B.O. 04(天国の利息)
*
切れた保険証。
(使えません)
鬼は冷たく、残酷だ。
亜人・キメラ。新種の誕生。
鬼でもない。ヒトでもない。
(無効です)
ナニモノでもない。バケモノですらない。
(一度でもかかわったら戻れない)
小さな白い綿に溺れたわたしは、約束をする。
(カウンセラー、微笑む)
ケセランパサラン/毒の綿毛。
しあわせの前借り/利子/代償。
天国の利息。
全身これ、粉まみれ。
(カウンセラー、次回の予約をスケジュール)
パンフレット:ワゴン乗り場・案内。
*
(立ち上がった彼女は、ちょっと恥ずかしそうに小さく手を上げ、「ハイ、皆さん」と、呼びかける。聴衆は「ハイ、アケビ」と、彼女に応える)
(アケビ、深呼吸と一拍)
契約を破棄して、今日で八〇日目です。
(拍手)
ありがとう、がんばってます。つらいけれども。
万全には遠いけれども、一歩ずつ。慌てないで。──でも、恋しいです。つらいです。
だめって分かってます。でも、つらいです。
欲しいです。夜がとくに。
ひとりでいるのはつらいです。苦しいです。
(沈黙)
罪と罰を受け入れます。
わたしは、自分で自分を貶めました。だから、がんばって、やっと他人の半分です。
(涙)
ひどく、つらいです。──たすけて。
(もちろんだ!)
ありがとう。ここへ来なかったら──きっと、この場に立てなかった。八〇日。信じられますか? 八〇日。途方もない。
わたしは負けません。今度は負けません。
信じています。どんなにつらくても、乗り越えられない試練はないって。
妖魔は、わたしにとって悪癖でした。
でも彼なしでは仕事もできない。
(唇を咬む)
どん詰まりです。たった一度の契約で。
彼らはそれを知ってて誑かす。わたしはまんまと引っかかった。でも、二度と戻らない──戻りたくない。
次の目標、十日後。またここに立って、皆さんに報告できるのが、今のわたしの目標です。
(拍手)
*
──いい話だったよ。
朱美は、わりと若い娘。
どっぷりハマって、もがいてる。
(〝ヘンプ・インプ〟は低級妖魔)
(意識喪失、保護される)
溺れまいと、踏ん張っている。
──えらいね。
少し腫れた目元と、少し赤い目をしている。
少し濁った目をしている。
素敵だ。
わりと簡単そう。
実際/簡単。
お茶に誘う。
食事で釣る。
家族は?
──いない。
友達は?
──いない。
素敵だ。
(理想の体現/パーフェクト・ガール)
食事で釣って、おしゃべりに付き合い、
(つらかったね、えらいね)
彼女をベッドに連れ込む。
(八〇と夜の孤独)
わたしは彼女が欲しい。
彼女の身体が欲しい。
釣り合うだろうか? 鏡で見る。
顔が白い。唇が青い。
彼女は赤い。
鼻も耳も、頬もおでこも唇も。
──彼女が欲しい。
(夜の孤独、水泡に帰す)
ベッドの中で/歯を立てる。
音を立てて、吸い付いて。
彼女の身体に印をつける。
(耳を舐り、腿を弄る)
(鼻で擦って、彼女を吸い込む)
君は全部、わたしのものだ。
(肌の上を指で這う)
貰えない、こんな高そうなもの。
──いいんだ。君に相応しい。
手首に手錠を巻き付ける。
腕時計。月齢カレンダー。彼女は悟る。
──全部、わたしのもの。
彼女は顔を背けて、すすり泣く。
わたしは両手で押さえつける。
まぶたにキスして、濡れた瞳を舌で舐める。
ねえ、知ってる?
涙って血の味がする。
了