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若干不快な文章が含まれています。ご注意ください。会話は少なめなので、途中で飽きる事が多々あると思います。どうしても読みたいという方がおりましたら、コーヒーでも飲みながら精神や肉体の健全を保ち、読んで頂けると幸いです。そこまでして読みたい文章とは思えないのでご自愛ください。
もし読んでくださる方がおりましたら、ありがとうございます。
――一週間ほどで街道に出ると沢山の商人の往来があった。
街道は高い石の壁に囲まれており、魔物の特性上、壁にぶち当たると壁を破壊するよりも迂回しようとするので、高い石壁で囲ってしまえば、ゴブリンやオーク、オーガなどは避けられるようだ。
スキュラのような魔物は滅多にいないし、どうやらベヘモスは街道を守っている。
守護神ベヘモスとか言われているのを聞いた時は、ちょっと笑ってしまった。
あれは意思の疎通がはかれるものだと言っているようなものだからだ。
俺達は索敵能力が高い――ラファを信頼している。俺は、ラファを信用している。
恩がある――ドミナもミニットも俺の体を守ってくれた。
あの有り余るクトゥルナの粉も、エルフが分けてくれたものだった。
その二人を助けてくれたというだけで、ラファの、例え殺されたとしてもラファの信頼を守る価値はある。粉のおかげでトゥーナの栄養も足りている。
俺が死んでも、もし死んだとしてもラファはトゥーナに良くしてくれるだろう。
なんならエルフの里に連れていってもらっても構わない。
俺が死んだ時の保険が出来た。それだけでも十分に価値はある。
トゥーナはほどほどに大きくなった――背中に張り付くと、俺の背中に顔が当たる。
粉だけで体は大丈夫なのか――心配はある。
体調も良いし、便通も良い、栄養不足による症状はない。
ただそろそろケツ毛は、排泄口の周りの毛だけは剃らないとダメだろうとは思った。毛に付くと厄介だし、トゥーナも不快そうにしていた。ケツの周りの毛だけ色がついて取れなくても嫌だろうし、衛生面の話でもある。
ラファの索敵能力のおかげで物騒な魔物はあらかた避けられる。
だがこれはトゥーナにとっては悪手だ。
コイツには、俺達のような索敵能力がない。
これが普通だとは思ってほしくない。
一週間、なるべく索敵をさせ、発見した敵の迎撃法を言わせ、無理に、戦わなくとも良いと戦闘を避けた。索敵は大事だと念入りにすり込ませる。
先に、こちらが、敵を、発見さえしてしまえば、戦闘を、有利に進められ、戦闘を、回避できる。
特に戦闘を回避できると言う面を強調して伝えた――トゥーナの性格上無駄な気もする。
地の果てまで追ってくる可能性があるのは知能のある生物だけだ。魔物は街までやってこないし、街までやってくれば、他の人が率先的に排除、迎撃してくれる。
大抵の戦闘は回避でき、どうしても回避できない戦闘というのは、それが人間同士の戦いである場合が多い。
『どうして言わなかったのだ?』
トゥーナを眺めていたら、マロに話しかけられた。
(なにを?)
