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5月。新女子高生たちも、星花での日々に慣れてきた頃合。
柳橋美綺も、その一人だ。
今日は1組女子から、放課後カラオケに誘われている。
せっかくなので、まだあまり打ち解けてないクラスメートを、美綺からも誘ってみたり。
「……ん。興味無い」
いつも無口な、セミショートの眼鏡っ子、水下紫月。
いつも付けてるイヤホンを外して、美綺の声を聞いてくれたけど……残念ながら、断られた。
けれど、
「でも……誘ってくれて、ありがと」
微かに照れて、呟いてくれる。少しずつだけど、距離は縮まってる気がする。
「うん。気が向いたら、一緒に行こう?」
それぞれのペースで。皆が皆、美滝百合葉のように、グイグイ行けるわけじゃなし。
美綺もまた、自分の速度で、皆と打ち解けられたら、と思うのだった。
※ ※ ※
そして美綺と打ち解けると、独特過ぎる彼女のワールドへ飲み込まれることとなります。
「Yeah! 羯諦、羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提娑婆訶ッ、聖ッ!!」
カラオケにて、般若心経をロック調で熱唱してみる、黒髪ロング美少女。
いい汗かいて「やり遂げた!」感をだしているけれど、周りはぽかんとしているぞ?
一人ツボに入ったのか、クラスメートの小悪魔系お洒落女子、夢宮由美里がお腹抱えてる。
「あはははははは! お経選ぶだけで面白いのに! なぜロック!?」
「ふっ、これはけして、お経を冒涜してるのではないよ? 古代インドの口伝文化を、もっとリズミカルにしたらどうなるかという思考実験であって」
ふぁさっと髪をかきあげてドヤ顔。
「はー、難しいこと考えてるのね。……って他にどうコメントしろっていうの!?」
今日のカラオケを企画した、二宮楸。反応に困る。
けど由美里にウケてるし、深く考えるのを、やめた。
ちなみに般若心経は、要約すると「この世の苦しみっても人間の認識だし、深く考えなければいけるいける!」的な内容なので……美綺の般若ロックは、楸を正しい悟りへと導いたのだ! たぶん。
小さな身長の、クラスのマスコット、西條唯が、ぽやぽやとゆるい雰囲気で、
「そういえば、柳橋さん、中学はあの王華だもんね。頭いいんだ……。中間試験の勉強、教えてもらおうかな?」
その発言に、由美里が一気に盛り下がった。
「あー! 思い出させないでよー、中間とかさ!?」
由美里、美綺を見上げて、
「うー、でもマジで教えてもらおっかな。王華式勉強術とか」
「……でも、王華って、死ぬほどスパルタの学校なんでしょ?」
楸が尋ねると、美綺は遠い眼で、中学時代を回想する。
「そんなことないよ。ただ……あの学校は、何の分野でも1番以外は人権無いってだけ」
「やっぱヤバい学校じゃん!?」
ほら、由美里には向かないって……と言いながら、楸が頬を膨らませる。
「てゆーか。由美里の勉強は、私が見てあげてるでしょ。ご不満ってわけですか、そーですか」
額を指でつつくと、由美里はニヤニヤ。
「あれれー? もしかして妬いてるのかな? 私との時間が減るの、嫌だとか♪」
「ばっ……! そ、そんなこと、言ってない、でしょ……」
イチャイチャ?し出す楸と由美里。
「な、なんか、最近2人の距離が近い……。近くない?」
置いて行かれた唯が、助けを求めて美綺へ視線を送るけど。
美綺は、百合葉のことを考えていた。
(中間テストか……。勉強とアイドルなんて、両立できるんだろうか)