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そして5月も下旬。高校で最初の、中間テストがやって来た。
数学の試験中。公式を解きながら、美綺は、くすりと思い出し笑いをして、誰かに聞かれただろうかと赤くなる。
思い出すのは、この前の、百合葉との勉強会。
「美綺ぽんは、天文部には入らないの?」
宇宙、星、UFO……そういったものに興味が有ると話をしたら、百合葉に尋ねられた。
「星を見るのは、好きだよ。でも、一番やりたいことからは、少しずれてるかなと思って」
今のところ美綺は、部活には入ってない。実は非公式のオカルト研究会にも誘われたが、美綺はUFOをオカルトとは別視点で捉えてるので、丁重に断った。解釈違いなのである。
「でも、100%ずれてるんじゃないでしょ? だったら天文部、有りだと思うな。一番じゃなくてもさ、やりたいのと近いこと、続けてみたら……意外と、何か見つかるかもよ」
そういうものか……と美綺が考えていると、百合葉は急に目を輝かせて、
「そうだ! いっそ作っちゃおうよ、UFO部!」
「……君、思い付きで喋ってるでしょ」
そう返すと百合葉、いつものドヤ顔で、
「ふふん。思ったことは口にするのが、私流ですので」
思い付きだと、堂々と認めてみせた。
「何だい、UFO部って。何をする部活なのさ」
美綺が聞くと、百合葉真剣に考え込む。
「そうね。美綺ぽん、UFO作りたいんだよね。じゃあ解析のためにも、1台捕まえたいところだけど……目撃情報から出現パターンを分析……トラップを作成して……」
ぶつぶつ呟いてる百合葉には、UFO捕獲したら大騒ぎだと思うという、美綺の意見も耳に入らず。
「とりあえずミニチュアから作ってみるとか。設計図引いて、おお、科学っぽい!」
とにかく、UFOにまつわることをやる部活だよ!と、百合葉は結論を出す。
「UFO部! ちょっと面白そうじゃない!? ね、美綺ぽん、やってみようよ!」
目をキラキラさせて、いつもの押しの強さで迫ってくる百合葉へ、
「……まあ、試験が終わったら、考えるよ」
長い黒髪を弄りながら美綺が応えると、
「あ、もちろん私もやるからね。そうだ、中間テストで2人、学年10位以内とかだったら先生に掛け合って、予算もらって創部しよっか!」
もうすっかりやる気になっている百合葉へ、美綺は、
「……どうして」
どうして、そんなに乗り気なのか。実は百合葉も、前からUFO好きだった?
そんな疑問をぶつけてみると。
彼女は、少し考えて。椅子に座り、脚を組んで、こちらを見上げて。
無邪気に、微笑んで見せた。
「だって私、貴女が好きだもの。2人で何かやってみたいって思うの、自然でしょう?」
百合葉が、いつも通りの屈託ない笑顔だから、
(好きって、特別な意味で……?)
それとも、深い意味はないのか。美綺には分からなくて、柄にもなく、羞じらい、顔を背けてしまう。
「……ばか」
「お? おぉ? 照れてますな、このこのー♪」
にこにこスマイルのまま、頬っぺたつんつんしてくる百合葉に、美綺は、
「……もう、知らない」
精いっぱい、素っ気なく返しながら。
自分に、こんな乙女な一面が有ったとか。
(まだ、僕も知らない自分を、発見する。うん、悪くない。悪くないよ)
新鮮な感動に、胸は満たされていた。
「……ふふっ」
そんな回想に、つい口元を綻ばせてしまうけど。
今はまだ、試験の真っ最中。集中しなくちゃ。
超名門、王華女学院中学の出身として、プライドもある。学年1位が、最低ラインだ。
気を引き締め直して、美綺は答案用紙へ、ペンを走らせた。
※ ※ ※
そして。1学期、中間テストの期間が終わり。
職員室前の廊下に、成績上位者の名前と順位が張り出される。
何と言っても皆を驚かせたのは、「10位 美滝百合葉」の名。
アイドル特待生は、勉強は出来ない。正直皆、そう思い込んでいた様子。
彼女が、特別な菊花寮にいることを、やっかむ人もいたのを、実力で黙らせた感じ。
「すごい……。ゆりりん、頭も良いんだ……」
「えへへー。私も、こんな成績、初めてだケド。超!強力な助っ人がついてくれましたので♪」
百合葉は、隣に立つ美綺を皆の前へ出す。
「何を隠そう、こちらの天才美少女、美綺ぽん大先生に、勉強見てもらったのだー♪」
その紹介で、皆から尊敬の視線を集めながら、美綺は。
「1位じゃ、なかった……!」
「うわ。めっちゃ悔しそう」
学年3位。これでも、ちっとも満足いかない結果らしい。
あからさまに落ち込む美綺の手を取り、百合葉は今日も元気に、笑顔、笑顔。
「よーし屋上行こう! おっきな声出したら、元気出るよ☆」