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それでも俺はゲームがしたい

1990年代の初めは、ゲームセンターには行ってはいけないと親や学校の先生達から強く言われていた。不慮のたまり場やゲームをやり過ぎると馬鹿になる、ゲームばかりしていると不健康だと現代よりさらに強く思われていた時代なだけに、子持ちの親や大人は子供たちからゲームセンターから遠ざけようとしていたが、しかし、それでも親や大人が強く禁止するからこそ、ゲームセンターという存在に対して特別な価値を見出す子供たちも存在していた。


「上田。またゲームセンターに行ったな……あれ程いくなと注意してるのに何でいくかね」


上田 健太。この小説の主人公の過去に転生した生粋のゲーマーである彼は小学校の担任の先生に職員室に呼び出されて怒られていた。


「いいか、学生の本分は勉強と運動だ。お前は別に成績も悪くはないんだ。ゲームなんぞ下らない遊びに熱中する暇があったら勉強にもっと集中しろ」


テレビゲームが爆発的にヒットしていた時代なだけに、その直撃世代は主に新しい物を欲する子供達である。車やスポーツの話題なら世代が離れていても話についてこれるが、テレビゲームという全く新しい娯楽は、子供達から人気がある事に対して大人達は全く理解できていなかった。故にテレビゲームに価値を見出すことが出来ずに大人は子供からゲームから引き離そうと、あらゆる理由を作って規制しようとしていた時代であった。


当然のように、自分達が好きな物を取り上げる大人達に対して反発する子供達も当時は珍しくなかった。精神的に社会人となっている健太であるが、彼は生粋のゲーマーであるため、担任の先生の言い分に対して反発した。


「何で、ゲームをしちゃいけないんですか?」


彼からすれば世間に迷惑をかけているつもりもないのに、無理矢理理由を作ってゲームを規制する大人に対して強く反発する心は前世よりあった。別に前世からプロゲーマーや世界相手に戦えるほど強いわけでもないが、それでも彼は前世から経験したゲームとの出会いや、それで知り合ったゲーマー達との交流も彼にとっては今でも良い思い出だと思っているからだ。


「なら聞くがな。ゲームなんかやって何か役にたつのか?体力はつくのか?精神は鍛えられるのか?いいか、お前のように子供のうちから無駄な行為を続けていると将来を棒にふるんだぞ。」


「はあ」


「それに、ついこの間は不良に大けがを負わされたの理解しているのか?要するにゲームをやっている奴らは世間の迷惑を考えない馬鹿しかいないという事だ。」


確かに暴力をちらつかせるプレイヤーがこの当時は多かったのも事実だが、それでもそれはごく一部のプレイヤーでしかない。


「まあ、別にお前はクラスで迷惑をかけてるわけでもないし,補導もされてないからな。程々にしろよ」


ようやく説教から解放されたと安心した健太は職員室から出て行った。


ーーー。


それから学校の授業が終わって健太は、いつもの行きつけのゲームセンターにいた。相変わらずストリートファイター2のある筐体の場所は賑わっており、健太も相変わらず淡々とプレイしていた。


『RYU WINS』


「弱キャラのリュウで16連勝!」


「やっぱ強いわこのガキ」


健太は現状の環境に少し飽きていた。対戦相手に困ってはいない。プレイして一分もしないうちに次々と対戦相手が現れる現状の環境には健太も満足はしているが、それでも健太を満足させる程のプレイヤーが少ないのだ。確かに中には強いと思われるプレイヤーもいるが、それでも健太がほんとに負けたと思わせるプレイヤーがあまり存在しなかった。


(地元のゲーセンにこれ以上いても強い奴と当たる事はないし。でも、現状のお小遣いだと電車で移動すると痛い出費だしな……どうすっかな)


50円で1プレイ出来るこのゲーセンの存在はありがたいが、現状の小学生の所持金だと行動できる範囲もプレイできる回数も大幅に制限されてる現状ではしょうがないと思った健太であった。


(はあ、早く高校生になってバイトしてぇ~)


