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今日、銃の免許試験がある――何度も受けられるので、そんなに気負わなくても大丈夫だと思う。ダメだったらまた受けなおせばいい。
朝食はポテトみたいな――マッシュポテト状の上にベーコンがバツ印に、その上に目玉焼きがこんもりとボリュームを盛って乗せられている。
白身はしっかりと火が通っているが、黄身は半熟――。
付け合わせは果物――と青いジュース。あお、というよりは緑汁。
果物――小さなパイナップル……ぐらいの大きさ、ササクレ皮があり、中身はピンク色で、種は緑色。種も食べられるらしく、果肉は繊維質で、種はポリポリしている。独特な苦さあり。パイナップルのように上部と底部を切り取り、横の皮を回しながら縦に割いて約六~八回、果肉を露出させる。
少々果肉も皮についてしまうが、皮下すぐの果肉は少し渋い――皮に付いた果肉を少し齧り、吐きだす。皮を切る時、果肉も結構削いだ方がよさそうだ。中心部に行くほど甘いようだ。
果肉は真ん中から両断し――実はさらに半切、横に四等分。
フォークで実を刺し、摘まんで食べる。複数の繊維が重なったような果物で、果肉の中、まばらに種が混じり、スイカを彷彿とさせる。種も食べられるようなので、気にせず食べる。……果肉よりも種の方が甘い。
青いジュースは、繊維質なジュースだ。複数の果物に野草をこんもりと入れたものだろう。野草の苦さや独特の風味を消すために果物をマシマシにした。
甘いが苦い、スプーンで底をかき回さないと、野草が沈んでいる。
ベーコンエッグはベーコンだけでも卵だけでもボリューム不足、マッシュポテトのようなモソモソとした塊があるため、食べ応えがある。
脂たっぷりのベーコンを卵のとろりとした黄身が中和して、ベーコンの強い塩気もポテトで中和される。この三段でちょうど良い。ベーコンの厚さも噛み切れるぐらいで、丁度いい。カリカリではなく、しんなり気味だ。
ただのベーコンエッグにしては研究されている。
行儀は悪いがぐちゃぐちゃにして放り込むのがとても美味しい。
黄身まで綺麗に食べられるように、ベーコンを引き抜いてポテトで溝を作り、卵を入れ、ベーコンをナイフでサイコロ状に、サイコロベーコンを卵の入った窪んだポテトに入れて黄身と一緒にかき回す。スプーンですくって口に運ぶと、なんとも良い。
サイコロベーコンの塩気と脂がモソモソのポテトと合わさり中和され、ポテトのモソモソ具合も脂のべっとり具合も卵でしっとりに、黄身のとろりとした舌滑りとのど越しに変わり――三つが口の中で合わさってなんとも良い。
トゥーナを甘やかすかとも思ったが、トゥーナは俺と同じように食べており、エリーがちらちらと睨みを聞かせていたのでやめておいた。足はくっついているし。
食堂は相変わらず騒がしく、人々の喧騒で賑やかだった――こちらをチラチラ見る人もいたが、俺達の周りにラファに告白した奴とかがいて、少し微笑ましかった。俺だったら告白した奴の近くにはいられないよ。気まずいし。それを考えるとたいした奴らだ。
昨日ラファが助けた――助けたというのはおこがましいかもしれない。声をかけた金髪は俺達より席を離している。ちらりとこちらを見て、ご飯を食べていた。誘い待ちかもしれない。
ルシオもいて、かなり席は離れてはいた。エリシアはもう気にしていない様子で、気づいていないのかもしれないけれど。
友達なのは変わらない、と思いたい――隣に……黒髪眼鏡の女、あれ、見覚えがある。
ラファが助けた女――片割れは、別の席に座っている。離れた……のか。
世の中には絶対に分かり合えない人というのは存在する。残念ながら――ラファがヤバいと言うのなら、相当にヤバい女なのだろう。
