第三十一話 『チュートリアル終了のお知らせ』
「おーい、来てやったぞい」
シルバーウルフとの戦いを終えて数日後。
何やら外が騒がしいと思ったら、オレの前に珍しい客がやってきていた。
「おお、サゼスか」
衛兵を連れてウルター孤児院へとやってきたのは、この街の悪徳領主として有名なサゼスであった。
彼とは利害の一致により、シルバーウルフを捕らえるにあたって協力関係を結んだ。
サゼス側には事後処理も任せているので、今日はその辺りの要件だろう。
「わざわざそっちの方から来てくれなくてもな。遣いを出せば、オレの方から行ってやったのに」
「あの邪魔くさいシルバーウルフを殲滅できて気分が良いからな。サービスをしてやろうと思ったんだ」
正直サービスなんていらないし、来られる方が困る……。
悪い噂が絶えない領主が来たことによって、孤児院にいる人達がみんな警戒しているしな。
とりあえずたまたま近くにいて、不安そうにこちらを眺めていたフィナを手で軽く制す。
「そうか。で、何の要件だ?」
「シルバーウルフ討伐作戦についての最終報告をしようと思ってな。アジトで見つかったリストのおかげで、ほぼすべての構成員は捕らえることができた。これで貴様との約束は守ったぞい」
「それは助かる」
シルバーウルフとの戦いにおいて、一番恐れていたのは残党からの報復だ。
無詠唱魔術というチート性能を手に入れたオレはそんじょそこらの魔術師には負けない自信はあるが、ゲリラ戦を仕掛けられたり、ウルター孤児院を狙われるとなると話は別だ。
そういった事態に備えるためにも、わざわざ手を組みたくない相手に協力を仰いだのだ。
「助かったのはこっちの方だがな。鬱陶しく思っていたシルバーウルフの奴らを殲滅できたんだ。これでオーギスの統治を脅かすものはいなくなった。あはは! 久々に最高の気分になって、三日三晩ワインを飲み明かしてしまったぞ!」
「はぁ……」
無駄にテンションの高いサゼスについていけなくて、苦笑いを浮かべる。
まあ、本人が気分を良くしているならいいか。
悪徳領主である彼に目をつけられるよりは百倍マシである。
「それにしてもオースティン家のせがれがこんなに有能な奴だったとはな。我の兵が手を焼いていたシルバーウルフの奴らを一人でほぼ一掃してしまうなんて」
今回の騒動の立役者はオレじゃなくて、先行してシルバーウルフのアジトに乗り込んだフィナだろう。
無詠唱魔術が使えるわけでもないのに単身で何十人もの構成員をぶちのめして、無力化したときた。
彼女の才能の規格外さが見て取れる仕業である。
オレがやったのなんて、ボスとその取り巻きの一人を倒しただけだしな。
サゼスにはフィナに興味を持ってほしくないので、黙っておくことにするけど。
「良かったら、我の兵に加わってみないか? 貴様ならすぐさま幹部クラスにしてやるぞ」
「ありがたい申し出だけど、断っておくことにする」
「どうしてだ? 報酬は弾むぞ?」
サゼスの顔が曇り出す。
やっぱりそういった類の提案が出てくるか。
だから、フィナの存在を教えたくないと思ったんだ。
ため息を吐くのを堪えて、不機嫌な表情を浮かべるサゼスに告げることにする。
「一つはしばらくしたらこの街を出るから。もう一つはあんたに迷惑をかけたくないからだ」
「迷惑? 貴様ほどの人間を手中に収めることができれば、我の立場も安泰だと思うんだが、違うのか?」
「おい、忘れたのか? オレはオースティン家の現当主であるゼファルド・オースティンの恨みを買って、この街まで流れ着いたんだぞ? オレを匿っていると知られれば、お前も目をつけられる。いくらこの街の領主といえども、たかが一人の兵を得るために四大貴族を相手取りたくはないだろ?」
「そうだな……。オースティン家と敵対するなんて死んでも避けたいのぉ。すまんが話はなかったことにしてくれ」
サゼスがこの街の悪徳領主として有名なら、オースティン家はアルジーナ王国で最も有名な悪役貴族の一つである。
正直、貴族としての格が違う。
オースティン家とまともに張り合える勢力なんて、王族か他の四大貴族くらいしかいない。
自分の私腹を肥やすことしか考えていない悪徳領主が、そんな大物を相手取る勇気なんてあるわけがなかった。
ちなみにオレを雇えば、オースティン家に目をつけられるというのははったりである。