『可能な限り、敵を傷つけながら洞窟に入るって。相手を負傷させて逃亡し、また襲撃する方法だってあるのだ。その方が作戦として……それに地形を把握したのなら、地形を利用して撃破だってできるはずなのだ』
(まず俺とラファとトゥーナでは戦力に差がありすぎる。俺とラファができることの大抵をトゥーナは行えない。俺やラファと一緒の戦術ではだめだ。色々な状況はあるけれど、俺はトゥーナに憶病でいてほしい。だから無理な状況なら真っ先に逃げて欲しい。時間をかければかけるほど状況は変わる。危ういと思ったら逃げて欲しいのさ)
あの状況で、エナやエーテルを持つ俺とラファなら洞窟の中に何がいるかわかるし、また周りの環境を逐一確認できる。
しかしトゥーナには視認するしか確認する方法がない。
洞窟の形状を把握しており、狭い通路に誘導でき、挟み撃ちという形にはなるものの、二体限定という形を作れる俺とは違う。オークの死体は消えないし、移動する上での障害物にもなる。それを上手に利用する術をトゥーナはまだ知らない。
流体を使って圧殺することもできる、魔術を使って即殺することもできる、でもそれは、俺だからだ。魔術も流体もないトゥーナにはそれらが行えない。
戦術においてはトゥーナの目線に立たなければ意味がない。
『そうなのだ?』
(それとね、そういう戦術を教えてもいいけれど……相手が魔物だったらそれでもかまわない。でも相手が人間だったら……トゥーナは間違えなく人間だ。人間が人間社会から切り離されて生きるのは難しいよ。下手に目立ってほしくない。敵を作って欲しくない。戦争が無いとも言いきれない。駆り出された戦場で成果を上げて欲しくないのさ)
『そこまで考えるのは杞憂すぎない?』
(そうかもしれない。でも一人殺せば、横で何かと繋がるかもしれない。殺し方が残酷であればあるほど憎しみ、畏怖は強くなる)
たぶん、大抵の親は、大抵の善良な親は、子供にこうなってほしいと願うだろう。
ただ、優しい子に育ってほしい。
相手を思いやれる子に育ってほしい。
他者を愛せる子に育ってほしい。
英雄になれとも、天才になれともきっと言わない。
『わかったのだ』
親にとって、子供が成人しようが年寄りになろうが、何時までたっても子供が子供であることに変わりはない。
コイツ(トゥーナ)は俺の子供ではないけれど、コイツの起こした問題の責任は俺にある。
背後を見ると、背後から俺に抱き着いているトゥーナがいた。
背後から抱き着くのが本当に好きだなと思う。
隙あらば、止まったらこうして背後から抱きしめてくる。
難しく言ったが、完結に汚い言葉を使って述べれば、迷惑を、かけるな、クソガキ、だ。
この三つですべてが納まる。
この言葉で何処まで察してくれるかは子供の聡明さによるし、さすがに口にするには言葉が汚いけれど。
俺がこの言葉を言えるほど、偉いしすごいのかと問われれば、部屋の隅に蹲ってガタガタしているのがお似合いだ。
背後をじっと見ていると、トゥーナと目が合う、トゥーナはフイッと目を反らして強く抱き着いてきた。
オークを殺さずに放置したのは、回避できる戦闘は回避しても良い、という状況を経験させるため。
俺は天才でも秀才でも化け物でも化合物でもない。
俺が喋れるのも憎まれ口を叩けるのも魔物と戦えるのもウソをつけるのも全ては経験によるものだ。俺ができるのはその経験を追体験させてやれるという一点だけ。
――まぁある意味化合物ではあるし、化け物でもあるけれど。
トゥーナから目を離し、前面の壁を改めて見る――ブロック状、レンガ状のブロックを接着剤でくっつけて積み重ねているのというのはわかる。正面を触るとざらざらしていて凹凸があり、相応の硬さを認識する。
接着剤の強度も高く、所々ササクレというのか、尖っているのでむやみに触ったり、もたれかかったりすると傷がつくだろう。
相応の硬さはあるけれど、それでも劣化したりイレギュラーがあったりするので修復作業はある……と認識する。
