最終回
「「「ゆーりりーん!!」」」
コールに合わせて、くるっと一回転。
弾ける汗の煌めきは、小さな星屑。
ウインクひとつで、大入り超満員のライブ会場中が、彼女の虜。
「さあ、百合葉に、かしづかせてあげる☆」
きらきら輝く亜麻色の髪を翻し、背中の空いたステージ衣装で、クールなダンス。
可憐な唇からは、びっくりするほどの大音量シャウト。
「『♪ 限界なんて無い ボクたちは、いつだって無限大 ♪』」
ドームの天井を突き破り、日本中へ響く勢いで、自慢の歌声を轟かせれば……ほら、彼女こそは輝く恒星、宇宙の中心。
これがアイドル。
トップアイドル、美滝百合葉!
(……星だ。星が輝いている)
熱狂する観衆に揉まれながら、美綺は見惚れていた。
今、この瞬間、世界は確かに百合葉を中心に回っていて。
彼女の歌声が、存在の煌めきが、皆の胸の星をも輝かせる……ライブ会場は、ひとつの銀河!
一番星の少女。力強い歌。誰の心の壁もブチ破って、魂をビリビリ震わせる、生命の叫び。
『♪ どこまでだって飛べるよ 翼に歌を乗せて ♪』
限界なんて無い。彼女が謳うなら、信じられる。
星々を宿す眼差しには、確かに宇宙の真実が宿ってる……心は、無限大だと。
それは、いつか憧れた、宇宙の光。
柳橋美綺は、なぜだか、涙が出てきた。嬉し涙でも、もちろん悲しいのでもなく。
尊いモノに。ちっぽけな惑星を飛び越えた、壮大なスケールの何かに出会った、そんな感覚だ。
(百合葉は、すごいね)
『♪ 壁を越えて 星の果てへ 見つけにいくよ 僕だけの夢 ♪』
この日。美綺に、もう一つ。新しい夢が出来た。
※ ※ ※
赤毛のツインテールをくるくるさせて、ドームのステージで歌い踊るのは。
後世に21世紀最高、伝説のアイドルと称えられ、世界史の教科書にも載る(予定の)美緒奈様です。
「美緒奈様の可愛さに、萌え狂いなっ☆」
キラッ☆とアイドルポーズを決めれば、その天使で小悪魔な笑顔に、会場を埋め尽くすファンが、いや、全世界が魅了され、目をハートにして雄叫びを上げる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん! み・お・にゃん! み・お・にゃん……!!」
元・百合メイド喫茶の看板娘としては、歓声が野太いのが、ちょっとアレだけど!
いつか、初恋の日に夢見た妄想が、現実になって。南原美緒奈は、ちょっぴり泣いた。
「Hey! Hey! まだまだ、イケるでしょ? もっと、盛り上がっていこー!!」
合いの手を入れる、水志摩詩織。
3人の中だと普通の女の子感が強い彼女だけど、アクの強い百合葉と美緒奈を繋ぎ止める……ある意味詩織こそ、「mizerikorde」の中心かも。
ライブ中も、とにかく派手で目立つ2人の間で、バランスを取りながら。
何を求められているか。ファンが、ちゃんと楽しめているか。とことん目を配り、絶妙なタイミングで掛け声。
(変わらないんだね、詩織先輩は)
美綺にとって、中学の時の憧れのお姉さん。百合葉と引き合わせてくれた、お節介お姉さんは。
アイドルになっても変わらず、優しく楽しいお姉さんのままで。
美綺を、クスリとさせた。
そして。美滝百合葉。
凄まじい声量。凄まじい運動量でも、元気1000%体力無限。
汗でビショビショでも、何たってアイドルですので! 生命力が、スターライトのスマイルが、キラキラ、キラキラと。輝きは、いや増すばかり!
しかも天寿のボディソープを愛用してるから、汗だくでも良い匂いなのだ!!
「不死鳥、再臨ッ!!」
ユニットとしてのデビュー曲、人気ゲームの主題歌「不死鳥」を、高らかに歌う。
『♪ 折れた翼でも 飛び続けるでしょう ♪』
感極まって泣き出すファンを目に、百合葉も胸がいっぱいになる。
そう、私は不死鳥。フェニックス百合葉!
何度心が折れようと。過去の後悔に追い付かれても。振り払って、跳んでみせる。空を翔けてみせる。
トラウマが消えたわけじゃない。何かが変わったわけでもない。
過去の瑕は、これからも……百合葉が幸せを想うたびに、影を落とし続けるだろう。
(私はきっと、一生、自分を許してあげない。あの人を死なせたことを後悔して、自分を罰し続ける)
それでも、幸せを目指すことは、諦めない。罪の痛みで泣き叫びたい時は、美綺が、皆が、分かち合ってくれると……今なら、信じられるから。
ダブルアンコール。ライブのラストナンバー。万感の想いを込めて、百合葉は「∞×∞」を。
もう大丈夫。自分の歌として、堂々と歌える。
傷付いた夜、苦しみの朝を経て、結野あきらの存在も、この歌も、掛け替えのない……美滝百合葉の、半身になった。
「頑張ったね」の美綺の言葉が、気付かせてくれた。後悔が有ったからこそ、それに負けないようにと、走り続けてこられたんだ。
ぐいぐい人との距離を詰めようとするのも、あの日のような悔いを、二度と味わいたくないから。
明るく振舞うのだって……。
美滝百合葉の全ては、闇から出発した。本質は、闇にこそあるのかも、しれない。
けれど、暗闇の中でこそ、星は輝くものだから。
(届け、私の歌)
私は一等星! 星を束ね、銀河になって。闇から産まれた光になって、世界を照らす。
「そんなアイドルに、私はなるよ」
宇宙に無敵の、超銀河アイドルに。なってみせる。
『♪ 飛ぼうよ 無限大の未来へ ♪』
美緒奈と、詩織と笑い合いながら、サビを口ずさみ。
そして視線は、観客席のどこかで見守ってくれているはずの、美綺を探す。
百合葉の、百合葉にとっての、一等星を。
……何万人の中からだって、見つけられる。確かに、目が合う。
だから、百合葉は、にこっと。産まれてからでも一番の、最高のスマイルをきめて。
地球を、恋に墜とした。
※ ※ ※
こっそり、夜の旧校舎で2人。望遠鏡で、星を見上げながら、語らう。
「……すごかったね、ライブ」
「ふふん。すごいでしょ。だって私は、美滝百合葉なんだから」
「ふふ、僕も君を見ていて、新しい目標が出来たよ」
それは?と眼で問う百合葉へ。美綺も微笑んで。
「技術者とか、研究者だけでなくて。僕は、宇宙飛行士にもなる。なって、百合葉を、宇宙に連れて行きたい」
いつか、宇宙へ連れて行って。人類初、衛星軌道上から、世界へ生ライブ。
一緒に、来てくれる?と。
答えは分かり切ってるくせに、はにかみながら尋ねる、美綺の手を取って。
百合葉も瞳に、夢の星を瞬かせる。
「楽しそう! やろう、やろうよ!!」
どんな、困難な夢だって。誰もが、無理だって、笑うようなことでも。
諦めたりなんかしない。届くまで、手を伸ばし続ける。
だって、私の。僕の。可能性は無限大。
「「限界なんて、無いんだから」」
手を取り合い、額を寄せて。謳うように、誓うように、口づけた。
彼女たちは、星の彼方へ夢を馳せる者。
2人、宇宙を目指す……∞ガールズ!
-Fin-




