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5

 クトゥーナをベッドに寝かせたら、布団をかける。


 頭を撫で、指を噛んで血をひと垂らし、クトゥーナの唇に指を当てると、クトゥーナは血をコクコクと飲んだ。


 あ、やべ、これ、粘膜接触してね。


 初手で破っちまったけど、血は仕方ねーよ、これは仕方ねーよ。


 いや、大丈夫か、自分から求めたらって言ったもんな、これはセーフだわ。


 クトゥーナは俺を女だと思っている節がある、聖女と言っていたからだ。


 クトゥーナが俺を女だと思っている間は、セーフとすることにした。


 ふとクトゥーナに差し出した指、左手の薬指の爪に四葉のクローバーのネイルアートがあるのに気が付いた。


 フォースネイルアート。


 右と左の薬指の爪に一つずつ、塗られている模様は【Four Leaf Clover】。


 効果は一度に限り、死を回避できる。


 この模様のネイルアートは必ず他者に塗って貰わねばならない特別な模様で、そして必ず薬指でなければならない。


 このネイルアートに使うマニキュアの素材も特別なもの――夏に一か月の遠征を行った時を思い出し、あの時は地獄でアホで苦しかった記憶が脳裏をかすめた。


 ゲームを繋ぎ続けとあるダンジョンの最深部を目指した。


 当然、みながそろう時間は決まっており、ログアウトも限られるので、ローテションで見張りを立て、全員がそろった時のみ行軍するというアホみたいな攻略法で進んだ。


 当然五人がそろわなければ先へは進めないものだから、ゲームに繋げる者が離席する者を守らなければならない。


 全員揃うのがほぼ夜中なものだから、睡眠時間を削りながら馬鹿みたいに文句を言い合ったものだ。


 トイレに行く時間すら惜しくて、夜中にトイレに引きこもってゲームをプレイするという蛮行に及んだのは俺だけじゃないはずだ。


 NyanCo>ハルポン>守男=俺>DKが接続時間の関係だった。


「ねぇ、男ってどんな生き物? 教えてよ」


 とThunderNyanCoに聞かれたことがある。


 そこには守男とDKもいて、ハルポンもいた――疲れた日はみんなでだらだらするのだ。


「好きな人と手を繋いで別れたあと、別の女に好きって言われたら手を繋いで、その女と別れた後、他の女に好きって言われたら背中から手が生えて手を繋ぐのが男」


 と答えた。


「それ人間かよっ」


「手が三つあるんですけどっ」


 守男とハルポンが笑い飛ばすなか、ThunderNyanCoは俺をじっと見ていた。


 正直役立たずな俺は、四人以外のギルドメンバーから、いつも煙たがられ、なんであんな奴置いておくのか文句を言われたり、やめるように言われたりするぐらいだった。


 単純にセンスがない。


 足手まといと言えば、足手まといだったのかもしれない。


 ThunderNyanCoは有名プレイヤーでギルドのリーダーで、だから俺が言われた通りに動かないのを他のメンバーは良く思わなかったのだ。


 動かないんじゃなくて、動けないんだよ。


 盾役としてはハルポン以下、アタッカーとしては守男以下、バッファーデバッファーとしてはDK以下、どれも卒なくこなすNyanCoにはどれも劣っていた。


 ゲームでそこまでするのはアホらしい、確かにその通りだが、このゲームを本気で攻略するのなら、少しぐらいアホにならなければならなかった。


 それにゲームを攻略するのが目的じゃなかった――少なくとも俺は、この四人と遊びたくてゲームをしていた。


 友人と飲んだり、遊んだり、恋人とデートしたりするように、ゲームで遊んでいた。


 どうして俺にギルドをやめるよう言わないのか、ThunderNyanCoに対して疑問に思ったが、それを口に出してしまったら、ゲームが終わってしまうような気がした。


 別に好意があるとかそういうわけではなく、俺は初期からいるメンバーで四人の事を良くわかっていたし、いざという時には命を犠牲にしてDPSを取りに行く切り札を持っていた。


「じゃあさ、好きな人に自分だけを見させるのって、どうすればいいの?」


「そんなの簡単さ、いい女になればいい」


「そんなの誰だってそうだろ‼ なぁDK‼」


 守男ってさ、男なのに女性の味方するよね、いつも思う、少しは俺の味方してくれてもいいよね、ブラザーソウル足りなくないと疑問に満ちた目を向けると、守男は見てんじゃねーよって目つきが悪くなる、こえぇよ不良かよって俺が返すと、不良じゃねーわって怒鳴る。


 やっぱブラザーソウルが足りない気がする。


「ぷふっ」


 DKはいつもあんまり喋らない、中二病のくせにいつも会話を聞いては、少し吹き出すように笑ったり、お腹を抱えるような仕草をしたりする、でもいつも楽しそうで、いてくれると安心する。


 ハルポンはいつも酒を飲んでいる、しかも酒瓶をラッパ飲みする、機嫌がいいとうるさい。


「いい女って具体的には?」


 ThunderNyanCoはあんまり笑わない、いつも変な事を言うけれど、変な事を言っても真面目に返してくれる。


 あ、俺たちって似た者同士だって思う、四人全員にだ。


 でも今思えば、まったく似ていないとも思う、全然似ていないよ。


 馬鹿だな、俺は――俺と彼らの間には、聳え立つ壁のようなものがあったのに。


「具体的にどうすればいいわけ?」


 いつもこんな話をしている。


 ハルポンに聞かれて俺は答えを返した。


「駄目なのはさ、手を強く握って私だけっていう女。いい女っていうのさ、他の女の手を振り払って、こちらを見る女、手とか握ってこないくせに、貴方は私のもの、私は貴方のものってわかる女、でも捕まえようとすると、するりと抜ける、まぁ要は夢中にしてくれる女」


「抽象的すぎだろ‼ どんだけ女の理想が高いんだよ‼ いねぇーわ‼ 馬鹿かよ‼ 死ねよ‼」


「あぁあああっ死ねは言い過ぎでしょ‼」


「ぎゃははは‼」


 ハルポンの機嫌がいいな。


「ふーん、そうなんだ、理想の女だね」


 そういうとThunderNyanCoは真っすぐに俺の目を見ながら、少しだけ笑った。


 急にそんなやり取りを思い出して少し笑ってしまった。


 クトゥーナが落ち着いて寝息を立て始め、俺は下に降り、また日記を翻訳する作業に戻る。


 みんな脛に傷を持っていた。


 ThunderNyanCoはその当時、その会話をしていた時点ではまだ十二歳ぐらいだった。


 両親の願いによって作られた特別な子供。


 その意味を計りかねるし、今も特別とは何なのか考えてしまう。


 睡眠時間は30分なんだって、薬と、超効率睡眠カプセルの効果で、30分しか寝なくていいと言っていた。


 でもそのせいで、いつも鼻血が出ると嘆いていた、とても十二歳の少女のセリフではなかった。


 ハルポンアルセインはアメリカ人で、親が娼婦だって、娼婦になるのが嫌で、体がある程度出来上がってきたら、インターネットに裸を晒してお金を稼いでいた。


 本人は気にしてないけれど、お金を稼ぎ、一人で暮らしていけるようになっても彼女に対する誹謗中傷はあった。


 見せても触らせたことはないと、清い体だけが自慢だと、この体と心中すると酒を飲みまくっていた、本当は辛かったのかもしれない。


 殺人予告や不意に見知らぬ男性からの暴行もあったらしくて、銃とスタンガンを常備していると本人が言っていた。


 部屋の中に飾ってあるショットガンはお気に入りだと。


 守男は評判の悪で、しょっちゅう少年院に入っていたと、恨みを相当買って、名前を変えて生活しているって、喧嘩じゃ負けたことないって笑っていたけれど、たぶん嘘だ、そう言うと彼はむきになって怒る。


 DKはお嬢様、絶対音感を持っていて、親からの期待も相当だったようだ、夜ゲームにつなぐと、一人こっそり泣いていることがあった、現実では泣けなかったのだろう。


 みんな傷ばかりだ、傷ばかりで、だからこそ四人は最高だった。


 ゲームクリアの夜、ゲーム内で朝までふざけ明かした――でも、起きてゲームを起動すると、そこにはもうギルドはなかった。


 四人は何処にもいなかった――探し回った、さんざん探し回った。


 でも四人は何処にもいなかった。


 まるで最初から存在しないかのように。


 大事な物だったことに気づいた、苦しくて苦しくて、何年も何年ものたうちまわった、のたうち回ってのたうち回って、それでも辛くて、でも生活しなきゃいけなくて、何をするのも辛くて、会いたくて、バカみたいで、こんなに大事だったのにと、いつからか、こんな風になってしまった。


 ゲームで知り合い、リアルであったことなど一度もないくせに、彼らと過ごした年数だけは十年を超えていた。


 失った痛みはまだあるけれど、よしよしと撫でてやれるほどにはなった。


 この世界に来たら、おそらくもう、四人には二度と会うチャンスもないだろう、もしかしたら街中で守男とDKとはすれ違っていたかもしれない。


 そんな馬鹿な事を考えるのだ。


 四人は俺のすべてだった、すべてになっていた。


 まるで強靭な爪で胸から抉り取られるかのように消えていった。


 いつの間にか髪に白髪が混じって、髭に白髭が混じって、鼻毛を抜いたら白くて、まるで俺みたいだと、少し笑えた。


 まだ生きなきゃいけないのか、これ以上まだ頑張らないといけないのか、まだ踏ん張らないといけないのか、そう思う反面、これ以上傷つくことはないのだから、もう怖い物など何もないと、そうも思ってしまうのだ。