迷宮から強力な魔物が外へ出て徘徊するのはイレギュラーだ。
オークやオーガ、ゴブリンを良く見かけ、それ以外の魔物をあまり見かけないのは迷宮による采配だろう。稀に出てくる特殊な奴らや強力な魔物はダンジョンから這い出して来たと見て良い。
体に泥や草の汁を付け汚し、夜を見計らい壁を登り通路に降り立ち、こっそりと行商人たちに混ざって歩いた。
壁の高さはざっと俺が五人分、驚いたのは壁の厚さ、1mはあった。そしてブロック塀の真ん中に鉄板らしき板が見える。
その道が延々と続いているものだから、その労力と費やした時間を想像してすげぇなとしか言いようがなかった。
又内壁は外壁と違って研磨されており、ササクレや尖りは一切ない。
これらの事柄からサクシア共和国の国力が伺えた。
道には沢山の商人や人々の往来があり、変な羽織と下着しか着ていない俺とラファは、かなり目立ってはいた。そのまま見たら、どこからどう見ても痴女か娼婦だ。
国境はすでに抜けているらしく、ベルト地帯、つまり国境沿いにある中立地帯に入っていると人々が話しているのを聞いた。
途中には休憩所がいくつかあり、道具があれば、キャンプなどができるほどの広さが確保されていた。
休憩所には所々に水の流れがあり、壁の中に水路があると伺える。
この街道は聖王国が出来た際、それをよしとせず国を出た人達が作った道なのだそうだ。
いくつかの行商人に話しかけられ、警戒はした。しかし危害を加えられたり、襲われたりということはなかった。いくらかと聞かれた事はあったけれど、お客はとっておりませんと丁寧にお断りをした。
最初は夜になると、こっそり壁の上に登って寝泊まりしていたが、雨が降る日もあるし、同業者、なぜか壁に上って寝ている人にも会い――。
「やぁやぁ、こんにちは。壁の上で寝泊まりなんてどうしたいんだい?」
話しかけてきて。ラファが目つきでけん制していたことから、関わらない方がいいだろうと無視して下に降り、休憩所に入った。
「つれないな……」
去り際にそう言われ、見上げると顔の下半分を布で隠した男だった。
良くないのかとラファに目配せを――ラファがこちらに来て、革命家という奴らだと耳打ちしてきた。ラファの革命家というニュアンスにはおそらくテロリストの意味合いが強い。
サクシアにはそういう奴らがいるのだなと、なんとなくそう思ってしまった。
国の事情なんて俺達にはどうでもいいことだ。関わり合いになりたくもない。
そう考えるとラファが同意するような表情をして気を緩めた。
商人達の中には俺たちの軽装を見て不憫に思ったのか、寝具などを貸してくれた者もいた。
特に女性からは優しくされた。
「貴方達、このままサクシアに行くの?」
「はい、そうしようと思っています」
「そうなの。よかったわ。ここら辺でお客をとってはダメよ?」
「そうなのですか?」
「えぇ、もう身売りはやめなさい」
サクシアに行くと言うと、どの女性も良かったと息を吐いて安堵する。
「これからは自分を大切にして生きるのよ」
赤の他人を心配するのだなと、なんとなくそう思った。
この世界は生きるのに過酷だ、過酷な分、むしろ一般人は温かいのかもしれない。
食料なども分けて貰え、お礼にクトゥルナ団子を渡すと、不思議な顔をされたが、変わった食べ物ねと言われた。
石鹸を四分割して、お世話になった女性へ差し出すと、目に涙を貯めて泣いてしまい、思い切り抱きしめられると、これからはいいことがあるからと言われた。
俺たちが男達に絡まれると女性達が集まり、囲うように守られる。
どの女性もその場その場に居合わせただけのようだった。
日が昇ると、誰からともなく移動が始まり、それに伴うよう皆の動きが決まっていく。日中は歩き、疲れたら休み、キャラバンと思われる馬車からは子供が降りて来て、馬車に追従するように歩いたり走ったり、疲れたらまた馬車の中に戻り休み、夜も明かりが絶えることはなく、人の数だけ明かりが灯されていた。
