Chapter4. Teller : Koya Mochizuki
これから、西園寺への聞き取り調査が行われる。
普通は失せ物の捜索でそんなことはしないが、そともそも探偵部が扱うのは普通の案件じゃない。
さっきの報告で、萌絵は何かを隠して報告した。
きっと、真相に近づく情報を得たんだろう。
それは今回の依頼の根幹に関わるような、大きなもの。
だからあいつはわざわざ隠したんだ。
コンコン――
先日のようにノックの音が部室に響く。
「ん、西園寺さんが来たみたいだね」
萌絵が何に気付いたのかはわからないが、聞き取りによって裏付けをするという考えには同意できる。
俺の読心術で、その手助けをしてやろう。
そんなことを考えてるうちに西園寺が席に着く。
部室の机は長机を二つ並べてあって、片方には萌絵と葵生、もう片方にはリーダーと俺が座る。
今日みたいな聞き取りの時は、その人には長机の短い辺の方(俗にいう"お誕生日席"や"議長席")に座ってもらう。
「聞き取りとはいっても警察がやるような取り調べみたいな感じじゃなくて、ただ依頼のために話を聞かせていただくだけなので、リラックスしていただいて結構ですよ」
リーダーが柔らかい態度で話す。(どうしても目つきは悪い)
あまり緊張されると心の動きを読みづらいので、いつも最初に伝えるように頼んでいる。
「分かりました。でも、ぬいぐるみを探すだけなのに聞くことなんてあるんですか?」
「ありますよ、ありまくりですよ~。まぁ、ゆっくり聞いていくんで大丈夫ですっ」
萌絵が軽い調子で話す。
いつも思うが、先輩相手でも態度が変わらないのって凄いよな。
普通はビビっちまうが、さすがは探偵部。
俺も負けてられねぇな。
「じゃあ始めますね… えっと、ぬいぐるみは彼女さんからのプレゼントってことですが、もうお付き合いして長いんですか?」
「いえ、付き合い始めたのは二年生に上がった時なので、まだ二か月くらいです」
「なるほどなるほど… ご友人から反応はありました?」
「最初は隠してたんですけど、彼女が話してしまったんですよ……」
「なぜ隠す必要が? さすがに高校生にもなって冷やかされたりはないですよね?」
「実は、彼女ができてもあまり長続きしなくて、結構いろんな人と付き合ってきたんです。それをネタに冷やかされるんです」
苦笑いを浮かべながら西園寺は言う。
ちくしょう。リア充め。
その後も聞き取りは続き、大体二十分ほどで終わった。
その間に俺は西園寺の受け答えの中にいくつかの違和感を見つけ、ノートに書きだした。
最近の彼女との仲について聞かれ、良好だと答えたが、微妙に嘘っぽさを感じた。
答えるとき、ほんの少しの躊躇があったので、おそらく彼女との間に何か悩みがあるだろう。
ぬいぐるみをなくした場所についての質問に対して、覚えていない、わからないと答えたが、嘘だ。
思い出そうとする仕草を一切見せていない。
つまりは、どこで失くしたのかの心当たりがあるがそれを隠している。
最後に、萌絵が時間を取らせてしまったことに対して、彼女は先に帰ったし自分も用事は無いから大丈夫だと言った。
しかし、その割には萌絵と話している最中にずっと時計を気にしていた。
萌絵が話し相手を飽きさせることや、苛立たせることはまずない。
それなら、なぜ時間を気にしていたのか。
すべての事柄を組み合わせれば考えつく。
プレゼントを失くしたこと自体に対するものではない焦りを見せた。
彼女と上手くいっておらず、しかしそれを隠しているという。
どこで失くしたのかわかっているのに話さなかった。
そして、『誰にも話すことができないような約束』がこの後に控えている。
聞き取りが終わり、西園寺を見送る。
俺らが通う高校がある場所はそこまで都会ではなく、電車の本数もあまり多くはない。
次の電車の時間まではまだ余裕がある。
今日の成果を手短にまとめ、それを証明するためのとどめの証拠を葵生の尾行で掴む。
「こーや、どうだった? 気になることっていうのは解決した?」
「お前、分かってて言ってるだろ? そうだ、全部解決したさ。ちょっと後をつけてもらえれば証明できると思う」
はっきりと、言い放つ。
「依頼人、西園寺夕貴は七海京香の他に関係を持っている奴がいる。浮気だ」
そうして、西園寺への聞き取り調査は幕を閉じた。