表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/45

<最終話> 終わりはすべての始まり

いよいよ今回で最終話。

約五ヶ月間続いたこの作品も遂に終了です。

ここまでたどり着けたのも皆様のおかげです。本当にこんな作品を今まで読んでくださりありがとうございました。

神龍は終わり、そしてまた始まりでもあります。

さて、護衛戦艦『神龍』〜護りたいものがそこにある〜、最終話!

どうぞ本当の最後まで、ご覧ください。

 尊い命が犠牲になりすぎた戦争が終わって一年が経った。

 昭和二十一(一九四六)年、夏。

 昨年八月十五日に大日本帝国が無条件降伏し、九月に入ってから降伏文書が正式に調印され、大日本帝国は崩壊、第二次世界大戦は完全に終了した。

 世界中を殺戮と略奪の渦に巻き込んだ二度目の世界大戦は前大戦と同じく連合国が勝利し、敗北した枢軸国は戦争の傷跡によって国力は衰え、国民は疲弊しきっていた。

 敗戦の代わりに得たものが壊滅という二文字。人々は焼け野原から立ち上がり、GHQ(連合国総司令部)のもとで樹立された日本国政府によって大日本帝国憲法に変わる日本国憲法が誕生した。

 GHQのダグラス・マッカーサー総司令官の占領政策によって日本は戦前の軍国主義を破棄され民主主義化に努められ、軍備放棄、農地改革や財閥解体などの政策、日本は確実に変貌を遂げていった。

 戦争が終わり、平和が訪れた日本。毎日が当たり前に生きていられるそんな日々が帰ってきたのだ。

 人々は戦後の生活に苦しくも、復旧に努めていく姿勢が見られた。十五年後の高度経済成長期に入るまで日本はその国力を補う努力を強いられることになる。

 変革を遂げていく日本国内で、日本の変革とともに、その代償として失うものも多かった。

 かつて大日本帝国海軍が誇る、欧米列強を畏怖させた彼女たち艦艇は軍隊破棄という名目で解体処分という形で徐々にその姿を消していった。

 七月の呉大空襲で湾内に大破着底した戦艦『榛名』『伊勢』『日向』もすでに解体された。

 そして同じく横須賀に待機する戦艦『長門』も特殊兵器の標的艦として既に決定していた。

 もし、『大和』や『神龍』が生き残っていたとしても彼女たち同様解体か標的艦という運命しか待っていなかっただろう。だとしたら、戦艦として戦い散った最期を迎えることができたことは彼女たちにとって良かったかもしれない。

 しかし中には解体を先延ばしされ、最後の任務を与えられた艦艇も少なくなかった。

 その一隻が、今、呉港に入港してきた。

 それはかつて大日本帝国海軍が所有していた中型空母。しかし今のその身には武装は無い。彼女は【いくさぶね】としての軍艦ではなく、復員輸送に従事する復員船となっている。

 その鉄の艦体には白い文字でこう書かれている。

 ――KATSURAGI

 日の丸が描かれた横に、彼女の名前が書かれていた。

 復興を遂げていく呉の街から吹きわたる風が生暖かい。今の日本の季節は真夏だと聞いているが、今日は涼しいほうだからか日の光も空気も厳しい暑さではない。ちょうどいいほどだった。

 正面から吹きわたる生暖かい風が優しく前髪を揺らしてくすぐり、まるで優しく自分たちの帰りを祝福してくれているようだった。

 そう感じて、彼女は口もとを微笑ませた。

 軍帽の鍔から見えた黒い瞳が上がり、まっすぐと久方ぶりの呉の港を見詰めた。

 「ただいま……」

 帰りを迎える人々が賑わう湾岸を見詰め、復員船の艦魂――葛城は、口もとを微笑ませながらそっと呟いたのだった。

  

 彼女の役目は、日本国外に取り残されたかつての日本軍兵士と民間人を日本国内に連れて帰る復員輸送だった。

 前大戦の際、戦場の舞台となった太平洋の各地には多くの日本人がいた。そして戦争が終わり、海外に残されている兵士と民間人を迎えに行って日本に連れて帰ろうというものだった。

 そのために降伏して解体された日本軍の艦艇の中から復員船を指定し、かつて軍艦だった艦艇を外洋に出して海外で待っている日本人を乗せて帰る任務を与えたのだ。

 解体されるまでの間、復員船として人々を日本に連れて帰るという行為は彼女たちにとっては戦うことより誇りだったのかもしれない。

 戦うために生まれた軍艦であるが、誰も殺さず死なせず、ただ帰りたいと思う人々を国に帰してあげることのほうがやっぱり有意義なのだ。

 葛城もその一人だった。

 湾に着岸し、機関が停止するまでの間は一分でも早く日本の土を踏みたい彼らと、彼らに早く会いたいと思う迎えの人々にとっては長く感じられる時間だった。

 そしてようやく戦地から帰ってきた兵士たちを、家族や友人、恋人などが迎え、感動の再会を分かち合う光景が広がった。

 そんな光景を甲板から見下ろす葛城。

 葛城のもとに、薄汚れた旧陸軍の軍服を着た一人の少年が駆け寄ってきた。

 「葛城っ!」

 「………」

 葛城は無言にチラリと視線だけを後ろに振り返らせる。そこには息を整えるまだ十代後半といえる少年がいた。

 「…なに」

 相変わらず素っ気無い返し方を彼にする葛城。少年は一瞬その女顔を活かすようにシュンとなり、しかし表情を引き締めてから口を開いた。

 「なにじゃないよ。…遂に、日本に帰ってこれたんだ」 

 「…そうね」

 少年に対する葛城の興味がないような反応は出会ったときから変わってなかった。

 少年の名前は、秋津衛あきつまもる軍曹。元大日本帝国陸軍軍人であり、南方戦線の島から復員した一人だった。

 復員船である『葛城』は何度目かわからない復員輸送を続け、そして最後の復員輸送を今回限りで遂げることになった。そんな最後の復員輸送の際に、南方の復員作業の後、葛城は艦魂が見える彼と出会ったのだ。

 陸軍軍人にも艦魂が見える人間がいるんだな、と葛城は思っただけで日本に帰るまでの間、彼と(一応)接してきた(ほとんど彼のほうから)が、葛城はあまり彼に興味はない風を装うばかりだった。

 秋津はそんな葛城と仲良くなろうと頑張ってきたが、遂に念願の日本に帰ってきてしまった。

 葛城は湾岸で感動の再会が広がっている光景を見下ろし、秋津に向かって小さく声を紡いだ。

 「あなたも自分の家に帰るんでしょう?」

 「…うん。だからさ、きみにお別れを言いたくて……」

 「さよなら」

 「え…」

 あっさりと言い放った葛城の言葉に、秋津は固まった。

 ぽかんと固まる秋津に、葛城はチラリと一瞥した。

 「…まだなにか用なの」

 「…いや。随分とあっさり言うもんだから……」

 「だってお別れを言いに来たんでしょう。ここで私とあなたはお別れ…」

 「確かにそうだけどさぁ……」

 だんだん弱気な声になっていく秋津を、葛城はゆっくりと見返した。

 「そんな風に言われると、傷つくなぁ……って」

 本当に落ち込んでシュンとなっている秋津はただでさえ女顔だからか瞳に涙をうっすらと浮かべて泣き顔になっている子供のような可愛らしさに、葛城は不覚にもドキッとなった。

