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風に若葉薫る、5月の午後。
昼休み、百合葉はクラスメートの留学生、ヴァイオレットに声を掛けられる。
「放課後に、お茶会?」
「ええ、私の家で。お茶が好きな方をお誘いして、何度か開いてるんです。百合葉も、どうですか?」
1年3組の教室内。ヴァイオレットの机を、お茶会の参加メンバーらしい子たちが囲んでる。
何だか、優雅な顔ぶれだ。
そのうちの一人、ふわふわお姉さんの白石結、にこっと微笑んで、
「ふふ、お菓子も焼いていくわよ。期待してくれて、いいんだから」
結の趣味は、お菓子作り。百合葉もクッキーとか、もらったことが有って……なにぶん昼休みだし、お腹が鳴ってしまう。
「それは、惹かれるわね……」
食欲で釣られそうな百合葉だけど、ヴァイオレットが一応、補足する。
「お食事だけってわけでは、ないですけどね。ほら、中間テストも近いでしょう? お勉強会も兼ねて、どうかなって」
「中間、テスト……!?」
忘れてたわけじゃない。忘れてたわけじゃないけど。
意識的に、現実から目を逸らしていた百合葉……打ちのめされる。
アイドル活動のため、特待生として菊花寮に入ってる以上、百合葉としてもプライドがある。
(勉強……そうよね。やらなくちゃね。アイドルだからって、成績悪いの仕方ないとか思われたら、悔しいし!)
勉強会を兼ねてのお茶会。行く方に、かなり気持ちが傾いている百合葉へ、
「あ、あのっ。他のクラスから来る子もいるんです。美滝さんが参加してくれたら、きっと、皆盛り上がるかなって……」
勇気を出して、お誘いしてくれる……そんな印象の彼女は、川蝉弥斗。
普段から物静かで……正直、百合葉には苦手意識があるのか、避けられてると思っていたので、
「川蝉さん……。百合葉、嬉しい……♪」
感激して、ハグしてみた。
「うん、行く! 行くよ私! 弥斗ちーと親睦深める! 深めよう!」
「み、みとちー?」
変なあだ名を付けられて、アイドルゆりりん流の距離感に、弥斗さん困惑。
ただ、後に語ったところによると、百合葉からは、とても良い匂いがしたとか。
それはもちろん、天寿の人気商品、花の薫りのシャンプーを使っているからである。
高校生には少しお高めに見える価格だけど、今なら、何と! 詰め替えパックが20%増量中で、大変お買い得。
こちらをご使用いただければ、おじさんおばさんも、誰もがアイドルの薫りになれます(感じ方には個人差が有ります)。
「あ、でも……」
百合葉思い出す。今日の放課後は、都合が悪い。
「午後から、『VS疾風』の収録有るんだった……」
「「「VS疾風の!?」」」
普段大人しめなヴァイオレットたちが、急に色めき立つ。
無理もない。「VS疾風」といえば、星花でもほとんどの生徒がチェックしている人気番組だ。
結成20周年を迎える、男性5人組の国民的アイドル、「疾風」。
その疾風と、毎回ゲストチームが様々なゲームで対戦する、木曜夜7時のバラエティ番組なのだ。
「さ、櫻木くんのサインとか! もらえるんでしょうか!?」
「ふふ、私はリーダーの中野くんがいいわー」
「松純……!」
口々に推しを挙げるクラスメートたちに、百合葉もタジタジ。
「ごめんね? さすがに疾風の皆さんは、私も畏れ多いっていうか。サインはもらえないかな」
露骨にがっかりする皆へ、
「あ、でも! 今日も、元野球の下村義紀さんと、共演するんだよ! 下村さんのサインなら、もらってこれるかも!」
「えっと、それは別にいいかな……」
「なぜだ」