持ち込まれた楽器による演奏や、食事、会話がなり響いて、同じキャラバンでもないのに食事がまわってきて、食べていいのよと促される。
ラファはパンツを渡されて困惑し――。
「私も子供の頃に売られたけれど、今は幸せよ。だから人生を悲観したりしないで」
――そう言って女性は背中の傷を見せてくれた。
「いつかきっと報われる。いつかきっとうまくいくわ。だから上を向いて生きていきましょう」
寝る時は周りの女性たちが俺たちを取り囲むようにして眠りにつく。休憩所に着くたびに知っている顔、知らぬ顔が増えたり減ったりする。
旅をしている、そんな気分になってくる。実際旅をしているのだが。
それから街道には盗賊が出るというのも聞いた。
いつまで経っても討伐されないので、通れない道があるようだ。
朝、別れ際、別れる人たちには、貴方達に幸運がありますようにと、頭に沢山キスをされる。
どの休憩所でもそうだ。
なんだろう、女性同士の絆がとても強いように見える。
中には良くない一団も含まれているようで、そういう一団は、複数の団体により、嫌悪されながら進んでいたのでわかりやすかった。
それを信用できるのか、愛想良く接してきた方が怪しいのではないかという話だが、ラファが心を読めるので、ラファに判断して貰った。
ラファがいるだけで対人に心強さはある。
「なかなかに面倒だな」
ぽりぽりと頭を掻きながらラファにそう言う。
あんまり親し気にされても困るからだ。
「あぁ」
ラファはパンツに困惑していた。包帯で陰部を隠すだけでは防御力が低いだろう、そう言おうとしたが、言う前に伝わっていて、パンツを履いて、上から包帯を巻きなよと、手伝ってやった。
「俺達はボロボロに見えるみたいだな」
そう言うと、ラファは俺の上から下までを見て。
「お前はそうかもな」
そう言った。失礼な奴。
お前もだよ――心の中でそう言うと、ラファは自分の体を見てため息をついた。
エルフの羽織は真っ白いだけだから汚れが目立つ、生地としては悪くないと思うけれど。
クトゥーナの機嫌は良かった。
妖怪尻張り付きと化して俺の尻に張り付いている。
トゥーナには生理現象があり、汗をかき、物を食べ、トイレに行かなければならない。匂いもそろそろきつくなってくる。こうして張り付かれるとその臭いを否応なく実感させられる。それを嫌悪しているわけではなく、俺だってこの体じゃなければもっとひどかっただろう。
トイレに関して、トイレは休憩所に併設されており、四方を囲われた穴の中にする。汲み取り式というわけではないようだ。中から粘液が動くような音が聞こえるので、俺の知らない仕組みなのかもしれない。
排泄行為後、尻を拭かなければならないのだが、紙があるわけじゃないので、壁の向こうから葉っぱを取って来て渡している。
この葉っぱに関しても、毒性があるかもしれないので、まずは俺の皮膚に当てて変化が無いのを待ち、次にトゥーナの肌に当てて、変化が無いのを確認してから使わなければならない。それが少し面倒だったが、同じ葉っぱでも似たような形で別の種の物もあるので確認は毎回行った。
休憩所に併設する水場では、大人は体を拭く程度だが子供は丸洗いされている。
俺もトゥーナを丸洗いしようかと思ったが、トゥーナが嫌がるのでやめた。
他人に肌を見られるのを極力嫌がっているようだ。
子供が無防備にいる。その情報だけでも十分に大きい。
途中で道が二手に分かれ、前の馬車に続いて真っすぐに進むことに。
パンツを履いたラファのひらひらが歩くのにつられて揺れ、ちらちらと白い布に覆われた形の良い尻が見える。
「なかなかそそる」
そう言うと。
「あ?」
ラファは疑問を顔に浮かべ、俺の顔を見て、顔をしかめ、前を歩けと促してきた。
もっとお尻を振って歩いてよ。
そう思うと、ラファに尻を蹴られて思わず吹き出してしまった。