 「…ッ!」

 またしても彼のことを可愛いと思って胸を一瞬だけ(本当に一瞬だけ!by葛城)高鳴らしてしまった葛城は、己を悔い、そして恨んだ。

 再びそっぽを向いてしまった彼女の背を見詰め、秋津はさらにシュンとなる。

 「最後まで冷たいね、葛城……」

 「………」

 「きみとは仲良くなりたかったよ」

 「…何故、私があなたと……陸軍軍人と仲良くしなきゃいけないの」

 三笠以外の男と仲良くなんて、葛城には理解できなかった。

 私が心を許す男は、ただ一人だけ―――

 今はどこかできっと強く生きてくれている彼だけ――

 「戦争に負けたんだから、陸軍も海軍ももう関係ないじゃないか」

 「―――!」

 バッ!と振り返ってキッと鋭くて恐い形層で睨みつけた葛城に、秋津はビクリと震えあがった。

 「…ご、ごめん」

 「………」

 またシュンと落ち込む彼に、葛城はもう呆れて怒りを燃やす気もなれずに小さく溜息を吐いた。

 彼の言うことは間違ってはいない。

 確かに日本は――戦争に負けた。これは変えようのない事実だ。未だに信じたくないが現実である。だから自分はこうして復員輸送に従事してきたわけだが。

 そんな復員輸送も今回で終わり。後は解体を待つ身だ。

 葛城は再び湾岸と呉の街の方向に向き直った。秋津はそんな葛城の寂しそうな背中を見詰めた。

 重苦しい空気が降り、沈黙が続く。

 サァッ―――

 ただ二人の間に生暖かい潮風が吹きわたっていた。

 長い戦争と空襲を乗り越え、果てしない復員輸送を続け、全ての役目を果たした彼女。その背中は寂しさがあり、潮風に吹かれて靡く黒髪がさらに彼の同情を誘った。

 「……あなたの」

 「え?」

 葛城の小さく、しかしはっきりと通った声が聞こえた。

 「あなたの、家はどこ……」

 なぜそんなことを聞くのだろう、と思うまでもなく秋津は彼女のほうから話しかけてきてくれたことに僅かな、――いや。とても嬉しさを感じて、つい微笑みながら答えていた。

 「僕は東北のほうなんだ。岩手でさ。両親はそこで農家をやってる」

 「…両親は、元気?」

 「…出征して以来わからないけど、たぶん元気だと思うよ。農家だし、食べ物に不自由はないと思うし。ただ心配なのは親父はもうそろそろ歳だろうから、早く帰って田んぼの手伝いや雪かきもしてあげないとね」

 「……優しい、ね」

 「そ、そうかな。はは…」

 秋津はすこし照れるように笑った。葛城はそんな子供みたいな彼を見返し、微かに口もとを緩ませた。

 彼は帰るところがある。戦地で大勢の仲間を失ったと言っていたが、今の彼に悲しさなど見られない。これから帰る家に帰れるという喜びがそこにあった。

 葛城はすこし、そんな彼が羨ましかった。

 「………」

 葛城の背中を見て、秋津はその表情から微笑みを取って、ジッとその寂しそうな背を見た。

 彼女の背からはそう、孤独という雰囲気が感じられる。

 そんな彼女を後ろからそっと抱き締めてやりたくなる衝動にかられるが、そんなことをすれば前みたいに酷い目に合わされるだろう……。

 彼女は今回で復員輸送を終え、解体を待つことになるのは秋津も知っていた。彼女の口から聞かされたのだから。

 そのときの彼女は他人事のようにそんな自分の運命を述べていたが、心の内ではきっとそんなものではないに決まっていると思った。

 自分が死ぬことが決まっているなんて他人事に言えるわけがない。誰だって死にたいと思うわけないのだから。

 戦地で失っていく命を見てきた秋津には十分すぎるほど身に染みてわかっていた。

 「…葛城」

 ぽつりと呼びかける声。

 葛城は振り返らず、ただ背を向けていた。

 「今までありがとうな。きみのおかげで、僕たちは日本に帰ることが出来たよ。本当に感謝してる」

 「………」

 「きみの栄光は、未来永劫消えたりしないよ。僕は忘れない」

 葛城は、言葉を続ける彼を一瞥した。

 まっすぐに葛城を見詰め力強く言葉を紡ぐ秋津がそこにいた。

 「きみという、女の子がいたことを。きみという、僕たちを国に帰してくれた女神がいたことを」

 「………」

 葛城は踵を返し、秋津に振り返った。

 ニッと微笑む秋津をジッと見詰め、葛城はずっと立っていた。

 「ありがとう、葛城」

 「………」

 秋津がゆっくりとお礼を言うと、葛城は無表情のまま、スッと顔を下げて瞳を軍帽の鍔が隠した。

 しばしの沈黙。顔を下げて軍帽の鍔で瞳を隠しているせいもあって彼女の表情は窺えない。しかし秋津は彼女がどんな表情をしているのか大体見当は想像付いていた。

 フッと微笑み、踵を返した。

 「じゃあね、葛城。今まで本当にありがとう」

 一歩歩き出し、葛城から一歩また遠ざかる。そして秋津は最後に笑顔とともに言葉を投げかけた。

 「最後の最後まで精一杯生きてねっ! 僕は君の事を忘れたりしないからっ!」

 そう言って、秋津は歩き出した。

 すこしずつ立ち尽くして顔を下げる葛城から遠ざかる。

 そんな秋津の表情は、歯を噛み締めて涙を堪えるものになっていた。

 「――で、ね――」

 吹きわたった風とともに届いた彼女の小さな言葉が秋津の耳に聞こえた。

 ゆっくりと振り返ると、葛城はその顔を上げ、首を傾げて微かに微笑んでいた。

 「――元気でね」

 確かに聞いたそのお別れの優しい言葉に、秋津はまた泣きそうになりながらもそれを堪えるように笑顔を輝かせた。

 「うん。元気で」

 そして最後の兵たちが日本の港に上陸し、迎えの人々と再会を果たした。

 その中には秋津の姿も見られ、秋津は雑踏の中から『葛城』――いや、葛城に向かって手を振っていた。

 葛城もまた微かに微笑みながら小さく、瞳より上までは上げない高さで、小さく手を振った。

 最後の航海。日本に帰るまでの短い間だったけど、いつしか葛城は彼の存在に支えられてきたのかもしれない。

 ただただ孤独に復員輸送を従事してきたが、何故か最後のこの航海だけは寂しくなかった気がする。

 あまり秋津に対しては良い感じで接してはあげなかったが、葛城は自覚もないままに秋津が支えになっていたのかもしれない。

 そして何より、愛しい彼――三笠と初めて出会ったときに交わした生きる約束があったのもある。

 二つの支えがあって葛城はここまでやって来れた。もう、葛城に悔いはなかった。

 彼もまた、どこかで元気にやっているだろうか――

 いや、きっとやってくれている。

 あの時、また約束したのだから。

 

 

 最後の復員輸送を終えた『葛城』はそのまま呉港の岸壁に接岸し、碇を下ろした。かつては日本海軍の中型空母を経て最大の復員船として従事した一隻の艦船はようやくその役目を終えて艦体からだを休めていた。

 「葛城さんっ!」

 聞き覚えのある声に葛城は振り返ると、柔らかそうな長髪をふわふわと揺らし、巫女装束の白い袴を太陽の光に眩く照らした、一人の少女――雪風が駆け寄ってくるところだった。

 「お久しぶりですっ!」

 葛城のそばまで駆け寄ると肩を上下させ息を整えながら、にっこりと微笑んで雪風は言った。

 「…久しぶり」

 相変わらずの仲間の反応に、雪風は嬉しさを感じた。

 「はいっ」

 彼女、『雪風』も復員船として復員輸送に従事する艦船の一隻ひとりだった。

 「私は昨日帰ってきたところなんです。葛城さんは今日帰ってきたんですね」

 「………(コクリ)」

 葛城は無言で頷く。

 雪風はにこやかに笑った。

 葛城と雪風、珍しい組み合わせだがそれもそのはず、実際に二人はお互いにまともな交流は大してないが、同じかつての日本海軍の仲間であり、同じ仲間と上官を持ち、そして同じ人を慕う同士としてそれだけで十分だった。

 しかも雪風は葛城の旧友である龍鳳と親友だ。

 「私、朝鮮から兵士さんと民間の方々をここまで輸送してきたんですよ。途中でソ連の潜水艦に見つからないかすこし恐かったですけど、なんとか無事にたどり着くことができました」

 自分がここを出る前まではそんな自分の幸運さでさえ呪っていたが、今はそんなことはない。その幸運を日本に帰ることができる人々に役立てれば良いのだ。

 日本の支配下だった朝鮮は日本降伏と同時に解放され、さらに終戦の際にソ連軍の侵攻によって日本軍とそこに住む日本人は窮地に立たされた。

 満州から逃げ延びた人々も朝鮮に集い、雪風は帰国を願う人々を日本の呉まで連れて帰ってきた。

 雪風は復員輸送の途中、ソ連軍の潜水艦が日本に引き挙げる復員船を容赦なく無差別に雷撃しているという話を聞いていたので恐怖と不安に駆られながら与えられた任務を従事していた。

