現場②
馬から降りて手綱を結び、頭を撫でながら「ちょっと待って」と伝える。
洞窟の奥は暗く、何も見えない。耳を澄ましても、何も聞こえない。
この洞窟の中にセリーナがいる可能性がある。
生きているといいのだけれど。
洞窟に潜入しても、他の出入口があった場合、逃げられてしまうかもしれない。
セリーナさえ見つけられれば足跡の主が逃げても別に構わないが。
とりあえず、進むしかないだろう。
だが考えなしに、というわけにはいかない。
洞窟の中では土魔法を使うのはやめよう。地震を起こして、洞窟が崩壊したら大変だ。
同じ理由で水魔法と風魔法もやめよう。水分で洞窟の土が緩んだり、風化で洞窟がもろくなるかもしれない。洞窟の強度が落ちるようなことは避けるべきだ。
残るは雷魔法と炎魔法。
雷魔法は洞窟の中では無効化してしまうかもしれない。洞窟の中にいる相手が土属性の魔物の可能性はある。
炎魔法一択か。
炎魔法に関しては、小さく使ったことはあるが、全力で試してみたことがない
他の魔法は一応試したことがある。能力を見られないように、人目のつかない森の中で。
ただ、炎魔法に関しては森の中で使うのは危険だと判断し、試さなかった。
どの程度の炎魔法が使えるかは俺としても測りかねる。
一度戻って、ソフィーとハリエットと三人で出直すことも考えたが、セリーナのことを考えると、一刻も早くことを進めたい。
単身で心細いが、やるしかない。一肌脱ごうじゃないか。
右手の人差し指に小さな炎を出現させ、その明かりを頼りに進んでいく。
音を立てないように慎重に進んでいく。
分かれ道にあたった。どちらに行ったらいいか何も手掛かりがないので、なんとなく左に進む。
少し進むと洞窟は左折れた。慎重に進むとそこは行き止まりだった。
かなりきつい異臭がする。ここには用はないとわかると一目散にさっきの分かれ道まで戻る。
深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
今度は右に進む。
歩き進むとだんだんと音が聞こえてきた。
その音が大きく聞こえてくるようになったところで、一度炎を消す。
岩陰に隠れ、じっと聞き耳を立てながら奥の様子をうかがう。
何か声が聞こえる。しかし言葉として理解できるものではない。
しかも複数だ。かなり多いと思われる。
甲高くて耳障りな声だ。
ゆっくりと顔を出して、確認する。
松明のようなものを使っているようだ。だからといって明るいわけではないが、様子は確認できるだろう。
こちらに気が付きませんようにと思いながら、一歩また一歩と慎重に進んでいく。
もう少し、もう少しと、顔を出して覗き込む。