そうすればバイト代が入って沢山プレイが出来るのにと心の中で愚痴る健太であった。そう思っていた時に次のプレイヤーが乱入してきた。


プレイヤーが選択したキャラはケンであった。


「ケンだな。」


「よくあるリュウケン戦だな」


リュウケン戦。初代スト2は同キャラ戦が出来ない為に、主人公キャラであるリュウを使われたらそのため救命処置としてほぼ同性能であるケンが選ばれる事があった。キャラ設定で同じ格闘技流派で親友でありライバルという事もあり、弱キャラ扱いを受けながらも当時はリュウとケンを使うプレイヤーが多く。そのためリュウ対ケンの対戦をリュウケン戦と呼ぶ。


(ケンか……初代スト2だとリュウとそこまで性能差はないから、そこまでキャラ性能が開いてるわけじゃないな)


『ROUND1 FIGHT』


開幕はお互いの波動拳による撃ち合いが始まった。


<波動拳!波動拳!波動拳!>


波動拳による撃ち合い。この状況の場合は、どのタイミングで飛ぶかが重要となる。いきなり飛んで攻撃しても対空技あるリュウケンでは昇竜拳で落とされるし、タイミングを誤れば波動拳を食らって気絶判定を食らう為に、どのタイミングで動くかが重要となる。


(上手い。波動拳をただ撃ってるだけじゃない。所々で足払いも的確に入ってる。このプレイヤーはリュウケン戦をかなり熟知してる)


波動拳の撃ち合いと思いきや、地上戦による足払いと投げによる攻防に入ったりなど一歩も譲らない展開が続いている。だが、その拮抗が崩れた。


<波動拳!>


健太のリュウが相手プレイヤーのケンの波動拳を食らって気絶判定を貰ったのだ。


(やばい。ピヨッた!)


気絶。格闘ゲームにおいて相手の攻撃を連続で食らうと気絶して数秒間はキャラは行動不能となる状態。その数秒が格闘ゲームにおいては致命的であり、一度でも気絶判定を食らうとそのラウンドは敗北を意味するほどでもある。なお、ストリートファイター2は第四弾であるXバージョンを除いて飛び道具に対する気絶判定が強く。場合によっては一発で気絶判定が出る事もあるので、当時のプレイヤーは飛び道具に対策に頭を悩めていた。


元々リュウケンの体力は残り僅かであった為に、健太のリュウはこのラウンドを落とした。


『KEN WINS』


「17戦目で初めてラウンドを落としたな」


「ここまで圧倒的だったからな、あのリュウ」


1ラウンドを落としたが、だけど相手のケンの実に合理的かつ所々で裏をかく行動に対して健太は逆に嬉しさのほうが勝っていた。


(まさか此処までやるプレイヤーと当たるのは久しぶりだぜ。スト2が稼働して半年。それまで強いプレイヤーと全く当たらなかったから逆に嬉しいぜ)


久しぶり強いプレイヤーと対戦出来た事に健太は燃えた。


『ROUND2 FIGHT』


お互いの警戒心が強くなり、先ほどのような派手に動くことはなくなった。的確にガードしており、なかなかダメージをあたえられていないが、しかし健太のリュウは劣勢を強いられていた。


(くそ、このケン。地上戦が上手い。弾で勝負しようにも弾を出すきっかけがつかめない。)


相手のケンは、ほんのわずかのスキを逃さず足払いが的確にヒットしており、かといって足を警戒しても投げてくる。健太は弾で勝負したいが、それをさせないようにきっかけがつかめないままであった。


互いの動きは同じで対応レベルもほぼ互角。しかし、健太のリュウと相手のケンとの戦いで僅かに訪れる足払いを的確に命中させている。


(まだ、地元に強いプレイヤーがいたのか)


