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∞ガールズ!  作者: 百合宮 伯爵
第3話 ∞ガールズ!
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最終回

「「「ゆーりりーん!!」」」


 コールに合わせて、くるっと一回転。

 弾ける汗の煌めきは、小さな星屑スターダスト

 ウインクひとつで、大入り超満員のライブ会場中が、彼女の虜。


「さあ、百合葉ゆりはに、かしづかせてあげる☆」


 きらきら輝く亜麻色の髪をひるがえし、背中の空いたステージ衣装で、クールなダンス。

 可憐な唇からは、びっくりするほどの大音量シャウト。


「『♪ 限界なんて無い ボクたちは、いつだって無限大 ♪』」


 ドームの天井を突き破り、日本中へ響く勢いで、自慢の歌声を轟かせれば……ほら、彼女こそは輝く恒星スター、宇宙の中心。

 これがアイドル。

 トップアイドル、美滝みたき百合葉ゆりは


(……星だ。星が輝いている)


 熱狂する観衆に揉まれながら、美綺は見惚れていた。

 今、この瞬間、世界は確かに百合葉を中心に回っていて。

 彼女の歌声が、存在の煌めきが、皆の胸の星をも輝かせる……ライブ会場は、ひとつの銀河ギャラクシー

 一番星の少女。力強い歌。誰の心の壁もブチ破って、魂をビリビリ震わせる、生命いのち叫び(シャウト)


『♪ どこまでだって飛べるよ 翼に歌を乗せて ♪』


 限界なんて無い。彼女がうたうなら、信じられる。

 星々を宿す眼差しには、確かに宇宙の真実が宿ってる……心は、無限大だと。


 それは、いつか憧れた、宇宙ソラの光。

 柳橋美綺は、なぜだか、涙が出てきた。嬉し涙でも、もちろん悲しいのでもなく。

 尊いモノに。ちっぽけな惑星ほしを飛び越えた、壮大なスケールの何かに出会った、そんな感覚だ。


(百合葉は、すごいね)


『♪ 壁を越えて 星の果てへ 見つけにいくよ 僕だけの夢 ♪』


 この日。美綺に、もう一つ。新しい夢が出来た。


 ※ ※ ※


 赤毛のツインテールをくるくるさせて、ドームのステージで歌い踊るのは。

 後世に21世紀最高、伝説のアイドルと称えられ、世界史の教科書にも載る(予定の)美緒奈みおな様です。


「美緒奈様の可愛さに、萌え狂いなっ☆」


 キラッ☆とアイドルポーズを決めれば、その天使で小悪魔な笑顔に、会場を埋め尽くすファンが、いや、全世界が魅了され、目をハートにして雄叫びを上げる。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん! み・お・にゃん! み・お・にゃん……!!」


 元・百合メイド喫茶の看板娘としては、歓声が野太いのが、ちょっとアレだけど!

 いつか、初恋の日に夢見た妄想が、現実になって。南原みなはら美緒奈は、ちょっぴり泣いた。


「Hey! Hey! まだまだ、イケるでしょ? もっと、盛り上がっていこー!!」


 合いの手を入れる、水志摩みずしま詩織しおり

 3人の中だと普通の女の子感が強い彼女だけど、アクの強い百合葉と美緒奈を繋ぎ止める……ある意味詩織こそ、「mizerikordeミゼリコルデ」の中心かも。

 ライブ中も、とにかく派手で目立つ2人の間で、バランスを取りながら。

 何を求められているか。ファンが、ちゃんと楽しめているか。とことん目を配り、絶妙なタイミングで掛け声。


(変わらないんだね、詩織先輩は)


 美綺にとって、中学の時の憧れのお姉さん。百合葉と引き合わせてくれた、お節介お姉さんは。

 アイドルになっても変わらず、優しく楽しいお姉さんのままで。

 美綺を、クスリとさせた。


 そして。美滝百合葉。

 凄まじい声量。凄まじい運動量でも、元気1000%体力無限。

 汗でビショビショでも、何たってアイドルですので! 生命力が、スターライトのスマイルが、キラキラ、キラキラと。輝きは、いや増すばかり!