 両親に育ててもらった義理と恩がある――その死を看取るのは俺の役目だ。


 それも奪われたら、俺は、何もない、何もないのに、この程度じゃ死ねないと言うのだ。


「思い出すのはやめな」


 そう言って記憶に蓋をした、楽しい思い出も、悲しい思い出も、蓋をして大切に保管する。


 失ってから気づくと言うのは本当だ――俺にとってあの何気ない日常はかけがえのない時間だったようだ、今になって思えば、例えそれに気づいたとしても、いつかは終わると思うのだろうな。


 席について、机と向き合い俺は俺の体について調べるため日記を広げた。


 だんだんと文字や単語を覚え始め、文字表を見なくとも文章の意味を理解できるようになってきた。


 この体の頭脳は相当に良いようだ――それと共に、傷の治りが速いことに気づく。


 噛み切った指の傷が、もはや指にはなかった。


 日記をめくりながら、ふと傷がないことに気づき、指をじっと眺める――ありえない速さだ、まるで傷が消えたようだ、痛みもあまり感じない、無いわけではない。


 思い返せば、指を噛み傷つけるなんてこと、昔の俺にはできなかった。


 まるで痛みというものが、ダメージを受けていると教えるだけに存在しているかのように。


 鋭い八重歯と長い舌は、体に馴染みすぎて違和感がない。


 初代の日記を開く――初代の日記は損傷が激しく、ほとんど読めない。


 最後の方に、聖剣フォロニスと魔剣エンヴァーと書かれている、俺の体を守るために、この二つの剣を残すと書いてある。


 初代は一体誰なのか、二代目の日記を読むと、その答えがわかった。


 初代の名前はマリアンヌだった――この体の母親、マリアンヌを指しているのであれば、ここはやはりフラッグアサシネーションオンラインの中ということになる。


 ゲームの中に入ったのか、それとも俺がゲームだと思ってプレイしていたのはリアルに存在する世界で、何かしらの方法でゲームとしてプレイさせられていたのか。


 やり直せないイベント、復活しないNPC……まさか、まさかな、それだと俺は、暗殺者として人間を殺していた事になる。


 二代目はリコッテという女性だ。


 俺の世話をする者にマリアンヌは条件をつけていたようだ。


1、女性である事。

2、奴隷、または孤児である事。

 3、俺に合わせた時の反応。


 三番目はよくわからないが、この体、顔は女性にとって魅力的なのかもしれない。


 リコッテは俺のこの体に恋をしていると日記に書いている。


 マリアンヌとリコッテは教会を建て、ここに生活の基盤を作った。


 リコッテの日記には、国ドミナスの名が出ている。


 ドミナス――フラグアサシネーションオンラインにおいて生活の基盤となる国の名だ。


 ドミナスで反乱が起き、王政復古がなされ、グラーヴェル王国が生まれ、反発した者たちが集まってサクシア共和国などのいくつかの国ができたようだ。


 リコッテはその内戦に巻き込まれた戦乱孤児。


 三代目はパルテアと言う名の女性だ。


 パルテアは俺のこの体を異常に好いており、俺の体の研究をしていたようだ。


 食事をとらなくとも腐敗も衰弱もしない、飲み物を一切取らなくとも平気と書いてある。


 どうなっているのか、この体は。


 教会にゴブリンなどの魔物が来るようになり、パルテアは聖剣にて、これらの魔物を討伐している、どうにかしなければならないと考えた時、俺が魔物に襲われない事に気づいて、俺の血には魔物を遠ざける効果があると知ったようだ。


 教会の周りには、俺の血が埋められているとのこと。


 ドミナスが出た以上、ここはフラッグアサシネーションオンラインの世界であることは疑いようがない、この日記が正確であればの話だが、わざわざそんな嘘をつく必要はないだろう。


 四代目、五代目、六代目と、気になるところはあるが、特出した内容はない。


 七代目、フランメルアンメリーチェの日記……フランメルは最後の方で八代目を擁立したあと、俺を目覚めさせる方法を探すと旅に出ている。


 どうやら、どうあっても俺のこの体と交尾したいらしい。


 何言ってんだコイツって思うかもしれないが、日記に書いてあるのだ。


 俺の体が実は男だという事にフランメルは気づいたが、交尾しようにも、陰茎が立たないと嘆いている。


 押せば露出するし、少しエロい事を考えれば立つのだが、どうやら寝ている間は機能していなかったようだ。


 フランメルはどうあっても俺との間に子供が欲しいと書いている。


 八代目の日記では三年ごとに様子を見に帰ってきていたようだが、途中から帰ってこなくなった、亡くなったのか、それとも諦めたのか。


 八代目の日記には気になる薬の名前が一つ、エリクシールと書いてある。


 七代目が、偶然発見した薬のようだが、七代目はこの薬を飲んで不老になったはずと八代目が七代目を心配している様子が日記に書かれていた。


 七代目は旅に出る時、聖剣を持ち出している。


 フォロニスが俺の知っているフォロニスなら、聖剣は聖剣だが、大した武器でなかった気がする。


 俺は片手剣に興味がなかったし、片手剣好きのThunderNyanCoなら知っているのだろうな。


 魔剣に関して、八代目が七代目の言ったことを日記に書いていた……俺は勘違いしていたようだ。


 薬や生活などの情報をまとめたのは八代目だ。


 七代目と八代目の字が似ているのは八代目、ファンナヨルカが七代目フランメルに文字を習ったのだとすれば、無くはない話だ。


 八代目の日記には魔剣に関する七代目の考察が書かれていた。


 魔剣エンヴァー。


 この世界において、魔剣という名が付く武器の大半は植物であるとフランメルはファンナに言ったようだ。


 そしてその植物の名がエンヴァーメントグレイスツリー。


 通称死者の木と呼ばれる魔物だ。


 この魔物は、生き物の血を好み死んだ生物の血を使って成長するのだが、成長するのに膨大な量の血液を必要とする。


 単体の生物でその量は賄えず、よってこの植物は、次の獲物にありつくために種子に血を集めて生物に擬態し、移動する。


 通称アンデットは、実はこのエンヴァーメントグレイスツリーが擬態した姿だと七代目は書いている。


 エンヴァーメントグレイスツリーは己をもっとも増やす方法を知っている――それは人間同士の戦争である。


 戦火の跡には大量の死体が残り、エンヴァーメントグレイスツリーにとって最良の環境だからだ。


 よってエンヴァーメントグレイスツリーは己を人間に近い形に擬態させ、移動するという妙な癖がある。


 姿は似ていても歪な形からか、アンデットと言われていたが、アンデットとは別物で、表皮を良く見ればわかるようだ。


 そしてこのエンヴァーメントグレイスツリーが人間に擬態する時、剣や斧、人間の武器に擬態する部分がある、これこそが魔剣や呪われた呪具と言われるものの正体のようだ。


 もちろん不可思議な力で呪われた物もあると書いてある。


 魔剣エンヴァーはエンヴァーメントグレイスツリーが剣に擬態した部分であり、装備者が人間である場合は腕から根を張り、持ち主を殺して血を奪いとるか、目の前の獲物に襲いかかり、獲物の血をすする生態がある。


 魔剣エンヴァー、俺を守るための切り札として、教会に隠す旨が記されていた。


 七代目はこの魔剣エンヴァーをひどく危険視している――通常の魔剣とは異なり、かなりの量の血を吸い、樹齢は200年を超えるとのこと。


 まさかとは思うが、クトゥーナの正体が実は魔剣エンヴァーではないかと考えてしまい、少しぞっとした。


 確認するためにも魔剣エンヴァーを一度探した方がいいだろう。


 聖剣は七代目が持ち出したので、以降この教会からは存在が消えている。


 隠し場所を探したが、代々隠されていたのは、竈の中の壁の中という記述があり、竈の火を消して中を調べてみたが、確かに石をずらすと空洞はあるものの、魔剣と呼ばれるものはなかった。


 日記を眺め行方を探ると、十代目ヴィヴィがこの魔剣を用いていた記述が残っていた。


 ヴィヴィは魔剣の扱いについて書いている。


 必ず、殺していい獲物、敵が眼前に存在するときにのみ使用すること。


 魔剣は鞘に納められると大人しくなるので、常時は決して鞘から抜かぬ旨が書かれている。


 これらは九代目の犠牲の上に成り立っている、それを忘れてはならないと綴られていた。


 九代目はどうしても魔剣を使う必要があり、魔剣に食われてしまったようだ。


 ヴィヴィの最後に、衰えていく自分と残された俺のこの体を嘆き、魔剣を俺のベッドの中に置いて、俺を守るように願って亡くなった。


 二階にそっと上がり、クトゥーナが寝ているベッドをゴソゴソと調べてみるが、たしかに隙間のようなものはいくつかあり、空洞もあったが、魔剣と呼ばれるものは置いてなかった。