セクハラだけれど、口にしてないからセクハラじゃない。
「噛む?」
クトゥーナにそう言われ真顔で見上げている。
「理由は?」
「無いけど」
「噛まない」
俺、コイツのせいで一生童貞かもしれない、早く嫁にいけ。
「止まれぃ‼」
不意の前の馬車が止まり――。
「とっ盗賊だ‼」
前を進んでいた馬車がぐるりと回り、Uターンする――あぶねっとクトゥーナを抱えて横へさける。
現れたのは皮製と思われる鎧を着た男達だった。
やっぱり盗賊っているんだな。
「へへへっ。ここを通りたかったら金を出しな」
頭目と思われる男が前に出てくる。
手には大きく湾曲したタイワールのような剣、顔は無精ひげ、傷、強面。
近づいてきた男、臭いかと思ったが、意外と臭くない――おいおいやめてくれよ、まずは対話してくれと、ヤル気なクトゥーナの手を掴む。
村で殺してしまった盗賊の姿が脳裏に浮かび――少しばかり沼の中に浸かっているような気分になってしまった。人を殺したことが、ここまで心に来るのは、両親に申し訳ないと思うからなのかもしれない。母と父の顔が脳裏に浮かび、上手に目を合わせられそうになかった。俺は子供ではない、子供ではないが、親の顔に泥を塗るのは絶対にダメだ。
あの人たちは俺が顔に泥を塗ろうが良いと言ってくれるだろう。
だけれどそれだけはあってはならない。散々塗った手前、今更だとも思う。
もう私達のことはいいから、自分の事を一番に考えなさい。
あの人たちならそう言うのだろうな。イラつくわ。
俺にはもう返す恩もねぇってよ。キレちまいそうだ。あのジジババ共。
トゥーナの手を強く握り、ラファの前に立つ。
「お嬢さんがた、ここを通りたかったらへへへっ。お金が必要だぜ、へへへっ」
「お金がなかったら?」
「お金、ないのか」
「お金、ないですね」
「そっそうなのか。その姿、もしかしてあれか、逃げて来たのか」
「そのようなものですね」
「そうかぁ、それじゃあお金なくても仕方ないな……そうか。大変だったんだな。よし‼ 今日はもう遅いし、どうだ、うちの村に来て休んでいかないか」
なんだ、やけにフレンドリーな盗賊だな。
それとも村に連れ込んで襲うのか。
「盗賊ではないのですか?」
「俺達が?」
「この辺りには盗賊でると聞きました」
「いや、俺達は盗賊じゃないぞ」
男達は顔を見合わせて、みな困惑した様子だった。
「では、なぜお金を取るのでしょう」
「あぁ、この道はな、俺達が作って管理している道なんだ。少し前に分岐があっただろう。あの道だと、かなり迂回しないといけないんでな。こうして新しく道を作ったんだ。この道は向こうの道に比べてかなり距離を短縮できる道なんだけど、迷宮が近くにあってな。ゴブリンやオークが良く出てくるので俺達が管理しているのさ。壁が低いだろう? 俺達が自分で作ったんだ。でもこの通り低いし弱いしで良く壊されるんだ。だから維持するにはお金も人も必要でな。仕方がないが、道を通るのを条件にお金を頂いているというわけさ」
「あ、そうなんですね」
「そうだぜ‼ へへへへっ」
「やる?」
クトゥーナが俺に聞いてきて、俺は首を振った。
「私達はお金がありませんが、村で休ませて頂いてもいいのですか?」
「いいよいいよ。俺達もその日暮らしってね。貧しいのはみんな一緒だ。さびれた村だが寛いでいってくれ。それに、こんな別嬪さん二人が風呂にも入らないんじゃな。なぁお前ら‼」
「そうっすね‼ 子供もいますしね‼」
「おう‼」
「そうですか。では申し訳ないですが、お言葉に甘えさせていただいて」
「おうよ‼ お前ら‼ ここを頼んだぜ‼」
「へっへへっ。まかしてくださいよ‼ ゴブリンが来ようがオークが来ようが蹴散らしてみせまさ」
どうやらマジで盗賊ではないようだ。
村に案内されると普通に女の人や子供がおり、特に女の人には良くしてもらった。
