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第9話〜青い鳥との再会

…………。


カチリ…


音を立てて扉の鍵が開きます。


少年の心臓は、外に聞こえるほどに強く、早く鼓動していました。


屋敷にある全ての鍵の予備は、領主である父の書斎にあります。


領主になるべく勉強していた頃に教えてもらったのを少年は覚えていました。


こっそりと忍び込んだ父親の書斎。


罪悪感と緊張、そして扉を開けた後の事を考えると、少年の心臓は口から飛び出てしまいそうなほどに早鐘を打ちました。


…………。


鍵の開いた扉を前に、少年はしばし立ち尽くしました。


少年の頭には、渦巻くような不安と緊張が次々と浮かんできます。


変わってしまった少年に、青い鳥は気づくでしょうか。


いえ、たとえ気づかれなくても…


「……よし」


少年は扉を開きます。


分厚く重厚で、中の音はほとんど聞こえない扉。


誰もいない静かな部屋。


中央にある机、その上には小さな檻。


そして…


「……っ!」


その中には、力なく丸まっている青い鳥。


少年は、ついに青い鳥と再会することができました。


…………。


久しぶりに、本当に久しぶりに再会した青い鳥は痩せ細り、あの美しく艶やかだった体の所々ははげて痛々しい姿をしていました。


少年は変わり果てた青い鳥の姿に言葉を発する事もできず、よたよたと小さな檻に向かって歩み寄りました。


ーーーピィイ!


すぐに少年の耳に、青い鳥の悲鳴のような鳴き声が響きます。


怯えきった青い鳥の瞳、少年は無意識に伸ばしていた手をゆっくりと下ろしました。


少年は気付いてしまいました。


青い鳥の瞳に映る少年は、全くの別人なのだということに。


…………。


互いに変わり果てた姿。


一方は痩せ細り、一方はぶくぶくと肥え太り。


片方は自由もなく恐怖に叫び、もう片方は持て余した自由を漫然と過ごしてきました。


「……僕が、分かるかい?」


少年はゆっくりと、できるだけ、優しく話しかけます。


青い鳥は戸惑ったように震えながら少年を凝視します。


そして少年がゆっくりと一歩踏み出すと、再び青い鳥は近寄らないでくれと懇願するように鳴きます。


その痛々しい姿に、胸に突き刺さるような悲鳴に、少年は心臓を鷲掴みにされたような気持ちになります。


無意識に一歩、青い鳥に近付きます。


恐怖に暴れ始めた青い鳥。


少年は青い鳥に、唯一の友に、何度も何度も話しかけます。


しかし、少年の声は届きません。


姿形が変わり、青い鳥との別れから変声期を迎えた少年は、青い鳥に気付いてはもらえませんでした。


少年の心に絶望がじわじわと這いよります。


何もかも変わってしまいました。


何もかもが手遅れでした。


青い鳥との絆は、少年が過ごした怠惰な日々と、ただ漫然と流れた時の成長によって失われてしまったのです。


少年の手は届きません。


少年の声は届きません。


もはや、青い鳥と少年との繋がりなど…


絶望に全てが塗り潰されそうになったその時。


少年の手が無意識に動き、ポケットから中身を取り出していました。

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