エルフではない何か。
しとしとと雨が降る――葉に落ちて、流れる音。
夢を見た――まだニャンコと二人でゲームをしていた頃の夢だ。
どうしても欲しいアイテムがあるとニャンコが言い、それは対人でなければ手に入らないものだった。
対人で広いマップだと、遠くから攻撃したほうがいいって。
そこでライフルを構えて砂漠の段差に隠れていた。
発見は同時――覗いていたスコープ、対象がライフルを構えるのが目に入る。
向こうは森、こちらは砂漠。
体勢を低くしてと言われて、前のめりになるようにうつ伏せになる――発砲音、風切り音、かすったと認識、ダメージエフェクト、表示、砂埃エフェクト、いい弾幕になると、ニャンコがぼくを蹴り、一回転、着弾音、苦笑い。
目算1200m――次弾装填までの間、今なら。
そう思い、構えてライフルを覗こうとすると、ニャンコが少し待ってと言った。
スコープを覗かないで、スコープの横に顔を当てて。
そういうニャンコの言葉を、ぼくは不思議に思いつつも実行していた。
パリンッとエフェクト音――スコープが射貫かれた音を聞き、なるほどとスコープを取り外して、投げ、鞄に手を突っ込んで新たなスコープを接続。
表示されるダメージエフェクト、偽装になるね。
スコープを掴み、装着し、その間が、止まっているが如く、完璧なリキャストタイムのように思えた。
「排莢、標準、2……07、早い」
弾の風切り音――ニャンコが首を傾けるような動作をする、影の、陰影、心臓の鼓動が、跳ねる、ニャンコなら、かわす。
「もう少し右」
ニャンコの足が顔の横にぴったりと――目標を、定めてくる。
ジョナサン・ロウの腕なら、スコープを正確に射貫くと思っていた――ニャンコはそう言って、乾いた風のエフェクトに、心音が重なるような錯覚――顔の横のニャンコの足、この弾丸は外れない、引き金を引くと、相手の頭に命中した。
ニャンコは沢山の人に関わり、沢山の人に認められた。
ぼくはそれを少し離れて見ていた。
誰もぼくを見ない。
ぼくが凡庸だから。
もしかしたら凡庸以下なのかもしれない。
組まないかと誘われるニャンコを、新しいチームに誘われるニャンコを、いつも不安に思いながら、でも気にしていないって、少し遠くから見ていた。
人当たりのいい顔をするニャンコの表の顔、辟易したように傍にくる裏の顔。
ぼくだけに見せる顔だって、何処か優越感、馬鹿みたい、そんなの、何の優越でもないのに。
すがりついているみたいで、嫌だって。
対等になりたいって。
努力すればするほど、上手になればなるほど、その差は、より高く、より遠く――。
ゲームだけじゃない、現実ではもっと、もっと遠く。
関われるのがゲームの中だけ。
ぼくだけの、ぼくの。
当時はそう思っていた。
そんなわけないのにね。
彼女は自由で、ぼくは――。
思い出すと恥ずかしいのか、苦しいのか、せつないのか、笑いたいのか、頭を何かに打ち付けたくなる。
ぼくは別に、初恋なんてしていないって、ウソをつくんだ。
なぜって、恥ずかしいから、結ばれなかったって認めたくないから、気になっていただけ、そう、気になっていただけだと、だから別に、好きだったわけじゃないって。
恋なんてしたことないって――。
初恋は結ばれないってアニメやドラマを見ると、苦しくなる。
幻想の中なのに、理想的に結ばれたらいいのに、ひどいものばかり見せられて、嫌なら見なければいいのにって、そう言われるんだ。
現実を見ろって……いきなり作品に横から殴られる。
ずっと一途な女の子がいてもいいのに――。
亡くなっても、一緒にいられないわけじゃないでしょう。
会えなくても、思う事はできる。
ずっと切ないままだ。
ずっと切ないまま。
瞬きして撮るフレームの中――君の姿を(が)。
触れるほど近いのに、息も感じぬほど遠い。