 戦時中連合国と密約し、日ソ不可侵条約を破って日本に宣戦布告した赤い旗を翻す凶悪の国、ソ連。ソ連軍の機甲部隊は満州と樺太を圧倒的戦力で侵攻して制圧し、朝鮮にまで侵攻を続けた。関東軍は敗れ去り、日本の兵士や民間人はソ連の魔の手に晒されようとしていた。

 さらにソ連の戦争が終わった日本に対しての一方的攻撃は治まらない。日本への引き揚げ船、復員船を見つけ次第、ソ連の潜水艦は容赦なく無防備の復員船を沈め続けた。すでに三隻が日本への引き上げ途中に撃沈されたという報告も入っていた。

 しかし日本はなにもできない。戦争に負けたのだから。

 戦争が終わってただ国に帰りたい人たちを国に帰らせているだけなのにそれを破壊する悪魔のソ連に、雪風は恐怖と不安とともに、憤りも感じていたが、無事に日本まで人々を引き揚げることができて本当に良かったと安堵していた。

 自分の戦中からの幸運のおかげだろうか。

 どちらにせよ、自分は人々を幸運に日本まで運ばなければならなかった。

 「またこれから、今度は中国、あと昭南シンガポールにも行かないといけないんですけどね。まだまだ仕事がいっぱいですよ」

 「…そう」

 「葛城さんもまだほかに……」

 「私は今回限りで終わり」

 「あ…ッ」

 すこし突き放すように言い切った葛城の言葉に、雪風は気付いて言葉を詰まらせた。

 彼女は復員輸送を終えた次第、解体が決まっている。雪風はそれに気付き、本当に申し訳ない気持ちになった。

 「……ごめんなさい」

 「…何故謝る」

 「それは……」

 「………」

 重苦しい沈黙が続く。――いや、長く続くことはなかった。

 それを意外にも葛城は柔らかい口調とともに破られた。

 「…大丈夫。私は最後まで精一杯生きるから」

 「―――!」

 雪風は驚きに顔を上げ、正面にある葛城の表情を見た。葛城の口もとが微かに微笑んでいた。

 さっきの別れた彼との時間を思い出し、葛城はそんな言葉を口にしていたのだった。

 「そうですか…」

 「………(コクリ)」

 雪風は安心感に浸ったように微笑み、葛城はまた無言に、しかし口もとを微かに微笑ませながら頷いていた。

 二人は揃って呉の港を見詰めていた。軍港としての機能は今は無く、代わりに普通の船舶や漁船が見られた。唯一軍艦が見られるのは自分たちを含めた少数だけ。この一年間の間に随分と艦艇は処分されて数を減らしていた。

 そして――二人の親友である『龍鳳』も着々と春から始められた解体作業が進み、その艦体は至るところが既に取り除かれていた。

 解体されていく親友を悲しげに揺らした細い目で見詰め、葛城は呟くように雪風に訊ねた。

 「……龍鳳は?」

 「…お会いしましたが、元気でしたよ…」

 「…そう」

 雪風の無理したような笑み。その内には彼女の辛さが隠されていた。

 復員輸送から帰還して早々、雪風は休む暇もなく親友のもとに向かった。しかし雪風はそのとき、親友の姿を見たとき愕然としてしまった。

 もう彼女の姿は――龍鳳の身体は半透明化していた。

 艦体の解体が着々と進み、その艦に宿る魂である彼女の姿もだんだんと消えていっているのだ。立ち尽くす雪風を迎えたのは、今にも消えてしまいそうなのに、優しく微笑む親友の笑顔だった。

 「会いに行ってあげてください」

 雪風の言葉に、葛城は雪風のほうをジッと見詰める。

 その揺れる瞳を見詰めてから、スッと前に見える親友の解体されていく姿を見詰め、頷いた。

 「……もちろん。そのつもり…」

 そう言って葛城は立ち上がり、雪風が見届ける中、葛城は光に包まれて消えていった。

 雪風は葛城が向かった解体されていく『龍鳳』を悲しげに瞳を揺らしながら見詰めた。


 ――雪風は姉妹が多い陽炎型駆逐艦の八番艦、八女であり、姉や妹が大好きな姉妹想いの少女だった。親友の矢矧といつも行動を共にすることが多く、そして龍鳳とも親友になった。当時の艦隊型新鋭駆逐艦であった朝潮型駆逐艦・陽炎型駆逐艦及びその改良型夕雲型駆逐艦、そして『島風』の計五〇隻の中で唯一終戦まで生き残り『奇跡の駆逐艦』として『幸運艦』と呼ばれた。日本の駆逐艦は激戦区に投入され非常に損耗率が高かったが、『雪風』は戦果を上げつつほとんど無傷で終戦を迎えた。

 『幸運艦』と呼ばれた栄光の駆逐艦。しかしその反面、いつも彼女の周りにいた僚艦だけが沈み、彼女だけが生き残るということから彼女を『死神』『疫病神』と呼ぶ者も少なくなかった。彼女は当初はそれをすこし気にしつつも隠し通してきたが、終戦の時期になって大勢の仲間を失った絶望感と孤独感から自棄になり、自分を『死神』として罵るようになったことがある。そんな自分を救ってくれたのが親友の龍鳳だった。彼女は今でも親友への想いは忘れない。気になる存在である三笠と交わした約束を胸に秘めて復員輸送という自分の役目を果たす。そんな彼女は神龍と三笠が矢矧と同じくらいに最も長く接してきた艦魂の一人だ。矢矧とのコンビは定番で、神龍の支えにもなっていた。唯一変わったところは巫女さんを日本の伝統文化として愛し、自分自身も巫女服を着ていたことであるがそれが異常に似合っている。ふわふわな柔らかい長髪が特徴。

 復員輸送の後には、賠償艦として中国に引き渡され、新生中国艦隊の旗艦として君臨することになるが彼女は異国の海でも懸命に生き続けていく。彼との約束と想い、親友たちとの交わした思い出を胸に秘めて。



 解体作業が進んでいる航空母艦『龍鳳』に淡い光とともに葛城が降り立った。

 戦時中の大空襲にあって大破し、その傷が修理されないまま解体作業を受け、艦の所々がほとんど穴だらけだった。鉄壁は取り除かれ、艦橋も撤去され、対空砲台もとっくの昔に処分されている。自慢の飛行甲板ももはや航空機が駆け抜けることも完璧に出来ないままに大穴が開いている。

 自分が居ない間に変わり果てた親友の姿を見渡し、葛城は彼女のもとに降り立った。

 そして目の前に見られたのは、日の丸の国旗を自分の身体に被せ横たわっている、ほとんど身体を透明化させた龍鳳の姿だった。

 葛城は微かに唇を噛んで、ゆっくりと彼女のもとに歩み寄った。その気配と足音に気付いたのか、龍鳳は葛城の姿を見つけるとにっこりと微笑んだ。

 「おかえりなさい、葛城」

 「…ただいま」

 葛城の返事を聞いて、龍鳳はそばに置いてあった眼鏡を掛けて上半身を起き上がらせた。

 日の丸に覆いかぶされて見えない両足は未だに分厚い包帯が巻かれ、立つことも歩く力も失っていた。

 「これだけ残しておいたんです」

 龍鳳は自分の下半身に被せている日の丸をそっと撫でた。

 「……起こしちゃった?」

 「…いえ。寝てませんでしたから。ただ……やることもないので横になってただけです。立つこともできませんからね…」

 「…ッ。ごめん…」

 「葛城が謝ることなんてありませんよ」

 そう言って微笑む龍鳳に、葛城はなんでこんな笑顔ができるんだろうと疑問でならなかった。

 いつも本を読んでいた彼女。それに関しては磯風に似ているが、磯風とは読んでいる好みの本は違った。彼女はいつも日本文学や外国文学関係なく小説や哲学書を愛して読み更けていた、そんな少女だった。

