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 ちょっと嫌悪を感じるかもしれませんが、読んで頂けたら嬉しいと思います。

 暴れるクトゥーナの頭を掴んでベッドに押さえつける――まだ足りないのか、クトゥーナは俺の腕に爪を立て、血が流れると伝う血を舌で舐めとろうとしていた。


 いっそう満足するまで飲ませるか。


 血を飲まれたのは、始めてか、おそらく違うだろう、今まで血を飲まれていたと考えるのが妥当だろうな。


 しかし俺が起きてから、おそらく血液を採っていない。


 俺を強く求めたのは、血が欲しかったからか。


 コイツはずっと三年間俺の血を飲んでいたと考えるのが妥当だろうか、俺が死んでいないのならば、この吸血行為で俺が死ぬ確率は低い。


 むしろ暴れて血まみれになったほうが死ぬ確率が高いのではないか。


 腕を押さえると、足で暴れる――足で足を押さえ込む。


 口だけで暴れるクトゥーナの顔をじっと眺めている――可愛い。


 肩をそっと近づけると、クトゥーナは噛みつき、貪るように血を呑み込んだ。


 こんな生物が存在するのか、スライムが存在するのならば、こんな生物が存在してもおかしくはないだろう、血を吸われて同じ体質になるのなら、もうすでになっていてもおかしくはない。


 変化が無いと言うのであれば、そういう事なのだろう。


 俺が起きてから、おそらく血液を採っていない。


 現在が我慢の限界、ラインなのだろうな、俺を強く求めたのは、血が欲しかったからだ。


 脳裏に黒璃の姿が思い浮かぶ――プレイヤーには三体のホムンクルスが割り当てられた。


 四期で一体、五期で一体、六期で一体――黒璃は六期で作り出した最後のホムンクルスだ。


 ホムンクルスは一人のプレイヤーに三体まで寄り添う補助のようなもの。


 プレイヤーは一人のキャラクターしか作れない、複数のキャラクターを作れない代わりにホムンクルスと呼ばれる三体の人造人間を作り出せ、育てることができる。


 鞄の役割をしたり、戦闘の補助をしたりと、直接戦闘にかかわるものから、間接的に戦闘に参加するものまでその能力は様々だ。


 ホムンクルス事態はゲーム内でプレイヤーの手足となり導くために創造されるもので、プレイヤーの成長と共に姿や能力を変える。


 プレイヤーの行動や仕草、手段、戦闘スタイルから成長が決められ、どんな能力になるか、どんな外見になるかはプレイヤー自身には決められない。


 面白いのが、能力が被ることはあっても、同じ外見を持ったホムンクルスが生まれることは絶対にないらしい、名前も本人が勝手に自分に付けるので、プレイヤーが名前を付けることはできない。


 俺の場合、四期がアトゥルナトゥル、五期が竜陽りゅうひ、六期が黒璃だ。


 黒璃は別格だ――二体には時間を黒璃には金をかけた。


 黒璃の成長、素材には格別金を注ぎこんだ。


 アトゥルにも竜陽りょうひにも悪いが、この二体を育てている時はゲーム内マネーが無く、時間しかかけることができなかった。


 この世界がゲームの世界であれば、この三体も存在するのだろうか、それとも存在しないのだろうか、この世界はなんなのか、この世界は何処なのか、なぜこの体は眠っていたのか、なぜ俺はこの世界にいるのか、今更ながら疑問に思う、逆に考えるのが遅すぎて笑ってしまった。


 血が流れて、命の危機を感じた――だからなのか、頭が異様に冴えていた。


 クトゥーナが肉を生で食べていたのはこのためだ――それをダメだと言ってしまった、クトゥーナは余計に血が必要になったのだろう、しかし種族的には不完全なのかもしれない。


 血を得ても、寄生虫に寄生されるのでは、それともこの世界ではこれが普通なのか、吸血鬼でも寄生されるのか、面白れぇ。


 吸血鬼だとしたら、この子は見た目ほど、子供ではないのかもしれない。


 だんだんとクトゥーナの力が抜けていく、満足のいく血液量を摂取できたのか、やがて脱力するようにはがれていった。


 クトゥーナの頭を撫でる、貧血になるかと思ったが、そんなことはなかった。


 俺は本格的に自分の事を調べる事にした――次の日、下の部屋で本を調べていたら、クトゥーナが勢い良く階段を下る音がして、机の下に隠れる、下に来たクトゥーナはきょろきょろと辺りを見回し。


