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∞ガールズ!  作者: 百合宮 伯爵
第3話 ∞ガールズ!
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1

 「mizerikorudeミゼリコルデ」1stライブ後の、ファンの声。


「やっぱり、ゆりりん最高ー! もう、見てるだけで元気をくれます!」


「辛いことがあっても、ゆりりんの歌を聴くと励まされるっていうか。私も、あんな風に笑顔でいたいです」


 某人気ゲームの、公式ラジオを聴いたリスナーの呟き。


「ゆりりんの笑い声元気すぎて、自分が悩んでたの忘れた。聴く栄養ドリンクだな」


 もちろん、人気アイドルだからって、好意的な意見ばかりじゃなくて。

 たとえば、映画「君の那覇」の感想コメントには、こんな声も。


「あの子の役が美滝百合葉とか、キャストミスってるだろ。大人しいキャラのはずなのに、ちっともそう見えねーもん」


 Web上のアンチスレには、


「あんなんクラスにいたら、うぜーわ。ちょっと顔が良いからってさ、自分は誰からも愛されるとか、勘違いしてるんじゃねーの?」


 なんて、書き込みも。


 結論、美滝百合葉を好きな人も、嫌いな人も、彼女へ抱く印象は変わらない。

 明るくて、前向きで。いつでも元気の塊。にこにこ笑顔で、大きな声を出し。

 ぐいぐい来る、出しゃばりなまでに押しの強い性格。

 きっと、悩みなんて無いのだろう。後悔とか、そんなのとは無縁で、1ミリも闇なんか抱えてない……。


 ……それでいい。そんな風に見られていればいい。百合葉は、そう思う。

 私は、偶像アイドルなんだから。笑顔を振りまくのが仕事。皆を元気にするのが仕事。

 辛いのとか、苦しい気持ちとか、誰にも知られなくていい。

 かげなんて、見せちゃダメ。

 ましてや、一番の持ち歌が……「∞×∞」は、本当は、あの人が歌うはずだったなんて。

 誰にも、知られないままでいい。


 これは、全部の感情を笑顔で塗り潰した、ほんとは強くなんかない、女の子のお話。


 ※ ※ ※


 6月。美滝百合葉の毎日は、充実している。

 ライブの練習に、アイドルのお仕事。高校では勉強に、美綺と一緒に色んな事もして。

 秋の星花祭の、準備委員にも立候補してみた。


 けれど、毎日が楽しければ楽しいほど。

 同じ悪夢ゆめを見る。責めるように。忘れるなと、なじるように、あの人が夢に出る。


「……ごめんなさい。生きていて、ごめんなさい。楽しくしてて、ごめんなさい」


 いつの間にか、背丈も並んでしまった、あの人の前で。

 夢で何万回も繰り返した、ごめんなさいの言葉。


 何も知らなかったの、なんて言い訳も。どうすれば許してくれますか、という問い掛けも。

 繰り返し過ぎて、擦り切れたから、もうやめた。

 替わりに、過去に、心にふたをするように、うずくまって……。


「……また、やな夢、見ちゃった」


 目覚まし時計の音に、救われた。

 菊花寮の、百合葉の部屋。

 寝汗を吸って冷えたパジャマの、嫌な感触に眉をしかめながら、ベッドから起き上がる。

 鏡に向かうと、頬が濡れているのに気付く。また、夢の中で泣いてしまった。


 ひどい顔だ、と自嘲しながら、自分に言い聞かせる。


(笑顔。笑顔よ、百合葉。私はアイドルなんだから。笑わなくちゃ)


「あ、あは。あはは。あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」


 壊れた機械みたい。何て、下手くそな笑い方だろうと、百合葉は自分の腕に、爪を食いこませた。

 うっすらと、血がにじむまで。


 

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