姦姦蛇螺
今は有名な篝原神社の成り立ちを伝える昔話
昔々、
それは今から800年ほど前の頃の事じゃ。
常晃の國は篝原の端にとある丘があったそうな。
その丘の周辺には幾つか集落があったそうで、
村の衆たちは田畑を耕したり村同士で採れた物を交換したりしいて
仲良う暮らしとったそうな…
「いんや与兵衛どん。今朝は良い天気だっぺなぁ~。」
「おんや田吾作どん。ほんに。
こりゃあ野良作業も捗っぺなぁ~。ハッハッハ!」
そんなある日の事じゃった…
何の前触れもなく、大きな大きな蛇神が丘をねぐらにしだしたんじゃ。
その頭は大人の身の丈ほど、
その長い身体は家一軒をとぐろを巻いて覆い隠せるほどの長さじゃった…
「我が名は『ダラ』…!
かの夜刀の神の末裔である…!」
「ヒエェエ…ッ! お…御赦しを…!!」
村の衆はダラの前に集まって土下座し、
深々と頭を地面に擦って赦しを乞うた。
「おい…そこの者…面を上げよ…我を見よ…!!」
「ひッ…ひぃ…ッ お…お赦しを…ウグッ!?」
バタン!!
「よ…与兵衛どん…!?」
与兵衛は目を見開いたまま死んでおった…。
「我が紅の目を見た者は必ず死ぬ。
我から逃れようとした者は問答無用、
この目で睨んで殺して進ぜよう。
死にたくなくば言う事を聞け!
月に一度…我に生贄を捧げよ!
さもなくばこの目で…!」
「わ…分かり申した…ダラ様!
仰せの通りに致しますだで…どうか命だけは…!!」
「うむ。その言葉、断じて二言無きよう。」
そう言って丘の上へと戻って行った。
かくして村々では順繰りに、毎月生贄を捧げたそうな。
しかし村の人数は多いわけではなく
しばらくすると生贄を出すのが難しくなってきた…
村人衆は集まっては話し合いをして
なんとかならんかとアレコレ思案し合ったが
どうも良い案は思い付かなんだった…
そんなある日の事…
トンットンッ
「もし、もし…、どなたかおりませんか?」
南端の村の長老の家の戸を誰かが叩いた。
「はいはい、どなたで…?」
ガラガラッ
見るとそこには、それはそれは美しい
身なりの良い巫女様が立っておった。
「妾は『ナリヒメ』と申す。
見ての通り歩き巫女をしております。
村々を回っては手に負えぬ困り事を治めております。
何やらこの辺りから良からぬ雰囲気を感じてやってまいりました…
何やら、お困り事がお有りでしょうか…?」
「これは何と…そうた雰囲気っちゅうモンが
おめぇ様はお分かりになるんで…?」
「ええ、そういった『霊感』なる物は高うございますゆえ。
この近くを通った際に、この村の北にある丘の上から、
何やら良からぬ不穏な気配を感じましたので…」
これは天からのお恵みと、
長老様は他の村々に声を掛けて寄り合いを開いた。
村の近くを通っただけで雰囲気を察知出来るほどの強い巫女様なら
あるいはあのダラを打ち倒してくれるのではないかと、
ほとんどの物が反対する事無く
ナリヒメ様にあのダラを倒して貰う様
頼む事が決まったのじゃった。
「あい分かりました。
私も頼まれた以上、引き受けぬは巫女としての恥。
仕事は必ずやり遂げてみせましょうぞ。
無論、その分の報酬はいただきますが…」
「ええ。もちろんでございます。
村中からかき集めてもお払い致しますだで、
ご心配なさらずに…
ワシらはあのダラを倒してくれりゃあ
ソレで充分だで…。」
「念の為、妾の外法箱をお預けしておきます。
万が一蛇神が降りて来ても、この箱がお守りしてくれるでしょう。」
「へえ、それはありがてぇ。」
長老に外法箱を預けたナリヒメ様は、
丘の上へと登っていったそうな…
ドタンッ!
バタンッ!
バキバキバキッ!
ギャリギャリギャリッ!
ズダーンッ!
しばらくすると丘の上から
この世の物とは思えない大きな音が鳴り響いて来たそうな。
おそらくナリヒメ様とあのダラが
壮絶な闘いを繰り広げてる音だろうとは
想像に難くなかった…
「ッギャァアアアアアアアアーーーーッ!!!」
突然、どちらが発したかは分からぬが
丘の上から大きな叫び声が聞こえた。
そしてそれから、パッタリと物音は鳴りやんでしもうた…。
しばらくして…
ズル…ズル…ズル…
「もし…もし…、御長老殿…、もし…、」
「おお…その声は…ナリヒメ様ではねえか!?