「あ!? あぁああ‼ あああああああああ‼」


 声を荒げながら礼拝堂へ、トイレのドアを勢いよく開ける音、やがて教会を出る。


「どこおおおおおおおお!? ねぇええええええええ‼ 何処なのおおおお‼ ねぇええええええええ‼ ああああああああああああ‼」


 外で大声を出したので思わず笑ってしまう。


 机の下から出てきて本を広げる――血が足りていても俺を必要とするのか、それとも定期的に血を取るために、俺が必要なのか、とぼとぼ泣きながら戻ってきたクトゥーナは俺を見て、ボロボロ泣いて服の裾を掴んだ。


 本当は俺に甘えたいが、奴隷と言う身分ゆえに甘えられないジレンマという奴なのか、それとも別の、血が無くなったら困るのか。


「お前、血を飲むのだな」


 そう尋ねるとクトゥーナの目は見開いて、顔が青くなっていく――サッと血の気の引いた様を見て、血の気が引くって本当にあるのだなと逆に驚いてしまった。


「あの、あっあの、ごっ、ごめんなさい。ごめんなさい」


「別に怒ってはいない、血を飲まなければ生きられない体質なのか?」


「あの……わからなくて、我慢できなくて」


 クトゥーナの頭に手を乗せようと伸ばすと、クトゥーナの体がびくりと震えた。


「怒ってないよ、どれくらいの頻度で、どれくらい必要で、飲まなければどうなるのか、詳細に教えてくれ」


「毎日……」


「毎日喉が渇くのか」


「はい……」


「これまでどうして来たんだ?」


 その言葉を聞くとビクリッとして目をそらした――正直に言うかどうかを考えている。


「俺の血を飲んでいたのか」


「はっ……はい、ごめんなさい」


 頭に手を置いて撫でる――叩かれると思っていたのか、ほっとしたようにクトゥーナは俺を見て、青ざめて目をそらした。


「三年間ずっとか?」


「すてないで、ください」


「三年間ずっとか?」


「ごめんなさい、捨てないでください。お願いします、捨てないでください」


「質問に答えなさい、三年間ずっと?」


「……はい、ごめんなさい。ごめんなさい」


 三年間血を吸われても俺の体は大丈夫だった――単純に考えて血の気が多いのだろう。


 笑ってしまう、おそらくそんな単純なものではない、俺の心臓、真っ黒い心臓が関係しているのだろう――ゲーム時の設定はどうだった、左手を掲げてみると、皮膚に浮き出る血管内に黒い血が流れているのがわかる。


 説明はどうだった――過去、ThunderNyanCoとの会話を思い出す。


 人間を構成する物質をすべて集めて単純に混ぜ合わせても人間はできない――ただの混ざったへどろのようなものができるだけだ。


 しかし人間がこの世界に存在する以上、構成する物質はあり、これらの物質を用いて作られているのなら、その作り方さえわかれば、人間は人工的に創造できるはずだ。


 構成する物質を正しい手順で正しく組み上げれば、人間の形をしたものはできるはずなのだ。


 母親がお腹の中で子供の体を作り上げるように、つまりお腹の中のあかちゃんが、どのように作られていくのか、その手順、またはその設計図を手に入れれば人間は人間以外からも作れるということになる。


 しかしこれら物質を用いても、人間を蘇生させることはできない。


 魂という不確定要素、もし魂がこの世界に存在するのなら、同じ魂を用いれば、同じ人間を作り出すことは可能だろう、しかしもし魂が無いのなら、例え記録した記憶を用い、同じ人間を作り出したとしても、同じ記憶を持った赤の他人に過ぎない。