 クトゥーナが魔剣なのか、それとも誰かが別の場所に移したのか。


 危険と言われると、あまり目を離したくはない。


 ヴィヴィの日記を読むに、ヴィヴィは後継者を残せなかったようだ――魔剣を使用した弊害だろうか、ヴィヴィは22歳の若さで亡くなっている。


 十一代目は、たまたまこの地に来た貴族のお嬢様のようだ。


 グラーヴェル聖王国において濡れ衣を着せられて没落した公爵家のお嬢様が、逃亡の末、たまたまこの教会を見つけたらしい。


 使用人が一人と騎士が一人の三人で暮らしている旨が日記に書かれている。


 十一代目リリアーヌは歴代の日記を読み、他の二人の反対を押し切りこの地に留まり、俺の世話をしたようだ。


 リリアーヌは俺の事を実の娘のように思い世話をしたと記述がある。


 俺の傍には十代目ヴィヴィの死体があり、丁寧に埋葬したとも書かれていた。


 死体というが、白骨体かフラン死体かどちらにしろまともな状態ではなかっただろうと思う。


 使用人は優秀らしく、八代目の残した本を利用して、豊かな生活を再現したようだ。


 近くの村との交流も書かれており、スライム薬や石鹸と物を物々交換していた。


 近くに村があるなら、俺も行きたい。


 ここで生活するのに問題は無いが、服と靴、あと樽などが欲しい。


 リリアーヌの護衛だろう騎士が魔剣を持ち出している。


「あっ‼ あぁあああ‼」


 またか、クトゥーナが起きたのだろう、叫び声をあげながら駆け下りてきた。


 俺の姿を見ると止まり、震えながらよろよろと傍に来て俺の服を掴む、いい加減泣くのをはやめろと言いたいところだが、子供は泣くのと寝るのと遊ぶのが仕事なところがあるからなと机に肘を付いて考えてしまう。


「ルール覚えてる?」


 そう聞くと、クトゥーナはきょろきょろと目を泳がせ、耳が小刻みに震え、顔が赤くなっていく。


「お前が俺の言ったルール、約束を守るのなら、好きな時に傍にいていいし、血を吸ってもいいよ。どうする?」


「まっ、まもり……ます。異性と接触しません」


 約束変わってるじゃねーかと思った。


「いや、接触はしていいよ、異性と唇を合わせるのとか、交尾をしないと約束できる?」


「はははははい、傍にいます」


 いや、だから約束変わってるじゃねーか。


 俺は読んでいた日記を机の上に置き、クトゥーナを抱き上げた。


「守り、ます、ずっと一緒……です」


 そんなにこの体は魅力的なのだろうか、それともやはり、この体には女性を惑わせる何かがあるのか、不安になってしまった。


 クトゥーナは俺に大好きホールドし、離れていいよと言っても離れようとはしなかった。


 寝起きだろうに、ちゃんと水分を取れと、張り付かれながら立ち上がり、火を焚いて、お湯を沸かし、クトゥーナにお湯を飲むように勧めた。


 俺は日記をまた読み始め、クトゥーナは俺の肩に歯を立てて、甘噛みしはじめた。


 そういや、石鹸作ったんだよなと、器を見るために、クトゥーナを抱えながら、立ち上がり、礼拝堂へ行くと、どろどろしていた内容物が固形になっていた。


 触ったり匂いを嗅いだりする、大丈夫そうだ。


 竈で石を温め、井戸より組んできた水に焼けた石を入れ、またお湯を作る――まず自分の体を洗う。


 風呂場が無いのが辛いところだ。


 外へ出て服を脱ぎ全裸になると、固形をナイフで刻み、両手で擦る――泡立つことはなかったが、ぬるぬるとしていた。


 クトゥーナに石鹸に触れないように言い、俺の体を洗いたいのか、俺が自分で体を洗うのにクトゥーナは不満そうだった。


 本には髪にも使えると書いてあったので、髪にも使う。


 全身にくまなく塗ったら、お湯で落とす――結構さっぱりとした。


 体を拭くタオルのようなものがない、臭い古着で体を拭くのも……濡れたまま教会の中へ入り、竈の火で体を乾かす――しばらく待ってみたが、肌が溶けることはなく、痛みや痒みのようなものもなかった、これなら大丈夫そうだ。


 改めてお湯を作り、今度はクトゥーナの体を洗う。


 クトゥーナはびっくりしていたが、洗っている間は大人しかった。


 しかし手で洗うものだから、周りからしたら、俺、ただのロリコン犯罪者なんだよなと妙な犯罪臭を感じてしまった。


 しかしこの石鹸はどうも匂いがよろしくない――前よりはマシだとしても、草と土の匂いがするのだ。


 フローラルな香りとはほど遠い、贅沢は言っていられないけれど――竈の前にクトゥーナを置いて乾かし、乾かしながらいくつか質問してみることにした。


 クトゥーナは竈の前にいても、俺を視線から外そうとはしない、焦点を俺に合わせていなくとも、視野で俺を見ている。


「クトゥーナさ」


「……はい」


 恐怖されるといたたまれないと思いつつ、俺の仕打ちを思えばこんなものなのかもしれない。


「魔剣って見たことある?」


「ないです」


「ふーん。近くに町ってある?」


「町は……無いです」


 なぜ目を反らす。


「ほんとに?」


「ほ、んとです」


 俺はクトゥーナに近づき、じっとクトゥーナの目を見た。


「ほんとに?」


「はっはっはっはっ」


 じっと見ているとクトゥーナの息が荒くなっていく――過呼吸って俺、そんなに恐怖の対象なのだろうか。


「ほんとに?」


 もう一度聞くと、クトゥーナは泣きそうな顔になり、嘘を付けない体質なのだとわかった。


「村は?」


 クトゥーナは俺を見上げ、絶望に染まるような表情をする。


「町はなくとも村はあるのね」


 強い口調だと責めているように聞こえるかもしれないので、柔らかい口調を心掛けることにした。


「……はい」


「俺の事怖い?」


 そう聞くと、クトゥーナは首を振った。


「何が怖いの?」


「……クトゥーナは用済みですか……」


 こんな悲しいセリフ今まで聞いたことないと俺はその場でよろめいて横になり天井を見上げた。


「なぜそうなるの?」


「村で、クトゥーナを、売るから」


「約束覚えてる?」


「……はい」


 俺はごろりと体勢を変え、肘を床についてクトゥーナを見上げた――怯えて震える瞳、手を伸ばすと、クトゥーナの体はびくりと跳ねる。


 傷ついているのだ、心が傷ついている、自信がない。


 クトゥーナの手を握る、優しく柔らかく。


「お金ってある?」


「……無いです」


 手を握ると、クトゥーナの緊張が手から伝わってきて、その手はとても暖かく、そしてとても冷たかった。


「貨幣価値がどれくらいかはわかる?」


「……はい」


「計算ってできる?」


「はい」


「俺と一緒は嫌?」


 ふるふると首を振り、俺はにやぁと笑みを浮かべた。


 それから細かい質問をいくつかすると、近くに村があり、その村の先にある街からクトゥーナは買われたようだ。


 クトゥーナ自身は三人姉妹の末っ子で、生きるために奴隷になったとのことだ。


 もっとも、父親は死に、母親は行方不明、上の姉も旅に出たまま戻らず、次女は大きな街に行ってしまった、残ったクトゥーナは、街の者に言いくるめられて奴隷になってしまった。


 親に売られたわけではなくて、少しほっとしてしまったが、やっぱ人間はクソだなと思ってしまった。


 俺がクソだから、他の奴もクソだよなと変な理論を展開して笑ってしまう。


 んなわけねーよな、ごめんな、クソは俺だけだよな。


 どうしてこんなに怖がっているのかと聞いたところ、十五代目がクトゥーナ、十六代目にここを任せる時、聖女が目覚めたらお前は聖女に捨てられると言い放ったのだそうだ。


 なぜそんなセリフを言ったのかは不明だが、その言葉が身に染みていつ捨てられるかと気が気でなかったようだ。


 十五代目はその後、ここを去っている。


 なぜ去ったのか、クトゥーナは捨てられたと思っているようだ、それだと俺も捨てられた事になる、悲しいな。


 クトゥーナは言葉だけでは安心できないのか、俺と接触したがった、手を繋いだり、抱えたりしていると安心するが、俺が視界から消えたり、意地悪をするとすぐに過呼吸になる。


 夜も更け、カンテラに明かりをつける――油は動物油らしいので、節約するために、手元のカンテラだけに火をつけた、夜はそれなりに冷え込むようだが、寒いとは感じても、それを苦だとは思わない。


 クトゥーナの体が温かいので、抱っこしていると温まるまである。


 俺の体は夜ご飯を必要としていないが、クトゥーナはお腹が空いただろう。


 夜ご飯の準備をする――と思ったが、クトゥーナは血が飲みたいと土下座してきた。


 椅子に座る俺に大好きホールドしながら、肩に歯を立て、歯で傷つけた傷口から漏れる血を舐めるように飲む、その間、クトゥーナは満たされたような表情をしていた。


 ドンドンドンッと大きな音がして――俺はびっくりとして立ち上がり、クトゥーナは俺から転げ落ちた。


 風、魔物、スライム、それとも、ドアの方へ向かうと、ドアが激しく打ち付けられている。


「誰かいないか‼ 誰か‼」


 人の声がして、俺はドアに駆け寄った――ドアの前でクトゥーナが俺を押しのける。


 なんじゃいと思ったが、クトゥーナは俺を守ろうとしてくれているようだ。


「誰かいないのか!?」


 男の声、日本語ではない言葉を理解できていることに気づいた――クトゥーナとの会話は無駄ではなかったようだ。


「どちらさまですか?」


 俺が声を張り上げるとクトゥーナは信じられないという顔をしたので、何か不味いことをしたのかもしれない。


「あぁ‼ 良かった‼ 俺たちはサーチャーギルドに所属している者です‼ 近くで狩りをしている途中、オーガに囲まれてしまって仲間がひどい怪我を‼ 助けてくれないか!?」