俺の足を何かが撫で、膝から脛、足首まで――気にしないふりを、トゥーナではないし、ラファでもない、エリーはこんなことはしない。エリシア……。
俺の左斜め向かい――見るとエリシアは目を細めて口を少し開き、笑みを浮かべて来た。
「どうかしましたか?」
向かいに座っているベシャメルがそう言い、俺はいいえと答えた。
「しかしやはり、貴方は綺麗にお食事なさいますね」
「そうですか? 実は……あまり手を汚すのが好きではないのです。手に残った食べ物に虫が寄って来たのを思い出してしまって……」
「そうでしたか、申し訳ありません……」
「いいえ、昨日も寝に来ませんでしたね? 最近は忙しいのですか?」
「寂しかったですか? すみません。そうですね。少々面倒ごとが発生しておりまして、事後処理がありました」
「そうなのですか」
「えぇ、隣国からお客さんが来たのです」
「隣国から、ですか」
「えぇ、聖王国からです」
お客と言うからには、地位のある方なのだろうな。
「そうなのですか。あまり無理はしないでくださいね」
「気になりませんか?」
あらあらあら。
「そうですね。心中、戻されるのではないかと若干怯えてはおります」
「はぁ……」
ベシャメルは大きなため息をついて目を伏せた。
立ち上がり、椅子を机に納めると、恭しくお辞儀をしてきた。
「申し訳ありません。どうやら貴方にストレスを与えてしまったようですね。申し訳なく思っています」
俺は席から立ち上がり、お辞儀を返す。
「いいえ、私こそ。心を痛めてくださってありがたく思っています」
「そのようなことは……では、これで相殺ということで」
「そうですね」
「食事を再開しましょう」
「はい」
改めて席に座る。印象は大事だ。
「トゥーナ、エリー、信用できる人の見分け方ってわかる?」
なんとはなしそんな会話を投げる。
「顔?」
エリーがそう答え、トゥーナは興味無さそうに無視した。無視するなよ。
「人のいないところで悪口を言う人は信用できない人、人がいないところで人をほめる人はいい人よ」
「へぇーそうなんだ」
「そうそう、だから人のいないところでも、人の悪口を言ってはダメよ」
「はーい」
「いい教えですね」
「教えと言うほどのことではないですよ。それにこれを知っている方には参考にはなりませんし」
「そうですね。ンフフッ」
「人の相談に乗る時は、斜め向かいに座るといいんですよ」
「そうなのですか」
「えぇ」
ベシャメルが席を斜めにずらして少し笑ってしまった。
「左斜めに座るのがいいんですよ」
「そうなのですね」
そう言うとベシャメルが俺から見て左斜めへ移動して、エリシアにぴったりと寄り添い、笑いそうになり顔を背けてしまった。
朝ご飯を終えたら、エリーを学校へ送り出し、免許試験へ――ベシャメルにくれぐれもエリーをお願いしますと言付けする。
「大丈夫です。いってらっしゃい」
ベシャメルと手を繋ぎ、エリーは嬉しそうに学校へ向かっていった。
街中を歩いていると、今日はやけに、倒れている男が多い……ってそんなわけないよな。ラファが気を利かせてくれているようだ。どうやらそそのかされた奴がいたみたいだな。
「エリーは俺も気にしているから大丈夫だ」
「ありがとう」
俺のテリトリーを伸ばしてエリーを覆ってもいいけれど、ラファにやってもらった方が良いだろう。本当はあまりエリーとも離れたくないのだが、さすがに過保護すぎる。
道の先からウィルが歩いて来る――やけに物々しいというか、後ろには……確か、こいつ、ジョダス、だっけ――こいつ生きていたのか。良かったじゃないかと少し胸を撫でおろしてしまった。
なるほど、昨日来たのはコイツ等か。男爵なら立派な客だ。親は公爵という話だ。なるほど、サクシアとしては面倒な客だろう。
後ろにはエメリアと、兵士達。
「やぁ、これから試験かい?」