 愛しい彼――三笠に出会うまでいつも三人一緒だった空母の艦魂たち。戦艦との不仲関係があったために三人で居ることのほうが多く、よく姉の天城や龍鳳と過ごしたものである。そんな日々が戦時中であっても懐かしく楽しい日々だったなと思えた。もちろん三笠と出会って戦艦の艦魂たちとも打ち解けるようになってからのほうがもっと楽しかったけど。

 姉の天城は龍鳳が大怪我を負った大空襲の際に同じく敵の攻撃を受けて、湾内に大破着底して転覆したままの状態になっている。

 三人の中で最後に残るのは自分。また一人いなくなろうとする親友を葛城は無言で瞳を細くして見詰めていた。

 「…葛城」

 「…なに?」

 「私、あなたに会えて良かった」

 「……!」

 葛城は身体全体に電撃が走ったかのような衝撃に駆られた。龍鳳はただ優しく微笑みながら続けた。

 「私がいなくなっても、元気でね……」

 「………」

 龍鳳は立ち尽くす葛城に向かって腕を広げた。手を広げ、首を傾げてにっこりと微笑んでいる。

 「――ッ!」

 葛城はそんな親友に向かって、腕を広げた龍鳳の誘い通りに龍鳳の身体に抱きつき、そして抱き締めた。龍鳳もそっと葛城を抱き締め返し、親友の頭を撫でた。

 透明化していく龍鳳の身体には抱き締める葛城の身体がはっきりと見て取れた。葛城もすこしずつ消えていく親友をいつまでも抱き締め続けた。

 不意に、龍鳳の閉じた瞳から涙がこぼれた。

 「…もうすぐ、飛鷹ひようやみんなに会えるんだなぁ……嬉しい、な…」

 「………」

 「…でも、葛城や雪風とお別れも悲しいですね……」

 「…私も、もうすぐいくから」

 葛城は消え往く親友の身体をぎゅっと抱き締める。

 「だから、待ってて……」

 葛城は耳越しに、龍鳳が涙を流す気配を感じた。

 「うん…。私、待って……ます、から……。ありがとう、葛城……ばい、ばい……」

 閉じた瞳から落ちた一粒の雫が落ちた瞬間、すでに龍鳳の姿はどこにもなかった。自分の身体からすり抜けたように消えていった親友を想い、葛城は初めて一筋の涙を流した。

 「…私は、最後まで生きた後に、すぐにいくから……。だから、待ってて……」

 葛城はそれだけを言ってから顔を伏せた。そしてこぼれた雫がいくつも、残された日の丸に落ちてシミをつくっていた。


 ―――龍鳳は、その十年の生涯と航空母艦に変わってからの四年の艦生を終えた。ロンドン海軍軍縮条約で、日本は主力艦に続いて補助艦艇の保有を大きく制限された中、海軍は条約制限がなかった一万トン以下の潜水母艦や給油船などを、あらかじめ戦時にいつでも航空母艦に改造できるように設計、建造した。こうして、『龍鳳』の原型である潜水母艦『大鯨』が竣工された。1938年の艦隊編入後は北支方面や南洋方面で進出し隷下潜水艦と共に活動したのを始めとして数々の艦隊を転々として、最終的に大東亜戦争(太平洋戦争)が勃発すると航空母艦への改装が着手された。問題の多かったディーゼルエンジンを、陽炎型駆逐艦と同じタービンエンジンに換装したことと米軍による日本初空襲を飾ったドゥーリットル空襲の際に、B-25爆撃機の投下した爆弾が命中したなどの不運によって改装が遅れたが、1942年11月28日に航空母艦への改装を完了。そして『龍鳳』と命名され、航空母艦としての道を歩み始めた。その際に祥鳳型航空母艦に位置づけられた。マリアナ沖海戦などに参加するも友軍の航空母艦とともに戦果も挙げられず被害を受け、『飛鷹』が沈没、旧友だった飛鷹を失った。さらに呉港に『葛城』『天城』とともに停泊している際に大空襲を受けて大破した。対空砲台として終戦を迎え、四月から始まった解体作業によってその生涯を終えた。

 そんな艦魂の彼女は眼鏡を掛けた読書家少女。三笠が『葛城』に一時配属になった際に出会った空母三人組の一人である。磯風とは好みの本が違う。大勢の仲間たちを失い、さらに三笠や復員輸送に出た葛城や雪風を一人で解体されながらも待ち続けていた。そして最後の瞬間までに葛城と最後の出会いを果たし、親友の温もりを最後まで触れながら天高く昇っていった。

 



 

                         

                       ●




 

 厳しい残暑が照りつける九月の末。

 大分復興していく呉の街の一角、呉港を見ることができる坂の上に、一軒の喫茶店のようなレストランのようなそんな店が立っていた。

 その店は一年前から開くようになり、呉の人々にとっては行き着けの評判の店となっている。

 なんといっても、味が最高だ。

 しかも終戦一年の貧困時代を歩む日本にとって優しい値段だった。こんな値段でよく潰れないものであるとも噂があるが、値段がどうだろうが、その店の微笑ましい雰囲気を知ると潰れないのもわかる。――否、潰れてほしくない。こんな温かな店を。

 この店のオススメはなにかと問えば、絶えない客たちの誰に聞いても、皆が口々にこう揃える。

 ――この店のオススメは、なんといってもカレーライスとおにぎりである。

 海軍から引き継がれたカレーというが、民間人にも親しみがあるスパイスが効いた絶妙な味付けになっている。おにぎりも懐かしさをじわりと感じさせるようで美味の感覚を舌に与えてくれる。

 今日もこの店では、客の行列が絶えない忙しさがあった。

 「い、いらっしゃいませぇっ」

 チリンチリンと鈴を鳴らして開く扉。中に入って迎えてくれるのはまず子供の女の子の可愛らしい緊張気味の声。そして目の前にはポニーテールを揺らすエプロンを付けた中学生くらいの女の子がお盆を抱えて立っている。

 「な、な、何名様でしょうかっ」

 顔を火照らせ、やはり緊張気味だが頑張っている様子が伺える。まずこの時点で既に微笑ましい。

 「三名様ですね。で、では、こちらに、どうぞっ」

 女の子に案内され座り込む。見渡す限り人だらけで賑やかだ。しかもその一人一人には明るい笑顔があった。特に注文したものを美味しく頬張っている人の笑顔など幸せに包まれている。

 「お、お決まりでしょうかっ」

 微かに、いや、結構震えながらお盆を抱えて立つ女の子に決まったメニューを言うと、女の子は「カレーライス、さ、三人分ですね。か、かしこまりましたっ!少々お待ちくださいっ」と言ってから逃げるように厨房のほうに走り去る。

