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創作お役立ち?

『消える書店、頑張る小さな出版社』のエッセイを書く際に調べた、中国、イギリス、ドイツ、アメリカの書店事情

作者: NOMAR


 電子書籍、大型通販に押される一方、世界を見れば書店が増える国がある。電子書籍や他のコンテンツに押されながらも紙の本が売り上げを増やし、書店が増えるところがある。


■中国


 中国では政府が『全民閲読(全国民読書)』運動に取り組んでいる。この『全民閲読(全国民読書)』運動とは、国民の教養レベルUPと、若者の本離れを防ぐべく、補助金や税制優遇で書店増を後押ししている。


 2000年から2010年には、書店の倒産ラッシュがニュースになったが、中国政府が各種サポート政策を打ち出しているのを背景に、書店は『インターネット+書店』『文化+書店』と店舗の形を変え、発展した。

 カフェを併設したオシャレな複合型書店が増え、都市部では24時間営業の書店も増加。

 農村部の古民家を改修して書店を作り、農村振興にもつながっている。都会の客を農村部に呼び込むと同時に、書店が乏しかった地域に書店を増やそうとしている。

 民宿を兼ねた書店など、ユニークな書店も増えている。


 2017年、書店の売上高は2.33%増の350億元 (1元は約16.33円)に達した。また、2018年上半期、売上高は前年同期比10.9%増(光明日報)となった。


 中国で書店ビジネスが加速している中、中国政府に習い、不動産企業も中国の大型書店開業を家賃面でバックアップ。書店に対する家賃を5年免除するなど。


 2017年11月4日、中華人民共和国公共図書館法が制定され、2018年1月1日より施行された。中国政府は、国民の精神的・文化的な生活を豊かにすること等を目的として、図書館、博物館といった公共文化施設の整備など、公共文化サービスの拡充を進めている。


 また、中国では1960年から1970年の文化大革命のときには読める本は限られていた。その頃に育ち今では大人になった人達が、自分の子や孫には良い本を与えたい、という思いがあるようだ。

 中国では『読書人』とは知識人のことを言う。指導者は知識人であり品性と教養が必要、という重圧は日本よりも強い。

 そのため読書は出世する手段でもあり、読む本が身分を決める、とまで言われる。


 モノ消費からコト消費へと移行しつつある中国では、『全民閲読』を進め多くの人が本に触れ、精神的にも豊かな暮らしを得る道を模索している。


■イギリス


 イギリスでは電子書籍やネット書店の普及も早く、その結果、シェアを奪われ多くの書店が消えた。

 しかし現在、紙の本の売り上げが上昇し個性的な書店が各地で誕生し、人気となっている。


 イギリスではNBA協定を巡り動乱の時代があった。NBA協定とは日本の再販制度に似ており『本は出版社が決めた定価で販売しなくてはならない』というもの。

 長い期間このNBA協定のもと定価販売が行われてきたが、1980年代、大手書店チェーン数社が公然と本の値引き販売を始めた。

 1997年、裁判所が取り消しの判決を行ったことによりNBA協定は廃止。書籍の価格競争が本格化することになる。


 2000年代には大手チェーンが中小独立系書店を取り込み小さな書店が減り、値引き書籍を扱う店舗の大型化へ。しかし、2010年代にはアマゾンが台頭し、大手チェーンも縮小、閉店へと追い込まれていく。


 激しい値引き競争の結果、イギリスでは世界一、本の値引き率が高い国になる。出版社による本の希望小売価格が表示されてはいるが、最終的に消費者が買う価格は、希望小売価格よりも20数%ほど低くなる。

 中には『二冊目は半額』という売り方をするところもあり販売の為の価格競争は過酷。


 イギリスでオンライン書店といえば、アマゾンがほぼ独占状態。リアル書店で実物の本を見た後にアマゾンで注文する、という買い方を選ぶ消費者がいる。この『書店のショーウインドー化』はリアル店舗では解決の難しい問題。