「はい。ウィル様のおかげで試験が受けられそうです」
「それは良かった。気を付けて、頑張るんだよ。緊張しないで、しっかりね。応援してるよん」
弾むような口調、ウィルはどうやら面倒ごとがあると口調がリズムカルになるようだ。威圧や緊張を相手に伝わらせないようにするためだろう。私は貴方達がいても、これだけ余裕がありますよ、と示している。
「お前は‼」
ジョダスが俺を指さす。
「おい‼ いるじゃないか‼ コイツだ‼ コイツを引き渡せ‼」
エメリアも前に出て来た――鎧、結構変形している。臭いもある。大変だったみたいだな。
「ん? 知り合いかい?」
ウィルがそう言って俺達を見た――コイツ、ウィルの奴、やっぱ曲者だな。俺達が来るのを待ってやがったな。探っているのか――そいつは素敵だ。
「いえ、こちらの方々は、どなた様でしょう……」
「おっお前‼ 俺の事を忘れたのか‼」
「はぁ、そう言われましても……」
エメリア、お前顔が歪んでいるぞ。もうちょっと表情を隠しておくれよ。
「あぁ、聖王国からのお客様さ。なんでも公女殿下を語る賊が王族の宝である指輪を盗んでこの国に逃げたんだそうだ。そいつを掴まえに来たんだとさ」
「へぇ……そうなのですね。公女様を語るなんて、そんな不遜な方がいらっしゃるのですね……怖いです」
そういう体(体裁)になったのか。普通にリリアーヌの娘を捕らえるなら保護になってしまうからな。賊とした方が始末もできるし良いのだろう。
「お前だ‼ お前‼」
「えっ!? タチアナ!? 公女殿下なの!?」
エリシアが俺の手を掴む。いやいやいや、公女殿下を語って指輪を盗んだ賊だから、ただの賊だ。
「違います違います。そんな大それた事、私にできるわけありません」
「そうだな。第一名前が違うしねぇ。この子はタチアナって言うのさ。探している公女殿下を語る賊の名前はマギサエルレインだからね」
トゥーナが俺を見上げて、俺は気付かないふりをした。
「マギサエルレインと言う方なのですか」
「王家の証、指輪をしているそうだ」
「そうなのですか。残念ながら私は指輪を付けてはおりません」
手を差し出して指輪が無いのを見せる。指輪はトゥーナがしている。ウィルとジョダスがトゥーナの指を見てから、俺をちらりと見、俺は首を傾げてみせた。
「すぐにコイツを差し出せ」
エメリアが俺の話を無視してウィルにそう言った。
「聖王国の騎士様がこんなところまでご足労なんて大変だと思うよ。でもね、ここは聖王国じゃないんだわ。悪いね。差し出せって言われてはいそうですねって差し出せるわけもないでしょう? 貴賓扱いしているだけでも感謝して欲しいよ。まったくっ」
「なんて無礼な奴なんだ‼ 戦争になるぞ‼」
「貴方ね、エメリアさんだっけ? 戦争になったら、勝にしろ負けるにしろ沢山の人が死ぬわけ、あんたのせいでね。それを背負えるの? あんた一人で? 簡単に戦争なんて言葉を口に出すんじゃないよ。ったく。何度も言うけれどここは聖王国じゃない。サクシアではサクシアの法律にそって行動してほしいねぇ」
「ぐっ……賊をかくまうというのか!?」
良かった。引き渡されなくて。まぁそこまでする価値は無いからな。俺に。
「誰もそんなこと言ってないだろう。まぁせっかくだからゆっくりしていきなよ。探しては見るからさ。見つからなかったら大人しく帰りな。それが筋ってもんだ。そうだろう? 貴方達が私の事を無礼だって言うのもわかるよ。でもこの国の法律では騎士とか貴族とかそういうのにヘコヘコしなくていいのさ。そういう法律があるんだ。わかったら大人しくしてくれよ。ただでさえあんた達のせいで、あたしは昨日寝てないんだから。ハイで饒舌になっちまうよ」
エメリアがウィルを睨み、そして俺の傍に。
