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ちょっと下品で陰鬱なので、読み場合は注意してください。拙い文章ですが読んで頂けるととても嬉しく思います。
甘く見積もっていた面はある、三日もあれば帰ってくるだろうと思っていたのに、気が付けば五日も経っていた。
俺の傍にいるだけでクトゥーナは血に飢えた獣と化す。
それはこの土地の魔力が俺の物に置き換わっているからだ。
四日目辺りから毎朝飲ませるブルーポットの中に俺の血を一滴混ぜる事にした。
しかし村人達は、ロレーナやアーサーを含め、魔力の摂取量が減ってもクトゥーナのように野性的な変貌するというわけではない。
気分が悪くなって、動けなくなる、それはまるで高山病のようだった。
なんともかっこ悪い話だが、ある山に登っている時、トイレに行きたかったが、トイレがその辺にあるわけもなく、登り始めだったので、下まで一度降り、用を済ませた。
追いつくために急な斜面を駆けあがり続けると、途端、苦しくなり、動けなくなってしまった。
これが酸素不足の高山病という奴だったようだ。
いや、わかんねーけど。
てかさ、登山道のトイレ、ブチギレそうなんだけど、俺だけかな。
だって誰も流してないんだよ、誰も掃除しないから、もう山もりになってんだよ。
もうハエすら寄り付かないっていうね。
キレそう。
ごめん、汚い話して。
でもやめないね。
今なら一番上に催すだけで山頂だぜ、これが登山か。
いや、やめるわ。
俺吹き出しちゃうし、一人で吹き出すと周りの人に変な人だと思われちゃうからね。
ブルーポットを作りながらそんなことを考えている。
魔力を手当たり次第自分の物にしてしまう体質は、本来なら宿星に抑制され、このような事態にはならないと、マローニャに言われた。
カオスと最近触れ合ってないから、カオスと骨投げしたい。
結局骨を拾うのは俺なんだけど。
『それを防ぐためには、魔力で体を覆ってしまえばいいのだ。そうすれば、君の魔力が外の魔力に干渉して吸収するのを防ぐのだ』
(仮面?)
『……ん?』
(仮面?)
『へ? ……なんなのだ?』
(惜しい。仮面?)
『な……なのだ?』
(うーテンション上がるぅ。俺は断然黒いのだね、あのね、ライバルがかっこいいね。あんなかっこいいライバルはそうそう(い)ないよ。でも初期よりライバルに倒された後の奴の方が好きだね、ロボとか水とかに変身するのが良すぎる。でもさ、ライバルに倒された後、海に落ちるんだけど、浮いてるんだよっ。あれ、もう最高だろ、俺もうあのシーンだけでご飯三倍はいけるわ。〈浮いているだろ、ウソみたいだろ、死んでるんだぜ、それで〉)
『なんの話なのだ……』
ちなみにこの話で盛り上がれるの俺だけ、〈みゆき〉の方が好き。
そうして出来たブルーポットをみんなに振る舞い、必ず飲むのを確認した。
う〇この事を考えながら作ったブルーポッドを他人に飲ませるのはいかがなものかと脳裏をよぎり、もううん〇の事を考えながらポットを作るのはやめようと思った。
ごめんなアーサー。
指先を少し傷つけ、血を一滴垂らすのを見られないようにしなければならない。
理由は言えないし、ただ血を飲ませるだけなら俺サイコじゃん。
二階に上がり、扉の前にクトゥーナを置いて、見られないようにして作る。
「誰も入れないように見張ってここにいて」
「何するの?」
「いいこと」
「いいことって?」
「ロレーナと」
そういうとクトゥーナが歯をむき出してきた。
人見知りで人前では強く出られない、我慢している、それが今にも爆発しそうな、怒り狂いそうな顔をして、そして泣き出しそうになっていく。
「嘘だよ」
「ぐすっ……」
なんか俺、DV夫みたい。
モラルハラスメントじゃね、これ。
俺、最低、最低だわ、マギサ君嫌い。
ハラスメント種類多いよ、どうしろっていうんだよ、スメルハラスメントとか無理だろ、自分じゃ自分の匂いわからないっていうのにさ。
ある日いきなりこの人スメハラですって訴えられるわけ、辛すぎるだろ。
「ブルーポットを作るから見張っていて」
「それだけ?」
「それだけ」
「ほんとに?」
「そんな顔すんなよ」
頭を撫で、頬を撫で、一度下に戻り――足にくっつき虫がついて来たが、引きずってもっていく、スライムを入れた木の器などの道具を二階へと運んだ。
俺もずっとボッチだったからクトゥーナの気持ちを少しだけでもわかってあげたいとは思う。