放っておくと俺は外の魔力を勝手に呼吸から吸収して、この辺り一帯のヌースを奪ってしまう。この村がろくでもない村ならそれでもいいけれど、喉にヌースを展開して新たなヌースの吸収を抑えておいた。
普通に夕飯が振る舞われて。
鍋一杯の肉、ホルモンのようなものをご馳走になった。
「柔らかくて、弾力があって、味が染みていて、とてもおいしいですね」
「そうでしょう!? この村の名物なのよ」
さっきの頭目の奥さん、普通に美人だ。
「美味しい?」
クトゥーナにそう聞くと、クトゥーナはコクコクと頷いておかわりした。
「ところでこれは何のお肉ですか?」
「ふふふっ。それはねぇ、ゴブリンの〇〇よ」
「スゥ―……」
あれ、なんか、聞き間違えかな。
「えーっともう一度いいですか?」
「あら、こういうの、苦手だった? でも美味しいでしょう? ゴブリンの〇〇」
やべ、これ、ゴブリンのち〇こだわ。
普通に食べてしまった。
クトゥーナを見ると、材料を聞いても変わらずに食べていた。
ラファも食べている。
あれ。俺だけ、俺だけ気にしているのかな。
「とっても滋養強壮にいいのよ。臭いから手間はかかるんだけどね。でも‼ いっぱい食べて英気を養ってね‼ 丈夫になるわよ‼ 私なんて、この料理を食べてから子供を三人も授かってね‼ このらせん状のはオークの〇〇よ‼」
「そう、なんですか」
人間ってこういう生き物だよな……。
人間て、こういう生き物だったわ。
ご飯を食べたらお風呂が用意されており、大浴場で、みんな一斉にお風呂に入った。
大浴場は一個で男女別れて時間をずらし、一斉に入るとの事。
俺は強制的に女性の時間に放り込まれて、まぁ役得だなということで、湯船に入った。
この村の女性たちの肉付きは良く、ふくよかな体系だが太っているというよりは鍛えられていると言った印象を受ける。
むしゃぶり付きたくなるような体つきと言えば、魅力的に聞こえるだろうか。
ただやはり傷が多く、森の中の生活が大変な事を物語っている。
ほとんどの方が人妻なので、他人の奥さんの裸を視線の中に入るのを躊躇い、他人の奥さんじゃなくとも女性の裸を見るのは良くないなと視界に入れないよう心掛けた。
二次元なら女性を襲っても脅迫しても女性の泣き寝入りか即落ち、くっころで済むが、現実では治安部隊に制圧されて人生が摘むので妄想と現実を混同するのだけは絶対にダメだ。
妄想と現実は別だ。
何度でも自分に言い聞かせる。
女を襲ってはいけない。それは相手が悲しみ傷つくからであって、治安部隊に制圧され男だらけのハッスル大会に放り込まれるからであってはならない。
体を洗うのに、脂石鹸というものが使われており、お肌はツルツルになるけれど、臭いはあまりよくなかった。
原料はオークの脂肪だそうだ。
俺が奪った石鹸を差し出すと、女性たちはみな喜んでくれた。
髪の黒い女性は珍しいらしく、髪をいじられた。
女性たちも男性同様精悍な顔つきをしており、凛々しい印象を受ける。
化粧もしていない、眉毛も書いてはいない。
ラファの裸体が美しすぎてミロのヴィーナスを見ているような感じになり、スンとした。
じっと見ていると、嫌な顔をされた。
おめぇは意地でも俺の体を洗いたがるなとクトゥーナに対して思う。
現に俺の体はトゥーナに洗われていた。
断っても食い下がらない。むしろムキになるので抵抗はやめた。反対に体を洗うようトゥーナに促され、股間とケツは自分で洗えよと、他は洗ってやったが、結局股間もケツも俺が洗った。
【不快な文章がありますのでご注意ください】
【お前みたいな気の強い女は尻〇が弱そうとか言われるんだぜ。
湯船に浸かり、ラファを見ながらそう思うと、ラファに心の底から嫌な顔をされて少し笑ってしまった。
「人間にか?」
「一部の人間にね」
「人間を滅ぼしてもいい気がしてきた」
「そんなのはほんの一部だから、全部を一緒にしないで」
「なんだその喋り方は」
「でももしそういう人がいたら、人知れず消しても私は何も言わないわよ」
「気持ち悪い」