 厨房のほうに駆け出した女の子は、背を向けて料理をしている姿の彼を見つけて大声で叫ぶ。

 「馬鹿兄貴ッ! カレーライス三人分だっ!!」

 「はいよっ!」

 その大声に負けない威勢のある声で返すたった一人の料理長。ぐつぐつと煮えたぎるカレーの鍋のフタを開けてささっと見事にカレーを盛った。

 「なんだ玖音。お前、まだ慣れてないのか」

 「う、うるさいっ! 人見知りなんだから仕方ないだろっ!」

 「自分で人見知りとか言うな。ていうかもう働き始めて一年だろうが……」

 「まだ一年は経ってない! えーと……ひーふーみー……あと一週間ちょっとだっ!」

 「同じようなものだろうが」

 「うっさい馬鹿兄貴ッ!」

 「ほらほら、あまりお客さんを待たせては駄目よ。後がまだまだつかえてるんだから」

 そう言って顔を出した清楚可憐な女性もエプロンを付けて、そして平らげられたお皿を載せたお盆を持って厨房に入ってきた。

 「ほら菊也。あなたも仕事中にあまり玖音をいじめないの」

 「別にいじめてないけどな」

 「そうだっ! このアタシが馬鹿兄貴なんかにいじめられてたまるかっ!」

 「やれやれ……」

 二人の姉である彼女は台所に皿を並べながら溜息を吐いた。

 「聞いてくれよ皐月姉さん。玖音のやつ、未だに慣れてないらしいんだぜ?」

 「まぁ玖音もまだ中学生に入ったばかりだし……。子供なんだから仕方ないんじゃないかしら…」

 「子供じゃないっ!」

 「子供だろうが。どう見ても」

 「菊也もよ」

 「…俺は二十歳になったんだけどなぁ。少なくともこいつよりは大人だ」

 「アタシだって大人だっ!」

 「中学生が大人って言うなっ」

 「ふんだっ! こう見えても日々成長してるんだぞっ」

 「ふんだって言ってる時点でまだまだ子供だっ! つーかどこが成長してるって? 背の高さか? それともそっちか? どっちにせよ全然変わってないように見え……」

 「この変態兄貴ッ!」

 「ぶほぁっ!!」

 投げつけられたお盆をモロに顔面にヒットされる。

 「なにすんだぁクソガキッ!」

 「クソガキじゃないもんっ!」

 仕事そっちのけでぎゃーぎゃー言い合う二人の弟と妹を見て、姉である彼女は深い溜息を吐いた。

 「(その子供と同等に言い合っている菊也こそ子供じゃないの……)」

 姉、皐月は一息深呼吸してから、ゆっくりと言い合う二人のまだまだ子供である弟妹に歩み寄った。

 「姉さんもなにか言ってやってくれよっ!」

 「お姉ちゃんっ!この馬鹿兄貴に馬鹿だってことをいい加減わからせてあげてっ!」

 「誰が馬鹿だ誰がっ!」

 「お前以外にいるかーっ!」

 「……二人とも」

 静かに通った声に、二人はピタリと動きを止めた。

 ユラリと黒いオーラが自分たちのすぐそばで陽炎を揺らしていることに気付き、顔面蒼白になってゆっくりと二人同時に姉のほうを振り向いた。

 「いい加減にしなさいねぇ……」

 にっこり、と黒いオーラに包まれながらいつも以上の笑顔に、二人は絶大な恐怖に震え上がってお互いを抱き締め合った。

 「いいわね……?」

 「コクコクコクッッ!!」

 ものすごい勢いで頷く二人に、ダークフォースを全開して黒いマスクからコーホーコーホーという呼吸音が聞こえそうな雰囲気が一瞬で打ち解け、いつもの優しい姉の笑顔に戻った。

 「うん。いい子♪」

 皐月は人差し指をぺたんと座り込んだ二人に向かって立てた。

 「もう喧嘩しないこと。わかった?めっ」

 「「……イエッサー」」

 アメリカ軍よろしく了解を言葉にして、皐月は満足そうに頷き、さっさと戻っていってしまった。

 「きょ、今日のところは見逃しておいてあげる…。ふんっ」

 そういい残して玖音も兄に当てて落としたお盆を拾い上げて、そのお盆に注文のカレーライスを載せて姉の後に続いた。

 一人残され、彼は苦笑を漏らした。

 「……こっちだって」

 立ち上がり、再び厨房と向かい合う。

 「さて、やるかっ」

 腕をまくり、彼は料理の続きを再開した。

 ぐつぐつと煮込むカレーの具。大きな鍋を埋めるカレーの具をかき混ぜ、独自の隠し味を混入する。

 食欲を誘う誘惑が鼻をつき、ズズッと音を立てて味見をする。

 「……よし」

 このカレーライスは、あの頃からの思い出溢れるものでもある。

 愛しい彼女に食べさせたことがあるカレーライス。あの時よりはずっと上達している。そして机の上には真っ白なおにぎりが並べられていた。

 その二つの食べ物こそが彼―――三笠菊也の得意料理の一つだった。

 どちらも簡単でありきたりなものだが、その内に秘められている想いはどこのカレーライスやおにぎりにも勝る。味だけでない、『想い』が内に秘められていた。

 三笠はあの後、横須賀港に居続ける阿賀野と別れ、一人呉に戻った。その際、姉妹の皐月と玖音と再会し、数年ぶりにきょうだい三人で再び暮らすことになった。姉の皐月は横浜で看護婦を勤めていたが進駐軍の方針によって旧海軍病院だったそれは進駐軍の管轄としてあり続けたが基地創設(後の在日米軍基地)のために撤去されることになり退職。妹の玖音を連れて三笠とともに呉で暮らすことを決めた。

 もちろん三笠も喜んで同意し、唯一の肉親同士が久方ぶりに再会したとき三笠は以前のことと手紙のことで二人に謝罪した。そして二人の優しさに三笠は許しと安息を得ることになった。

 借金をして店を開き、きょうだい三人で経営を始めた。やがて三笠の味が呉中で評判になり、終戦一年の人々に懐かしく久しい美味しさと希望を与え、店は大繁盛した。借金はすぐに返済し、経営を続け、なんとかきょうだい三人で食べて暮らせていた。

 時々このようないつもの騒動になったりすることがあるが、大体それを静めるのが姉の役目だ。

 そんなことや、ほかにも色々あるがどれもこれも楽しい日々だった。きょうだい三人で暮らせるなんて戦前以来今までになかったので、幸せだった。

 ――もちろん、彼女のことは忘れたりしない。

 もうあれから一年経っている。思い出すと確かに悲しくなるけど、もう平気だ。

 既にあのときに克服し、願いは叶った。後は自分が強く生きていくだけだ。

 護衛戦艦『神龍』の存在は『大和』以上に秘匿され、戦後になって『大和』の存在が明かされても『神龍』の存在が明かされることはもっと先の話だった。

 唯一の生存者である三笠は、『神龍』のことをなにも語ることはなかった。

 何故なら、他人に話さなくても確かに自分の心の中に彼女との思い出は刻まれているのだから。

 しかし、彼の愛しい彼女への想いはしっかりと表に出ていた。

 この店と、そして刻まれた想いは次の世代、また次の世代になっても語り継がれることになる。

 店の備え付けられた看板には店名が書かれている。




 ―――『神龍』




 それがこの店の名前だった。

 そしてその意味を知るものは、彼以外に誰一人いなかった。



 

                     ●




 呉港のそばに敷設された公園には、ひとつの慰霊碑が建てられていた。

 それは『大和』が海中深くで発見されてさらに数十年後。もう一隻の戦艦の存在がたった一人の生存者の家族によって明らかになり、同時にその特殊な戦艦に対する機密情報が国庫の底から発見され、そしてアメリカに保存されていたものを公表した戦史記録によって『大和』に続いた特攻に身を投じた巨大戦艦の全容が日本全国に知られるようになった。

 その慰霊碑は、その戦後五〇年も経って存在が明らかになった特殊戦艦とその犠牲者の英霊を祀る碑だった。


 ―――護衛戦艦『神龍』戦没者慰霊碑―――


 沈没日は『大和』の後、昭和二〇年四月八日。詳細の沈没地点は不明。東シナ海で米戦艦部隊に単艦で突撃し奮戦した末に沈没したと記されている。

 連合艦隊司令部は作戦中止命令を無視した独断専行として戦死した艦長以下乗組員全員を戦没後の昇進は行わず、戦死者を全員として記録し、全てを闇に葬り去った。

 しかし米戦艦部隊に救助されたただ一人の生存者がいたことがその家族によってはっきりしたのだ。

 既に戦後五十年以上が経過していた。

 