ゼファルドは自分の地位や身の安全に固執しているだけの男だ。
勘当した息子のことなんて、もう眼中にないだろう。
そんな父親失格の男だ。
サゼスからの勧誘を断るための方便に使ってもバチは当たらないはずである。
「その代わりといってはなんだが、謝礼をやろうか? シルバーウルフから金を巻き上げれたおかげで懐は潤っているんだ。いくらでもいいぞい。言い値を出してやる」
「気持ちはありがたいが、それも遠慮しておくことにするよ」
「いいのか? 金だぞ?」
サゼスは正気を疑うような目でこちらを見てくる。
人をなんだと思っているんだ。
オレはお前と違って金の亡者ではない。
「シルバーウルフを壊滅できただけで、オレとしては儲けもんだからな。それ以上は望まないことにする」
「謙虚な人間なんだな。まあ、要らないという金を与えてやるほど、我もお人好しではない。言っておくけど、後から欲しいと言っても、びた一文も払わないからな」
やっぱりこいつは悪徳領主と言われるだけあるな。
金に対するがめつさが言動から染みでていた。
「ああ、それでいい」
報酬を受け取らないことを了承して、サゼスとの会話を終えたのであった。
*
領主であるサゼスが去った後、近くにいたフィナが歩み寄ってきた。
オレがサゼスと話している間、終始心配そうな顔を浮かべていたからな。
案の定、フィナの口から出てきた第一はこちらを慮るものであった。
「大丈夫だった? あのサゼスと話して」
「大丈夫も何も、いくら悪徳領主とはいえ話しただけで殺してくるわけではないだろ。地雷さえ踏まないようにすれば、心配はいらない」
「ため口で話すのは地雷に入らないの?」
「……おそらく」
急に痛いところを突かないでほしい。
敬語を使うのって、なんか苦手なんだよな。
四大貴族だった頃はオレに文句を言えるやつなんていなかったから、誰に対してもため口で良かったし。
まあ、こうして五体満足で会話を終えられたから、ため口は地雷ではなかったんだろう。
「あと、よかったの? お金貰えるっていうのに断っちゃって」
「いいんだよ。ああいう目先の欲に飛びつくと、ろくなことにならないからな」
「そういうものなの? シルバーウルフのときみたいに条件を出されているわけじゃないんだし、タダなら貰っちゃえばいいのに」
「逆だよ。あの提案はシルバーウルフのものより、よっぽど危険だ」
物事の本質がわかっていないフィナに教えてやることにする。
「まあ、なんだかんだ言ってシェンは悪人ではなかった。味方になっているうちは良いようにしてくれるさ。だけど、サゼスは違う」
彼は正真正銘の悪人だ。
自らの欲を満たすためなら手段を選ばない、典型的な悪役貴族。
そういう奴らの欲深さは貴族社会で生きてきたオレが一番知っている。
「たとえばフィナはいきなり百万セス貰えるってなったら、そのお金を何に使う?」
「えっ、喜ぶけど……」
「そうじゃなくて、何に使うかだ」
「まず孤児院のみんなに分けてあげて、そしたら美味しいものを食べて、残りは学校に行くためのお金にして――」
「言っておくけど、そんなに使ったら学費を払える分のお金なんてないぞ」
「そっか……」
百万セスなんて手にしたことのないせいで、現実感が伴わないのだろう。
フィナは両手の指を折り曲げながら、計算をする素振りを見せた。
この世界の通貨の単位であるセスは、藤村冬尊がいた世界で使われていた円と基本的には同じ価値を持つ。
学費も向こうの世界同様まちまちだが、十万セスやそこらで通える学校なんてないのが実状だ。
「百万セスで限られていることなんて限られているしな。じゃあ、一千万セスならどうだ?」
「十倍⁉ そんなに貰っていいの⁉」
「仮の話だ。フィナは一千万セスを何に使う?」
「今度こそ学校に行くお金に使う! あとは他のみんなが学校に行くためのお金にしたいかな?」
「数人分だったら可能かもしれないけど、一千万セスじゃ全員を学校に通わせることなら無理だな」
入る学校によるとしか言いようがないけど。
少なくともいいところの学校に通わせることはできないはずだ。
「一千万セスでできることなんて、案外限られているんだね……」
「そうだな。じゃあ、五千万セスなら?」
「さすがに全員を学校に通わせることはできるよね……」
「ああ。よっぽど学費が高い場所を選ばなければ、使い切るということもないはずだ」
