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「御客人」様

「御客人」様、二度目まして。

作者:

 ふと、外の様子が気になった。



 虫の知らせと言う訳ではないけど、なんとなく畑の方が気になったので、宿題を終えた勢いで畑に向かった俺は、勘が当たった事を知った。


「どういう、事だ…………」


 そう呟いたまま呆然としている(どこかで見た気がする)青年?の視界に入りそうな位置へ、そっと移動する。

 俺の姿に気付いた青年は、訝しげな顔つきで警戒していたが、すぐに何かに気付いた様な表情をし、そして驚愕に目を見開き、口をぱっかり開けていた。

 いっそがしい表情筋だなぁと、いっそ吹き出しそうになりながらも、手を振りつつ青年に近づこう……とした所で、青年の傍で警戒している青年2号に睨まれて足を止めた。


 それに気付いた青年がもう一人の青年に顔を向ける。「やめろ」「しかし」と言ったやり取りを……結構長い間した後、絶賛放置中の俺に向かい直した。

 ちなみに、その間に目に付いた支柱の緩みを直していたのは許して欲しい。だって手持無沙汰だったし。


「すまない。待たせたな」

「んーん、いいよ。えーと、間違ってたらゴメン。『オージのにーちゃん』で合ってる?」

「ふふ……。あぁ懐かしいな。私をそう呼ぶ君は、やはりあの子供で合ってたのか。2年の間に随分成長しているから驚いたよ」

「あー……。えっとね、今『2年』って言ったけど、前回『オージのにーちゃん』が帰って・・・から、もうこっちじゃ5年くらい経ってんだ」

「え!?ご、5年だって!?…………あぁ、いや、そうか。そうだなそういう事もあるのだな。……ふっ、やはり此処は不思議な場所だ」


 なんか楽しそうに笑う『にーちゃん』は、前回よりも柔らかい雰囲気を纏った様子で笑っていた。

 んで、今度は俺に代わって絶賛放置中だったもう一人の青年は、そんな様子を戸惑った様に見ていた。この一歩引いてる感じって、何か執事とかお付の人って感じがするなー。

 さて、村民の説明責任ってヤツを果たそうかな。



 山間に位置するこの村は、とある不思議な現象が起こる。

 一言で言えば「異世界の住人が訪れる」って事だ。

 数多あまたあるらしい異世界から、何がきっかけかは分かんないけど突発的に客が来る。その客を「御客人おきゃくじん」と呼んで、帰れるその日まで村民が預かるんだ。

 基本的には、現れた敷地の持ち主一家が世話をする。なんかの法則があるのかは知らないけど、特に問題ありそうな組合せがあったと聞いたことはない。例えば、体力の少ない人の家に、もの凄い運動が必要な「御客人」が来たとかね。

 それからえーと食べ物。農作物なんかは客が何人か来た所で揺らぐような出来具合じゃないから、食料の心配はないし、水なんかも村内で湧く分で賄えるし、その辺も問題なし。あと村の各家は大きめで部屋数も余り気味だから、寝る場所も問題なし。流石に着る物はサイズがあるから、全て対応できるかは怪しいけど、まぁうちの村内なら浴衣という必殺アイテムがあるから大丈夫っと。

 えーと、基本説明はこんな所かな?


 んで、そこでにこにこ頷いてる『にーちゃん』は、こっちだと5年位前に一回来てるの。その時は……えーと1週間、あ、じゃなくて7日から10日くらい滞在だったかな。


 うんうんと頷く『にーちゃん』は置いといて、もう一人の青年さんは疑わしいと顔に書いてある様に、でも一応俺の話を黙って聞いてくれた。

 説明が済んだ後、青年さんは『にーちゃん』の方をちらっと見てから口を開いた。


「……何から聞いていいか迷うが、その「オキャクジン」と言うシステムについては理解はした。君が我々に危害を加えるつもりがないのも……まぁ、そうなんだろう。が、その話が全て真実なら、君たちはいいのか?全く身元不明な者を家に入れる事に躊躇はないのか?」


 あーこの人も「イイヒト」だなー。しかも結構イケメンだし。あれなんだろう異世界って割とイケメン率高い?

 やばい、今更だけどイケメンでイイヒトって、うちの親の「息子にしたい」魂が炸裂しそう。とりあえず、人見知りしないくせに、意外と的確に人を見る下の弟6才は懐く。すぐ懐く。間違いない決定。そう言えば実は『にーちゃん』が来た時は水疱瘡で入院中だったから、来た事も知らないんだよなー。いや覚えてないか1才だと。


「多分、息子が増えたーって喜ぶと思う」


 なんか色々考えながら答えた言葉に、『にーちゃん』は笑い出し、青年さんは信じられないものを見るような表情をした。

 ま、とりあえず、うち来れば分かるよ。うん。


*****


 そんなこんなで帰宅。


「ただいまー。『御客人』さんだよー」


 俺の帰宅の言葉に対する、その反応は凄まじかった。

 まず弟達(12才と6才)が飛び出て来た。続いて出て来た母さんが『オージのにーちゃん』の顔を見て驚きの声を上げていた。

 そして5年前と今回の訪問について、お礼とかお詫びを言う『にーちゃん』に、感動したように「あらあらまあまあ」と言い続けている。その合間に青年さんにも挨拶したり、リビングに案内したりしてるのだから、母親スキルは伊達じゃない。

 えーと5年前だと、上の弟は7歳だから記憶にあるのかな、と思ったら薄らと覚えていたらしい。でもその時の印象は「ばーちゃんが怖かった」事が一番にあるみたいで、実は本人に対する記憶はあんまりない様子。