あのダラを仕留めたのですかえ?」
ガラガラッ
戸を開けたが、そこには巫女様の姿が無い。
ふと下を見ると…
「ぎゃぁあッ!?」
「う…迂闊でした…、ご覧の…通りに御座いますれば…」
なんと、ナリヒメ様は両脚を
いや…尻よりも先を、完全に喰われて失っておったのじゃった!
血を出しながら体を這いずらせて引きずった血の跡は
まるで蛇の様じゃったそうな…。
「こっ…コレは大変じゃあ! 今すぐ…手当てを…!」
「な…なりません…お逃げください…
あの者はまだ…まだ…生きております…」
「な…なんじゃとお…まさか…ダラが…!?」
ズシーンッ!!!
バキバキバキッ!!!
ドンガラガッシャーン!!!
「ひえぇッ!?」
なんと! あのダラが自身の頭を長老の家に叩き付けて屋根を破壊し
天上からその恐ろしき大口を差し込んできたのじゃった…!
なんとも恐ろしげにこちらの様子をうかがう様に、
時折舌をチロチロ口先から出しておった。
「ぬぅ…、これ以上は臭うてかなわん!
そこな巫女めぇ…、奇妙な術を使いおって…!」
ソレはナリヒメ様が渡した外法箱の効果であった。
「…やい! そこの老いぼれよ! よく聞け!
我はかなりの深手を負った…
じゃがしかし…そこの巫女の両脚を喰ろうたところ力が湧いてきた…
きっと残りを喰えば、この傷も癒えようぞ…!
その巫女を差し出せ…!
さすれば…もう二度とこの丘の周囲の村は襲わん…
いや…この丘から出て行ってやろう…。
…もう日が暮れる…。明日の夜明けまで待ってやろう…。
それまでに…決めるが良い…。」
ズルッ…ズルッ…
そう言ってダラは去って行った…。
「な…なりません…長老様…あやつのいう事なぞ…
真に受けては…なりません…。」
息も絶え絶えのナリヒメ様のいう事は、
もはや長老様の耳には届かなんだ…。
「ぎゃぁああああああああああああッ!!!」
「すまん…すまんのぉ…!」
「お赦し下され巫女様…! お赦しを…!」
「こうするしか他に道はないんじゃあ!」
「それっ…今じゃあ…!」
ジギンッ!
「っぎゃあぁあああああああああああああッ!!!」
村人の内男手の力持ちの者が5人がかりでその身体を押え付け、
村一番の力持ちが手に大斧を振りかざし、
ナリヒメ様の腕を切り落とした!
ダラに喰わせる際に抵抗しては困るだろうと
配慮しての結果であった…。
「おのれぇ…赦さん…ッ赦さんぞぉ…ッ!!
村の者どもめぇ…!!
例え死しても化けて出てやる…ッ!!
出て欲しくなくば…今すぐ離せぇ…!!」
ナリヒメ様の必死の抵抗もむなしく、
朝には村のはずれの丘の麓に、
ご丁寧に切り落とした腕と共に
ダラ様に巫女様を捧げる為の祭壇が作られ、
そこにもはや息もするのがやっとのナリヒメ様が
供えられたそうな。
そして
「っぎゃああぁあああああああああああああッ!!!」
そのままダラは丘の上に帰って行った…。
これで村々には安泰が訪れるだろう…。
そう思った矢先…
バァン!!!
突然丘の上の方から、大きな破裂音の様な音が鳴り響いた!
しばらくすると…
ズル…ッズル…ッ
丘の上から…ダラの這いずるような音が聞こえてきました…そして…
「怨み晴らさでおくべきか…怨み晴らさでおくべきかぁ…!」
その声はまさしく、かのナリヒメ様のものでした。
「ま…まさか…!?」
ガラガラッ!
戸を開けて様子を見に行ったのは村の男衆が一人、
あのナリヒメを押え付けていた男の一人、田吾作でした。
「ぎゃあぁああッ!?」
バタンッ!
田吾作は目を見開いて息絶えました…
そこには…
ズルッ…ズルッ…ズルッ…
あのナリヒメ様とは思えない…恐ろしい姿…
失くした脚の代わりにダラの首から下を…。
腕の無いその姿は…まさしく大蛇の如く…。
しかしその目は…かのダラの如く紅く…紅く…
その目を見た者は…必ず死する目…!
