳宮殿で、仕組んだものなんだ。勿論、呂布をこの機に排除しておくためにね。だが想定以上の反乱となってしまったようでね」

　曹操「何！？陳宮が。あやつは、ワシに愛想を尽かしたのではなかったのか？」

　郭嘉「そういうことにして、呂布の動きを制限させようとしたんだけどね。全然乗ってこないどころかまさかこの状況で来るとはね。しかも、これだけ多くの反乱分子を抱えていたことに驚いてるよ」

　曹操「うむ。それはワシの不徳の致すところだ。郭嘉が気にする必要はない」

　夏侯惇「孟徳、張邈を連れてきたぞ」

　張邈「久しぶりだな曹操」

　曹操「どうして、こんなことをしたのだ孟卓よ」

　張邈「知れたこと。お前にはもう付いて行けぬと判断したまで、陳宮が曹操の影響下にあることを呂布様に伝えられぬことが残念だ」

　曹操「言い残す言葉は、それで良いのだな」

　張邈「あぁ」

　曹操「元譲よ。反逆者張邈の首を刎ねよ」

　夏侯惇「了解した孟徳」

　夏侯惇により、首を刎ねられる張邈。曹操は、張邈との思い出の数々を浮かべながらその死に涙を流すのであった。

　郭嘉「感傷に浸ってるところすまないんだけどそんな暇はないよ。曹操殿」

　曹操「あぁ、そうだな。速やかに兗州を取り戻す」

　そこに劉表の使者で郭貢《カクコウ》というものが訪れた。劉表は、呂布の侵攻次第では、司隷に侵攻しようと考えていたのである。

　伝令「劉表の使者と申す者が来ております」

　曹操「なんだと！劉表軍が袁紹からの援軍が有難い」

　郭嘉「違うんじゃないかな。恐らく、兗州の状況次第で、豫州方面か司隷方面に侵攻しようと考えているんだろうね。ここは、私に任せてもらうよ曹操殿」

　曹操「うむ」

　郭貢に対して、豪華な食事に踊りなどで歓待する郭嘉。

　郭貢「兗州が反乱で大変だとお聞きしたのですが」

　郭嘉「ハハハ。そんな与太話一体何処から？本当に大変ならこうして郭貢殿を盛大におもてなしできるはずがありません」

　郭貢「確かにそうですなぁ。変な噂を信じて申し訳ありませんでした」

　郭嘉「いえいえ、それでは」

　郭貢「(郭嘉の堂々とした振る舞い。とても呂布が反乱して、危機に陥ってるとは思えん。劉表様に呂布の反乱は失敗したとお伝えしよう。それにしても、呂布をもろともしないとは、流石、曹操軍。我が殿も誰に付くべきか決めるときかもしれんな)」

　そう考えながら荊州へと帰る郭貢。劉表の火事場泥棒を未然に防ぐ郭嘉であった。これを聞くと曹操は、すぐに兵を集め呂布と張超の籠る濮陽《ぼくよう》に侵攻を開始する。

　？？？「義父上、我らも共に戦います」

　曹操「平叔・朱光《シュコウ》に朱讃《シュサン》ではないか。頼もしい援軍である」

　平叔と呼ばれた男は、何進の子である何狂《カキョウ》と尹星餡《インセイアン》との間に生まれた子で、何進と共に何狂が討たれた後、曹操が庇護していたのである。そして、尹星餡を側室に迎えるにあたり、養子となった何晏平叔《カアンヘイシュク》である。朱光と朱讃は、曹真の同郷で、兗州の危機を駆けつけ馳せ参じたのである。

　？？？「父上、御無事ですか。共に戦います」

　曹操「鑠か？昂は、如何した？」

　鑠と呼ばれた男は、曹昂の２つ違いの弟である曹鑠《ソウシャク》である。

　曹鑠「その兄上より父を御守りせよと」

　曹操「病弱なお前がか！？」

　曹鑠「はっ、母上と共に南の奥地にあるという診療所とやらに行ってみたところすっかり元気になりました」

　曹操「そうか、それは良かった。では、遠慮なく頼みとさせてもらうぞ」

　曹鑠「はっ」

　曹操は、本隊を率い、濮陽へと侵攻を開始した。

【濮陽】

　その頃、濮陽では、陳宮が呂布軍の主だった妻子を捕えるべく暗躍していたのだが何処を探しても居なかったのである。

　陳宮「(何故、誰1人として、居ない？まさか、呂布如きが俺の崇高なる計略に気付いたというのか！これでは、呂布軍を曹操様の手足として使う計略がパァではないか！)」

　？？？「何をしているのですかな陳宮殿？」

　陳宮「これはこれは、王允殿の甥であらせられる王凌《オウリョウ》殿。なーに、防衛戦となりますからな。辺りをくまなく調べていただけですよ」

　王凌「そうでしたか」

　秦宜禄「お2人ともここにいらしたのですね。曹操軍が現れました」

　王凌「何？すぐに戻る」

　陳宮「やれやれ、戻るとしましょうか(妻子が居ないからといって、まだ呂布を捕える策がなくなったわけではない。先ずは、濮陽を陥落させ、乗氏《じょうし》城に移らせ、山陽《さんよう》郡へと追いやる)」

　陳宮の張り巡らせた策謀という名の蜘蛛の糸から呂布は逃れることができるのだろうか。

ここまでお読みくださりありがとうございます。