「じゃあ、残りは孤児院の建物の建て直しに使いたいかな。この家、結構ボロいし」
「五千万セスじゃ、その全部を叶えるのは無理だ」
「えーっ、また⁉ じゃあ、一億セスにして!」
「随分と強欲になったな。要はオレが伝えたいのはそういうことだ」
会話の誘導に上手く引っかかってくれたことに心の中で感謝しながら、結論を口にすることにした。
「人間の欲望には際限がないんだよ。百万セスっていう欲望が満たされれば、一千万セス欲しくなる。一千万セスを手に入れるっていう欲望が満たされれば、五千万セス欲しくなるって感じでな」
「そうなのかなぁ……。確かに五千万セスなんて手に入れちゃったら、金銭感覚おかしくなっちゃいそうだけど……」
「フィナでもそうなるんだ。サゼスのような悪徳領主はもっと顕著だろうよ。今はシルバーウルフを倒せて満足しているが、そのうちオレに払う謝礼すら惜しくなって裏切る可能性は高い」
サゼスからの申し出を受け入れなかったのも、裏切られることを予想して敵対される前に縁を切っておいただけである。
金の切れ目が縁の切れ目なんていうことわざがあるが、逆をいえば金で繋がっている限りは縁が切れないということである。
サゼスと関係を持ち続けても良い影響なんてない。
ウルター孤児院の人達に迷惑をかけないためにも、今回の一件だけで縁を切っておきたかった。
「確かにこの街の領主様なら、それくらいありそうだね……。お金を貰わなくて正解だったかも」
反応が他人事のようなのが気に障ったので、一つアドバイスしておくことにする。
「フィナも気を付けておけよ。これから先、学校に通うようになれば腹黒い貴族と嫌でも関わらなくちゃいけないようになるんだからな」
「うん……そうだね……」
歯切れの悪い返事をするフィナに不安を覚える。
こいつは良くも悪くも純粋なところあるからな。
将来、詐欺とかに引っかからなければいいんだけど、と思うオレであった。
*
フィナとの会話を終えた後、オレはふとシェンとの別れ際の出来事を思い出していた。
オレは寿命という重い代償を払い、シェンにも過去視の魔眼を使用した。
過去視の魔眼は指定した対象の過去を、第三者視点から観測できる生体術式である。
過去に遡れば遡るほど、また観測する時間が長ければ長いほど、代償として支払う寿命の長さも大きくなる。
残された寿命との兼ね合いもあり、指定した開始地点は彼の前世で高校一年生の入学時、終了地点は異世界転生した直後にした。
レイル・ティエティスの前世で得られなかった高校や大学で学べる知識は欲しかったが、シェンの魔術戦の実力を鑑みるに転生後の時代を見ても得られるものは少ないと判断しての選択だった。
シェンの過去に潜ると、周囲の状況から彼の情報を読み取ることにした。
どうやら彼の前世の名前は、加賀美瞬一というらしい。
学力は普通。運動はあまり得意ではない。
ゲームと漫画が趣味のどこにでもいるような男子高校生だった。
彼の学校での立ち振る舞いは、典型的な冴えない男子といったところだろう。
異性とは疎遠だが、似たような男友達同士でグループを作って学校生活を楽しそうに過ごしていた。
いじめられているわけでもなければ、席が近くになれば陽キャの男子とも話す。
そんなどこにでもいるような男子生徒だった。
唯一、彼に人と違うことがあったとするなら、正義感が強いところだろうか。
道理に外れた行為に人一倍強い怒りを覚える。
それ自体は責められることではないが、その強い正義感が自らの命を落とす結果となった。
高校三年生の春。
瞬一は道端で不良達がゴミをポイ捨てしているところを目撃してしまう。
自らの正義感に従ってポイ捨てを咎めた瞬一だが、結果不良達の反感を買って暴行を受けることになる。
顔を殴られた拍子に頭をコンクリートにぶつけて、当たり所が悪くて死んでしまった。
その後、瞬一の魂は白い空間へと連れていかれる。
そして姿を現したのは、すべての元凶ともいえる緑髪の神を名乗る少年だった。
「いやぁー、正しいことをしたのに死ぬって本当に理不尽だよね。そんな理不尽あっちゃいけないと思うんだ。というわけで、僕が君を異世界転生者に選んであげました! はい、パチパチ!」
わざとらしく、そして恩着せがましい喋り方で拍手をする少年。
オレにとっては一年以上ぶりに見る姿だったが、この忌々しい神は何も変わっていなかった。