「怨み晴らさでおくべきかぁ…怨み晴らさで…おくべきかぁ…!
村の者は全員殺す…!
妾を見ていて助けなかった者も…全員殺す…!
他の村の者も同罪…全員殺す…!
特に…妾の腕を切った者達は…全員嬲り殺して…八つ裂きにしてやる…!!!
殺す…殺す…殺す…!!!
怨み晴らさでおくべきかぁ…怨み晴らさでおくべきかぁ…怨み晴らさでおくべきかぁ…!!!」
その日を境に、
村々に安息の日々は消え失せたそうな…
ナリヒメ…否、ナリダラとなったあの者に見つかれば
問答無用で殺された。
逃げようとしてもその紅い目で即死となり、
酷い時には八つ裂きにされた…。
殺した相手の腕で気に入ったモノあると、
ナリダラは引きちぎってそれを自分の腕に挿げていった。
かくして最終的には、ナリダラの腕は両肩から3対、
6本の腕が生えた姿となった…。
あの長老の家には、元巫女が残した外道箱があり、
そのせいでか、ナリダラはその家にだけは寄り付かなかった。
親たちを亡くした子供たちがたった4人ばかり。長老と共に息を潜めて、
いつ終わるとも知れぬ恐怖の日々を送っていたそうな…。
そんなある日の事…
ピーヒョロロロー…ピィイーヒョロロロー…
「…ふむ、もう日も暮れるのぉ…。
この辺りの村で、一晩泊めてもらうとするか。」
ある一人のみすぼらしい坊様が、村の近くへとやってまいりました。
「おや…、これは一体…どういう事じゃ…?」
見ると村は荒れ放題。
家々は崩れ、田畑は手入れもされず荒れ放題。
橋は直されず酷い有様でした。
たった一軒だけを除いては…。
「ほう…、あの家だけは無事な様じゃ。どれ…あそこに…。」
ガラガラッ
わぁっ…!
戸を開けると、そこには子供達ばかりが4人ほど、
何かを囲んでわんわんと泣いておりました。
「これ、童子達や。一体何をしておるんじゃ?」
「おじいちゃーん!」
「おじいちゃんが…死んじゃったのぉー!」
「あぁーん! あぁーん!」
「うわーん!」
「おぉ…、これはこれは…南無阿弥陀仏…南無阿弥陀仏…」
坊様はお年を召してましたが、子供達と一緒に
死んだ爺様を埋める穴を掘って、墓をこさえ、念仏を唱えて供養しました。
「この村は一体どうしたのじゃ…?
見たところこの爺様以外大人が見当たらぬようじゃが…、
それにこの村の荒れ様…。ただ事とは思えぬ…。」
子供達は泣きながら、今まであった事を坊様に話した。
ダラが来た事。ナリヒメが来てダラと闘った事。
ナリヒメを生贄に捧げた事…、
ナリヒメがナリダラとなって、怨念の復讐を今も続けている事…。
そのせいで4人の両親も死んだ事も…。
「…ふむ、こりゃあ、なんとかせねばならんのぉ…。」
「ダメだよ坊様! かないっこないよ!」
「あのナリダラは元巫女だ! 力が強いんだ!」
「この家だけは…あの箱があって襲われなかったけんど…」
そう言って子供の一人は、あの外道箱を指さした。
「ほう…、あの箱…、どうじゃろう、あの箱の中身、
ワシに改めさせてはくれんかのう?」
「うん…いいよ…。」
坊様はその外道箱に一掌すると、箱の中身を改めた。
中には鹿陦大明神と香秉大明神の神像が入っておった。
「ふむ…、なるほど…。」
「…これ、信海に信洋や! いるんじゃろう!? 出てきなさい!」
突然、坊さんが外に向かって叫んだ!