 そして下の弟は、案の定二人にすぐ懐いた。もうにこにこして自己紹介と、部屋への案内を買って出ている。小さい子の相手は苦手じゃないかと心配したが、なんだか二人とも嬉しそうに相手をしてくれてるので、もう少し様子見しよう。


 滞在中の部屋が決まり、案内した弟は「おちゃー」と言いながら出て行った。多分お茶を運んで来るつもりだろう。


「えーと弟がゴメン。お茶を持って来たら一旦出るから、ちょっと二人で話した方がいいよな?あ、今更だけど言葉使い改めた方がいい?」

「ぶっ、ふふ、いやそれこそ今更だろう。そのままでいい。しかも前回世話になった時は、私はどうしようもない『我儘な子供』だった」

「……殿下、2年前とはやはり」

「ふふふ、うん、そうだな。お前には話しておこうか。あぁ、君も此処にいてくれ」


 そうそれは『にーちゃん』の、いわゆる黒歴史だろう。

 初めて訪問した5年前に、自ら『高貴なる王族の中で、更に直系の王子』と公言し、我が家と畑とそして住民を散々けなしまくった。その上で「世話をさせてやる」と言い放ったものだからさぁ大変。


 我が家には最恐の祖母が存在した。

 最強じゃない、最恐だ。

 

 うちの祖母ちゃんは見た目小柄で、なんて言うか力とかは見るからになさそうなんだけど、何か有無を言わさぬオーラを持ってる感じ。その祖母ちゃんに、正座&説教コンボを食らうともう最後。我が家の誰も勝てた試しが無い。

 実際『にーちゃん』が強気に出れたのは最初の30分くらいだった……気がする。最後は号泣される程に容赦のない祖母ちゃんを見て、生き物には「逆らってはいけない存在」があるのだと本能に刻んだ記憶がある。…………夢に見ませんように。

 そんな過去を話しているのに、『にーちゃん』はどうしてか嬉しそう……いや楽しそう?だ。


「あの10日間でまず理解したのは、作物にどれだけ手がかかっているかだったな。それだけじゃない、料理も衣装も、全てに誰かの手が関わっているんだ。私がどれだけ恵まれた立場にいるか理解した……いや、理解する事が出来た。そしてその立場に在るならば、責任を果たさねばならないと理解出来たのは、こちらを去ってからだった」


 青年さんは『にーちゃん』の話を黙って聞いていた。時折頷きながら、真面目な顔でずっと。


「寝ぼけた頭が働くようになって、色々後悔も恥じたりもしたが、何よりも恥じたのはこちらにきちんとお礼も言えず去った事だった。わが国で、過去の自分の行いを謝り、やり直すならば機会もあった。だが、こちらには二度と来れないかもしれない。一生お礼もお詫びも言えない事が、酷く恥ずかしく……恐ろしかった」


 話が一区切りしたところで、ふと『にーちゃん』がこっちを向いた。


「そうだ。一番お会いしたいと思っていたのに、まだお会い出来ていなかったな。祖母君はどちらに?」

「あぁ祖母ちゃんは……えーっと」


 ちょっと言葉に詰まった俺を見て、『にーちゃん』と青年さんの表情が硬くなる。


「まさか……。折角来れたのに……私は、遅すぎたのか……?」

「殿下…………」


 えっと、うん、すみませんごめんなさい。違うんです。生きてます。超元気です。もしかしたら我が家で一番元気です。ただちょっと言葉に詰まったのは、全く違う理由なんです。

 だって祖母ちゃん。



 イマ アナタノ ウシロニ イルノ



 やばい超怖い。

 あっ!祖母ちゃんの手が『にーちゃん』達の肩に……乗った!そうだよね驚くよね。そりゃ大の男も悲鳴を上げるよね。

 実は祖母ちゃんと一緒にお茶を持って来ていた弟は、この騒ぎの間にそっと俺の後ろに隠れている。


「人を勝手にくたばらせないでおくれ。物事ってのはきちんと最後の言葉まで確認するべきだよ。……あぁ見違えるようだね。<男子三日会わざれば>とはよく言ったもんだ」

「ごめんなさい『にーちゃん』。言うタイミングがわかんなかった」


 なんか俺の思わせぶりな態度で凄く驚かせちゃったみたいだけど、祖母ちゃんに気付いた『にーちゃん』が喜んで許してくれてよかった。いや本当にごめんなさい。

 祖母ちゃんに改めて謝って、そんですんごいお礼を言ってる『にーちゃん』と青年さん。うん、ちょっと申し訳ないけど、なんか嬉しそうで良かった。


 でも祖母ちゃん、『にーちゃん』になに吹き込んだの。

 「シンゲンコウの言葉は胸に響いた」とか「いずれ私もコウモンサマのように」とか言ってんだけど。

 ……まぁ、いいか。よし、この場は祖母ちゃんに任せて、風呂掃除に行こうそうしよう。

 えーっとお詫びに明日の夕飯は、たしか前回『にーちゃん』が気に入ってた「豚の角煮」を作ってもらうように母さんに頼もうかな。

 そして今夜は弟を巻き込んで一緒に寝よう。なんか怖い夢を見そうな気がする。

 やっぱ祖母ちゃん最恐でした。

御読み頂き、誠にありがとうございます。

その後とか二度目、なんてあってもいいかなと思い書きました。

そしてやっぱり名前が思いつきませんでした……。

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