相変わらず鼻につく喋り方で、異世界転生への説明を始めた。
「異世界転生っていっても、転生後は勇者になる必要もないし、自由に遊んで過ごしているだけでいいよ。まあ詳しい説明は面倒だから端折るけど、雰囲気でわかってくれるでしょ?」
藤村冬尊のとき同様、神を名乗る少年は面倒くさがりながら、雑な説明を行っていった。
空気の読めない冗談を挟みながら話を続け、ひと区切りしたところでパンッと手を鳴らす。
「じゃあ、お楽しみの生体術式プレゼントタイムだよ。ああ、君たち日本人にはスキルって言った方が伝わりやすいかな?」
そうして与えられた生体術式の能力について説明をしていった。
加賀美瞬一が与えられたのは模倣という、他者の生体術式をコピーする生体術式である。
発動条件はかなりシビアだ。
対象者の氏名や生年月日、出身地などのパーソナルデータを知っていること。
対象の持つ生体術式の能力を把握しており、かつ実際に使っているところを見ていること。
そして、コピー時には半径二メートル以内いること。
条件は厳しいため使える機会は限られているが、術式の効果だけ見たらぶっ壊れにも程がある生体術式だった。
「じゃあ、いってらっしゃーい!」
加賀美瞬一の魂をシェン・アザクールへの身体へと送り出すと、緑髪の少年はこちらへと向き直った。
不思議なことにこの自称神の少年は、過去視の魔眼で意識だけを飛ばしているオレのことを観測できるらしい。
オレとしても、こいつとはもう一度話がしてみたかった。
さあ、お待ちかね。
黒幕とのご対面タイムであった。
「久しぶりだね、オーラルドくん。元気でやっていたかい?」
「おかげさまで家を追い出されても、元気に暮らせているよ」
「皮肉を言えるくらい元気で暮らせているってことだね」
ジャブ代わりの会話の応酬。
いちいち言動が鼻につく奴だ。
やっぱりこの神、性根が腐っているんだよな……。
ひょっとしてオレより性格悪いんじゃないのか?
「このタイミングで姿を見せたってことは、シェン・アザクールとバッティングしたようだね」
「ああ、簡単に倒せて拍子抜けしたよ。せっかく手間をかけてこっちの世界に送ったのに悪かったな」
意識だけが神の間へとある状態なので、この生意気な神を直接殴ることはできない。
ならばささやかな仕返しとして、ムカつく気持ちが湧くよう煽っていくことにする。
だけど、緑髪の少年はこちらの煽りをものともせず、笑顔を浮かべながら言った。
「まあ、彼は僕がキミ用に用意したチュートリアルだからね。簡単に倒せたくらいでイキられても困るよ」
チュートリアル? 一体何を言っているんだ?
こちらの違和感を他所に少年は嬉々として話を続けた。
「気づかなかった? 今から見ると、未来の話になるから過去形で話すのも変な話なんだけどね。キミが家を追い出されて早々、シルバーウルフに襲撃された事件あったじゃん。あれ、ボクが企画してあげたんだよ」
「は? 何を言っているんだ?」
「ボクってキミがいる世界には異世界転生者を送る以外の直接的干渉はできないんだけど、例外的に異世界転生者の夢の中で交信することはできるんだ」
「それがどうしたっていうんだ?」
「だからシェンくんの夢の中に出て、お告げをしてあげたんだ。あの場所、あの日時に悪い貴族が大金を持って馬車で通過しますよって」
思い出した。
あの襲撃があったとき、馬車を漁っていた男が言っていたじゃないか。
――お嬢! 馬車の中に驚くほどの大金がありましたぜ! やっぱりボスの勘は当たりますね!
あのときは襲撃の中心人物であったミネルカを差して、「ボス」という呼称を使っているものだと勘違いしていたが、シルバーウルフのボスはシェン・アザクールただ一人だ。
現に男は「お嬢」という呼称も使っている。
「お嬢」と「ボス」は同一人物でなかったのだ。
「そう告げれば、正義感の強いシェンくんなら動いてくれると思ったよ。実際にちゃんと襲撃をしてくれたみたいだね。でも、自ら赴かず部下を行かせたってのは完全に予想外だったなぁ。僕が計画していた二人目の異世界転生者との邂逅プランとはずれちゃったれど、結果的には出会えて戦えたわけだし、チュートリアルは成功ってところかな」
まさかあの襲撃にシェンどころか、この神まで関わっているなんて。
おかげでオレは一億セスと所持品のすべてを失ったんだぞ?
