表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

B.O. 04(天国の利息)


   *


 切れた保険証。


(使えません)


 鬼は冷たく、残酷だ。

 亜人・キメラ。新種の誕生。

 鬼でもない。ヒトでもない。


(無効です)


 ナニモノでもない。バケモノですらない。

(一度でもかかわったら戻れない)


 小さな白い綿に溺れたわたしは、約束をする。


(カウンセラー、微笑む)


 ケセランパサラン/毒の綿毛。

 しあわせの前借り/利子/代償。

 天国の利息。

 全身これ、粉まみれ。


(カウンセラー、次回の予約をスケジュール)


 パンフレット:ワゴン乗り場・案内。


   *


(立ち上がった彼女は、ちょっと恥ずかしそうに小さく手を上げ、「ハイ、皆さん」と、呼びかける。聴衆は「ハイ、アケビ」と、彼女に応える)


(アケビ、深呼吸と一拍)


 契約を破棄して、今日で八〇日目です。


(拍手)


 ありがとう、がんばってます。つらいけれども。


 万全には遠いけれども、一歩ずつ。慌てないで。──でも、恋しいです。つらいです。

 だめって分かってます。でも、つらいです。


 欲しいです。夜がとくに。


 ひとりでいるのはつらいです。苦しいです。


(沈黙)


 罪と罰を受け入れます。


 わたしは、自分で自分を貶めました。だから、がんばって、やっと他人(ヒト)の半分です。

(涙)

 ひどく、つらいです。──たすけて。


(もちろんだ!)


 ありがとう。ここへ来なかったら──きっと、この場に立てなかった。八〇日。信じられますか? 八〇日。途方もない。


 わたしは負けません。()()()負けません。


 信じています。どんなにつらくても、乗り越えられない試練はないって。


 妖魔(ジン)は、わたしにとって悪癖でした。

 でも彼なしでは仕事もできない。

(唇を咬む)

 どん詰まりです。たった一度の契約で。


 彼らはそれを知ってて(たぶら)かす。わたしはまんまと引っかかった。でも、二度と戻らない──戻りたくない。


 次の目標、十日後。またここに立って、皆さんに報告できるのが、今のわたしの目標です。


(拍手)


   *


 ──いい話だったよ。


 朱美(アケビ)は、わりと若い娘。

 どっぷりハマって、もがいてる。


(〝ヘンプ・インプ〟は低級妖魔)


意識喪失アウト・コールド、保護される)


 溺れまいと、踏ん張っている。


 ──えらいね。


 少し腫れた目元と、少し赤い目をしている。

 少し()()()目をしている。

 素敵だ。


 わりと簡単そう。

 実際/簡単。


 お茶に誘う。

 食事で釣る。


 家族は?

 ──いない。

 友達は?

 ──いない。


 素敵だ。

(理想の体現/パーフェクト・ガール)


 食事で釣って、おしゃべりに付き合い、

(つらかったね、えらいね)

 彼女をベッドに連れ込む。


(八〇と夜の孤独)


 わたしは彼女が欲しい。

 彼女の身体が欲しい。


 釣り合うだろうか? 鏡で見る。

 顔が白い。唇が青い。


 彼女は赤い。

 鼻も耳も、頬もおでこも唇も。


 ──彼女が欲しい。


(夜の孤独、水泡に帰す)


 ベッドの中で/歯を立てる。

 音を立てて、吸い付いて。

 彼女の身体に印をつける。


(耳を(ねぶ)り、腿を(まさぐ)る)

(鼻で擦って、彼女を吸い込む)


 君は全部、わたしのものだ。


(肌の上を指で這う)


 貰えない、こんな高そうなもの。

 ──いいんだ。君に相応しい。


 手首に手錠を巻き付ける。

 腕時計。月齢カレンダー。彼女は悟る。


 ──全部、わたしのもの。


 彼女は顔を背けて、すすり泣く。

 わたしは両手で押さえつける。


 まぶたにキスして、濡れた瞳を舌で舐める。


 ねえ、知ってる?

 涙って血の味がする。


  了

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