街の探偵①
今まで探偵みたいなことをして生計を立てていたので、こういった捜索依頼はなかったわけではない。
だからちゃんと捜査すれば依頼を達成できると思う。
しかしそれは時間的余裕があれば、という話だ。
今回の依頼はそうではない。今すぐにでもこの街を出たいと思っている。時間的余裕はあまりない。
依頼達成のためには時間をかける必要があるが、のんびりしている暇はない。
状況に見合わない依頼だ。本来だったら断っている。
ソフィーが調子に乗って……いけない、いけない。心に余裕がないようだ。
これでは冷静な判断ができない。クリアできるものもクリアできなくなってしまう。
ウィーズさんの家の前で一度深呼吸。
立派なお屋敷だ。アーガルムは富裕層が多く住む。この家もその一つだ。
気合を入れなおしてドアをノックする。
「クエちゃんの捜査の依頼の件で参りました」
どたどたと急いでいる音の後にドアが開いた。
「あらあら、純也さん。頼もしいわ。ほら、入って。今お茶を出すから」
俺の名はそれなりに知られているようだ。
まあ、秘められた能力のない勇者としてこの街に来た時点で、俺を知らない者はいないだろう。
勇者として転移してきた日本人は、規格外の能力を持っている。底なしの体力の者や、とんでもないスピードを持つものなど。
だが俺には秘められた能力がないと認定されてしまった。
それをいいことにのんびりと暮らしていたのだが。
リビングに通され、席に着く。
調度品は高価なものだと一目でわかる。
壁に黒い焦げたような跡があるのが気になった。
あそこだけが少し違和感がある。
「いえいえ、お構いなく。情報だけいただければいいので」
そう伝えるも、ウィーズさんはお茶とお菓子を用意してくれた。
「遠慮しないでいいのよ」
ペットがいなくなったのにずいぶんと落ち着いているように見える。
「それではクエちゃんについて教えてください」
「ええ。もちろん」
ウィーズさんは一口お茶を飲むと話し出す。
「三日前、朝起きたらクエちゃんがいなくなっていたのよ」
「三日も経っているのですね」
「そうなのよ。うちのクエちゃんは、魔物に立ち向かうほど果敢だから、そこまで心配していないのよ」
「それは……。ちなみにどんなペットでしょうか? 犬とか猫とかですか?」
俺も見習いたいくらい負けん気の強さだ。
「違うわよ。ドラゴンよ。ドラゴン」
「ド、ドラゴン!?」
「って言ってもちびドラゴンだけどね。ベリーリの実が好きな赤くてかわいいドラゴンよ」
うふふと笑うウィーズさん。
「そうですか……。ちびドラゴン……」
「そうよ外に出さないで育てているからね。大きくならないのよ」
「そういうもんなんですか……」
アーガルムのほかの富裕層も、ドラゴンを飼っているのだろうか?
俺もこの街に住んで結構経ったと思っているが、知らないことも多いようだ。
そもそも外に出さないで育てているから、クエちゃんは逃げ出したくなるのではないか。
「早く戻ってきてくれないかしら。クエちゃんの吐く炎で料理していたのよ。いないと不便だわ」
ドラゴンだったらちょっとやそっとじゃ死ななそうだな。どこかで生きていると信じているのだろう。余裕なのはそのせいか。
なるほど、あの壁の焦げってそういうことか……。
「そうなんですね……ははは……。じゃあ早速探してきますね」
「よろしくね、純也さん」
一礼してウィーズ家を後にする。