本当に余計なことしかしねえな、こいつは。
どれだけ人をムカつかせれば気が済むんだろう。
「ちなみにチュートリアルとあって、送った異世界転生者の中ではシェンくんが一番弱いよ。異世界転生者って基本的に成長していくものだからね。生まれ変わった先の世界で過ごした年数が長いほど強い傾向があるんだ。彼はシェン・アザクールが十七歳のときに転生した。馬車での襲撃があった時点で一年ちょいしか過ごしてないってことだね。要するに最弱の異世界転生者ってわけ」
初めて時計を買った店で会ったとき、シェンは言っていた。
――奇遇だね。僕も一年前にここに来たばかりなんだよ。
あれはオーギスの街にという意味じゃなくて、この世界にという意味だったのか。
これでシェンが魔術戦の知識が疎いのも納得できた。
一年前に転生をしたなら、オレ達の世界の情報を集める時間が少ないのも当たり前。
十年以上前に既に転生していたレイルより弱いのも当然のことだった。
「わかったでしょ。チュートリアルをクリアしたくらいでイキらないでよって言った意味が」
「お前、本当にクソ野郎だな……」
こいつは人の人生をなんだと思っているんだろう。
オレの人生までならともかく、せっかく異世界転生を行うことのできた加賀美瞬一の人生を、たかがいち悪役貴族に嫌がらせをするためのチュートリアルに使うなんて。
「そういう酷いこと言わないでよね。ボクにも心はあるんだよ」
「なんの人間アピールだ」
「アピールっていうか元々は――ってそれは今関係ない話だね。チュートリアルが不評だったみたいだから、一つキミにお得な情報をプレゼントしてあげることにするよ」
どうせこいつのことだから、ろくでもない情報なんだろう。
心の中で聞き流す準備をしていると、彼は興味を惹く単語を持ち出してきた。
「キミの勝利条件だ」
「勝利条件?」
「そうだ。キミはボクが送った異世界転生者を倒すことで、少しでもボクに嫌な思いをさせようとしているんだろ?」
簡潔にまとめると、我ながらめちゃくちゃ陰湿な復讐方法だな。
だけど、この腹立たしい神に一矢報いるためなら、どんな陰湿な方法選んでやりたいと思えてしまうのが不思議である。
そもそも異世界転生者を過去視の魔眼で視ることでしか神に会えないため、物理的な復讐を叶えることは不可能だ。
よって、間接的な嫌がらせでしか、この神に報いることはできなかった。
「シェンくんの存在でわかったと思うけど、ボクは異世界転生者を複数人送れる。でも、際限なく送れるわけじゃないんだ」
両手を叩くと、彼は淀みない笑みを浮かべて言った。
「ボクが同時に送れる異世界転生者の数は七人まで。で、一度異世界転生者が死んだら、その枠で新たな転生者を送るまでに百年かかる」
「その情報が真実だという証拠はどこに?」
「嘘なんてつく必要ないでしょ。ボクはキミのことを遊び相手とは思っているけど、脅威に感じてないんだし。せっかくのゲームをつまんなくするような嘘はつかないよ」
こいつはとことん、人をおちょくってやがる。
オレの文字通り一生を懸けた反逆がゲームだと?
その舐めた態度に絶対吠え面をかかせてやる。
「ということで、キミの勝利条件は異世界転生者を七人殺すこと。そうすれば百年の間は異世界転生者をキミの世界から駆逐することができるってわけ」
七人。
シェンの存在を抜くと、あと六人か。
果たしてそれは多いのか、少ないのか。
シェン程度の転生者を六人倒せばいいって聞くと簡単に思えるが、レイルクラスの転生者を六人倒さなければならないとなると絶望的だ。
「ということで、無謀なチャレンジだと思うけど頑張ってねぇー。ボクも応援しているから!」
応援も何も、お前が異世界転生者なんて送らなければ済む話だろ。
まあ、挑発に乗って怒りの感情を見せれば向こうの思う壺なので、言ってやらないけど。
あと六人。
必ず倒して、オレを敵に回したことを後悔させてやる。
忌々しい緑髪のおかっぱ頭を眺めながら、再度心に復讐を誓うオレであった。
これにて一章は終わりです。
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