 そんな時代の潮流の中で、独立系中小書店は、本の品揃えを大手が扱わないニッチなもの、マイナーなものをセレクトしたり、リアル店舗ならではの個性的な品揃えで勝負する。


 そんなイギリスの新しい傾向として、『本のセレクトが良いこと』を理由にあえて独立系書店で買い物をする人が、近年増え続けている。

 店頭で実際に見ることで、魅力的な本に出会える、あるいは読むべき本であることを再発見できる、というリアルな店舗ならではの良さが、見直されている。

 ネットとは価格競争で太刀打ちできない現状の中、この期待に応えられる店だけが生き残る、更には新たにリアル店舗が誕生するという時代となった。


 街から大小の本屋さんが消えていった後、『良い書店を訪れることを楽しみたい』という読書好きなイギリス人の期待に応えるべく、新たな独立系書店が次々と誕生し、成功を収めている。


 2016年、独立系書店のリバイバルがニュースサイトに掲載。同年、独立系書店の開店が増える。

 これには2013年にアマゾンの劣悪な労働条件が批判され、脱税問題が報道されたこと。そこから実店舗の書店を愛用することが一種のステータスとなった理由もある。


 カフェ、ワインバー、子供の読書コーナーを併設し、地域性や親しみやすさを特徴とする書店が話題に登る。

 2016年上半期にはイギリスでは7800万冊の本が売れ、前年上半期より400万冊の増加。電子書籍より紙の本の売り上げが伸びている。


 世界一の本の輸出大国であるイギリス。大規模な出版社ではできないマイナーな分野で成功を納める中小出版社があるのも特徴。

 デジタル技術の進歩で開業も容易となり、新しい出版社が設立。柔軟な経営方針で急成長するところも。


 デジタル化が進み迅速な出版が可能ともなり、印刷業者、仲介業者、出版社、書店を介さずに著者から読書へと繋がる流通も行われるように。

 ブックエージェントやオンライン書店が出版社の代わりを勤める、印刷業者が直接書籍印刷の受注をする、図書館司書が大学出版社の役割を果たす、など流通に新しい多用なやり方が増えている。


 作者と読者を繋げる場所として、町の本屋さんが注目され、著者イベント、作家が地元の好きな書店を紹介する、作家が愛用する自宅の近くの書店でサイン会をするなど、本を書く作家も積極的に協力。

 

 独立系書店の努力に、出版社と著者が協力し、紙の本が売れ行きを伸ばしている。

 書店は本を買うだけの場所では無く、同好の士が集まる社交の場として、町の本屋さんはかけがえの無いもの、として復活している。


■ドイツ


 100年以上続く書籍の価格拘束(出版社が書籍の定価を決める決まり)の歴史のある国。書店の利益を守り、書籍一冊あたりの書店の利益率が40%近くあり、これは日本の約2倍。

 

 現在では紙書籍の売り上げにおいて、人口の多い日本を上回り、それをこの15年間維持し続けている。書籍販売において独自の体制を持つドイツに、世界の出版業界が注目している。


 ドイツ出版業界団体の最大の特徴は、業種ごとの組織に分かれていないこと。

 BDB、ドイツ図書流通連盟は、1825年にライプツィヒで設立。


 ドイツ国内の出版社1800社の95%、取次関係企業80社のすべて、およそ3700店の書店の90%がBDBに加入。その組織率の高さ、影響力は大きい。

 2017年にアマゾンを相手にした二つの訴訟で、BDBは勝利している。


 BDBは、書籍の流通を促進するばかりでなく、製作部門、書籍取次ぎ部門、流通販売部門を統合し、図書取引事業の利害を代表する団体。書籍見本市に書店員を育成する職業学校や専門学校の運営も行っている。


 そのドイツならではの書籍流通システム。書店に客の望む本が無いとき、18時までに注文すれば夜間配送で翌日の朝に書店に本が届く。

 100万点を越える業界共有データベースに効率化された流通システムが、24時間以内に欲しい本を書店に届ける仕組み。これによりネットショップよりも迅速に客に本を届けることができる。

 また書店は、このシステムにより売れるかどうかわからない書籍を闇雲に買い取る必要が無いため無駄もない。


 ドイツでの過去10年間の売上高をみると、2010年の約97億3400万ユーロをピークに、わずかに減少。売上高約95億ユーロを下回ったのは2014年から。2016年には持ち直して約92億8000万ユーロと前年度より回復した。2020年の売上高は、約87億ユーロと予測されている。