 俺たちプレイヤーを作り上げたとされる設定の製作者NPC、研究者に名前があったはずだけれど、名前を思い出せない。


 プレイヤーキャラクターは人類の切り札だった。


 魔の核を用い、獣の血を混ぜ、人として生成される。


 この胸の内にある黒い心臓はゲーム通りの設定であれば魔の核となる、はずだ。


 ホムンクルスは魔の核に、人の血を混ぜ、獣として生成される、この人の部分はプレイヤーの血となるわけだ。


 よってホムンクルスはプレイヤーに追従し、プレイヤーが死ぬとホムンクルスも死ぬという設定だった。


 しかしゲームである以上、プレイヤーに明確な死は存在しないので、ホムンクルスが死ぬこともない。


 ゲームの裏設定、真実は残酷だ。


 かしずいて頭を下げるクトゥーナ。


 もし物質が無になるのであれば、例えば椅子を無に消失することができるならば、元素を消滅させることができるのであれば、物質は無にできるということになる。


 物質を無にできるというのであれば、逆に無から物質を生むことも可能になるだろうとThunderNyanCoは言っていた。


 しかし椅子を突然無にすることなどできるわけはない。


 ThunderNyanCoの見解では、間にもう一つ、物質とun物質の狭間があるのではと考察していた。


 物質であって、物質ではない、この世界から失われて無に帰るもの――エネルギーだ。


 もっともポピュラーであれば、光や熱がそれにあたるだろうとThunderNyanCoは言っていた。


 光から物体が作れるのであれば、エネルギーから物質が作れるという事。


 材料があるからと言って、人が簡単に作れるわけはない、正しき手順、それを容易に導き出せるわけもない、であれば、元からあるものを利用するしかない。


 プレイヤーキャラクターには母体となったNPCがいるという裏設定があった。


 この体の母体となった女性の名前はマリアンヌ――ゲーム内でも下宿先の世話係として、良くしてくれたNPCだ。


 彼女たちはキャラクターの世話をする世話係としてプレイヤーに必ず派遣されていた。


 目の前を放置して考えてしまった。


 俺は頭を下げるクトゥーナの脇に手を入れて顔を上げさせる――ひどい顔だ、鼻水と涙でぐしゃぐしゃ、不思議と汚いとは思わなかった。


 いい顔だ――俺好みのいい顔だ。


 苦渋を舐め、痛み、打ちひしがれ、それでも立たなければいけない。


 口から舌を出して、クトゥーナの頬をなめ上げる。


 鼻水と涙の混ざりあった、塩気と粘り気の味。


 床に向かってぺっと吐き出す。


「ルールを一つ設ける。お前がこのルールを守る限り、お前が俺の血を吸うことも、俺の傍にいることも許す、このルールをお前が守る限り、俺もルールを守る」


「る……るっ」


「これから言うルールを守る限り、お前に責はない、好きな時に血を飲み、好きな時に傍にいて良い。しかしお前がこのルールを破れば、俺はお前に血を与えないし、お前の傍から永遠に離れる、いいな?」


「る……るぅ?」


 横隔膜が麻痺していて言葉をうまく発せないのだろう。


「ルールは一つ、お前が自ら異性と粘膜を合わせる行為を禁止する。これを守る限り、俺もお前の好きな時に傍におり、お前が血を飲みたい時に飲ませると約束する。守れるか? 守れないのであれば、俺は今すぐにここを去る」


 今すぐここを去ると言う言葉に反応して、クトゥーナは嫌々と首を振った。


「守れるな?」


「粘膜、合わせる、わかんない、わかんない‼」


 粘膜という単語がわからないのかもしれない、キスや交尾がわからないのだろう。


「粘膜を合わせるというのはこういう事だ」


 俺はクトゥーナの唇に舌を差し入れ、滑りこませると、クトゥーナの唇に唇を触れさせた。


 唇同士は優しく接しているが、舌はクトゥーナの前歯を撫で、歯の隙間から滑りこませると、舌の表面をひと舐めし、前歯の裏側の窪みをざらざらと擦る。


 血の味がする、歯が溶けている匂い――臭い、この匂いが人を感じさせてなお良い。


 心臓が痛い――心が冷めていく感覚。


 興奮という言葉はなかった――理性がこの行為を忌諱している。


 今の俺を見て、みなは気持ち悪いと言うのだろうな。


「はっはっはっはっは」


 クトゥーナの息は急に上がり、ビクリッと大きく痙攣すると脱力するように動かなくなった――どうやら気絶してしまったようだ。


 娘と思えば愛らしくもある――ファーストキスぐらいは貰っていいだろう、俺だってファーストキスだし。


 ぐったりとしたクトゥーナを抱えて二階のベッドへ寝かせにいく。


 元の世界では許されぬ行為だろうが、ここは異世界だ、起きた後、俺が嫌なら離れれば良い。


 このルールはクトゥーナを俺に縛り付けるルールではない。


 このルールを破るほど好きな男ができたのであれば、俺は必要ないだろう。


 そして俺も異性である、つまり俺もクトゥーナには手を出さない。


 起きた後、離れず、このルールを守るのであれば、俺もルールを守る、守らないのであれば、俺はクトゥーナの前から去る。


 俺自身、どうなるかわからないからだ。


 俺が欲望に負け、クトゥーナを襲うとも限らない。


 欲望、欲求と言うのは恐ろしい、自分は絶対に間違えないと言うのは簡単だが、それなら七罪なんて言葉は存在しない。


 このルールがある限り、俺とクトゥーナが男女の関係で結ばれることはない。


 俺に対する縛りでもあり、口約束なので強制力もない。


 しかし破ればそれはプライドと意地を捨てることになる、少なくとも約束を破るのを俺は躊躇うし、守れない約束ほど心に来るものはそう無い。


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