街の探偵②
娘の行方が分からないというのは親としては気が気じゃないだろう。
へらへらするなんて御法度だ。
気を引き締めてゴブルさんに聞き込みをしなくてはいけない。
依頼書には娘の名前はセリーナと書いてあったが、それ以上の詳しいことはわからない。
何度も何度も訪ねるのは不安をあおるだけだ。今日のこの一回の面談で大体のことを聞かなくては。聞き漏れのないように気を付けよう。
それにしてもこういった依頼は好きではない。命にかかわることもあるから。
重い足を引きずるように、ゴブルさんの家に向かう。
今頃二人は何をしているのだろうか。
ハリエットは石の群生地をサーチしているはずだ。エルフという種族の能力なのか、ハリエット自身の特技なのか。後で聞いてみよ。
ソフィーは大丈夫だろうか。サーチの能力は持ってない。自力で探すにはそれなりに知識が必要だ。あいつは運は良い方だから思いの外あっけなく見つけているかもしれない。
鉱石や魔石は言っても石だし、どちらも見つけていてもハリエット一人では運びきれないだろう。
だが薬草に関しては、群生地さえ見つければソフィー一人で今日中に片付くはずだ。
一つでも早く終わらせたい。
二人にも頑張ってもらわなければ。特に依頼をもらってきたソフィーには。
考え事をしながら歩いたら、あっという間にゴブルさんの家に到着した。
この家も立派な家だ。煙突が見えるので、暖炉あるのだろう。あこがれるな、暖炉。
でもスタインバーグ家よりは小さいか。結構な資産家なんだな、ダインさんって。
「こんにちは。セリーナさんの件でお話ををお伺いにまいりました」
ドアをノックする。しばらくドアの前で待っていると、ゆっくりとドアが開いた。
「ああ、ありがとうございます。どうぞ中へ」
出てきたゴブルさんは、かなりやつれている印象だった。娘が心配であまり眠れていないのだろうか。
リビングに通され、ゴブルさんと向き合って、椅子に腰を掛ける。
キッチンから奥さんがお盆を持って現れた。お茶を出すと、ゴブルさんの隣に座った。
「娘を見つけてください!」
すがるように奥さんが言った。
この時点で少し泣いているようだ。
「できる限りのことはしたいと思っています」
ここで「絶対に見つけます」などと、無責任なことは言えない。
「そこでいくつか聞きたいのですが、セリーナさんの年齢と特徴などがあれば教えていただけますか」
奥さんは少し取り乱しているようなので、比較的落ち着いて見えるゴブルさんに話を聞く。
「はい、もちろんです。セリーナは十七歳で、特徴と言えば、きれいな白い髪です。あと、いつもお気に入りの星のネックレスをつけています」
「なるほど。わかりました」
メモに情報を書き込んでいく。
書かなくても覚えられる内容だけど、こういった姿勢が大事なのだ。ちゃんと聞いてくれているという安心感を与えられる。
「それでは、いなくなった時の様子はいかがでしたか?」
ゴブルさんは話始める前に、いっぱいお茶を飲んだ。心を落ち着かせているだろうか。
「特に変わったことはありませんでした。三日前に買い物に出かけたきり、帰ってこなくなってしまって……」
「そうですか。それでは家出をするような心当たりはありましたか?」
「ありません。この家で楽しく過ごしていました」
奥さんが答えた。
語気が強く、取り乱しているようで、ゴブルさんがたしなめている。
「そうですか。それでは身代金の要求などはありますか?」
「ありません」
「そうなんですね。では最後に一つ。買い物に出かけたと言っておられましたが、具体的な店名などはお判りでしょうか?」
「ええ、西の薬屋だったはずです」
「わかりました。できる限りのことはしてみます」
メモを閉じて胸ポケットに入れる。
「ぜひお願いします!」
「娘を見つけてください!」
立ち上がり帰ろうすると、二人がすがるように言った。
玄関を出てドアを閉めるまで、二人は頭を下げていた。
依頼を受けたからにはいい結果を持ち帰りたい。
これから捜査の開始だ。