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∞ガールズ!  作者: 百合宮 伯爵
第2話 ∞×∞
10/27

3

 午後、お台場のTV局にて。

 百合葉は、人気番組「VS疾風(はやて)」の収録に臨んだ。

 国民的アイドルグループ「疾風はやて」の5人と、毎週ゲストたちが様々なゲームで対戦する、木曜夜7時の人気番組だ。

 百合葉も含む今日のゲストチームは、来週公開される映画の出演者たちで、宣伝も兼ねての出演。

 沖縄を舞台にした青春映画……「君の那覇なは」に、百合葉もサブヒロインで出演なのだ。


 アイドル、美滝百合葉。髪型はいつも通り、亜麻色がかった長い髪をツーサイドアップに、黒いリボンで結ってみた。

 華奢な肩を大胆に露出したノースリーブのシャツに(5月なので、思ったより寒い)、動き易いパンツスタイルでの登場で、観客席の拍手へ手を振って応える。


 さて。「VS疾風(はやて)」では、毎週疾風(はやて)チームの5人に加え、プラスワンゲストと称して、助っ人が登場する。

 今週のプラスワンゲストは……。


「どうもー。先々週に続いて、またまた来ちゃいました」


 元野球選手のタレント、下村しもむら義紀よしのり

 疾風はやてとも仲良しで、かなりの出演回数を誇る。


「いや、義紀さん出過ぎでしょ。今年何回目だよ?」


 ニュースキャスターとしてもお馴染み、解説の仕事で義紀と共演が多い、疾風はやて櫻木さくらぎくんが苦笑。

 実家が中華料理店の相場あいばくんが笑いながら、


「もう、6人目の『疾風はやて』だな」


 なんてからかうと、義紀さん照れた。


「やめてよ、うちの娘も観てるんだから。『また父ちゃん、調子に乗って』とか、怒られちゃう」


 ちなみに彼の娘は、星花女子の高等部2年生。ソフトボール部の主砲として、学園では知らぬ者のない有名人だ。


 そして、娘の後輩でもある百合葉と目が合うと、彼はにかっと笑い、


「おう、百合葉ちゃん。今日は敵同士だけど、手加減はしないぜ?」


「ふふん。そっちこそ覚悟してくださいね。ぎったんぎったんに、のしたりますんで♪」


 良い表情かおでガッ、ガッと拳を突き合わせる、体育会系……というか脳筋オーラの2人。

 少年漫画のライバル的な雰囲気と、呼べなくもないような?


 そんな2人の見せ場は、番組終盤にやって来た。

 「君の那覇」チームと疾風はやてチームは、一進一退、互角の勝負を繰り広げながら、最後のゲームへ。

 天の声(ナレーション)が、告げる。


「さあ、ここまでは、わずかに疾風はやてチームがリード。このまま逃げ切るのか? 最後は『ピッチング・スナイパー』で勝負です!」


 「ピッチング・スナイパー」。ベルトコンベアで流れてくる、高く積まれた的を、チームの皆で1球ずつボールを投げて崩す、VS疾風(はやて)お馴染みのゲームだ。

 ピッチングとなれば。当然、出演者も、観客の視線も、彼に引き寄せられる。


「かつての大打者、下村義紀。なんと甲子園の優勝投手でもあるという、輝かしい経歴の持ち主は、VS疾風(はやて)でもヒーローになれるのか。パーフェクトへの期待も高まります」


 天の声(ナレーション)にも動じることなく、ボールを握り、投球フォームをチェックする義紀氏、まさに大エースの風格。

 何かを「持ってる」、超一流芸能人のオーラで、スタジオを痺れさせる。

 ここで、彼を含む疾風はやてチームが好成績を出せば、後攻の「君の那覇」チームの番を待たずして、勝利が確定する……。


「さあ、運命の『ピッチング・スナイパー』。プレイボールッ!!」


 次々と流れてくる的を、リーダーの中野くん、松純マツジュン三宮みのみやくん……疾風はやてメンバーがナイスなピッチングで倒していく。

 そして。そして、倒せば疾風はやてチームの勝利となる、最後の的が、下村義紀の前へ。

 ごくり、と誰かが息を飲む声が、皆の耳に届くほどの、一瞬の静寂。

 豪快に振りかぶり、放った、運命の一投は……!


 大きく、すっぽ抜けて行った。


「おぃぃぃぃぃぃぃ義紀ィ!? 何やってんの!?」


 櫻木さくらぎくんのキレのあるツッコミに、首を傾げる義紀氏……。


「うーん……? キャッチボールも1年は、やってないしなぁ」


 テレビの前できっと番組を観てるだろう、娘へと呼び掛けた。涙目で。


「紀香ー! 父ちゃんとキャッチボールしようー!?」


 さて、こうなれば。

 逆転勝利の芽が出てきた「君の那覇」チームへの歓声も、ぐんぐんボルテージ急上昇。


「ふっふっふー。来てますね、持ってますね、私?」


 ドヤ顔が似合うアイドルでお馴染み、美滝百合葉。大量のゆりりんコールを浴びながら、最後にボールを投げる立ち位置へ。野球で言えばクローザー。

 細くて華奢な印象の百合葉だけど、舐めてもらっちゃ困る。激しいダンスはお手の物。

 爆裂大音量シャウトで鳴らした、体力には自信あり!

 ボールコントロールは……分からないけど、たぶん行ける!


「逆転なるか!? 「君の那覇」チームのピッチング・スナイパー、プレイボォォォールゥッ!!」


「そぉぉぉぉぉぉぃぃぃッ!!」


 全身全霊。美少女アイドルの放った、渾身の一投は……!


 びっくりするぐらい、すっぽ抜けて行った。

 あまつさえ、天井に当たって、跳ね返って、リーダーの中野くんに直撃した。


「ごめんなさぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 放送日。「ゆりりん 暴投」がSNSのトレンド入り。


 ※ ※ ※


 金曜日の朝。

 星花女子学園の校庭にて。

 だいぶ早くに登校してきた美綺みきが、欠伸を噛み殺していると。

 百合葉がキラキラ汗を流して、投球練習していた。


「そぉぉぉぉぉいッ!! ヴぉぉぉぉぉぉぉいッ!!」


「うるさッ!?」





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