最後は下段小キックの連打を食らって気絶判定を貰い、ピヨッて行動不能の所を投げられて健太のリュウのゲージはゼロとなった。


『KEN WINS』


「あのガキが初めて負けた!」


「つうかケンの足払いヤバ!」


「的確にヒットしてたぜ!」


転生して初めて本格的に負けたと感じたプレイヤーに遭遇して健太は、改めて自分が有頂天になっていたと反省した。


(俺は何て思い違いをしていたんだ。前世でもいくらでもいたじゃねえか。自分より遥かに強いプレイヤーなんて。前世での格ゲー経験があるから俺は無敵なんてそんな勘違いをしてたなんて)


健太は自己嫌悪になりながらも、とりあえず負けたから筐体から離れて自分を負かしたケンの動きを観察することにした。健太は相手のケンは弾撃ち平凡であったが、地上戦となると全くの別次元の強さを誇っていたと対戦をした感じた印象であった。


実際に健太の予感は的中しており、健太の次に対戦した相手を次々と倒していた。地上戦における間合いを熟知しており、キャラのパンチとキックの間合いを予測しての足払い。そして無理矢理踏み込んでも今度は間合いを盗んでの投げである。


(足払いは確かに有効だ。ゲームスピードが格段に上がったターボ時代なら未だしも、ゲームスピードが遅い初代なら有効になるけど、それでも此処まで熟知した使い手は初めてだ。)


実際に足払いは初代スト2において有効の手段であった。ターボからスト2のゲームスピードが上昇して対空処理は熟練したプレイヤーならまだしも、慣れていないプレイヤーには難しかったが、初代スト2やダッシュのゲームスピードは遅く、それゆえ対空処理もある程度格ゲーに慣れているプレイヤーには、然程難しいものではなかった。それゆえ初代スト2では、シンプルで強力な足払いが重要視されていた時代である。


それからケンは勝ち続けたが、20連勝をした所でダルシム使いに敗北した。


(まあ、最後は被せで勝ったようなもんだよな)


被せ。有利なキャラで乱入する事を言う。それは相手のキャラに対して有利初代スト2では先ほども話したように、リュウとの性能差はない。そのためケン対ダルシムとの戦いだとケンが不利とされていたからだ。


(やば、もう門限の18時になりそうだ。早く帰らないと)


ケン使いの対戦ずっと見ていて時間を忘れていたことに気がつき早めに帰ろうと思った時であった。


「ああ君、ちょっといいかい?」


健太に声をかけてきたのは、中学生くらいの短髪の眼鏡をかけた少年であった。それでも健太からすれば十分な年上の男性である。


「俺ですか?」


「そうそう。随分と強いプレイヤーだなって前々から思ってて話したいと思ってたんだ。」


「なに言ってるんですか。全く歯が立たなかったですよ」


「そうだけどさ。弾を撃つリスクや、相手の動きや癖を瞬時に理解する対応性。とても小学生と思えないほどレベルが高いと思ってね。」


「まあ、俺も稼働初期からずっとやってますから」


嘘です。本当は前世から格ゲーやって10年以上経過してますとは言えない。言ったら頭が可笑しいと判断されかねないから健太は死んでも言わないと思っている。


「そうなんだ。通りで強いと思ったよ。実は君に話があるんだ。今度の日曜日に俺のゲーセン仲間と隣町まで遠征しようと考えているんだ。それに君も遠征に参加しない?」


「遠征ですか?」


「そうそう。地元で対戦するのもいいけど、やっぱり色々なプレイヤーと戦うのもいい刺激になると思うよ」


遠征と聞いて健太は考えた。隣町での対戦による遠征。それは健太にとって魅力的だった。


(現状だと、ケン使いのこの人ほどのプレイヤーと遭遇する機会は極端に少ないし、そろそろ地元での対戦も潮時だと思ってたからな)


現時点において、地元のゲームセンターにおいて健太を上回るプレイヤーはそれほど多くなかった。


「行きます。行かせてください」


「おお、ありがとう。じゃあ君の名前を教えてくれないかい」


「上田健太。小学4年生です」


「俺は田中正樹。中2だ。よろしくな、健太君」


「はい」


こうして健太の転生して初めての対戦遠征が決まった。







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