すると…
ガラガラッ
「へい、上人様。」
「お呼びでございましょうか?」
七、八尺はあろうかという大入道が2人。
2人とも錫杖を鳴らしながら、
戸の外から屈んで中へと入って来ました。
ソレを見て泣き出す子もおったそうな。
「あ~これこれ、すまなんだな驚かせてしもうたようで…
この2人はわが弟子の信海に信洋と申す者でな…、
これ、2人とも、外の様子は見たであろう。」
「ええ、見ました。」
「先程の話しも全て聞き申した。」
「ならば今まで何をやっておったのじゃ。こんな有様になるまで。」
「これは上人様、これには深いワケが…」
「我ら2人にも数多事情があり申して…」
「…まあなってしまったものは仕方がない。
これよりこの村をなんとかせねばならん。
いつまでもそのナリダラとやらを放ってはおけぬ故、
力を貸して欲しいのじゃが…」
「ええ、もちろんでございますれば。」
「不肖ながらお力になりましょうぞ。」
「よろしい…では早速…!」
かくしてその坊様は、もう日も落ちて暗くなった丘の上へと
2人の弟子の大入道を連れて参ったのでした。
闇夜の方がナリダラの目の効果も薄いと判断しての行動でございます。
坊様はあらかじめ目隠しをしてナリダラの目を見てしまわないようにし、
それを入道の一人が負ぶって登りました。
もう一人は松明を手に登りました。
しばらく登って行くと案の定…
「…ううう、誰じゃ…妾の丘を踏み荒らす者は…?!
臭い…臭いぞ…!? 何の臭いじゃ…!?
殺してやる…! 殺してやる…!」
「むむっ…出でおったな蛇女め!
いざ成敗してくれようぞ!」
ビュンッ!
ザンッ!
錫杖を振り回し
その音と共に辺りを祓うと入道は目を瞑った!
「くぅ…目を瞑っても無駄じゃ…!
八つ裂きにしてくれる…!
貴様を殺した後は…残る二人も…!」
グヮンッ!
ギャンッ!
バタンッ!
キューッ!
なんとも鮮やかな身のこなし!
大入道とは思えぬ俊敏な動きで躱すと、
錫杖で一撃…二撃…!
「ぎゃん!?」
ズザッ
「なんじゃ…貴様は…!? 何をした…!?」
入道…質問に答えず、ただニヤリ。
「…この…小癪なぁ…!!!」
ジャンッ!
ゴロゴロドーン!!!
「かはっ!?」
入道がナリダラに一瞬触れたかと思った錫杖より
青い閃光と共に雷豪がその蛇身を駆け抜けた!
ナリダラはあえなく口から煙を吐いて気絶してしもうた。
「はっ!?」
ナリダラが気付くと六臂は縛られ目隠しをされておった。
蛇尾も木に巻き付けられて縛り付けられ
身動きが取れんようにされておった。
「おのれ坊主め! 今すぐ放せ!
殺してやる! 殺してやる! 殺して…!」
「おのれ蛇女め! 上人様に向かって何という口の訊き様…!」
ガッと頭を掴み、地面へと突っ伏させた。
「くそぉ…! 放せ…! 放せぇ…!」
「これこれ信海や、乱暴はおよしなさい。
今すぐその手を放して差し上げなさいな。」
「はっ! 上人様!」
信海と呼ばれた大入道は手を放し、
坊様にその場をお譲りになったそうな。
「おのれぇ…、老いぼれそうな坊主めぇ…!
今すぐ放せぇ…! この死にぞこないがぁ…!」
「これこれ、そう気を張るでない…落ち着きなされ。
…このような話しを知っておりますかな?
昔々、お主の様なそれはそれは手の付けられない
暴れん坊がおったそうな…、しかし…」
その後、坊様のありがたい説法は夜が明けるまで続いたそうな。
最初の頃は暴れてあまり耳を貸さなかったナリダラも、
次第に説法に耳を傾けるようになり…
しまいには、涙を流して熱心に御説法を聞きなさったそうじゃ。
おかげで目隠しは涙を吸ってズシリと重くなり、
いつのまにか縄のほどけた腕で、合掌をしていたそうな。
「おぉ…、妾は…なんと…今まで非道い事を…
しでかしておったのでしょう…!
