作戦②
日本にいた時だったら、どんな理由であれ、一人で洞窟に入るなんてことをしなかっただろう。
もしかしたら自分にある能力が、気持ちを大きくしているのかもしれない。
なんだかんだで勇者らしくなってしまっているのかもしれない、と思うと恥ずかしくなる。
今一度考えを改め、勇者にはなりたくないと、心に誓った。
そんな決意表明をしていると、明りが見えてくる。
まだ時間帯的には昼前後だろうか。朝からしっかり働いているな、と思う。
炎の光があったとはいえ、太陽の光に目がハレーションを起こす。
思わず手で顔を覆う。
その瞬間、馬がヒヒーンと暴れるように鳴いた。
俺が戻ってきたことがうれしかったのだろうかと思って、手をどけると、目の前にドラゴンが舞っていた。
驚いて岩陰に身を隠し、警戒しながら確認する。
ドラゴンは岩を挟んで目の前に降り立った。
大きくはない。赤い小さめのドラゴンだ。
こちらに敵意を持っている様子ではない。
なんか人になれている感じだ。
あれ? もしかしてこのドラゴンは!?
「ク、クエちゃん?」
恐る恐る、岩陰から声をかけてみる。
「クェ! クェ!」
反応している。うん、たぶんクエちゃんだ。
セリーナを探していたら、クエちゃんを見つけられた。
よし、これで一つ完了だ。
クエちゃんに近づいていみる。
いきなり炎吐かれたりやしないかと不安はあったが、人懐っこいようで、簡単に頭を撫でると「クェエエエ」と甘えたような声を出した。
クエちゃんを連れて帰ろうと、馬にまたがると、クエちゃんが袖を噛んで引っ張ってくる。
「帰ろう」
「クェ!」
帰りたくなさそうだ。ウィーズさんの家でコンロ代わりに使われるのが嫌なのだろうか。
俺は嫌だなと思う。
しかし何度も何度も引っ張っては「クェ」と鳴く。
「何か来てほしいところがあるのか?」
「クェ! クェ!」
言葉は通じないが、クエちゃんの思いは伝わったと思う。
ただの勘でしかないが、従ったほうがいいと思える。
「クエちゃん、案内して」
そう伝えると、「クェ!」と鳴いて飛びたった。
たぶん「ついて来い」という意味だと思う。
馬に鞭を入れ、前を飛ぶクエちゃんについて進んだ。




