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∞ガールズ!  作者: 百合宮 伯爵
第2話 ∞×∞
18/27

11

 5月の放課後。屋上で感じる風は、若葉の匂い。

 さっそく百合葉が、お腹の底から大音量で、発声練習を始める。


「あー、あー、あー。あいうえ、えおあお」


 学園中に轟くような大声なので……4月のうちは、皆驚いていたけど。

 もう、生徒たちも慣れっこ。星花の日常の一部となりつつある。


 それでも……一人になりたくて屋上に来たと思しき生徒たちが、「またか……」という顔で立ち去っていくので、替わりに美綺が、心の中で詫びた。


(ごめんね。水下さんに……あっちは、2組の桶屋さんだっけ)


「ね、ほら美綺ぽんも。屋上から叫ぶの、気持ちいいよ?」


「……いや。僕はそういうの、いいよ」


 恥ずかしいし、キャラじゃないし。そう断ると、百合葉が顔を覗き込んでくる。


「えぇー? なんか暗い顔してるよ。元気にいこうよ、元気に」


 ……テスト結果が、トップでないのが、思ったより悔しいみたい。

 美綺が頬を膨らませていると、百合葉は軽やかに、くるくると回ってみせながら、フェンスのそばへ。


「……よし。じゃあ、私が美綺ぽんの分も声出して。思いっきり、歌っちゃおうかな」


 そして。音が、炸裂した。

 よく歌姫の美声を鳥にたとえるけれど。うん、まあ。美滝百合葉の場合は、爆発物だ。

 澄んだ声には違いないけれど、とにかく音量ボリューム

 脳を直接震わせるみたいな、魂をつかまえて、がっくんがっくん揺さぶってくるような、そんな歌声。


『♪ 限界なんて無い 僕たちは、いつだって無限大 ♪』


 ビリビリ轟く。アイドルの本気。

 「美滝百合葉の歌は、ライブで聞いてこそ」「CD音源では、良さが半分も伝わらない」と業界で評された、圧倒的迫力の生歌。


『♪ どこまでだって飛べるよ 翼に歌を乗せて ♪』


 百合葉の発声練習には慣れてる生徒たちも、本気の歌声は別。校庭に、生徒たちが集まってくる。

 手拍子、合いの手。いつの間にか、校舎のどこからか、軽音部だろうか、伴奏まで付き始める。


『♪ 壁を越えて 星の果てへ 見つけにいくよ 僕だけの夢 ♪』


 今のユニット「mizerikorudeミゼリコルデ」結成より前。

 まだ小学生だった百合葉が、ブレイクするきっかけとなった、代表曲。

 「(インフィニティ)×(インフィニティ)」……作曲、棚田亜紀。作詞、結野あきら。


『♪ 飛ぼうよ 無限大の未来あしたへ ♪』


 美滝百合葉のために。百合葉に歌われるために産まれたような、そんな歌詞に。

 美綺も、胸の奥が何だか燃えてくるような。

 星の瞳のアイドルと、目が合うと、釣られて、にこっと笑顔に。


「ありがとー♪」


 歌い終わると、校庭に集まった生徒たちからの拍手に、ぶんぶんと腕を振る百合葉。

 美綺の方へ、くるっと振り返って。きらきら輝く、星の笑顔で、


「どう? 貴女のためだけに、アイドルが歌ってみた感想は♪」


 茶目っ気たっぷりにウインクする百合葉に、美綺は。

 愛しさが溢れて、つい。唇が疼いて、頬を赤らめ、指で押さえてしまう。

 その反応に、百合葉も真っ赤になって、けれど拒む様子も無いので。


 頬へと指を伸ばし、そのままキスをした。


 ※ ※ ※


 そして夕方。下校のチャイムが鳴るまで、口づけを交わし合っちゃった2人。


「……もう。百合葉ってば、がっつき過ぎ」


「……ふぁ。これ、クセになるかも♪」


 いつの間にか百合葉の方が積極的になって、ちゅっちゅ、ちゅっちゅ……。

 さすがに我に返ると、お互い恥ずかしくて顔真っ赤。


「ふふ。でも、元気出たでしょ?」


 照れながら百合葉が尋ねると、美綺は長い黒髪を弄りながら、こくんと頷く。


「うん。やってみる、UFO部も。天文部だって入ってみたいし、もちろん勉強もね」


 期末では、目指せ学年1位! 目をキラキラさせる美綺に、百合葉もうんうんと。


「私も。お仕事に、部活に。ほら、もうすぐ秋の……星花祭の実行委員も募集、始まるでしょ。それもやってみたいなって」


「え、さすがに忙し過ぎない……?」


 いくらなんでも心配になる美綺へ、百合葉は腰に手を当てて。


「ふふん、私を誰だと思ってるの? 美滝百合葉よ。体力には、自信有り!」


 と、大事なことを思い出した、と。制服のポケットから、何やら取り出す。


「来月には、ドームでライブもやるのよ。はい、美綺ぽんの分のチケット♪」


 明日からは「mizerikorudeミゼリコルデ」のメンバーでライブのレッスン!なのだと。


「ほんとに忙しいんだね!?」


「……だって、何も諦めたくないから」


 強い瞳で微笑む百合葉。どんな限界にも立ち向かう、彼女はまさに、∞ガール。

 そんな彼女へ、美綺も、


(負けたくない)


 負けじと全力で輝く、星になりたい。そんな感情を抱いた。


 5月の夕暮れ。急に、百合葉が空を指さして、はしゃいだ声を出す。


「見て、一番星!」


 ……お互いに、暗い夜空の中でも見つけ合える。

 それぞれの一番星であれるように。2人は笑い合いながら、家路についていった。


《第3話へ続く》



 

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