「ダメ……です」


 クトゥーナが俺を見て首を振る。


「なぜ?」


「怖い、です」


「頼む‼ 頼むよ‼」


 近くの村が気になる、道具が欲しいのだ、特に樽のようなもの、服を洗濯したい、こんな時にそう考えてしまうあたり、危機感が無い。


 俺からカンテラを奪うとクトゥーナは屈み、ドアの下から何かを見ている――近づいて俺も同じようにしてみると、扉の下に隙間があり、足の数から人数を確認しているようだ。


 足は一つ、靴というよりは、鎧――けが人は背負っているのだろう、暗闇の中で、相手の持つカンテラと光と影。


 こちらに振り向いたクトゥーナが首を振るが、力づくで入ってくる可能性もある。


 建物自体が古いし、木のドアなど簡単に壊されそうだ。


 襲われた時を考えると、迷ってしまうものだが、一人ならばなんとかなるかもしれない。


 俺はドアの閂を外し、扉を少し開けた――扉の隙間から見ると、若い金髪の男が頭から血を流して立っており、その背中には女性が抱えられていた。


 ドアを大きく開けると、男は緊張した面持ちでこちらを見、俺の姿を確認すると、ほっと安堵するような表情を見せた。


「どうぞお入りください」


 そう告げて、男が通りやすいようにドアを支える――男はありがとうと言いながら礼拝堂の奥まで入り、背負っていた女性を床に下ろした。


 男は金属製の鎧を纏い、女性は布の軽装に思える。


 扉を閉めて閂を入れ、男に近寄ると、男との間にクトゥーナが立った。


「怪我の具合は?」


「わからない」


 肩までの髪、カンテラの明かりの中で、女性の髪は茶色に思えた――服の留め金を取り、襟元や腹回りを緩め始める。


 俺は礼拝堂の奥、クトゥーナの部屋に行くと竈に石を入れ焼き、汲んである水を入れ物に焼けた石を入れ煮沸すると、礼拝堂へと一度戻った。


「お使いください」


「感謝する」


 男は鞄の中から布を取り出すとお湯につけ、女性の顔をぬぐった――女性の頭部と口元に血があり、頭を強打したのがわかる。


 服の一部が欠損、傷が見える。


 女性の口元に手をかざすと呼吸あり、意識を失っているのだろう、ただ頭部を強打したとなると、脳内出血の可能性もある。


 クトゥーナが俺の様子を見て、てきぱきと女性の介護をしはじめた――正直俺よりも手慣れている。


 男が鞄の中からガラス瓶のようなものを取り出して、女性の傷口にかけ、口に含むと口移しで飲ませる。


 女性の体は震えており、体温が低下しているようだ。


「こちらに竈があります。体を温めた方が良いでしょう、服も湿っていますね、大した物はありませんが、脱がせた方が良いかもしれません」


「よろしく頼む」


 改めて女性を抱え、クトゥーナの部屋に、クトゥーナが湿った服を脱がせ下着姿に、俺は二階から布団を持ってくると、女性をくるむように巻き、竈の前に、女性の体は震えがおさまり、呼吸も安定してきた。


 女性が落ちついた様子を見て、男は安堵の息を――俺を見ると改めて頭を下げてきた。


「ありがとう、助かったよ。こんなところに教会があるなんて、俺の名前はアーサー。こっちはパーティを組んでいるロレーナ」


「マギサ……」


 そう答えようとして、この世界がもしフラッグアサシネーションオンラインの世界ならば、本名を名乗るは危険なのではと脳裏をよぎる。


 そんな名前が有名なわけではないし、大丈夫だろうと思いつつ、だからと言って、本名でなくとも問題はないだろうとも思った。


「私はマギア……タチアナです」


 マギサとは言ってしまったので、下の名前を変える――その言葉を聞いて、クトゥーナはキョトンとした。


「こちらはクトゥーナ」


「あぁ、よろしく、タチアナさん、クトゥーナ」


 クトゥーナは常に、俺と男の間に立つようにしており、それを見ているといじらしいと思ってしまった。


 あり合わせで申し訳ないがと地下の粉食糧を持ってきてお湯に溶かし、アーサーに差し出すと、アーサーは気持ちだけありがたくと言い、逆に鞄から干し肉を取り出して差し出してきた。


 年齢としてはまだ若い、十六ぐらいだろうか、精悍な顔つき、悪くはないルックスだ。


 干し肉を食べようとするとクトゥーナに取られた。


 クトゥーナはペロッと舐めて食べ始めた――腹が減っていた、というわけではなさそうだ、あちらがこちらの食糧を警戒するように、クトゥーナも警戒しているのだろう。


「うぅ……」


 寝かせて数分だろうか、女性は目を覚ました――アーサーの姿を確認すると、安堵するように息を吐く。


「大丈夫か?」


「えぇ、アーサー、ごめんなさい」


「気にしなくていい。ゆっくり休んでくれ」


「ここは、何処?」


「はずれにある教会の中だ」


「教会の……中? 村に戻ってきたの?」


「いや、違う、それはいいから、少し寝たほうがいい」


「えぇ、わかったわ、アーサー」


「今日はお疲れでしょうから、二人とも休んでください」


「ありがとう、タチアナさん、本当に感謝します」


 アーサーが俺に向かって頭を下げる――とりあえずの危険は去ったが、次は俺を警戒しているのだろう、思えば、こんなところに教会がポツンと一つっていうのは、俺でも警戒するだろう、しかしアーサーはクトゥーナを見て、俺が魔物の類ではないと思ったようだ。


 クトゥーナに奴隷の焼き印があるからだろうか、少なくとも、奴隷を買える人間だと察したようだ。


 俺がうぇいうぇいした人間であったなら、たすけるうぇーい、うぇいうぇいで相手もきっと警戒などしなかっただろうが、残念ながら俺はうぇいうぇいする人間ではない。


「ありがとう……」


 女性はアーサー以外の人間、俺たちを見て安堵したのか、目を閉じると眠ってしまった。


 アーサーは女性の傍で壁に寄りかかり、剣を立てたまま目を閉じる、俺は日記を読まれるわけにはいかないので、椅子に座って、火の番をした。


 クトゥーナは椅子に座る俺の足元に座り、俺の足に寄り添うと、離れようとはしなかった。


 日記を片手に二人の様子を見る――オーガという言葉、サーチャーギルド、金属の鎧、光沢を消すために塗りつぶされている鎧は、一見すると服のようにも見えるが、音と形から金属だと判別できる、相当に重いのだろう。


 ゲーム通りだとすれば、オーガは言ってしまえばゴリラとサルの中間のような生き物だ、二足歩行と四足歩行し、殴る時は二足、走る時は四足。


 体長は約1m前後、集団で狩りをし、ボス個体が一体、集団の規模は5~10体前後。大きな群れでは20体前後となる。


 ボスは体が大きい雌で見れば大きさの違いですぐに把握できる。


 硬い拳と鋭い牙が武器で、引っ掻きもするが、引っ掻き攻撃は稀だ。


 拳が硬いので、ゲーム時でも頭にヒットすると昏睡状態となり一方的にボコられる可能性はあった。


 通常のゴブリン集団と同じ数で戦わせたらオーガが圧勝する。


 魔物と分類しているが、明確には魔物ではない、この世界で、本当の魔物というのは黒い個体を指す。


 ゴブリンもオーガもスライムも、人類はまとめて魔物と呼ぶけれど、プレイヤーにとって明確に指定された敵というのはこれらに当てはまらない。


 人類が住む地域により変化するように、これら獣も住む地域によって姿、形が変化する。


 日本のクロアリとジャングルのグンタイアリのようなものだ、同じアリだけれど世界への在り方が多少異なっている。


 比較的天敵のいない地域ではゴブリンは緑色、危険な地域では赤色になる。


 弱い種族ほど繁殖力があり、強い種族ほど繁殖力が低い、ゴブリンの繁殖力は高いが、オーガの繁殖力はゴブリンに比べれば低い。


 世界各地にはゴブリンの拠点やオーガの拠点がある、人が築くような国ではないが、その拠点には始祖ゴブリン、始祖オーガと呼ばれる魔物が沸き、繁殖した個体が各地に散り縄張り争いによって人類と敵対する。


 この始祖ゴブリン、始祖オーガを生み出す個体がいる。


 この個体がプレイヤーの最大仮想敵、プレイヤーにとって魔物と分類される。


 魔物を殺しても血や肉はでない、霧散して消えていくだけだが、人間や天使、竜に対する凶暴性だけは異常に高い。


 これら魔物の発生を防ぐことはできず、古の神々、天使や竜、巨人は所謂ラビリンス、ダンジョンを作り、彼ら魔物が外に出ないように封じた。


 しかし天使と竜、巨人はお互いに争いはじめ、魔物を抑制することができず、滅んだとされている。


 実際には天使は自分たちだけの世界を作り引っ込んだし、竜は世界各地に残っているし、巨人は人に紛れて暮らしている。


 巨人は長寿だが自分の大きさを変えられるので人に紛れても遜色はない。


 ゲーム時、人間は複数の国に分かれお互いに国土と食糧をめぐり争っていたがために、魔物の進行を許し、破滅を辿った。


 魔物は獣や人の姿を真似ると言われているが――もしかしたら逆だったのではないかと俺は思っている。


 この世界の生き物たちは魔物が祖ということになるのではないか、魔人はいる、魔人がいるのであれば、おそらく人の祖も魔人なのではないか、物語の最後において、その答えは出ている。