 しかも天寿のボディソープを愛用してるから、汗だくでも良い匂いなのだ!!


不死鳥フェニックス再臨リヴァーイブッ!!」


 ユニットとしてのデビュー曲、人気ゲームの主題歌「不死鳥」を、高らかに歌う。


『♪ 折れた翼でも 飛び続けるでしょう ♪』


 感極まって泣き出すファンを目に、百合葉も胸がいっぱいになる。

 そう、私は不死鳥。フェニックス百合葉!

 何度心が折れようと。過去の後悔に追い付かれても。振り払って、跳んでみせる。空を翔けてみせる。


 トラウマが消えたわけじゃない。何かが変わったわけでもない。

 過去のきずは、これからも……百合葉が幸せを想うたびに、影を落とし続けるだろう。


(私はきっと、一生、自分を許してあげない。あの人を死なせたことを後悔して、自分を罰し続ける)


 それでも、幸せを目指すことは、諦めない。罪の痛みで泣き叫びたい時は、美綺が、皆が、分かち合ってくれると……今なら、信じられるから。


 ダブルアンコール。ライブのラストナンバー。万感の想いを込めて、百合葉は「(インフィニティ)×(インフィニティ)」を。

 もう大丈夫。自分の歌として、堂々と歌える。

 傷付いた夜、苦しみの朝を経て、結野あきらの存在も、この歌も、掛け替えのない……美滝百合葉の、半身になった。

 「頑張ったね」の美綺の言葉が、気付かせてくれた。後悔が有ったからこそ、それに負けないようにと、走り続けてこられたんだ。

 ぐいぐい人との距離を詰めようとするのも、あの日のような悔いを、二度と味わいたくないから。

 明るく振舞うのだって……。

 美滝百合葉の全ては、闇から出発した。本質は、闇にこそあるのかも、しれない。


 けれど、暗闇の中でこそ、星は輝くものだから。


(届け、私の歌)


 私は一等星! 星を束ね、銀河になって。闇から産まれた光になって、世界を照らす。


「そんなアイドルに、私はなるよ」


 宇宙に無敵の、超銀河アイドルに。なってみせる。


『♪ 飛ぼうよ 無限大の未来あしたへ ♪』


 美緒奈と、詩織と笑い合いながら、サビを口ずさみ。

 そして視線は、観客席のどこかで見守ってくれているはずの、美綺を探す。

 百合葉の、百合葉にとっての、一等星を。


 ……何万人の中からだって、見つけられる。確かに、目が合う。

 だから、百合葉は、にこっと。産まれてからでも一番の、最高のスマイルをきめて。

 地球を、恋に墜とした。


 ※ ※ ※


 こっそり、夜の旧校舎で2人。望遠鏡で、星を見上げながら、語らう。


「……すごかったね、ライブ」


「ふふん。すごいでしょ。だって私は、美滝百合葉なんだから」


「ふふ、僕も君を見ていて、新しい目標が出来たよ」


 それは?と眼で問う百合葉へ。美綺も微笑んで。


「技術者とか、研究者だけでなくて。僕は、宇宙飛行士にもなる。なって、百合葉を、宇宙に連れて行きたい」


 いつか、宇宙へ連れて行って。人類初、衛星軌道上から、世界へ生ライブ。

 一緒に、来てくれる?と。 

 答えは分かり切ってるくせに、はにかみながら尋ねる、美綺の手を取って。

 百合葉も瞳に、夢の星をまたたかせる。


「楽しそう! やろう、やろうよ!!」


 どんな、困難な夢だって。誰もが、無理だって、笑うようなことでも。

 諦めたりなんかしない。届くまで、手を伸ばし続ける。


 だって、私の。僕の。可能性は無限大。


「「限界なんて、無いんだから」」


 手を取り合い、額を寄せて。謳うように、誓うように、口づけた。

 彼女たちは、星の彼方へ夢を馳せる者。

 2人、宇宙ソラを目指す……(アンリミテッド)ガールズ!



-Fin-

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