一人は辛いよ、随分と失敗もした。
相談する相手もいないし、指摘してくれる相手もいない。
何かあれば多数に押しつぶされそうになる。
擁護してくれる相手も、理解してくれる相手もいない。
友達を作る努力をしていないからだと言われれば、それまでだけれど。
でもさ、話しかけてもうざそうにされたら、悲しくならないだろうか。
それを繰り返されたら、今の俺ならまだしも、子供の心では耐えられないとも思うのだ。
クトゥーナは一人で心細かったのだと思う。
わけもわからず家族と引き裂かれて、わけもわからず売られて、どうなるかさえ予測のできない未来に、きっと暗闇の中にいるような錯覚さえ覚えたとも思うのだ。
そんな中で、自分の居場所を見つけた。
誰にも責められない、誰にも脅かされない、そんな居場所を見つけたら、例え少々危険であってもそこにいたいと思うだろう。例えそこに俺の香水の効果が無かったとしても。
だからクトゥーナが俺に固執する理由も、なんとなく理解はできると思うのだ。
俺はクトゥーナではないし、本当にクトゥーナがそう思っているのかは察せられない、あくまでも想像して、自身に重ねるだけ。
夜にポットを作ると隠れて怪しい事をやっていますって言っているようなものなので、昼間に堂々と作った。
扉の前にはクトゥーナがいるので、人が来たらわかる。
夜はちゃんとみんなを寝かしつけ、朝は朝食とポッド、アーサーとロレーナは狩に、爺婆は子供達の世話、ロレーナの母親マリヨンとそばかす娘は洗濯などをしてくれてありがたい。
しかしそう思う反面、マリヨンがにこにこしているのが逆に不気味だ。
夜眠っているといつの間にか枕元に来て、俺の頭を撫でている、怖くね、俺は怖い。
顔を覗き込みながら笑みを浮かべている。
俺はお前の娘ではないぞとは思うものの、当たり障りのない対応をしておく。
そばかす娘は積極的に手伝いをしている――自分の居場所を必死に作ろうと頑張っている。
その姿はとても尊いし健気だ。
う〇この事考えながらポット作る誰かとは大違いだな。
こいつが聖女でいいんじゃねとも思うのだが、時たま過呼吸を起こし痙攣するのでプレッシャーは相当なものなのだろう。
手を握って、落ち着いて呼吸するよう促し、後ろから抱きしめて包み込むようにすると安心し始める。
「貴方はここにいていいのよ」
お腹に手を回して背後から抱きしめ座ると、その手を強く掴み、固定しようとする。
「ずっとここにいていいのよ」
そう言うと、嗚咽を漏らして、俺を見上げ、俺の方を向こうと、すがりついて服を強く掴む。
「大丈夫大丈夫」
あまりにひどい時は、最悪腕を噛ませる事で安定させる。
良くはないけど、まずは安定させる事と、時間が必要だと思うのだ。
両親の死はそんな簡単に受け止められるものではないだろう。
六日目の朝、クトゥーナに数学を教える間、子供達にも数学を教える。
「いいですか? ここに一匹のスライムがいますね、これが一,そして新たにここにスライムが加わりました。はい、これでスライムはいくつになったでしょうか」
「3‼」
「3‼」
「3です‼」
「2……」
クトゥーナだけ2とぼそりと答え、子供たちは元気に3と答えた。
そして俺の前には三匹になったスライムがいた。
核と核を近づけるとスライムは増えるようだ。
分裂速度早くね。
「んーこれは参りましたね。一足す一は、通常は二が正解です。でもそうですね、三になったり四になったりもします。通常は二と答えましょうね。でもこうして三になるのは、とても良いことです。皆さんも、一足す一が、三や四になるように努力していきましょうね」
ん-良いこと言った。
ブルーポッドを朝飲むと、次の日まで元気だ。
一滴でも一日は持つ。
クトゥーナには少し多めに血を入れたポットを渡したが、不満そうにし、俺の指をずっと甘噛みしているので、足りないのだろうなと思う。
クトゥーナに与えている負荷は他の村人に比べて比較にならないほど重い。
足りない分は夜、寝る時にそっと指を傷つけてクトゥーナに飲ませる。
クトゥーナを甘えさせていると、子供達も甘えて来て、クトゥーナが顔を強張らせながら隅っこに移動してしまう。
これはあまり良くないなと思いつつ、両親を失った傷を思うとあまり無下にもできなかった。
クトゥーナを思っての事ではなく、子供達が俺に依存してしまうのは良くない。
クトゥーナが人見知りすぎるのも問題なのだが。
