となりの中学の合唱部(番外編)親の意見となすびの花は
「となりの中学の合唱部」登場人物 M大学付属中学合唱部の中1男子ノリオとM市立C中学合唱部の中1女子エイコの会話です。合唱部の行事を離れて、近所の公立図書館で偶然居合わせた2人が何ということのない会話をします。ノリオってどんな子なんだろう、エイコもどんな子なんだろう。そんな背景が少し表現できたでしょうか。
とある週末、M大付属中学とM市立C中学の谷間にある図書館で
エイコは借りた本を返しつつ、次に借りたい本をティーンエージャー・コーナーで探していました。
そこへ同じく、本の返却を済ませ、何かいい本はないか眺めていたノリオは
大き目のテーブルで本を何冊か積んで読んでいるエイコに気づき、「よお、元気?」と、声をかけて隣に座わりました。
ノリオは相変わらず男女とかに無頓着です。
(ノリオってそういう子よね・・・神経質に距離を取るのもなんだかなあだし・・・)エイコはちょっと、気にかけましたが、一応の社交儀礼的笑顔で「うん、元気だよ!」と、返しました。
そして、気になっている本の続きに目線を戻しました。
「親の意見となすびの花は・・・千に一つも無駄はない」
ノリオがつぶやくので、
エイコはなんのこっちゃと振り返り
「え、なんかお母さんに言われたの?」
「せっかくM大学付属中学に入れたのだから
部活もじっくりやりたいと言ったら
『そんなこと言ってたら、高校受験する子たちに抜かれますよ。』
だってさ、
そうかもしれないけどね。」
「M大付属中みたいなエリート校の人も何かと大変なのね。」
受験のことはまだ何も考えていない中1のエイコは感心しました。
「興味という意味では、バレーボールも好きだし、卓球も好きだし、バスケットボールもやってみたかったし、でも結局合唱部にしたのよ。歌も好きだからね。あはは、高校に入ったら体操部もやってみたいなあ…私、バックブリッジできるんだよぉ。試しにやってみたらできちゃった!えへへ!」
中学受験なしで地元のM市立C中学校に進学したエイコのお気楽な部活話はとどまるところを知りません。
ノリオはまじめに勉強と部活の両立のお悩みをうっかり口にした自分があほらしく思えてきました。
「千に一つも無駄はなくても、万に一つなら無駄もあるかもね」
エイコが楽しそうに言うので
「そりゃ、言葉遊びだろう。
ああ言えばこう言う・・・みたいな。」
親は部活がダメだと思っているわけではないんですね。
中学生の本分たるお勉学でちゃんと実力をつけてくれれば文句はないわけなんですね。
しかし、それができれば苦労はしませんよね。
何かに熱中すれば勉強にかけられる時間は減りますもの。
「ノリオ君は何になりたいの?」
エイコは唐突に進路指導の先生みたいなことを言いました。
「何って・・・わからないよ。兄貴がいい大学に行っているから、当然僕もそういう方向だって、親は信じているみたいだし。」
(へえ・・・頭のいいおうちなんだ・・・。)エイコはちょっとうらやましい感じを受けました。
「私はとにかく、勝ちたい。
お父さんが『女は数学ができない』って、決めつけながら数学教えてくれるから、『なんだと、女でも数学で勝って見せるわい!やってやる!』って気がするの。」
エイコのお父さんって、口が悪いようです?・・・結局数学教えてくれているのだから、結果オーライかな?
ノリオの周りはなんだか気の強い女子が多いような。
めずらしく、ノリオのそばにいないM大付属中学中1の女王ヤスコの顔が浮かび、さらに、もっと気が強い自分のお母さんの顔が浮かびました。
「たらたらしてないで、ちゃっちゃっと勉強しなさい!やることやってから、部活とか、余裕の時間を使いなさい!」というセリフ付きで。
「邪魔したね!あんまり話していると司書さんに叱られるよね。じゃあ、またね!」
ノリオは席を立ち、エイコはにっこりバイバイと手を振って本に目を落とし、ノリオは図書館を後にしました。
一つの目標に向かって皆で協力し努力する、嵐のような祭りのような合唱コンクールという行事を通り過ぎて、平穏な日常においてM大付属中学のノリオとM市立C中学のエイコが再会したら、どんな感じかなと想像してみました。お付き合いいただきありがとうございます。