B.O. 03(手切れ)
*
違法亜生物。
(ケセランパサラン)
白粉で育てて、恍惚の綿・吸い込んだ。
キヌコと出会いが、わたしを狂わす。
キララを相手に、別れを切り出す。
(恍惚の綿)
別れよう。
(視界が、ふわふわ)
ふわふわ微笑むキララが見える。
いいわ、あの子ね。
知ってたの?
知らないはずがないでしょう。
そうなのか。そうかもな。
(ふわふわ)
波のように押し寄せる後悔。
嘘。冗談。別れない。
わたしは釦を外して、襟を広げる/首を晒す。──咬んで。
咬んで吸って、好きにして。
(ふわふわ)
いいわ、別れましょう。
キララは、(わたしの)開けた襟を(白い小さな両手で)戻し、
──潮時よ。
ああ、戻せない。
(ふわふわ)
おしあわせに。
ああ、逃れない。
(ふわふわ)
時計、返すよ。
(ふわふわ)
アナタに、あげる。手切れよ。
邪魔になるほどでもないでしょう?
嫌なら売ればいいわ。
それなりになるから。
けっこう、それなりのものなのよ?
ありがとう(ふわふわ)。
どういたしまして。
楽しかった(ふわふわ)。
そうね。
嫌いにならない?(ふわふわ)
どうして?
分かんない(ふわふわ)
──もう行って。
(ふわふわ)
これから、ひとりで少し泣くから。
(ふわふわ/ずきずき)
ごめん。
謝らないで。
(ふわふわ/ずきずき)
さよなら、キララ。
ええ。さようなら。
*
キララは笑顔で送り出す/襲う/死ぬ。
わたしは一滴の血もなく捨てられた。
泣くこともできない。
自分の愚かさに臍を嚼む。
鬼を試す真似事など。
集中治療室/鬼特区。
目覚めた腕に太い針。
透明チューブ/循環する/赤の血液。
タイプB(Rh+)/BO型
厚いカーテン/暗い部屋。
キヌコが廊下側に椅子を置き、
静かに本を読んでいる。
厚くて重そう/どっしり本。
──何を読んでるの?
「風と共に去りぬ」
──面白い?
キヌコはしおりを挟んで、本を置いて、(枕元)ベッドのそばにやってきた。
「スカーレットってあばずれね」
──そうなの?
「結婚しては子供を産んで、次々捨てる」
ホラーだったか。
「ロマンスよ」
キヌコがおでこを撫でてくれた。
「もう少し、おやすみ」
まぶたの上でキスをされた。
わたしはまた、子供に振り廻されている。
──鬼は冷たい。ひどい子たち。
まどろみから闇に堕ち。
心地よい/眠り。
からの/目覚め。
退院の日。
「ヒトに戻ったのよ」
全血/全取っ換え。
(おめでとう)
ワゴンに乗るか/ワゴンになるか。
ドクター・ストップ/コールド・ゲーム。
あの子は冷たい牝狐。
狩った獲物に目もくれない。
(元気でね)
二人は鬼の子。冷たい子。
つまり/わたしは、
捨てられた。
*
血色、戻ったな。悪くない。
(売人、笑う)
きちんと食べろ。鉄分摂れ。
まだヒトには遠い。
(ふわふわ)
悪癖は絶つんだな。
何で売ったの? 売ってくれたの?
(売人、肩をすくめる)
答えて。
やめとけ。すっかり沈む前に考え直せ。
答えて。
お蔭で鬼と手が切れただろ?
(売人、せせら笑う)
あんたは感謝が足りない。
──そう。
そっくり歯を失う前に消えちまえ!
(売人、叫ぶ)
商売の邪魔だ!
わたしは売人相手に掴みかかる。
売人は病み上がりに組み敷かれる。
(この女、どうかしてるぞ!)
わたしは街から放り出される。
まったく、ほんとに、どうかしている。
鼻血・滴る/鼻の骨・折れた。
*
治療の一環:ワゴンに乗る。
主な活動:告白/懺悔。
自分語りと瀉血。
医師と看護婦/社会復帰の介護者たち。
紅茶/飲み放題。スコーン/食べ放題。ジャム/塗り放題。
薔薇風味──なし。