子供達が夜中こっそりと泣いているのを俺は知っている。
大人二人は若すぎる、甘えられてもどう対応していいのかわからずに、ぎこちない。
そのぎこちなさが緊張に繋がり、子供達に不安を与えてしまっている。
そりゃ、ぎこちなくもなるので責めるような問題じゃない、この夫婦だってこの先二人でどう生きて行くのか考えなければならない。
嫁の方が割としっかりしており、料理や掃除などをしてくれるが、旦那の方が妻が他の子にかまうのに嫉妬してしまう。
俺だって嫉妬しちゃうよ。
俺も上手にできているとは言えない。
村長とナクティスが来るまでは持たせたい。
最悪一か月、一か月は持たす、一か月して戻ってこなかったら、俺が街に行く。
アーサーとロレーナは村人十人分の食料を確保しなければならない。
鹿一頭とっても熟成させるには三日かかるし、魔物を狩ってくるにしても何匹も持ち帰れるような品物じゃない。
下手に大量の魔物の狩り、持ち帰れば、その匂いに引き寄せられた強力な魔物を村に案内することになると二人は慎重だった。
一日、一日分の食料を持って帰れれば御の字だ。
俺が狩りに行ってもいいのだが、俺が行こうとすると村人総出で止められる。
獲物だけ仕留めて回収してもらうというのも悪くはないのだが、それをしてしまっては、人々の生きようとする力を奪ってしまうような気がした。
かと言って自ら行こうとすれば、今貴方にいられなくなられたら困るとジジババに説得される。
精神的な支柱にされてしまっている可能性があり、瓦解するとそばかす娘は自殺してしまいそうだ。
さすがにそれは堪える――それだけはダメだ。
それは俺が堪える。
七日目から背に腹は代えられないので、食べられる物が書かれた本を公開して、海で子供達と食べ物を探す。
午前中。
主に砂を掘って貝類を取る――海の中には絶対に入らせない。
何がいるのかわかんねーよ、怖すぎるだろ。
海は竜だ――テリトリーを広げて刺激したくはない。
三枚貝を取る――貝の中身が二段に分かれている。
上段に内臓などがあり、下段にはよくわからないミミズみたいな器官がある。
観察していると、下段のミミズのような器官を砂の中に伸ばしている。
おそらくこのミミズのような器官が口であり、砂の中に根を張るように張り巡らせ、砂や海水と一緒に微生物などを取り込んで食べているのだろう。
本当に微生物を食べているのかは不明だが、内臓の中身を見るに、砂を取り込んでいるのは間違えない。
後は、砂エビという生き物がいる――見た目はエビというよりはワラジムシだ。
子供達と手を繋ぎ、足で砂を掘って遊びながら貝を採集していると、妻に手伝うように言われた男に、何回か悪態をつかれた。
もっと真面目にやってくれとか、そんなところだ。
ラクロスを拒否されたらしい、
自分のしたい事を拒否されたぐらいで子供みたいなこと言うなよとは思うものの、ラクロスではないが、俺にも似た経験はあるので苦笑してしまう。
拗ねているのだ。
だが次同じ事言ったらぶっ飛ばすと睨みつけてしまった。
子供達と遊びながら貝を取っているので、俺たちの回収率は少なく、クトゥーナが頑張って沢山取ってくれた。
砂抜きが必要なのだが、砂抜き方法が少し特殊だ。
ウネの根からトロミをだし、器の下段に敷いたら上から真水を入れ、貝を敷き詰める。
こうすると、三枚貝はウネのトロミに口を伸ばして吸い込み、取り込んだトロミの代わりに砂を吐き出す。
貝は取りすぎても、それを処理する器が無い。
放置すれば腐ってしまうので、処理できる分以外は海に返した。
俺の世話をしてくれた代々の方たちを普通に尊敬する。
どれだけの血が滲むような思いをし、俺の世話をしてくれたのだろうか。
昼食に発酵肉をみなで食べるが、爺婆は肉を噛み切れないらしく、発酵肉に塩をまぶして叩きミンチ状にして、熱したウネのトロミで固めて煮凝りを作り食べさせたが、ウケは良かった。
煮凝り……と言っていいのかは不明だが、コンビーフ……とも言えないか、ビーフじゃないし、ゼリーでかためたミンチ肉……煮凝り……もういいや、煮凝りで。
お昼になったら子供達とお昼寝――ジジババ含めて穏やかな時間が流れた。
子供たちが眠ったら、頑張ったクトゥーナの頭を撫で、二階へ上がりポットを作る。
夕方になるとアーサーとロレーナが帰って来て、狩ってきた肉の処理をするのでそれを手伝う――狩りから帰ってくると二人の体は汚たり、怪我をしていたりと風呂を促したり、レッドポットを塗ったりで忙しい。