 人は魔人の子、よって天使や竜は人を嫌っている。


 しかし魔人や魔物は人を殺し食うので、もはや別物なのかもしれない。


 これには二人の女神が関わっている。


 女神ハルフォニアとパンタノーラだ。


 ハルフォニアは獣の神、パンタノーラは魔物の神だ。


 二人は姉妹だった――天使や竜が傲慢となり、神に戦いを挑んだ時に、パンタノーラは世界を呪い、ハルフォニアはそれを嘆いた。


 パンタノーラの呪いにより魔物は生まれ、意思を持たず、殺戮を繰り返す魔物を憂い嘆き、ハルフォニアは、魔物に体を与えた。


 二人の女神が姿を消したあとも、魔物は残り、魔物から生まれた人や獣も残った。


 では魔物を放置していれば獣になるので放置してもいいのではないかと言うと、そういうわけでもない。


 人は自分たちが魔物から生まれた者ではなく、神に寵愛されて生まれた種族だと思っているし、実際、魔人が人に変化することは無い。


 あくまでも最初の数体にハルフォニアが肉体と恩恵を与えただけだからだ。


 ハルフォニアの行いをパンタノーラは許さなかった――しかし二人は姉妹で、パンタノーラはハルフォニアを深く愛してもいた。


 二人の神は壮絶に争い合い、最後にパンタノーラはハルフォニアの心の臓に槍を深く突き刺して殺してしまった。


 パンタノーラは魔人が獣に変わるのをよしとは思わなかったが、ハルフォニアを深く愛していたがために魔物が獣に変わるのを許した。


 魔人から変わった人に、力が無かったのも関係している。


 ハルフォニアは天使や竜、巨人が力を持ちすぎたがために争うのではないかと考え、人からは力を奪ったのだ。


 人は弱さゆえに協力し、守り、助け合う。


 ハルフォニアが勇気や愛という恩恵を人に与えたのに対して、パンタノーラが与えたのは憎悪や怒りだった。


 それは魔人の名残であり、人に変わった時、与えられたものでもある。


 だから人には二面性がある。


 パンタノーラは姿を消した。


 それ以降、世界は微妙なバランスと天秤の上に成り立っている。


 パンタノーラは消える前に、世界に呪いをかけた。


 世界のバランスを崩す生物が現れた時、その祖が世界を滅ぼしにくる。


 天使が台頭すれば悪魔が、竜が台頭すれば悪竜や未知なる獣が、巨人が台頭すればサイクロエディプス(一つ目巨人)が、人が台頭すれば魔人の活動が活発になる。


 そして長い年月の末に人が世界を制し争いあったので、魔人が現れて人類を滅ぼしにかかった。


 というのがゲームのシナリオではある、


 これを鵜呑みにするのかどうかは考え物だ。


「うぅ……」


 うめき声が聞こえ、ロレーナだと確認し、傍によるとひどい汗をかいており、近くに置かれた布で額をぬぐう――額に手を当てると熱く、熱があり、感染症を疑う。


 服を脱がせたとき、体には無数の打撲痕と切り傷を確認している、内臓に達するような致命的な傷跡は見られないが、血は流れている。


 アーサーは近くで眠っているが、瞼に動きあり、剣をいつでも抜ける状態に――寝たふりでこちらの様子を伺っているのがわかる。


 見た目は脳筋だが、頭の回転は良さそうだ。


 このままだとロレーナは衰弱してしまいそうだと、薬の本を取り、外へ向かう――クトゥーナがついてこようとしたが、危険だと言って、家に残るよう言った。


 クトゥーナは渋い顔をしたが、日記を読まれるのはまずいと察したのだろう、その場に残ってロレーナの看病をしはじめた。


 礼拝堂の出入り口でカンテラを置き、薬の本をペラペラとめくる――スライム薬のページから数ページめくり石鹸のページへ、最後の方に小さく匂いを付けたければマグノリアの木の枝を細かく切ってスライムに食べさせると良いと書いてあり、ちょっとイラッとした。


 そこから数ページ、傷薬、ポーションと書かれたページに、スライム薬改、実用品と書かれたページがあった。


 スライムをベースにアルテミシア、ハイペリオンを食べさせ、ウネを加えて作るブルーポット、アルテミシア、ペリーネを加えたレッドポットがある。


 スライムはハイペリオンとペリーネを同時に食べるのを嫌うようだ、食べさせるには中間素材がいると書いてある。


 レッドポットは傷によく効く塗り薬で、ブルーポットは飲み薬のようだ。


 アーサーが口移しで飲ませていたものは何かと考えたが、とりあえず素材だけ外から取ってきた。


 スライムを右手に手づかみ、左手で葉を持っている。


 戻ってくると、クトゥーナがスライムを受け取って手伝ってくれた。


 スライムを見てアーサーがさも今目を覚ましたかのように体を起こす。


「あら、起こしてしまいましたか、まだ休んでらして、大丈夫ですよ」


 クトゥーナが俺の喋り口調にギョッとして、しかし口には出さなかった。


「いや、もう大丈夫だ、ロレーナ、大丈夫か?」


「感染症を起こしているかもしれません、今から薬を作りますので、それで多少はどうにかなるでしょう」


「それは……ありがたいが、スライム……?」


「薬を作るのに、スライムを使いませんか?」


「使わないな、おそらくだけど」


「さきほど、飲ませていた薬は?」


「教会から支給された聖水だ」


「効果は?」


「なんでそんな事聞くんだ? 聖水を知らないわけじゃないだろう、体にたまった不浄を浄化するのに使う」


「このような辺鄙なところに住んでおりますので、村の聖水を私は存じておりません、よろしければ、少し見せてもらっても」


 やべ、さっそくボロが出てしまった、もらっても、ではなく頂いても、だった。


「そうか、あぁ、いいぜ」


 アーサーから瓶を受けとり、蓋をとって匂いを嗅ぐ――無臭、少し手の平に落とす、透明、舐めてみるとしょっぱくて少し苦い。


「これは傷と感染症に聞くのですか?」


「少しの傷なら治るし、気も少し楽になるよ、もっと良い物はお金を出さないともらえないし、教会ならホムンクルスがいるから、回復はホムンクルスがしてくれるんだ」


「ホムンクルスが」


「あぁ、俺たちはまだサーチャーライセンスをもっていないから、ホムンクルスがいないし、そのせいで回復もままならない」


「そうですか」


 本当の事を言っているのだろうなと思った――この聖水も効果があるのだろう。


「あり合わせで申し訳ないですが、今薬を作りますので」


「ありがたい」


 クトゥーナに手伝ってもらい、さっそく薬を作る――先にアルテミシアを食べさせて放置していたスライムの蓋を開けると、透明に戻っていた。


 食べるか疑問だが、アルテミシアとハイペリオンを与えて蓋を閉じる。


 もう一つ器を用意してスライムを入れ、アルテミシアとペリーネを入れて蓋をした。


 余っていたウネの根を切ってお湯につけトロミを作り、レッドポットとブルーポットを作る。


 名前の由来が色であることは液体の色を見ればわかった。


「変わった薬の作り方だな」


「そう?」


「スライムを使うのか?」


「そうなの。スライムが自由に生きる権利を主張したり、スライム愛好家がそれは虐待だと言わかったりしない限り安泰で健全な薬よ」


 そう言うと、アーサーは頭にハテナを浮かべたり、妙な顔を浮かべたりしていた。


 ノリが悪いな。


 昔、う〇こ味のカレーかカレー味のう〇こかって守男と会話していたことがある。


 究極の選択だと馬鹿みたいにはしゃぐ守男に、どっちも食わねぇって言ったらめちゃくちゃキレられた。


 普通に考えて、どっちか食わなければならない状況ってなんだよ、どっちか食わなければ恋人や両親でも殺されるのかって話だ。


 普通に考えて、どっちも食わねぇだろ。


 究極のう〇こ二択だって言うのなら、恋人のう〇こか、大嫌いな奴がルンルン気分で作ったうんこ型のカレー、どっちか必ず食べなければ恋人が殺されるって選択にしろよって俺は言った。


 それでどっち食べるのってハルポンに言われて、俺は迷わずに恋人のう〇こって答えた。


 それを聞いた守男とハルポンは爆笑して、ニャンコとDKはしばらく口を聞いてくれなかった。


 ニャンコが、鼻血出してゲーム中断した時、私の鼻血って汚いんだってと言い出し、親に汚いと言われていたのを気にしていた、だから舐めてやろうかって言ったらめちゃくちゃキレられて、二週間口を聞いてくれなかった。


 ニャンコの鼻血なら舐められるし、DKが鼻血だしても舐められるよ、あいつら多分美人だし、ハルポンが会話に入ってきて、私が鼻血出したらって聞いてきたから、ティッシュで塞げばって言ったらめちゃくちゃキレられた。