失礼な奴だな。人前では上品に喋るものなんだよ。
まぁそれを言ったらア〇ルが弱そうとか思われそうなのは俺も一緒だが。普通に考えて浣腸されるのは誰だって嫌だ。生物にとっては共通の弱点だっつーの。妄想は妄想の中で完結しなきゃな。】
風呂から上がり着替えて外へ出ると焚き木や焚かれており、体を乾かし、冷めないように温めるようだ。
焚き木を囲った寝るまでの談笑が楽しみのようで、少しばかり話をさせてもらった。
なぜホルモンを中心に食べるのか、肉は貴重な収入源になっており、街に売りに行くので、村の人たちは処理が大変で長持ちしないホルモンを中心に食べるのだそうだ。
この辺りはオークが多い。
ここに来る途中巣を見つけたとおおよその位置を教えると喜んでくれた。
もともとオークの肉を調達するために出来た村なのだそうだ。
最初は近道などなく、遠回りで街へ向かっていた。
しかし時間をかけると肉の鮮度が落ちて街に付いた時には二束三文という話になり、どうにかしようと森を開拓して道を作ったのだそうだ。
もともと村を作り隣接させるために壁の一部は撤去されていた。
近道ができると肉の鮮度が保たれるようになり、街との往来も各段によくなった。
しかしそうなると量が多くなり、量が多くなるとやはり肉の値段は落ちてしまい、稼ぐためにさらに量を増やしと言う循環に陥り、運搬コストと採算が合わなくなってしまった。
鉱山などでこのような現象が多いと聞く。
鉄道などを引いて量を増やすと、運搬コストが上がって取れる物と採算が合わなくなる。
鉱山に何時までも鉱物があるとは限らない。オークが毎回とれのるかと言われれば、そういうわけでもない。植物のように生えてくるわけではないからだ。
サクシアではオークが家畜化されており主なタンパク源になっているそうだ。
ゴブリンなどは売れないので食べる。鱗のある動物は基本的においしくない。
鱗鹿も蜂が発酵させないと美味しくなかったと、蜂の有用性を思い出した。
運搬が大変らしいけれどオークの女王を街に持っていけば高値で取引されるとのこと。
子供を産んでいないオークの女王候補やゴブリンの女王候補が存在しており、ペットとして人気が高いようだ。
オークの女王とは子供を産むオークの雌のことで、女王候補とは若い雌を指している。
サクシアでは人間の奴隷は一切禁止と聞いた。
村人たちは近道を整備するついでに獲物を取り、通る人達に安全を提供することで金銭を得ようと思ったわけなのだが、その結果、盗賊と間違われるという――。
本人たちはその話を聞いて笑っていた。
「どおりで盗賊がでたと叫ばれるわけだ‼」
そこで気づこうぜ。
家畜化されたオークがいるのに、オークの肉が売れるのかと疑問に思ったのだが、家畜と野生のオークの肉では味に違いがあり、野生の方が、脂が少なく引き締まっていて食べ応えがあるらしい。現在は野生のオークというブランドを用いて数を考え取引しているとの事。
夜、寝る時、警戒はした――したけれど、子供も一緒になって雑魚寝しており、特に問題もなく、マジで別に普通に盗賊ではなかった。
次の日、朝ご飯に何かパンのような食べ物と野草のスープを頂いて、お礼に最後の石鹸を差し出すと、道を通っていいと言われた。
「お金、ないですが、いいのですか?」
「いいよいいよ‼ なぁみんな‼」
「世の中助け合いだぜ、お嬢ちゃん」
「なんならこの村に永住してもいいんだぜ‼」
まごまごしてたらマジで永住してしまいそうなので、遠慮した。
お礼を言い、整備のついでだと護衛までしてくれた。
服を提供してくれようとしてくれたのだが、国境街に行くのだったら、服はそのままの方がいいでしょうと言われた。
やがて見えて来た大門を見て、サクシアに移動できたことを実感する。
村人たちにお礼を言うと、村人たちは手を振って見送ってくれた。
長かった――振り返ると、少し寂しい気もした。
背中にトゥーナが張り付いてきて、そうでもないかと息を吐いた。