 慰霊碑には花束が備えられ、そしてまた、菊の花束が置かれた。

 「う〜ん。桜のほうが良かったかなぁ」

 まだ二十歳に満たないような若い女性が首を傾げる。その女性は戦後崩壊した大日本帝国海軍から引き継がれた海上自衛隊の黒色(冬用)の第2種礼装を着込んでいた。

 「まぁいっか」

 「相変わらずあなたは切り替えが早いわね」

 准海尉及び幹部自衛官の指定された礼服を着た女性が振り返ると、その母親が慰霊碑に歩み寄った。そのすこし刻まれたシワが微笑ましく緩めていた。

 「そこが私のいいところじゃんっ」

 「…あなたのような子だからこそ自衛官に向いたのかしらねぇ」

 「切り替えが早いのは政治家でも自衛官でも大切なことじゃん」

 「切り替えというか、開き直りと訂正したほうがいいわね…」

 「うっ。厳しいね、母さん…」

 苦笑する娘に対して、顕然たる母親はただ太陽が煌く青空を仰ぐように慰霊碑を見上げた。

 太陽の光の眩しさか、目を細めて慰霊碑に刻まれた文字をジッと見詰めていた。

 「だけど母さん、この戦艦、よく知ってたね」

 備えた花束を整えながら不意に訊ねる。

 「母さんの出版した本が広まったから、この戦艦が現代に知られるようになってこうして慰霊碑も建てられるまでになったし。ねぇ初瀬菊代先生っ」

 「娘に先生って言われると変な気分ね」

 「誰から聞いたのか、そういえばまだ聞いてないね」

 返す言葉を交わす前に一方的にズイッと来る娘の近い距離に、内心やれやれと呟く母だった。

 「娘なんだから教えてよ。それに私は今日限りでめでたく海上自衛隊に入隊したんだからさっ」

 「………」

 一度ふぅと吐息をついてから、言葉を紡いだ。

 「…あなたもよく知っている人から聞いたのよ」

 「…え? 誰?」

 「当てて御覧なさい」

 意地悪というか、元教師だったからか問題形式にするのは昔から変わらないなぁと思いつつ、う〜んと唸るように考える。

 「あ。おばあちゃん?」

 「残念」

 「ヒントッ!」

 「家族」

 「えーっ?!」

 さらにうんうんと唸る。やがてぷしゅ〜となにか黒いものが頭から噴出し、横に振った後その娘はギブアップした。

 「参りました」

 「…仕方ないわね」

 「で、誰?」

 「この慰霊碑に祀られる戦艦……いえ。護衛戦艦のたった一人の生存者よ」

 「だから誰って!」

 急かす娘を無視し、マイペースのままに、ただゆっくりと正解を口にした。

 「…おばあちゃんのお兄さんよ」

 「知らないよっ!あまり会ったことないし……。なんだ、この微妙な位置は……」

 「なに言ってるの。血が繋がった家族じゃない」

 「それでもさ〜……。ていうかまだ生きてる?そのおばあちゃんのお兄さん」

 「…ご健在よ。今も元気に料理長よ。引退なんてまだまだとか言ってたわね。ふふっ」

 「…思い出した。確かに独り身で人生のほとんどを料理に捧げているってことだけは知ってる」

 「……彼にも、恋人はいたのよ?」

 「へぇ。じゃあ何でおばあちゃんのお兄さんは結婚しなかったんだろう?」

 「……出来なかったのよ」

 「…え」

 太陽の光に煌きながら、天に向かって立つ慰霊碑を見詰め、言葉を紡いだ。

 「…だってこのかたが、彼の恋人だったからね…」

 「………」

 彼女も慰霊碑に振り返る。その慰霊碑にはただ戦艦名と戦没者慰霊碑としか書かれていない。わけがわからなく、首を傾げる。――いや、もしかして……。

 「…母さんの本は読んだけどさ。もしかしてそれに書かれてた、えっと……艦魂、とかいう女の子の姿をした艦船の魂だっけ? まさかそれがおばあちゃんのお兄さんの恋人だったっていうの…?」

 母の出した本は自分も読んだことがあり、だからこの護衛戦艦という歴史の狭間の闇に葬り去られてしまった悲しい結末を迎えた特殊な戦艦とその戦没者、そしてたった一人の生存者がいたことは知っていたが、その過程にあった艦魂はどうにも信じられなかった。

 彼女は一般の女の子より夢が無い(自称ともに母親の証言から)。だから乙女チックであることも少なく、どちらかというと男の子が好きなものが好きだというほうだった。だからこそ戦艦や戦闘機といったものが大好きな彼女は自衛官の道を選んだ。

 そしてファンタジーやオカルト的なものは信じないタチだった。彼女の主義は物理的であり、見たものしか信じられないものだった。

 「…あなたにも、いずれわかるわよ……」

 母親の静かに通った言葉に、何故かきれいに自分の心に通っていた。

 サァッ……

 まだ冬の名残のようなひんやりとした潮風が吹きわたり、二人の髪が靡いた。彼女は軍帽を抑え、不意に、慰霊碑を見上げた。

 なにか温かな感情が浸透するように心に入り込んできたように感じられた。

 それは錯覚だろうか。

 よくわからない。

 ただ、自分はなにかを感じた。この先の未来に。

 それだけだ。

 彼女は軍帽を被りなおし、慰霊碑を背にして母親のほうに振り返り、見事な踵をカッと揃えて敬礼した。

 「初瀬千歳はつせちとせ三等海尉、本日をもって海上自衛隊に入隊しましたっ!!以後誇りある海上自衛官として規律と制度を守り、日々訓練に励み、この国と国民のために働きこの身を捧げることを誓いますっ!」

 かつて日本のために戦い、今の日本を引き継いでくれた英霊たちのためを想って。

 今度は自分たちが護る番だ。

 彼彼女たちが護り通した日本を、今度は自分たちが引き継ぐ。

 それをここに誓う。

 様々な花束が添えられたそびえ立つ慰霊碑は、太陽の光に当てられて神々しく輝いていた。それはまるで周りに桜が舞っている光景にも見て取れたのだった。

 

 


  

               私の名前を呼び続けて

                たとえ届かなくても

               いつでも傍にいるから

                あなたを感じてる



     記憶のカケラ溢れさせるほど孤独とか痛みさえ忘れないようにそっと刻んで

             後悔も悲しみも今は一人で強く抱きしめ

              思い出は此処にいつまでもあるから

                あのね、たくさんの幸せを

                  ありがとう




                        sovereignty of fear natumegumi.



 彼彼女たちは護りたいものを護った。

 それは確かに護られた。

 そして引き継がれていく。

 そこにある護りたいものを護って散っていった彼彼女たちの英霊は安らかに眠っている。


 終わりは全ての始まり。


 彼彼女たちが残してくれた今という時間を大切に過ごし、恥じぬように強く生きよう。

 それが彼彼女たちへの恩返し。

 青春と人生を引き換えに散った彼らに。

 想いと艦生を引き換えに散った彼女たちに。


 ただ一言、言うべき言葉がある。


 それは―――


 ありがとう。                  

「伊勢と〜」

「日向のぉ〜」

「艦魂ラジオ最終回特別企画!〜湯けむりのドキドキお疲れ様旅行〜」


今回は今まで他先生がたの艦魂たちを呼んできた艦魂ラジオも本編に合わせて最終回ということなのでみんなで温泉旅行にやってきました。


「護衛戦艦『神龍』〜護りたいものがそこにある〜完結おめでとう〜っっ!!」


日向「六月ごろから始まったこの作品もいよいよ試行錯誤を経て約五ヶ月の歳月を費やして完結したわ」

伊勢「ということで今回はゆっくりと休み英気を養ってほしいという作者さんのお言葉を頂いて、温泉にやってきました。季節もこれから冬ですし、冬といえば温泉ですからね」

天城「温泉ひゃっほうっ!」

雪風「雪、積もってますね〜。露天風呂とかあるんでしょうか?」

矢矧「あると思うよ…」

日向「しっかしこの作品もよく続いたものねぇ」

作者「本当。これも皆様のおかげですよ。本当にここまでやってこれたのは読者様や先生がたのおかげですね。本当にありがとうございましたっ!」

神龍「最初は私という架空戦艦がどんな感じで史実の戦いに関わっていくのかって思ってましたけど、無事に最後まで書き上げることが出来て良かったですね」

作者「長かったようで短かったような…。振り返ってみると本当にそんな感じだね」

大和「うむ。だが五ヶ月という歳月は本当に長いような短いような微妙なところだな。ま、黒鉄殿の艦魂年代史には敵わんが」

作者「当たり前でしょ。あの作品は開戦から終戦後までの二年の月日をかけた大作なんだから。あの作品に出会えたおかげで私がここにいるわけだし」

神龍「それまで艦魂という存在を知りませんでしたものね、作者さん」

作者「初めて艦魂というものを見たときはなんだこれ?的な感じで見てたけど、どっぷりとハマッちゃったよ」

榛名「で、自分でも書いてみたいと思ったわけだ」

作者「そうですね。いやはや、艦魂と出会えて本当に良かった。そしてそんな艦魂という素晴らしい存在を教えてくれた、これもまた素晴らしい作品である艦魂年代史と黒鉄先生には感謝するばかりですね。そして黒鉄先生の作品に影響されて私も艦魂を書き始めてから草薙先生をはじめ、多くの先生がたが続々と進出してきましたし」

