プロローグ①
冒険者ギルドの特別な依頼を完了させた勇者、純也一行を乗せた馬車は、アーガルムの門をくぐった。
見慣れた街になんだか安心する。
今までこの街の中から出ずに、のらりくらり暮らしていたが、あれやこれやで勇者業せざるを得ない事態に陥り、数日この街を離れていた。
御者が馬車を停車させた。ちょうど冒険者ギルドの前だった。気が利くではないか。
馬車で眠っていたソフィーとハリエットに「ついたぞ」と声をかけ、一足先にアーガルムの地に降り立った。
「そんなに日にちも経っていないのに、なんだか懐かしい気持ちね」
眠気眼をこすりながらソフィーが馬車から降りると言った。
その件は俺がさっき確認したからスルーする。しかしソフィーも同じ気持ちだったのかとうれしくなった。
「ここが純也様たちが暮らしている街ですか。きれいな街ですね」
エルフのハリエットは森を出たのは初めてだと言っていた。目に映るもの全てが新鮮に見えるのだろう。
ハリエットの住んでいた村、ユーテラスの方が、俺としては目を見張る物が多かったと思ったけれど。
「家に帰って休みたいのも山々だけど、さっそくギルドへ完了報告としよう。その後、家に帰って、出発の準備だ」
ハリエットは旅支度をしてここにきているので、準備も何もないが、俺とソフィーは大仕事になる。
「えーいいじゃない、数日休んだって。休息は必要よ」
頬を膨らませてソフィーが言う。
「だめだ。怪しいやつに狙われている可能性があるからな」
特別な依頼を完了させた直後、謎の男に出会ったのだ。
謎の男の連れが、彼を「勇者様」と呼んでいたので、転移者だろうと予測できるが、怪しげだったし、なにしろ俺の秘密を見破られた可能性があるため、身を隠したいと思っている。
「そうですね。彼からは何ともいえないオーラを感じました」
ハリエットも神妙な面持ちで俺の意見に賛同する。
「まったくしょうがないわね。まあいいわ。旅も勇者一行って感じがして悪くないわ」
どんな旅をソフィーが考えているかわからないけど、多分それとは違うだろうと思った。
馬車の御者へ料金の支払いとお礼を済ませると、冒険者ギルドに入った。