 守男は下品な話でも下品な話で返してくれるのによ、もっとも下品な話を振ってくるのは守男だけれど。


「ふふっ」


 薬を作りながら、少し笑ってしまった、思い出し笑いって、吹き出すのを止められない気がする。


「どうした?」


 アーサーに問われ。


「すみません、こんな時に、思い出し笑いをしてしまって。好きなの、薬作るの、みんな喜びますので」


 クトゥーナが頭にハテナを浮かべているので、頭を撫でて表情を変えさせる。


「そうなのか」


 みんなって誰だよ、薬ができたら、俺の肌でテスト、少し飲んでみて、大丈夫そうだと思った、危険な物はおそらく入っていないだろう。


 ギンピギンピとかだったら、俺の肌はとっくに傷んでいるしね。


 ニャンコが言っていた、でもギンピギンピの実っておいしいのよってさ。


 なんか楽しくなってきちゃったな、昔の話を思い出すと、苦痛なのに、楽しい思い出も確かにあるのだ。


「大丈夫かな」


「まて、先に俺が飲んでいいか?」


「どうぞ、何処か怪我をしているなら、塗りますよ」


「あっあぁ」


 鎧を脱ぐのに抵抗があるのか、鎧を見て思ったのは蒸れそうだということだ、こんなのを着ていたら汗臭くてしょうがない。


 歩行速度を犠牲にして防御力を高めるのは鉄板だ、鎧を着ているから動きが遅くて弱いということはない。


 足が遅いのと手を早く動かせるのは別だ。


「どう?」


 アーサーがブルーポットを飲む、口に付けるとゴクゴクと飲み込んだ。


「意外といける」


「ほんとに?」


「あぁ、俺はこれ好きだよ」


「ロレーナにも飲ませていいわね」


「あぁ、これは効きそうだ、うぅ」


 クトゥーナに手伝ってもらい、ロレーナを抱き起し、ブルーポットを飲ませる。


 口に数的垂らすと喉の奥へと零れおち、喉が動く様子を見て、量を少しずつ増やす――意識はなくとも飲むのだなとなんとはなしに思った。


 子供の頃、巣から落ちたスズメの雛を可愛そうだと思い、拾ったことがある。


 飲み物を飲ませようとスプーンに水を入れて飲ませようとしたら、スズメは水が飲めず窒息して死んでしまった。


 スズメは巣から落ちても助けようとしてはいけないと後で知った。


 近くに親鳥がいるし、問題無いのだとニャンコに話した時に言われた。


 思い出すと胸が痛いよ。


 最低の過ちを犯したのは確かだ。


 クトゥーナにロレーナの体を支えてもらい、レッドポットを体に塗る――体に目立つ傷は少ないが、腕や足に切り傷や擦り傷は多かった。


 手で満遍なく塗ると、ロレーナの温かみと柔らかさが心地よかった。


 女性に触れると、こんなにも幸せになるのはなぜだろうと思い、セロトニンが出ているからだとニャンコが言ったのを思い出す。


 だから女性が触れてきても、好きなわけではないから勘違いするなと。


 この体にセロトニンが出ているかは不明だが、ロレーナは美人だった。


「どうだ?」


 アーサーがのぞき込んできて、終わった旨を伝える。


「あり、がとう」


 ロレーナは目を覚ましたのか、虚ろな目で俺を見上げていた。


「ゆっくり休んで」


 ロレーナはじっと俺の顔を見ていた。


 ロレーナを布団で簀巻きにしたら、飲み水を用意して飲み、クトゥーナにも飲ませた。


 二人がいる限り、クトゥーナに血は与えられないだろう。


 クトゥーナは眠そうに船をこいでおり、抱っこして椅子に座る――その様子をアーサーが見ているのを感じた。


「その子、ミスティックレイディムーンじゃないか?」


「それは何?」


「いや、違う、よな、なんでもない」


「一つ聞きたいのだけど、いくつか聞いていい?」


「あぁ、答えられることならば」


「ホムンクルスってなに?」


「知らないのか?」


「えぇ、ここってほら、何もないし、最近まで体が弱くて寝たきりだったから」


 嘘は言っていない。


「そうなのか、それは、ホムンクルスっていうのは、パートナーのようなものさ。サーチャーライセンスを取ると自分にあったホムンクルスを支給して貰えるんだ」


「誰から?」


「国からだ、ホムンクルスがいると魔術が使えるから、簡単な怪我は治せるし、身体能力もあげられる」


「魔術って?」


「さぁ……それは俺にもよくわからないな、ただ不思議な力だっていうのはわかる。炎を起こせたり、氷を出せたりするんだ。一回コールドストームって魔法を見たことがあるけど、すごかったよ」


 そんな名前の魔術は知らない。


「ホムンクルスがいないと魔術は使えないの?」


「一般の奴はそうさ、貴族とかそういう連中はホムンクルスがいなくとも魔術が使えるらしいけど、そんなにはいないんじゃないか」


「そう、サーチャーライセンスを取るのは難しそう?」


「難しい、と俺は思う。まずは学校に入って訓練と資格を取らないといけないけど、この学校へ入るための試験が難しんだ。俺はしっかり準備をして来年受ける予定」


「サーチャーライセンスを取ると、他に恩恵はあるの?」


「あぁ、普通には入れないようなラビリンスやダンジョンに入れるようになるし、国に雇ってもらえたりするかな、交通機関もほとんど使えるって話だ」


「試験は実技なの? サーチャーギルドはサーチャーライセンスとは関係なし?」


「試験は実技だと聞いてる、戦うんだと、100人受けたら99人が落ちると聞いた。サーチャーギルドはライセンスを持った人達の拠点で、試験を受けたいって人のために、訓練してくれるんだ。俺とロレーナはその訓練中ってわけさ」


「なるほど」


「サーチャーに興味があるのか?」


「生きて行くにはお金が必要で、そして試験を受け、受かるだけで資格が取れ、優位になれるのなら、取らない手はないと思う」


「そうなのか」


「普通に考えてそうでしょう、受けられない資格があり、望めない才能がある、誰でも受けられて、取れるのなら取るべきでしょう」


「それは……そうだが、危険な仕事でもあるぞ? 試験も大変だと思うしな」


「グラーヴェル聖王国ってどんなところ? いい国?」


「本当に何も知らないんだな」


 俺は一晩中アーサーを質問攻めしていた――夜が明けて、お腹が空いただろうから、地下から粉を持ってきて、溶かしてアーサーに差し出すと、今度はアーサーも飲んでくれた。


「結構うまいな、これなんだ?」


「さぁ……なんでしょう、クトゥーナ、知ってる?」


「なんでしょうって、知らずに食べているのか」


「体に悪い物ではないと思いますよ」


 クトゥーナは少し機嫌が悪い、血が飲めなかったからだろうか、首を振って答えるが、目は合わせてくれない。


 お腹に手を回して抱え上げるが、抵抗はしなかった――この二人がいなかったら、いちゃいちゃしてやるのに、二人がいるからイチャイチャできないな、クトゥーナにとっては嫌がらせになるのかもしれないけれど。


 クトゥーナを下ろし、ロレーナの傍に行き、屈んで頬に手を当てる、まだ若干の熱を帯びて熱いが、汗は引いていた。


「冷たくて気持ちいい……」


 ロレーナが目を覚ました。


「気分はどうですか?」


「もう大丈夫」


 ロレーナは体をゆっくりと起こし――途端アーサーの顔は青くなっていった。


「……やっぱり、毒だったんじゃないか!? トイレは!?」


「あぁ、ブルーポットの効果かも、いらない物を輩出してくれるの、トイレは礼拝堂の中よ」


「うぅおおお‼」


 アーサーは鎧を脱ぎながら礼拝堂の中へ駆けていった。


「大した物は用意できないけれど、良かったら食べて」


 粉を溶かしたお湯をロレーナに差し出す、クトゥーナが俺の背中へとしがみ付き、ロレーナは俺にしがみ付くクトゥーナを見て、キョトンとしていた。


「……えぇ、いただくわ」


「この子は甘えん坊みたいなの」


「つっ」


「熱かった?」


 ふーふーと息をかけてスープを覚ま――トイレから想像を絶する大きな音が響き渡り、ロレーナと顔を見合わせて止まり、そして笑った。


 その後ロレーナもトイレに駆け込んだ。


 トイレから出てきたアーサーはすっきりした顔をしており、ロレーナが代わりにトイレに駆け込むのを見てから、アーサーの耳を両手で塞いだ。


 鎧を脱いだアーサーの体は筋肉に覆われていた――腹が四つに割れている。


 そしてやっぱり女の子が漏らしていけないような音が響いて、ブルーポットの効果にぞっとした。


 トイレから出てきたロレーナは、すっきりとした顔をしていた。


「なんだか体が軽くなった気がする。一瞬このまま死ぬのかと思ったけれど、すごい効果だな、この薬」


 アーサーはブルーポットを気に入ったようだ。


 二人に石鹸を渡して手を洗わせる――こんなところに衛生的なものがあるとは思っていなかったのか、驚いていた。


 ロレーナは改めて粉スープを飲み、驚いていた。


「これ、クトゥルナの根じゃないかしら」


「ロレーナ、知ってるのか?」


「えぇ、一度、飲んだことがある、すごい高価な薬よ、滋養強壮にいいって、こっこんな高価なもの、飲んでしまっていいのかしら」


 ロレーナが俺を見て、俺に言われても価格がわからないしな、かまいませんと言った、もっとも俺が許可を出していい品物ではないのだが、クトゥーナが食べていいと言っていたので、食べても問題ないだろう。


 それからしばらく談笑し、アーサーは盾役、ロレーナは弓職だと聞いた。


「ここら辺の木、使ってもいいかしら?」


「私のものではないから、好きに使っていいと思うわ」


「あなたの目……とても綺麗ね」


 ロレーナは弓を失っていて、食事が終わると活発に動き始めた。


 近くの森から枝と弦を持ってきて、弓を作り始める。


 アーサーは今頃疲れがドット出てきたのか、クトゥーナの部屋で眠ってしまった。


 俺は洗濯を試みる――やっぱ平たいタルが必要だ、漫画や映画でしか見ていないが、洗濯板が無いし踏む方が楽そうだ。


 水を汲んで、石鹸を取り、揉んでみる。


 クトゥーナが傍にいて、俺の様子を見ている、俺の様子を見ているというよりは周りに警戒しているようだ。


「クトゥーナ」


 クトゥーナの名前を呼ぶと、クトゥーナは絶望するような表情をして口を震わせた――なんでだよと思ってしまう、近くに呼んで撫でようと思ったが、手に石鹸がついているのでやめた。