女王蜂に肉を渡して、回収した肉で夕飯作り――朝食べてから何も食べていない二人のために、煮凝りとクトゥルナ汁、それから俺の血の入ったブルーポットを並べ労う。
ロレーナは帰ってくると良く喋り、アーサーがそれに相槌を打ちながら会話に混ざるので夕食時は賑やかだ。
賑やかなのでそばかす娘も嬉しそうにしているし、子供達もアーサーの話に夢中だ。アーサーやロレーナのモモの上に座って、ご飯を食べている。
一人だけ若干面白くなさそうにしている男がいるが、妻が慰めているので大丈夫だろう。
あんたにも将来子供ができるんやで。
隙あらばクトゥーナを甘やかす。
煮凝りを木のフォークで分割して上に乗せ、口元へ差し出すと、クトゥーナは俺を見、瞳孔が開き、嬉しそうになる顔を隠すような表情をしたあと、フォークにパクついた。
「美味しい?」
「……はい。美味しいえす」
「そう」
『武器を持った人間が数人近づいてくるのだ』
(そうか)
これ以上俺から奪わないでくれよ――それは村人たちの事を言っているわけではない。
(ダメそうか)
『ダメそうなのだ』
(そうか……)
『ぼくがやろうか?』
(いや、いいよ。カオスも、いい子にしてな)
賊はあれで全てではなかった――ついこないだ来ていた賊は、斥候のようなものだったのだろう、おそらく、おそらくだが、会話の内容を思い出し、斥候だけで手柄を取ろうとした結果の判断だったと思われる。
もっと上手に退けられたのではないか、会話をして平和的に解決できたのではないか、そんな後悔が脳裏を流れて、無意味だからやめろと俺に言い聞かせる。
だって俺、殺した相手と会話すらしてない。
「マ……マギ、たっタチアナ、どうかしたの?」
「ううん、どうもしないよ? 美味しいね、二人が狩りで取って来てくれたお肉、とっても美味しい。ありがとう二人とも、こうしてお腹がいっぱいになるのは、二人のおかげだわ」
善人か悪人かと問われたら、俺は善人を取らざるを得ない。
普通に考えて悪人は取らないだろう。
人を殺すたびに、何かが奪われているような気がする。
いくら俺一人が頑張ったところで……そうも思うのだ。
奴隷はクソだと言っておきながら、街中で奴隷を見たとしても、俺には何もできない。
どうにかしたいのならお金がいる――大きな組織があるのならそれに対抗する組織が必要になる、国を変えたいのなら国の中枢へと食い込み、法律を変えなければならない。
文句を言うだけで何もできはしないのだ。
それはたぶん、奴隷を買う奴よりも害悪だ。
この力を使って相手をねじ伏せて言うことを聞かせてもいいだろう、でもそれは、賊と何が違うのか、やっていることが同じなんて笑ってしまうよ。
でももし力で圧し潰そうとする相手がいるのなら、圧し潰してしまってもいいとも思ってしまうのだ。
人間は百人いれば、百通りの考えがあり、百人いれば、たった一人は人を殺したいと思う者が出てくる。
それは生物が多様に進化していく過程で与えられた可能性の多岐かによるものであると俺は思う。
魚が陸に上がったものと上がらなかったものに分かれたように。
人を殺したくないと思う者がいるのも、人を殺したいと思う者がいるのも、生物として多様化の結果だと思ってしまうのだ。
おそらくそれらは本能であり、人の意思ではどうにもならないとも……思ってしまうのだ。
そんなことは無い、そんなことは無いよな。
どうすればいい。
誰か答えてくれよ。
切り捨てろよ。
閉じこもるか。
色々な感情が入り混じってくる。
オーガを殺した時に吹っ切れたんじゃないの。
スイッチが入ったら殺すんじゃないの。
なかなか俺が煽ってくる。
金、暴力、セクーロス、異世界で願望を叶えようぜ。
ここ笑うとこ。
キレそう。
露出したケモノノ耳の中には、殺した相手の指を集めるのが趣味だという男の断末魔だけが、残っていた。
メ〇〇コのレ〇プツリーみたいでゲロ吐きそう。
そんなことを平気でする人間を、俺は恐怖して話すら拒んでいる。
まともな人間じゃないよ。
それじゃ、そんな人間を殺す俺も、まともな人間じゃないな。
ゲロ吐きそう。
人を殺さない世界はいい、すごくいいよ、でもやっぱり……動物は殺すのだろうな。
植物は殺してもいいものな。
やっぱり、俺って、まともじゃないのかな。
「明日もみんな、無事に過ごしましょうね」
笑顔でそう告げるとロレーナが抱き着いてきて、クトゥーナの顔が歪む。
七日目の夜は楽し気に通り過ぎていった。