 ドイツでは書店員の育成に力を入れている。BDBの運営する職業学校と専門学校をはじめとして、ドイツの各州に州立の学校がある。そこでは書店員になる為の就学プログラムが組まれている。

 書店で実習生として仕事を学びながら3年間、経営、文学、政治など幅広い分野の知識を習得する。終了後、商工会議所の試験に合格すれば一人前の書店員として仕事に就くことができる。


 幅広い知識を持った書店員が顧客とのコミュニケーションをスムーズにし、顧客は的確な助言が得られること、書籍を実際に手にして試読ができることなど、通販では得られないサービスを求めてリアル書店に足を運ぶことになる。


 ドイツでは書店員に様々な相談をする。妻へのプレゼントにどの本がいいか、うちの子に読ませるにはどんな本がいいか、中には書店員とのお喋りが目的の客もいるという。


 ドイツの書店では出版社からの買い取りが主流であり、価格拘束により値段を定められていることから、書店ごとにどの本を店舗に置くかは書店が決める。

 日本と違い出版社が送りつけるのでは無い為、店舗の個性を出しつつ返品率は少ない。

 

 書籍価格拘束保護法で注目したいのは、発行日より18ヶ月以上経過した版の書籍は、価格拘束を終了することが可能と制定されている事。

 売れ行きが落ちた本や、出版から時間が経った本は、出版社の裁量で価格を下げ、廉価本としての販売が可能になる。ただし、楽譜、医学、法学などの専門書、翻訳書には適用されない。

 これは書店にとっては、買い取った書籍の売れ残りが減少し、顧客にとっては高価だった新刊書や実用書などが安く手に入る、書店と顧客の両者にとって有益なシステム。

 BDBの統計調査によると、 返品率は2005年で6,8%、2006年では7,2%。

 

 BDBという巨大組織が出版に関わる人の利益を守り、またそれを支えるドイツの国民性がドイツの本を守っている。


 しかし、ドイツでも安穏では無い。

 ドイツで創業190年の歴史を誇る業界第2位の出版取次会社、KNVが2019年2月に倒産。

 電子書籍、スマートフォンの普及に押され紙の本離れから、2006年は約5000店だった書店が約3700店へと減少。


 だが紙の本の売り上げを維持するドイツの出版業界は注目されている。

 そこには、『本の無い部屋は魂の無い身体のようなものだ』というドイツの民族性がある。BDBのような組織はドイツならではの、本とのつきあい方があるからこそ産まれたのだろう。


■アメリカ


 アメリカでは2012年2月、業界第二位の書店チェーンが倒産。オンラインショップと電子書籍の大波に飲み込まれた。二大大型チェーンの片方が倒産し、残る片方もまた閉店が続き事業を縮小している。

 アメリカに書店は必要が無くなった、ともメディアに報じられ、紙の本が無くなり電子書籍の時代が来るという予測がなされた。


 しかし、二大大型チェーンの失速する中で独立系のリアル店舗が復活しつつある。

 アマゾンの電子書籍Kindleに大手書店がシェアを奪われる中で、アマゾンと競合しない独立系書店がリバイバルした、とのこと。


 1995年、アマゾンがオンラインでの書店をスタート。1995年から書店の閉店が相次いだ。

 ところが2009年より独立系書店が増加。ABA、全米書店組合によれば2009年より2015年の間に、1651店から2227店に増えたという。


 急激に増加した電子書籍だが、ここに来て頭打ちとなったようだ。好調だったe-bookの売り上げは2016年は前年同期比マイナス13.9%(経済誌Forbs)


 全米書店組合(ABA)によれば、アメリカでは2009年から2015年の間に、独立系書店が35%も増加し、予期せぬカムバックをしている。

 紙の本には、紙の本ならではの良さがあると再認識されている。



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― 新着の感想 ―
[良い点] うんうん。 読んで良かった満足です。
[良い点] 「本が廃れているのではない」という実例を教えてくれたこと。 [気になる点] 国家支援は結局押し付けなんでしょうね。 巨大圧力団体方式も近似値かも。 [一言] こんばんは。 英米の特化型…
[一言] 他国はすごいなあ。 日本で同じことが出来る気はしませんね。 開国か敗戦かなみの事がおこらないと。
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