神龍「私も大和と出会って、友達になれて良かったです。凛さんたちやこんごうさんたち、瑞鶴さんたちにも会えて本当に良かったです」

大和「ああ。確かに彼女たちと出会えたことはなにより楽しかったな…。ところで伊東殿、なにか書いている途中に苦労はあったか?」

作者「そりゃありましたよ。楽しかったのもあるけど苦労は結構あったな。なにせ小説を書こうという奴が知識乏しかったですからね…。そういえば最初から各先生がたのお世話になっていろいろと教えてもらってたなぁ。懐かしい記憶です」

神龍「この作品を書くに至って同時に勉強もできましたしね」

作者「物語を書くために資料を漁って勉強できたのも良い思い出です。あと苦労したときは、行き詰ったときですね」

神龍「やっぱり小説を書くに至って行き詰ることはありますよね」

作者「しかも神龍っていう架空の戦艦が物語の主軸でありヒロインだったからね。この架空の戦艦をどう物語に繋げていこうかと考えてたもんだよ。ちなみに行き詰ったときは、某動画投稿サイトで色んな動画を見てたなぁ。主にゲームのOPとかMAD動画とか。ああいう動画を見ると盛り上がるというか夢が広がるというか……創作意欲が沸いてくる」

神龍「気分転換に本を読むとか音楽を聴くとかありましたけど、作者さんはちょっと変わってますね」

作者「音楽は聴くことあったよ、もちろん。この曲は神龍に合ってるな〜と思いながら聴いてた曲もあったし。そういえば黒鉄先生は自分の作品のOPとEDをあげてたな」

神龍「あれは面白く、いい考えですよね」

作者「ということで私も私なりにこの作品のOPとEDをあげてみるとしたら、OPは『明日の君と逢うために』のOP『TIME』で、EDだったらリトバスEXの『Saya's Song』ですね」

神龍「……それ、どっちも……」

作者「…お願いだから引かないでよ。誤解しないでね。確かに神龍が思っているようなゲームですよはい。私はまだ18歳に至ってないのでその手のゲームはやったことないですよ?某動画投稿サイトでよく聴いてるだけですからね。黒鉄先生と同じ理由です。神龍のOPとEDとして選んだこの二曲は私的にはどちらの曲も良い曲だとは思いますのでぜひ聴いてみてください」

神龍「そういえば黒鉄先生が仰ってたED曲、知ってましたね……」

作者「あの曲を知ってる人が他にもいたなんてちょっと驚きましたけどね。あぁ、あと一般の人にも分かる風にあげてみるなら、森山直太郎のさくら(独唱)も入れたい」

神龍「いきなりまともな曲ですね…。…って、あれ?作者さん。いつの間にか皆さんいないんですけど……」

作者「なにっ?!」

雪風「あ…。参謀長、皆さんもうお風呂のほうに行っちゃいましたよ?」

神龍・作者「ええっ!?」ガーン


カポーン……


天城「温泉だぁ〜っ!温泉だよ温泉〜っ!ひゃっほーうっ」

葛城「………」

天城「さぁて、早速お湯に……」

葛城「どーん」

天城「……ッ?! きゃあああああ」

ドッボォォォォンッッ!!

雪風「うわ、見事に飛び込みましたね…」

矢矧「…生きてる?」

天城「………(プカ〜)」

榛名「まったく、温泉くらい大人しく湯に浸かれんのか」

伊勢「はぁ…。気持ちいいわね〜」

長門「本当だね〜」

榛名「…長門、いたのか」

長門「いたよ〜っ!前回まで海翔さんとデートだったけど、そのままこっちにも参加させてもらってるんだから。それに私、最終回本編で遂にここにも登場したし」

榛名「………」

長門「それより榛名」

榛名「…なんだ」

長門「んっふっふ〜」

榛名「…寄るな」

長門「(ジッ)」

榛名「………」

長門「えいっ」

ムニュッ(指で)

榛名「…ッ!!」

長門「やっぱり前より大きくなってない?いいな榛名は…。……体中筋肉のくせに(ボソリ)」

榛名「き、き、貴様ぁぁっっっ!!!」

長門「きゃーーーー(嬉しそうに)」

日向「…ったく。大人しく湯に浸かれないのかしら(とか言いながら自分の胸をチラリと見下ろす)」

伊勢「クス…」

日向「なによ姉さん…」

伊勢「ううん。なんでも」

日向「………(ジッと伊勢の胸を見詰めつつ)」

伊勢「♪」

ぼーん。

日向「………(赤面)」

サワサワ……(自分のを見下ろして摩ってみる)

日向「はぁ…」

大和「なにを落ち込んでおるのだ?」

日向「ビクッ!」

大和「ん? なにか悩んでることがあるならお姉さんに相談するといい」

ぼぼーん(という部分を日向が見ながら言う)

日向「…言っておくけど私のほうがずっと年上なんだからね」

(大和、ニヤニヤ)

大和「ほほう。それはすまん」

ぼぼぼーん(という部分を忌々しげに見詰める日向)

日向「…馬鹿にしてる?」

大和「いやいや、とんでもない。しかしなにかあればお姉さんの胸をいつでも貸してあげよう」

日向「そ、そんなのいらな…ッ むぎゅぎゅ……ッ」

大和「ほれほれ、遠慮せずに」

日向「や、やめなさ……ッ むぎゅう〜っっ」

大和「あぁ、可愛い……」

雪風「大和長官、さすがですね…。成長しすぎですっ…(ゴクリ)」

矢矧「……つるぺた(自分の胸を摩りながら)」

神龍「ふぅ……」

(体にお湯をかけて石鹸の泡を洗い流す)

ザバッ……

(肢体から雫が伝い落ち、白い湯気がころもをつくる)

神龍「(…何故ここだけ無駄な詳細説明をしますか?)」

雪風「参謀長はスタイル良いですね〜」

神龍「え、そ、そう?」

雪風「はい。羨ましいですっ」

神龍「あ、ありがとう。えへへ…」

葛城「………」

神龍「(なにか殺意を感じるんですけど…)」

雪風「どうしました参謀長?」

神龍「な、なんでもない。わ、私ちょっと露天風呂行ってくるね」

タタッ

雪風「…? ――って、葛城さん?!参謀長の行く先に石鹸を置こうとしないでくださいっ!」

葛城「…ちっ」


(露天風呂)


神龍「…あまり意識したことないんですけどね」

(自分の身体を見下ろす)

神龍「(赤面)」

ザバッ…

(露天風呂に一人浸かる神龍)

神龍「ふぅ…気持ちいい……。星が綺麗ですね…」

(肩まで浸かりながら星空を見上げる神龍)

神龍「…菊也さんと入りたかったな……なんて。えへへ…。なに言ってるんだろ、私」

(赤面して口もとまで湯に沈んでぶくぶくと泡立てる神龍)

神龍「…? あれ。私以外に誰かいる……」

エンタープライズ(以下エンター)「ふん。日本の温泉も中々のものね」

ホーネット「そうね。太平洋を渡って来た甲斐があったというものね」

ヨークタウン(以下ヨーク)「気持ちいい〜」

神龍「ア、アメリカッ?!」

ホーネット「あら。あのかたは…」

エンター「ジャップじゃないのっ!?」

ヨーク「あ、ホントーだ」

エンター「な、何故貴様がここにいるのっ!」

神龍「何故って…。ここ、日本の温泉ですよ?あなたたちこそ……」

ホーネット「この作品も完結ということで、特別に私たちアメリカ側の艦魂も参加させていただいたんです」

エンター「…私は乗り気じゃなかったんだけどね」

ヨーク「えー?エンターもジャパニーズ・オンセンが楽しみだって言ってたじゃん」

エンター「そ、そんなこと言ってないわっ! はっ! まさか他の連中も……」

榛名「なんだ、騒々しい」

日向「どうしたのよ、神龍」

伊勢「あら。私たちの他にもお客様が……」

大和「む?あれは……」

全員「ッ!!」

(日本艦魂対アメリカ艦魂ご対面)