「悪いけど、アーサーを見張ってくれないか、日記を見られたくねーから」


 そう言うと絶望的な表情を浮かべて教会へ向かっていった、だからなんでそんな絶望的なんだよ、罪悪感がせりあがってくる。


 ロレーナがこちらに来るのを感じた――クトゥーナが足音の方を見、耳をそばだてている。入れ替わる形でロレーナが俺の傍に。


「洗濯?」


「えぇ、上手にできなくて」


「こうするのよ」


 ロレーナが俺を包み込むように洗濯物に触れ、揉み洗いする――俺の手の上から触れたロレーナの手は温かかった。


 教会の扉の隙間から覗くクトゥーナの頬が引きつっている――もうちょっと表情を隠してくれとも思うが、何に引きつっているのか、俺に対してなのか、不安なのか、攻撃されないか、大丈夫だとクトゥーナに目配せするが、クトゥーナは目を反らしてしまった。


「器用ですね」


「洗濯は良くしているから慣れてるの、歌を歌いながらするとすぐ終わるのよ」


「そうなのですか、ロレーナさんって年はいくつなんですか?」


「十六よ」


 その体つきで十六歳なのかと驚愕してしまうほど、ロレーナの肉付きは良く、胸が大きかった。


 洗濯が終わり、竈の前に置いておく――こうすれば乾くだろう。


 アーサーはすっかりと緩み、大の字になって眠っていた、クトゥーナは地面に体育座りしている。


 クトゥーナに手を伸ばすと、顔を背ける、膝を折り、両手を伸ばしてクトゥーナを引き寄せる。


 今更ながら、アーサーとロレーナが善人そうでよかった――魔術がある世界か、しかしホムンクルスがいなければ魔術は使えないようだ。


 もしかしたら魔術を使えるかもしれない――なんにせよ身を守れるようになっておくべきだろうと思う。


 魔剣があるのならば、多少魔剣自体が危険でも手元にあったほうが良いのかもしれない、というのは浅はかだろうか、クトゥーナに近づけるべきではないか、所持するべきではないか、ヴィヴィの二の舞になるのではないか。


「何が気に入らない?」


 クトゥーナに聞くと、顔を上げ、顔を背けた。


「言っても良い」


「異性に近づかない、です」


 クトゥーナを抱き寄せて撫でる。


「お前って戦える?」


「身は守れます、命に代えても、守る術はあります」


「命に代えなくともいいけど」


「私は、いりませんか?」


「大事だから死ぬなって話さ。いなくなったら困る、俺が」


「そっそう、ですか、クトゥーナが大事ですか?」


「世話をしてもらった義理がある、返し終えるまでは大事だ」


 律儀に約束を守ろうとしているわけだ、俺も異性なわけだが、下ろしてここにいるよう言うと、クトゥーナは渋い顔をした。


 外へ出る――。


 身を守る術――一応、身体警護の体術ぐらいは習っているけれど。


 とは言ったものの、習ったのは三つの動作だけ


 俺は幼いころ、転校ばかりしていた――父親の仕事の都合で仕方なかった。


 転校先で友達ができたこともあるし、できなかった時もある――俺自体がもっと明るくて面白い奴だったなら、もっと友達はできただろう。


 うぇいうぇい言って頑張って明るい奴を演じた時もあるけれど、結局転校するので意味がないと知った。


 離れれば友達の関係は薄くなっていく。


 いじめたことも、そしていじめられたこともある。


 幼い頃の過ちと言ってしまえばそれまでだけれど、虐めた相手には今でも謝りたいと思い、そして虐められた事を、仕方ない因果だとも思う。


 正義感などなかった、良心と悪心という概念すらなく、ただ快楽が好きで、苦痛が嫌いだった。


 そんな幼少期に、俺は一人の男性と出会った。


 その人は、華僑から流れてきた二十代の男だった。


 もっと年をとっていたのかもしれないし、記憶の中で男を美化しているのかもしれない。


「どうして、武術があるのか、知ってる?」


 と問われ、ぼくは負けたくないからと答えた。


 そう言うと、男は顔に笑みを浮かべ、くたびれた声で本質はそうなのかもしれないと呟いた。


 本当は、相手を殺さないためと言うつもりだったと言った――ただ相手を倒すのなら武器を使えば良い、棒でも石でもいい。


 日本人は恐ろしいとも言った――刀の形状はどう考えても、人を殺すためにある。


 銃のように研鑽する必要のない武器に比べ、日本刀は存在そのものが人を殺し、研鑽され、するためにあるからだと、だから男は日本人が恐ろしいと言った。


 華僑の人は指で缶に穴をあけるし、動画で見た身体能力はとても真似でるものじゃないと言ったら、マスターレベルは本の一握りだと、男は小さなコーヒーのスチール缶に指を刺しながら言った。


 爪は割れ、剥げ、取れ、深爪すぎるほど深爪し、指先は硬く、感覚は無い、ここまでする意味はないと男は笑っていた。


 こんな手をしていても、銃弾をはじくことはできず、撃たれれば死ぬとも言った。


 人は人の構造上、人以上にはなれない――。


「武術で人を殺してはいけない」


 男はそう言ったけれど……男は俺に武術を教えてくれた。


 この武術に名前は無いと言った――元はちゃんとした流派だけれど、破門されたので二度と名乗ることは許されないとも笑っていた。


 ジャンケンと同じだと――拳は面、肘は点、掌は平、地は足に、蹴り技などいらないと言った。


 面を仕留めるのは点で、点をいなすのは平、そして平を抑えるのは面――拳は親指を握りこまず出しきつく、くるぶしだけではなく、くるぶしを含めた第二関節から第三関節までで作り上げる。


 点に点で対抗してはいけない、点とは相手の急所を突くためにあるからだ。


 武術において攻撃とは己の体を痛めつける行為であることを決して忘れてはいけない。


 拳を使えば、拳は血を流す、肘を使えば、肘を痛める、これらを決して忘れてはならない。


 拳で硬い物を殴ってはならない――ナイフに拳を当てれば傷つくのは拳だからだ。


 蹴りは使うな、蹴りが必要な場面などない、もしあるとすれば、それはお前が未熟だからだと、男はそう言って、基本の型だけを教えてくれた――というよりもそれがすべてだと言った――打ち、抑え、穿つ、この三つがすべて、小細工を覚える必要はない、脈々受け継がれていくなかで、試行錯誤されながら残ったのがこの三つだからだと。


 型とは場面の中にある反復すべきシチュエーションだ。


 人間は、生物は慣れる生き物だ――只管に、順応するために型がある。


 武術は崖上りと一緒だ、習ったからと言って強くなるわけではない、ある日あっけなく裏切られることもある、それでも岩に指をかけ、昇るのが武術だと。


 山登りというには、武術はあまりにも過酷すぎる。


 どんな人間も、頂には近づけても、極められたとは言えない。


 生涯をかけて学んだとしても失われてしまい、師と弟子の技は同じ技でも異なるからだと、それは人が個であるからだとも言った。


 葛飾北斎は、あと五年、十年あれば本物の絵かきになれたと言ったそうだ――しかしきっと五年あっても十年あっても、あと少し、もう少しあれば本物の絵かきになれるのにと嘆いただろう、きっとそれに近い。


 手のひらを岩肌でズタズタに切り裂きながら登るというのに、あるのは自己満足だけ。


 最強の武術など存在しないとも男は言った――武術が最強なのではない、結局は使う人間次第だと、武術など習わなくとも強い人間は強い。


 才能は無いが真面目な弟子と才能のある真面目な弟子、跡を継がせるならどちらだと問われたこともある。


 普通なら後者だ、でも男は前者だと言った。


 型は所詮型だ、弟子と師は違う、最強の武術は存在しない、剛と柔という考え方を男は好きだと言った。


 型を習い反復するのが剛であるなら、型を崩すのが柔だ。


 才能の無い弟子は型を守り続けるだろう――だから跡を継がせる。


 才能のある者は型をくずし新たな武術を築くだろう、だから跡を継がせない。


 男はそう言った。


 再三言われたのは師と弟子は違うという言葉だ。


 師が最強だからと言って、弟子が最強だとは限らない、弟子が最強だからと言って、師が最強だとは限らない。


 結局は人なのだ、これが答えでこれが全てだと。


 最低限の動き方を教えてくれたけど、ある日男はいなくなった。


 二度と会う事はないのだろうと、心の何処かで分かっていた……男が武術で人を殺したがゆえに破門されたことも、その指は、人の喉など容易に貫通するだろう事も。


 どうして俺に武術を教えようと思ったのか、いまだもって不明だ。


 ただ少し笑って、少し微笑んで、穏やかな表情なのに、精神は擦り切れていた。


 武術で人を殺してはいけない、武術を示唆に使ってはいけない、プライドを守る道具に使ってはいけない、男はそう言った。


 幼少の頃、これを習ったきりで、正直、リアルで喧嘩がうまいかと言われれば、そんなことはない。


 体育の柔道ではガタイのいい奴に簡単に投げられるし、不良に殴られただけで震えてしまう。


 ゲーム内で、この習ったことは役に立っていたけれど……。


 幼少期から特殊な体のつくり方をしなければ意味がない、そしてそれは一回の怪我で台無しになる。


 手首から肘までは一直線に――少しでも直線から反れれば、手首を痛める。


 しなるようになんとはなしに打つ――この打ち方をすると二の腕に痛みが走る、けれど、この体において、痛みはなかった。


 崖を降りて海を眺める――サンゴ礁の広がる綺麗な海とは違う、冬の厳しい海を連想させるような青と白のコントラスト。


 包み込むように逆立ち、押し寄せる、髪が肩にすらつかないような強い風。


 海を見るとなぜこんなにも心がざわつくのだろう、ニャンコは言っていた、昔、人は海と陸の境目で暮らしていたからじゃないかって。


 それは漁業を中心に暮らしていたからというわけじゃなくて、人が進化の過程で陸に上がった時、きっと振り返って海を眺めたのだろう。


 生物にとってきっと、海は故郷なのだ。


 魔術は使えるのか――。


 フラッグアサシネーションオンラインには二つの戦闘方式がある。

 Damage terms(convert)battle system,

 通称ダメージ戦。

 ダメージ換算方式の戦闘システムで攻撃が命中すれば、そこから基本攻撃力、補助攻撃力、貫通攻撃力、地形、摩擦、範囲などから相手の防御力、耐性、etcなどを計算し組み合わせ対象に和(=)を与える戦闘システム

 武器の当たり判定からダメージロールへ移行する。

 

 Structure region battle system.