「逃げられると思うなよ。絶対に本国に連れて帰るからな。そしたら処刑してやる」
ジョダスを見ると、ジョダスは気まずそうに眼を反らした。ジョダスの方が意外と物分かりがいいのかもしれない。助けた恩を気にしている。はっきり言っておくが、ジョダスはいい奴だ。
天属性魔術で威力がある。それだけでカルマ値がマイナスなのがわかる。
カルマ値は上がりやすく、下がりにくい。
マイナス方向ほどいい奴だ。
俺はエメリアの傍により、手を握る。
「見つかるといいですね。その、マギサエルレインと言う方が」
そう告げると、エメリアは手を乱暴に振りほどいた。
もう一歩傍により、エメリアの耳元に口を近づけて囁く。
「良かったですね。ジョダス様のお尻が汚されなくて、フフフッ」
そう言って離れるとエメリアの顔は真っ赤になって手がぶるぶると震えていた。
「足止めしてすみません。どうぞ」
俺はみんなを促して脇にそれさせ、頭を下げる。
「それじゃ、またご飯を食べようじゃないか」
ウィルにそう言われて、俺は笑顔を浮かべた。
「はい、また。ちゃんと寝てくださいね」
そう言うとウィルはウィンクして、それを見送った。
「行きましょう?」
歩き出す――。
「逃げられると思うなよ」
エメリアが震えながら怒りを込めてそう言い。
「臭い一物」
そう言うとエメリアの血管の切れる音がした。
「おっと‼ そこまでだよ。エメリア? さんだっけ? それ以上は拘束になる」
剣の――身が鞘から外れる音。
「エメリア‼ やめろ‼ 僕の命令だ‼」
抜き放とうとしていた剣を、エメリアはギリギリと歯を噛みしめながら納めた。
「エメリア‼」
「わかっ……ふぅふぅ、わかっています。すみませんジョダス様」
エメリアは俺を睨みつけ、そしてまたウィルに連れられて歩き始めた。
「あのっ、タチアナ!?」
急にエリシアが大声を出してきて、足を止める――振り向くと大声に気づいたのか進んでいたウィルが足を止め、こちらへ戻ってくるのが見えた。
「はい、なんでしょう?」
「私‼ 味方だから‼ タチアナの‼ 味方だから‼」
「はい、ありがとうエリシア」
「どうかしたのかい?」
ウィルが来て俺にそう言った。
「いえ、何も」
「そうかい? それにしても本当に面識は無いのかい? いや、疑っているわけじゃないよ。もしそうならそれなりの待遇をしないといけないからね」
ここでいいえと言うのは得策ではないかもしれない。
「実は……面識はあります」
「ほう。では……」
「いえ、違います。私はマギサエルレインという方ではないのです。私はタチアナ、タチアナトムソンで間違えありません。あの、後ろにいた男性の方、多分ジョダス様と言うのだと思いますが」
「あぁ、そうだね。知り合いなのかい?」
「実は、ここに来る途中で、あの方がゴブリンに襲われておりまして、命からがらお助けしたところ、なぜだか勘違いされてしまいまして」
「ごっゴブリンから助けて、勘違いされる? かっ勘違いって、どうやって?」
「さぁ、それが良くわからないのです。快方していたところ、あのエメリアと言う方が、助けにきたのですが、なぜかマギサエルレインという方と勘違いされてしまいまして。本当に、もうどうしたら良いのか。多分、トゥーナがしている指輪のせい、ではあると思うのですが」
「ふむ」
「実は、あの指輪は道中を共にしていた者に頂いたものでして」
「あの指輪を?」
「はい……。このような事をウィル様に言うのは、非常に心苦しいのですが、実は、私どもは聖王国では奴隷のような扱いを受けておりました。正規ルートでサクシアに来ることは叶いません。ですので最初は森の中を通っておりました。私どもの他にもサクシアを目指す者が複数おりまして、その中の一人がオーガに怪我を負わされてしまい、動けなく、なんとか快方を心見たのですが、三日後に亡くなってしまいました。どうせ死ぬのならと、その女性より頂いのがあの指輪でございます。あの指輪は女性の母親の形見だということで受け継いでほしいと言われました。無下にするわけにもいかず、こうしてトゥーナが身に着けております」
