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美滝百合葉、過労により倒れる。
幸い、本人はすぐに意識を取り戻したが、検査と、大事を取って数日間の入院となった。
この件で、最も不運だったのは天寿だろう。
百合葉の通う星花女子学園は、天寿の運営。
社長である伊ヶ崎波奈が理事長を務めているのは、周知の事実。
さらに、ここ最近、百合葉の仕事が天寿関係に偏っていたのは事実なので……SNS上では、「ゆりりんが倒れたのは天寿のせい」「ブラック企業天寿」など、心無い声が上がっている。
率直に言って、炎上していた。
「……頭が痛いわね」
社長室で、豊かな黒髪の頭を抱え、ため息を零す、伊ヶ崎社長。
天寿をわずか10年ほどで大企業に育て上げた、美貌の敏腕社長、多くの働く女性の憧れ……だけど、今この時ばかりは、目の下のクマを誤魔化せなかった。
「けれど、社長。美滝さんの事務所そのものは、天寿傘下というわけではありません。直接の雇い主でもないのに、我が社がこうも叩かれる理由は有りませんわ」
副社長は、天寿への誹謗に、かなり怒っている。
この炎上は、ライバル社が糸を引いているのでは、とまで疑う副社長へ、
「そうだとしても、放置はできないわ」
社長は頭を横に振る。
「美滝百合葉の健康について、私たちが監督すべき立場だったのは事実。これは、あの子に甘えてしまった、我が社の責任よ」
それに、ネットの声を甘くみるべきではないとも、伊ヶ崎社長は思う。
すでに美滝百合葉のファンの間からは、天寿製品の不買運動を呼び掛ける声も、「それはゆりりんの為にならないだろう」という反論も上がっていて、SNS上で議論が騒がしい。
あまつさえ、開催が危ぶまれている「mizerikorude」のライブにも、天寿はスポンサーの一社として、出資している……。
手をこまねいているわけには、いかない。
「……やりましょう、今夜。緊急記者会見よ」