榛名「鬼畜米英が何故ここにいる……」

日向「あの馬鹿作者ね……」

エンター「…ふん。黄色いサルたちが仲良く温泉に浸かりに来たってところね」

榛名「…! なんだと貴様ッ!」

エンター「やる?いいわよ。相手してあげるわ、イエローモンキーめ」

榛名「面白い。斬り捨ててやる……」

伊勢「ちょっと榛名、駄目よ」

ホーネット「そうよ、エンター。こんなところまで争う必要なんてないわ」

エンター「…ふんっ」

榛名「…ふっ」

ヨーク「…全裸で対峙し合っても周りが困るだけなんだけど……」

エンター「あがる」

ホーネット「えっ、もう?」

エンター「こんな奴らと一緒に入れるか」

(エンター、さっさと出て行ってしまう)

榛名「…ふんっ」

ホーネット「ごめんなさい。あの子、いつもああで…」

伊勢「いいのよ、気にしてないから。こっちこそごめんなさいね」

ホーネット「…その。良かったら一緒に入りませんか?」

伊勢「ええ。喜んで」

ヨーク「みんなで入ったほうが気持ちいいよ〜」

日向「…ここは日米友好ってところかしらね」

神龍「あはは…。あのかたも、私たちと仲良くできたらいいんですけど……」

日向「無理なんじゃない?見る限り、根っからの反日家みたいだし、頭固そうだし…」

神龍「そ、そうでしょうか……」


(三十分後……)


エンター「HAHAHA!ワビサビ最高〜っ!」

(打ち解けあう日米艦魂たちの図)

日向「……マジ?」

神龍「ちなみにこうなった経緯いきさつは…」

(十分前……)

エンター「……What!?」

ホーネット「どうしたのエンター」

エンター「タ、タレがすり抜けていくっ!」

(ざるそばにつゆをかけるエンター)

エンター「これでは食べれないじゃないのっ!」

ホーネット「(なんだかんだ言ってエンター、温泉といい和食といい、日本の文化を楽しんでるわね…)」

榛名「馬鹿か…」

エンター「なっ! 貴様、なにをしにきた!」

榛名「貸してみろ」

エンター「あ、こらっ!気安く……」

榛名「これはな、かけるものじゃなくて、そばのほうからつゆにつけて食べるものなのだ」

エンター「ホ、What!?」

榛名「あとワサビをつけるのは常識だ」

エンター「………」

ズルッ…(つゆにつけてソバをすする)

エンター「!! こ、これが日本のワビサビというものなのね……。な、なんてこと…。他人に対しての心遣いと優しさが伝わってくるわっ!」


(…と、いうわけだ)

エンター「うう〜。うまく啜れないわ……」

ヨーク「私たちにそんな習慣なんてないもんね」

伊勢「でも美味しいですよ?食べさせてあげましょうか」

エンター「…ヨークも子供じゃないわ。余計なことは…」

ヨーク「わーい。あ〜ん」

伊勢「ふふ…」

エンター「ヨークゥゥゥッッ!!」

日向「随分とまぁ仲良く賑やかにやってるわね」

神龍「いいことじゃないですか。戦争も終わったんです。これからの時代、日本とアメリカは敵なんかじゃありません。お互いに仲良くしあえる友好国になりますから」

日向「昨日の敵は今日の友…ってことね」

作者「いいことですね。この作品が終わったように、日本とアメリカもお互いを敵として戦いあう時代が終わり、これから新たな時代が始まったわけですね」

神龍「終わりは全ての始まり、です…」

日向「そういえば馬鹿作者、この作品が完結した後はどうするんだっけ」

作者「とりあえずこれからも艦魂作品は書いていこうと思います。黒鉄先生も現在前線から退いている身ですがいつか帰ってくると思いますし。私も外伝などを書いてみたいとも思ってます」

日向「そういえば私たちの最期に関しては触れられてなかったものね」

作者「それは外伝で語るための処置です」

神龍「そういえば今回は最終回だったのに新キャラも出てましたね。それもその処置の一つなんですか?」

作者「ごもっとも。今回登場した秋津衛という元陸軍軍人は葛城との話としていつか外伝で書いてみたいと思ってます」

日向「そういえばこの作品って謎の人物も多かったわよね…。例えばあの棗玖深なつめぐみっていう女の子とか」

作者「たぶんお気づきのかたもいらっしゃると思いますが……。この作品の冒頭の詩と最後の詩に、『natuemgumi』という文字を見たことがあるかと思います。それが彼女です」

日向「で、その女は何者なの?」

作者「…さぁ」

日向「さぁ…っておいっ!」

作者「いいじゃないですか。まぁとにかくそこのところは皆さんの客観性にお任せします」

日向「全然意味わかんないわよ…」

神龍「色々とこの作品はここにいる艦魂の皆様、そしてここにはいない艦魂の方々と、読者様、先生がたのおかげでこの作品もここまで来れたんですね」

作者「はい。遂に無事この作品も完結。長かったようなあっという間だったような…。なんとか最後まで書くことができて本当に良かったです。先生がたの意見やご感想を聞いて励みになりましたし、本当に皆様には感謝の仕様がありません。そしてこれからも私は極上艦魂会の一員として艦魂作品を書いていく所存であります。

 黒鉄先生。

 草薙先生。

 零戦先生。

 火星先生。

 二等海士長先生。

 007先生。

 赤眼先生。

 流水朗先生。

 霜月龍牙先生。

 小澤治三郎先生。

 新米士官先生。

 火龍先生。

 桐生先生。

 紅い月先生。

 神龍原案者のかがみさん。

 艦魂同盟同志と艦魂作品を書かれる先生がたに。

 どうか皆様、今までありがとうございましたと同時に、これからもよろしくお願いしますっ」

神龍「本当にこれまでありがとうございました。私も皆様に出会えて本当に良かったです。本編以外でも、色んな先生がたのところにお邪魔して、色んな艦魂たちと出会ったり、とても貴重な体験をさせていただきました。私は一生彼女たちや先生がたとの思い出を忘れたりなんかしません。そしてこれからも機会があればいつでもよろしくできたらとても嬉しいです。ぜひまた出会える日まで―――

 本当にありがとうございました。本当は菊也さんと二人で幸せにずっと過ごしていたかったけど、それでも私は幸せです。菊也さんはこれからを強く生きてくれるって約束してくれましたから。私も安らかに眠ることができます。でも、私という存在は未来永劫不滅です。皆様とともにあらんことを祈ります。

 こんな作品を最後まで読んでくれてありがとう。皆さん、体調にお気をつけて元気に平和な日常を過ごしてください。

 では。今までのご声援と応援、ありがとう。そしてこれからも神龍を応援してくれたら私も嬉しいです。

 また、いつか会える日まで……

 さよならは言いません。

 また会える想いをこめて。

 ばいばいですっ!」


作者&艦魂一同「今までのご声援ありがとうございましたっ!そしてこれからもよろしくお願いしまーすっ!」




 護衛戦艦『神龍』〜護りたいものがそこにある〜はこれにて完結。読者様と先生の皆々様がた、本当に今までお付き合いくださりありがとうございました。黒鉄先生に続いて私、伊東椋も主砲作品(?)を終わらせていただきます。

 先生がたはこれからもまだまだ艦魂の世界を広げていくばかりですが、私も一時前線を退いてからまた、本作で書けなかった物語として外伝等を書いてみたいと思っています。なので次に皆様に出会えるのは外伝を公開したときですね。その時、どんなキャラが物語を紡いでいくのかお楽しみに〜。

そして。記念として、まぁ【特報】動画に続いて自己満足的なものですが、またまた性懲りも無く動画を作ってみたり。

http://jp.youtube.com/watch?v=MMbWTD-WpNU

この作品のED的な感じで。二作目なので相変わらず初心者バリバリの自己満足動画ですが。


では。これにて神龍も終了です。

今までありがとうございました。そしてまたお会いしましょうっ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>歴史部門>「護衛戦艦『神龍』 〜護りたいものがそこにある〜」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
[良い点] 結論………泣けました [気になる点] なせ彼女に"神龍"という名をつけようと思ったのか……… 理由を知りたい。 [一言] 実はWIIUマイクラで創った戦艦達の中になんと神龍が居ます! この…
2020/08/12 08:44 ルミナ・スカーレット中将(22歳)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