「その女性が公女を語った賊だと?」
「いえ、彼女は私と同じ身分でしたし、その日暮らしがやっとでした。とてもそのようなことをできるような者ではありません……貴族の方々を欺くような術を持ち合わせるわけもないと存じます」
「あっあぁ、なる、なるほどね。つまり勘違いというわけか……それにしても、いや、なんでもない」
言葉が丁寧過ぎたか。
「矢を射られたり、魔術を撃たれたり、本当に困りました。それで怪我もしましたし」
「怪我も!?」
目配せだけ、声を発したエリシアをちらりと見る。
「はい。幸いにして大けがはありませんでしたが、道中のキャラバンの方々にはとてもお世話になりました」
エリシアが俺の手を掴んで引き寄せて来た――力つよっ。
「なるほど……よくわかったよ。滞在中は見張っておくから、安心しておくれよ」
「そうですか? ありがとうございます。ラファはまだしもトゥーナはまだ子供ですので、本当に心配で」
「この国では聖王国の力も及ばないさ。まったく庶民なら間違えて殺してしまってもいいとでも思っているのかねぇ。困ったものだ。足止めして悪かったねぇ、試験頑張っておくれよ」
「ありがとうございます。ウィル様」
手を振ってウィルを見送る――エメリアがすごい目つきで睨んでいたので、口を曲げてにたぁと笑みを浮かべておいた。口を開け、舌を左上唇から右へ、右下唇から左唇へ流し、瞬膜を瞬きに合わせて一瞬だけパチパチと展開して見せると、エメリアの顔は好戦的に歪んだ。
「すみません。足を止めさせてしまって……行きましょう」
「大変だったのですね……」
「えぇ」
「私、タチアナの事、何も知らないのですね」
歩き出すとエリシアがそう言ってきた。
「エリシアに、知られたくないことも沢山ありますから」
「そっそう?」
嘘じゃねーよ。
「知られたらきっと、私は軽蔑されてしまいます」
「そんなことないよ‼ それに、わかってるから……」
おっおう。ちけーよ。
……アメリアもそうだが、エメリアという名前を並べて、四文字で最後にアの付く名前が流行っているのかもしれない。
「お尻が、その汚されるとか、その、言っていたので……そういう意味だったのですね。助けたのに恩を仇で返すなんて最低です」
「ウィル様が面倒を見るそうですので、もう大丈夫でしょう。汚い話をしてしまってごめんなさいね」
「ううん……いいの。タチアナはきっと、私よりずっと辛い目に合ってきたんだと思う。これからは、私も、一緒だから。一緒に、歩いていくから」
「ありがとう。でもね、エリシア。私の味方にはならなくていいの。貴方は貴方の味方でいて」
「……それは、その、どういう、意味なのでしょう」
「私が間違えた時は、正してほしい。それが本当の友達というものでしょう?」
「友達、ですか……そっそうですね。友達、ですよね」
友達は不満ですか。
「これからも、もっとそばにいればいいのよね」
「エリシアが家庭を持つまでは、ずっと一緒ですよ」
「家庭、ですか……そうですね。家庭、そうですね」
家庭も不満ですか。女心ってやっぱりわかんねぇわ。
エメリアにとって、あの囁きは煽りになるが、エリシアにとっては心配に聞こえるだろう。上手に嘘がつけて良かった。
ふと、ラファが俺を睨んでいた。
お前のそう言うところが嫌いだと、そう言われているような気がして――俺は、お前のそう言うところが好きだよと心の中で答えると、腕をつねられてしまった。
トゥーナが俺の左手を掴んで離さない。
お前はあぁいう嘘ついちゃダメだよ――思っても伝わらないだろうけれど。