作戦①
「おーいセリーナ! いたら返事をしろ!」
顔は出さず、手前で大声でさけぶ。
騒いでいたゴブリンが静まる。女性の声の反応はない。
「おーいいないのか! いないんだな?」
もう一度叫ぶ。
よし、セリーナはいない。これで思う存分できる。
ゴブリンたちが騒ぎ出した。それと同時にどたどたとこちらに向かってくる気配がした。
すかさず炎魔法を全力で使う。
前に手を伸ばし、エネルギーを集め炎を出すイメージをする。
ゴブリンの姿が見えた。怒り狂っているのがわかる。
こん棒のようなものを振り上げている。
殴られる。だがその前に。
目の前に大きな炎が出現し、ゴブリンたちを包み込む。
炎は柱のように大きい。柱といっても縦にではなく横にだが。
自分でも驚くほどの熱だ。普通こういうのって出現させた者はあまり熱さを感じないんじゃないのか? 知らんけど。
片手で炎を出したまま、鞄に手を伸ばし、ディーナさんからもらったポーションでMPを回復する。
その間は中火くらいになってしまうが、それでもなかなか迫力のある炎だ。
ポーションはまずい。でもエネルギーがたまっていくのがわかる。
両手で再び強火で再加熱。
この大きさの炎だったら大広間全体に火がいきわたっているはずだ。
隠し扉や逃げ道さえなければ全滅できるだろう。
さっき大声でセリーナと叫んだのは、当たり前だがセリーナの存在を確認するためだ。
返事があった場合、どうにかこうにかゴブリンの群れをかいくぐって、セリーナ元へ向かい、セリーナを背に守りながら、炎で戦う。
どうかいくぐるかは行き当たりばったりではあったけれど。
返事がない場合は、セリーナがいないか、遺体となっている場合に該当する。その場合は丸ごと焼き払うと決めていた。今やっていることだ。
いなければいいが、遺体だったとしたら少なくとも星のネックレスだけは持って帰れるだろう。
生きているが返事ができない場合も想定できるが、その場合も焼き払うと決めていた。亡くなっていたと思い込むしかない。
そろそろ炎を止めてもいいだろう。
炎を鎮め、中の様子を探る。
声はおろか、何かが動く音は聞こえない。
煙が目に染みる。
一酸化炭素中毒になって死んでしまうかもしれないと思ったので、ハンカチを口に当て、姿勢を低くする。
防災センターで煙体験をしたのを思い出した。
はいつくばって奥の広間に進んでみる。
やはりゴブリンは全滅したようだ。骨になっている。肉体を焼き尽くしたようだ。
今まで試すことがなかったが、これで自分の炎魔法の威力を知れた。もう使いたくないなと思った。
広間の最奥に進むと王座のようなものがあった。
そこから風化しない程度に風魔法を使い、煙を風で外に向かって吹かせた。
ある程度空気がきれいになったところで立ち上がり、炎を小さく出現させ、周りを探索。
きらきらしたものが散乱している。
宝石だろうか。ゴブリンは宝石などを集める習性があるとかないとか聞いたことがある。
戦利品としていくつかもらっていこう。
数個ポケットに入れる。
しかし星のネックレスは見つからなかった。
ここにはいなかったということだろう。
まだ生きている可能性がある。
もしかしたら隠し部屋があるかもしれないが、サーチスキルのない自分にはここまでが限界だ。
洞窟の捜索を終え、出口に引き返す。