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∞ガールズ!  作者: 百合宮 伯爵
第1話 星くずの出会い
5/27

ゆりはのお仕事

 少し日付はさかのぼって。

 星花せいかに入学し、高校生となった百合葉だが、この日は午後の授業を休み、ラジオのお仕事。

 アイドルユニット「mizerikorudeミゼリコルデ」のメンバーとして、他2人と一緒に番組の収録だ。


 彼女たちが主題歌を歌ったゲームの、公式ラジオ。

 海賊となって仲間たちと世界を旅する、海洋冒険スマホRPG。

 その名も「Fantasyファンタジー ofオブ GrandグランドOceanオーシャン」。

 略してFGOである。


「見て見て! 『課金は家賃まで』Tシャツ着て来たよ!」


 重度プレイヤーでもある大学生の美緒奈みおなが、パーカーを脱いで、背中に「課金は家賃まで」と大書されたTシャツを見せびらかす。


「あたし、このお仕事に色々賭けてるかんな! 気合の証ってわけよ」


「ちょ、それ名前のよく似た別ゲの公式グッズ! 脱げ! 脱ぎなさい!」


 詩織しおりが慌てて脱がせに掛かる。まだ収録は始まってないけれど、これは初回から放送事故ものだ。


「やぁっ、いきなり脱げとか!? あたしの貞操狙ってんのかよー!?」


「ふふ、2人は仲良しですね。撮影しとこう!」


 番組の公式SNSに使えるかも。百合葉ゆりはは、パシャリと、「アイドル仲間の衣服をひん剥く女性声優」の図を画像に収めた。


「……大丈夫かしら、色々と」


 マネージャーの日向ひなたさんの心配も、何のその。

 いざ収録が始まってみれば、そこはプロのアイドル、美滝みたき百合葉ゆりは

 年上とはいえアイドル経験はまだまだ浅い、美緒奈と詩織の声優コンビ……その、放っておくと際限なく暴走するオタク女子のファミレストークを、ときにツッコみ、ときにスルーし、うまい具合に転がしていく。


「ふふ、杞憂だったわね」


 日向さんも一安心。アイドル百合葉は歌手の仕事がメインだが、バラエティやトーク番組の経験も豊富だ。

 つい先日も、親子ほど年の離れた元野球選手のタレント、下村しもむら義紀よしのりと共演した旅番組が、軽妙な掛け合いで好評を博したばかりだった。


(そういえば、下村選手の娘さんも星花女子だったわね)


 日向さんが取り留めもないことを考えている内に、収録は終盤に。


「「「来週も聴かないと……あなたの魂、奪っちゃうんだから♡」」」


 「mizerikorudeミゼリコルデ」の3人は、主題歌だけでなく、「主人公の魂を狙う悪魔娘3人組」の役で、ゲームにも出演している。その決め台詞で番組を締めて、


「はーい、OKでーす」


 収録は、無事終了した。


「ところで、ゆりりん。美綺みきぽんとは、もう会えた?」


 休憩していると、ふと詩織が尋ねてくる。


「それ! それなんですよ。もうっ、何でか全然会えなくて」


 昼休みに放課後と、美綺のいる1-1の教室へ、顔を出している百合葉だが。

 詩織の中学の後輩だという、柳橋やなぎはし美綺みき。彼女はいつも、タイミング悪く不在で……。


「あれ? もしかして私、避けられてる!?」


「あはは、そんなわけないじゃん。美綺ぽん、ちょっと変わってるけど、私には懐いてくれてたし。誰かを避けるような子じゃないよ」


 見て見て、と詩織がスマホの画像を開く。美綺と頬っぺた寄せ合って撮った、自撮りの写真。

 その写真に納まった、美綺の、戸惑いつつも頬を染めた表情に。


「あー……。あたし、分かっちゃったかも。その子が、ゆりりんを避けてる理由わけ


 呟いたのは美緒奈。百合葉と詩織を見て、あんたたち、片想いとか経験無さそうだしな、と軽くため息ついた。


「えー、全然分かんないよ、みおにゃん。何か察したんなら、教えてよ」


 詩織が肩を揺すると、美緒奈は、


「別に。あたしの想像ってだけ。その子のこと、知らねーもん」


 口にするつもりは無い様子。冗談めかして、


「にひひ。キスしてくれたら、教えてあげちゃおっかなー♪」


「え、みおにゃんにキスしていいの!?」


 小悪魔スマイルが失敗の元。詩織に押し倒される美緒奈。


「ちゅっ♪ ……ん、ふ。ちゅぷっ……♪」


「むぅっ!? こ、こら、しおりん!? ここはあのお店(「リトル・ガーデン」)じゃねーから!?」


 ちゅぷちゅぷと熱烈唾液交換を始める2人に、百合葉は顔を真っ赤にしながら、


「あわわ……! こ、これも撮影しとかなくちゃ!!」


 スマホで撮って「先輩たちは仲良し」なんてコメント付けて、即座にSNSに画像をアップした。


「これは……『これぐらい、強引にいけ』っていう、愛あるアドバイスね! 分かったわ。私、どんな手段を使っても柳橋さんと友達になってみせる」


 ……何だか百合葉は、変な決意をしてしまったようだ。


「どんな手段を、使ってもっ!!」



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