エピローグ
ハリエットはここに住んでいたわけではないので、すでに荷造りに関しては完了していた。
ソフィーはなかなか持っていくものと持っていかないものの判断に困っているようだった。
俺はすんなり終わったので、お世話になった人に挨拶をすることにした。
ソフィーも行きたいと言ったが、荷造り優先と伝えると、頬を膨らませつつも素直に従った。
まずはスタインバーグ家に挨拶をした。
夫妻は「娘をよろしく」と言って笑って送り出してくれた。
ダインさんの「いつでも帰っておいで」という言葉がうれしかった。
その後、グリン食堂にも顔を出した。
店主や店員さんとは話したりしたことはなかったが、顔なじみと言うか、いつもおいしい料理を安い値段でありがとうと伝えたかったから。
街を出ることを聞いた店主は「持っていきな」と言って焼いたもも肉を三本くれた。
薬屋のディーナさんの所にも寄った。
あれから薬草は順調に採取できているとのことで安心した。
ディーナさんは帰り際にまたポーションをくれた。
セリーナの様子を見に行った。
一日でだいぶ良くなったようだった。顔色もよくなっていて、話ができた。
怖い思いだったと思うが、事の顛末を話してくれた。あらかた予想通りの展開だった。
お見舞いに来ていたゴブル夫妻が何度も頭を下げるので「もう報酬もいただいたのでお礼はいいです」と何度も伝えた。
セリーナはヒーラーの能力もあるらしく、それをすごいアピールしてきた。
話を聞いていると、一緒に冒険に出たいということだった。
明日には出発するから、その身体では難しいと伝えると、すごく悔しがっていた。ゴブル夫妻が必死に説得していた。
最後にウィーズさんのクエちゃんに会いたくなったので、会いに行った。
ウィーズさんは「いらっしゃい」と言って家に上げてくれた。
クエちゃんはリビングの専用ベッドで、似合わない服を着せられて丸まっていた。
撫でると、こんな姿を見られて恥ずかしい、といった表情をしているように見えた。
そしてクエちゃんが立ち上がると手に持っていた卵をこちらに差し出してきた。
ウィーズさんが「もらってちょうだい」とクエちゃんを撫でながら言った。
卵を産んだらしい。家出をしている間に、どこかで何かがあったのだろう。
クエちゃんもなかなかやるなと思いながら「大切に育てるね」とクエちゃんに言い、「ありがとうございます」とウィーズさんに伝えた。
それなりの時間をこの街で過ごしていたけれど、知り合いと呼べる人はそんなにいない。
しかし、しばらくこの街ともお別れだと思うと、少し感慨深いものがあった。
もう少しぶらぶら歩いてから家に戻ろうと思った。