おいおいおい…、おーいおいおいおい…。」
「まあまあ。貴方のお怒りもごもっともでしょう。
酷い事をされて怒り狂うのは当然です。
さぞ辛かった、苦しかった事でしょう…。」
「おぉ…、なんとありがたきお言葉…。
うぅう…うぉんうぉんうぉん…!」
「…ですが人を多く殺めてしまったのも事実。
今からでも遅くはありません。
生き残った者に頭を下げて、心より詫びるのです。」
「…はい。そう致しましょう…。」
こうして坊様とナリダラは、
両脇に入道達を引き連れて丘を下り、
子供達の残った南端の集落までやって参ったのでした。
そして子供たちの前で深く頭を下げ、
今までしてきた所業を深く、深く詫びたのでございました。
「…本当は石を投げてやりてぇとこだが、
投げたところで誰も戻らん…。」
「それにこうた必死に謝っておる者を傷付けるのは
なんとも可哀想じゃあ…。」
「おぉ…、じゃがしかし…それでは妾の気が収まらぬ…。
今まで犯してしまった所業…、
なんとして償えば良いのやら…。」
「おうおう、それならば我らが。」
「この者を一から鍛えて進ぜよう。」
大入道2人がググイと前に出て、ナリダラを挟むようにお立ちなさった。
「上人様。この者には仏性がある。」
「そうじゃ。我らの下で鍛えれば、あるいは善き者になるやも知れぬ。」
「この者を預かり、一から鍛え直してみせようぞ!」
「上人様! それで宜しゅう御座いますか!?」
坊様は、うむ。それが良いじゃろうと頷かれたそうな。
すると…
ヒュンッ!
突然あの大きな入道2人がナリダラの腕を掴んだかと思うと、
忽然と姿を消してしまった…!
驚いた子供達は、キョロキョロと辺りを見回したそうな。
「安心せい、あの者達はワシの弟子が内の者でな…
名を『釈信海』と『釈信洋』と申すが…
元はかの『鹿陦大明神』と『香秉大明神』なのじゃ。
…あやつらには時折こちらに赴いて
そなたたちの面倒を見るように言っておく故、
…あの外道箱の中の神像に、困った時は声を掛けなさい。
さっすればすぐさま2人が駆け付けるよう、2人には言っておく故。
…あとは近くの村から少し人を呼ぼう。
お主ら子供ばかり4人では、生きてゆくのは難しかろうに。」
そう言って坊様は、近くの村から人を何人か呼び寄せ、
子供共を養ってくれるよう頼み、
壊れたあれやこれやを直す手伝いを色々と手伝うた後、
何処へともなく去って行ってしまったそうな…。
その後村は、時折かの大入道達が助けに来る事もあってか
それなりに建て直したそうな。
あの子供達もすっかり大人となり、
妻や夫を持ち子供も幾人か生まれた…
そんなある日の事…。
ズルッ…ズルッ…ズルッ…
村の外から、
なんと…金色に輝く鱗の長い胴…、
蛇身というよりは龍身。
そして大変身なりの良い、
聡明そうで大変美人な女が
やって参ったのでございました…。
その荘厳なお姿は、
かつてのあのナリダラの恐ろしい姿とは
とても思えぬいで立ちでございました。
「おぉお…これは…これは…、」
「なんとも素ん晴らしい…美しいお方じゃ…!」
村の者はその姿に、
野良作業も中断して全員集まって参りました。
スッ
「この度は…大変申し訳ありませんでした。」
すると、ナリダラ…、
いえ、もといナリヒメ様は、
深々と首を垂れて地に頭を付け、土下座したのでございます。
「おお…なんと…!?」
「とんでもねぇ…頭をお上げくなんしょ…!」
「いいえ…、妾が数十年前に犯した罪は、
このような事で償えるものではありませんが…
犯してしまった事はしまった事。
きちんと詫びる事がまずはスジというもの…!」
こうして村人達の言葉を退け、
ナリヒメ様はしばらくの間土下座して詫びたのでございました。
そして頭をお上げになると…
「妾がこうして参じたのは他でもありませぬ。
犯した罪を償うべく、ここを鎮護し、繁栄させる為でございます。
妾は人を多く殺しました。
ゆえにその何倍もの人がこの地に生まれ育ち、住まい、
争いや諍い無きよう…誠心誠意に守護して参る所存にございます。
妾はあの丘の上からこの地を見渡し、
妾に手を合わせる者は全てその願いを聞き入れましょうぞ。
戦乱を退け災いを遠ざけ、病苦を打ち倒しましょうぞ。
それが妾に出来る…最大限の償いにございます。
この篝原の地を…豊かな土地に必ずや致しましょうぞ。」
こうしてナリヒメ様は、丘の上に立派なお社を建てられ
そこに住まい、この地を鎮護するようになったそうじゃ。
また、
丘の東側には香秉大明神様のお社を、
西側には鹿陦大明神様のお社を建てて、
同じく村を救って下すった事を感謝し、
ナリヒメ様と共に篤く祀ったそうじゃ。
今ではこのお社は、
『篝原大明神様』と呼ばれ
今も賑わっておるそうな。
めでたしめでたし。