プロローグ③
やはり我が家はいいものだ。安心感がある。
「純也様はここに住まわれていたのですね。素敵なお家です」
素敵なログハウスに住んでいたハリエットが言う。
「私の一族の土地よ」
ソフィーの発言は、決して間違ってはいないので、否定できない。たしかにソフィーの家、スタインバーグ家の土地だ。だがなぜだろう。なんか鼻につく。
きょろきょろと室内を見渡しているハリエットに、ソファを使っていいと伝えると、荷物を置いて腰を掛けていた。
できることならここでずっと過ごしていたいけれど、やはりこの街を離れる必要があるだろう。
説明するのは難しいが、直感的に危険だと感じる。
「出発は明日朝イチにする。今日中に準備を済ませよう」
椅子に腰を掛けるなり、二人にそう伝える。
「そうですね。今日中の出発はさすがに難しいですね。一度休息をして明日に出発するのが賢明ですね」
ハリエットが頷いている。
「ああ、馬車と馬も購入したいしな」
「すぐに買えるのですか?」
「それは大丈夫だ。馬屋がある」
「それはできないわよ」
ソフィーが突然ハリエットとの会話に口をはさむ。
「いや、できるよ。お金も十分あるし、問題ない」
「それはわかっているわ。でもそうじゃないの」
「どういうことだ?」
「さっきギルドで依頼を受けてきたから、明日の出発はできないってことよ」
ソフィーが洋画の女優よろしく、肩をすくめて両手を左右に広げる。
「「え?」」俺とハリエット。
「え?」ソフィー。
三人ともが目を丸くする。
数秒の沈黙。
「いやいや、え? じゃないよ。何言ってんの? さっきのあの一瞬で依頼を受けたの?」
「そうよ。なんか、何組も達成できなかった依頼を数日で片づけてきたから、すごいねって言われて、お願いされたのよ」
しょうがないわよね? みたいな顔をするソフィー。
「それで受けたの?」
「そうよ。だってかわいそうだったんだもの」
ソフィーの言葉に俺は頭を抱えた。
「断ったらいかがですか?」
ハリエットがまともなことを言う。
その通りだ。依頼人には悪いけれど断ってしまおう。今は依頼人はほしくない。
「それは無理ね。キャンセル料が発生するわ」
「お金ならあるだろう」
さっきもらった報酬は、いつもの倍以上だ。想定外の出費だが、やむを得ない。
「だめよ。たぶんキャンセル料で、今回もらった報酬が全部なくなっちゃうわ」
「なんと……」
いつでも冷静なハリエットが少し取り乱している。
これはもうプランの変更だ。
「はぁ……。じゃあもうしょうがない。受けるしかない。急いで解決しよう。そしたら出発だぞ」
「わかっているわ」
「わかっていないからこうなったんだろう」
今までのらりくらりで、どうにかこうにかやってきたんだ。
予定通りいかないのが人生なのだろう、と悟ってみた気になる。
出発は延期された。
取り急ぎ受けてしまった依頼を達成する。
でも今日は馬でも買いに行こう。うん、馬でも愛でて癒されよう。
依頼については明日から行動開始だ。