薬屋①
街の西に移動する。
セリーナのことを聞こうと薬屋に顔を出すためだ。
ソーンダイク家は街の東側にあり、冒険者ギルドやよく使うグリン食堂は街の真ん中あたりに位置する。
だから俺の生活圏は街の東側と中央。
それ以外は探偵依頼で訪れたことがあるくらいだ。知った街だが、見慣れない景色だ。
ちなみに街の南側はさっきのウィーズ家とゴブル家の聞き取りで訪れたのが久しぶりだ。北側についてはもうずっと行っていない。
商店街にたどり着く。
こんなところがあったのか。仕事ではなくプライベートで買い物に来てみたいなと思った。あ、だめだ。依頼がすべて終わったらこの街を出るので、叶わない望みだ。
薬屋に着いた。
建物自体は古いようで、だいぶ年季が入っている。その分、薬の効能に説得力がありそうだ。なんとなくだけど。
店の入り口には「オープン」という意味のこの国の言葉の札がかかっている。数少ない読める言葉の一つだ。
ショーウインドウにポーションやいろいろな薬草が並んでいる。
ガラス越しに店内が見える。瓶に詰められた乾燥した葉っぱや、きれいな色のポーション類が、棚に整頓されている。
よく見ると先客がいるようだ。カウンターで話し込んでいる。
先客が帰ったら話を聞こう。それまではせっかく来たんだし、店内でも見てみよう。
「すいませーん……って、ソフィー? ハリエットもいるじゃん?」
「あ、純也じゃない。よく気が付いたわね」
決して大きいとは言えないこじんまりとした店内だ。嫌でも目に入ってくる。
例え広くてもソフィーは存在感があるからな。気が付くか。
「純也様、こんにちは」
ハリエットがぺこりと頭を下げる。
「こんにちはじゃないよ。二人とも依頼はどうしたんだよ」
薬屋でのんびりとショッピングでもしていたのだろうか。
「私は一応見つけたのですが、純也様に相談があって、戻ってきたところです」
そこをソフィーに見つかって、ついてこさせられたのだろう。
「私もちゃんとやっているわよ。薬草の生えているところを教えてもらおうと思って依頼者のディーナさんに聞いていたところよ」
依頼しているんだから、それなりに理由はあるはずだろう。
でも、うーん、まあ、そうだな。うん、ソフィーなりに考えたことなんだろう。
ってかここの薬屋がディーナさんの店なのか。
「で、どうなんだ? 達成できそうか?」
「ちょっと難しいわね」
眉をひそめるソフィー。
「今まで採取出来たところが、だめになっちゃったみたいなのよ。だから新しいところを探してほしいそうよ」
「そりゃそうだろうな。取りに行けるなら依頼しないだろう。逆に、取りに行けていたから、今まで依頼がなかったんだろう」
「やはり純也さんはわかっていましたか」
ハリエットもわかっていたようだ。
「わかっていたなら言ってよ!」
ソフィーが口を膨らませている。
考えたらわかることだと言いたかったけれど、ソフィーなりに頑張っているようだったし、やる気をそぐようなことはやめておいた。
「それじゃあソフィーさん、私が薬草の群生地をサーチしますよ」
ハリエットは決して悪いことはしていないと思うが、罪悪感があるのだろうか、ソフィーに提案した。
「ほんと? やった。じゃあお願いするわ、ハリエット。それじゃあ純也、行ってくるわね」
ソフィーが手を振って、ハリエットが一礼して店を出て行った。
嵐の後の静けさ。うん、ソフィーはたぶん嵐だ。
ハリエットは風魔法使いだが、それ以上に嵐だ。