 通称構造戦。

 モンスターや人には間接などの構造が設定され、ダメージ算出計算は一切行われない。つまりリアルな戦闘になる。首を切ったら相手がボスだろうと構造上は一撃で死ぬし、心臓を刺されたり、お腹を刺されたりしたらこちらも即死か瀕死となる。

 リスクは大きいが、リターンも大きい。レベルが低くても高レベルの相手を運が良ければ倒せるし。もちろんステータスの影響がないわけではないので、まともに戦えばレベル1の人間はどうあがいてもレベル100の人間には勝てない。

 武器防具に設定された素材、硬度、刃先の薄さ、切断レベルなどの計算は行われる。また肉体的強度はSTRに影響しSTRで構成される肉体の強度も加味される。

 この辺りは人体工学に基づいており、よりリアルになるよう計算式が組まれていたはず。

 強度18の人間がいて、切断レベル16の武器を持っている。単純に言ってしまえば、この武器では強度18の人間を傷つける事はできない判定がでる。しかし計算はより複雑であり、切断レベル16の武器であってもかすり傷などは与えられるし、切断レベル19の武器だったとしても、強度18の人間を一撃で倒せるかと言えば、テクニックがいる。肉の厚さ、強度も存在するからだ。

 肉体的に生存不可能と判定されたら死ぬ。

 手足には稼働累計ポイントが設定されており、STRやCLC、AGIから算出される。この値を何らかの理由で失うと、数値によりその部位に影響がでる。

 攻撃の手段により、切断エフェクトや圧壊エフェクトが生じ、与えられた数値により怪我の具合が再現されグラフィックとして腕や足、部位に影響がでる。消失した部位はもちろんゲーム内では機能しない。

 この問題について、手足を失っている現実社会の人間に苦痛を与えているのではないかとたびたび問題視されている。

 幻肢痛、ファントムペインを彷彿とさせ、苦痛を生む、差別として規制すべきだとの声もあがった。

 ゲーム内で構造戦を行ったプレイヤーがあまりのリアルさにショックを受け死亡としたという事案も発生している。

 その戦闘理念において人は人の構造上、人を超える強度を得る事はできない。もし人間としての強度を強化したいのなら、細胞レベルで素材を入れ替えるしかない。


 単純な斬り合いではなく殴ったら殴られた衝撃で肉体になんらかの影響がでる。


 打たれた部位がへこんだり、打たれた方向に飛ぶことで衝撃を和らげたり、かなり複雑な計算式が組まれていたはずだ。


 構造戦はPvPにおいてもっとも猛威を振るった戦闘システムである。しかし人権団体からの批判は相当なものだった。

 現実世界においてとある人間が、この構造戦を別のサーバーに再現し、とある人間に無理やり機械をかぶせ拘束、構造戦を行い、残酷な行為を何度も繰り返すという事案も発生している。

 現実ではないとわかっていても自らが破壊されるのは楽しいものではなかったようだ。

 又軍事目的で利用され、兵士の訓練としても使用された。


 また年齢制限があり、二十歳以下は構造戦ができない――もっとも自己申告制なので、破るものは少なからずいたと思っている。


 初期のホムンクルスには戦闘補助タイプが多い――これは単純にVRに不慣れなプレイヤーにゲームをより楽しくプレイしてもらうためだ。


 操作が難しすぎて敵を倒せずクソゲーだというのは良くある話。


 それを回避するために、ホムンクルスに戦闘を任せるオートシステムというものが実装された。


 アトゥルナトゥルにはその機能があった――初期ホムンクルスの性能はプレイヤー補助、回復やアイテム収納などの便利機能がそろっている。


 プレイヤーは必ずシープと呼ばれるメインジョブを持つ。


 シープは暗殺者の事だ――四期において魔人や魔物、モンスターに正面から勝つことが難しかったからだ。


 正面からの力の差を埋めるには気づかれる前にヤル必要があった。


 そしてサブ職も存在する。


 サブ職はプレイヤーが自由に選んで良い。


 表では学生、暗殺者(羊)として動き、その陰では自由な職を選び、自由な生活ができる。


 キャラクター制作時、まず宿星やどぼしを選ぶ――宿星はいろいろあり、主に動物を模している。


 クマやオオカミといったものだ。


 この宿星はステータスに影響する。


 ゲーム内ステータスはSTRストレンジCLCクレヴァリィAGIアジリティ、それにライフ(LF)とマインド(MI)、さらに疲労蓄積値がある。


 STRが低くて装備の厳しい武器や道具も、CLCが高いと器用さで重さをカバーして扱えたり、AGIが低くてもSTRが高いと武器を振る速度は速かったりする。


 欠けたステータスを他のステータスで埋められるようになっており、武器は短剣、剣、刺突剣、中剣、大剣、斧、大斧、弓、クロスボウ、棒、槍、拳、暗器などがあった。


 武器を扱うことにより習得する技をイグニッションと呼ぶ。


 職による武器規制は受けないが、補正は職により異なる。


 敵の攻撃を受け、生存不能なダメージを受けると死亡扱いとなる。


 マインドは簡単に言えばマジックポイントの事だ。


 疲労蓄積値とは各部位、手や足などに想定された疲労度を表しており、右手の疲労度が蓄積するとうまく動かなくなったり、走りすぎると走れなくなったりする。


 走れないだけはなく、息切れや足の疲労度で足を上手に動かせない場合も、唐突に倒れて一定時間動けない場合もある。


 STRは純粋な筋力、体の丈夫さに影響するし、マインドは単なる容量ではなく、マインドの高さによって精神状態異常を押さえたり、回復したり、心臓を貫かれても数秒程度動けたりする。


 宿星というシステムは魔術において多大な影響を及ぼすステータスである。


 魔術は職に関わらず覚える事ができるが、基本的に何の制約もなく熟練度を200%究められるのは一属性のみだ。


 属性は六つあり、てんめいしょうりゅうへきひょうとなる。


 難しく言っているが、天は光や雷、冥は闇や影、焦は火、流は水、壁は土、漂は風を指している。


 天には点や展の意味もあり、冥には謎や命の意味もある。


 火は焦がし、水は流れ、土は壁となり、風は漂う。


 魔術の種類は膨大だ。


 しかし何の制約もなく完璧に究められる属性は一つで、残りは180%、160%と究められる数値が落ちていく。


 さらに複合魔術があり、属性を組み合わせ発動する魔術もある。


 この魔術類は一つの魔術において、込めるマインドの量により威力、モーション、範囲が変わり、一定量を超えてマインドを込めると大魔術へと変化する。


 100%熟練することにより、100マインドを込めて発動する魔術を100のマインドで発動できる。


 120%の熟練度であれば、100のマインドで発動する魔術を80のマインドで発動できる。


 この差の分を込めて魔術を発動すると、オーバーマインド扱いとなり、込めた魔力の分だけ威力や範囲、効果に上乗せされる。


 まとめて言えば熟練度120で消費100の魔術を消費80で発動できるが、消費100で発動すれば、20分だけ威力や範囲に上乗せして発動できる。


 200になったからと言って、マインド0で魔術を発動することはできない。


 逆に熟練度80%の場合、消費100の魔術を発動するのに120使わなければならない。


 初期熟練度は0だが、初期魔術と言うものがあり、消費するマインドは少ない。


 火の初期魔術フレイムジャベリンは通常のマインドのみなら火を作り出し打ち出すだけだが、マインドを一定数以上込めると天より巨大な炎の槍となって対象を貫き燃やす大魔術へと変貌する。


 魔術は宿星の影響を強く受ける――狼が宿星ならばフレイムランスはフレイムウルフに変貌でき、炎が狼の形を作り攻撃できる。


 通称動物魔術、略してブツマだ、別に仏間ではない。


 ちなみに俺の魔術熟練度は冥200、天180、焦160、壁140、流120、漂100だ。


 戦闘において魔術や属性に対する完全耐性は一属性のみ可能なように調整されている。


 しかし熟練度が200に到達した属性は、属性耐性を持っていても貫通効果によりダメージを与えられる。


 六属性をすべて完璧に熟練するのはゲーム上では不可能だった。


 エレメンターという職であれば、すべての属性を180%で究められるが、代わりにどの属性も200%にすることはできない。


 一つの属性に突出するという制限を自らに設ける事で、一属性の深淵に至るという設定だった。


 俺の宿星……ムカデだった気がしなくもない、カラスだったかもしれない、カエルだっけ。


 マインドと誤魔化してはいるが、ぶっちゃけこれは魔力の事だ――魔人と敵対している人間が、実は人魔でしたとは言えないだろう。


 魔人や魔物を研究し作り出された魔の力を宿す体を有する者、それがプレイヤーの正体であり全てだ、舌噛みそう。


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