表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/45

Epilogue.....06 〜 Refrain 〜

約一週間ぶりの更新。遅れて本当にすみません…

こちらの北の大地、とうとう雪が降りました。

しかも十度以下を切って、とても寒い一日でしたっ!

さぶっ……。

あぁ、これから冬なんだなぁ…と肌で感じさせられます……。

そして遂に物語もいよいよ本格的に終盤……ぶほぁっ!!

日向「あんた、そのセリフをこれまでに何度聞いたかしら……?とっくに聞き飽きてるんですけど……」

作者「何故ここに日向がッ?!お前、あとがきだろうがぁぁっ!?」

日向「あんたのグダグダさに堪忍袋の尾が切れたのよ…。あとがきまで待ってられないわ。ここで死なすッ!」

作者「最後の殺しセリフはどこかで聞いたような……ってやーめーてーっ!ゲストさんもお呼びするんだから日向は大人しくあとがきで待ってろよぉぉっ!!」

日向「…そういえばそうね。で、今回は誰かしら」

作者「それはあとがきまでのお楽しみということで…」

日向「やっぱ死なす」

作者「え……」

日向「死なす、死なす、死――な――す――ッッ!!」

作者「ぎゃーーーーーーっ」


…お見苦しいところをお見せしました。本編のほうもお見苦しいところがあるかと思いますが良かったらどうぞ。あとがきは『新太平洋戦争』からあの方です。

 横須賀港には大日本帝国の栄光のはじまりとされた日露戦争で日本に勝利をもたらした戦艦『三笠みかさ』が保存されており、その一郭は三笠公園となっている。

 全長122メートル、幅23メートル、排水量15140トン。外見から見るとそれほど大きいという感じはなく、こぢんまりとした印象を植えつける。

 日露戦争を日本の勝利に導いた連合艦隊の旗艦、戦艦『三笠』。

 日本海軍がロシア艦隊を殲滅したという事実は、スペインの無敵艦隊を破った英国艦隊と同様な評価を得た。

 戦艦『三笠』は記念艦に三大記念艦の栄誉に輝き、連合艦隊司令長官・東郷平八郎とうごうへいはちろうは三大提督に列せられた。

 しかしその威厳さは窺える……というほどでもなく、その艦体からだは一部が解体され、荒れ果てていた。

 日が落ちてすっかり夜闇が浸かる空。月光のもとに記念艦『三笠』が佇んでいた。

 ギシ、という木製の甲板が軋む音をたて、改めて荒れ果てていることを実感した、――三笠は、引き寄せられるかのように甲板上を歩いていた。

 兵装や上部構造物は全て撤去されていた。チーク材の甲板までも薪や建材にするために剥がされているという荒廃ぶりであった。

 さらには『三笠』は一時期は戦後日本に進駐する米軍兵士に洋上キャバレーなどとして利用されていた。

 しかし、米兵士たちの遊技場は間も経たないうちに消失した。

 それにはある逸話が伝えられている―――

 洋上キャバレーを設置した米兵たちの前に突然、一人の少女が現れた。

 突然その少女が目の前に現れたとき、米兵たちは怪奇現象に見舞われてキャバレーも根こそぎ破壊され、やがて米軍の間で怪談話が持ち上がるようになる記念艦から逃げ、記念艦にはそれ以降米兵も誰も近づくことはなくなった。

 記念艦『三笠』は静かに、そこに佇んでいた。


 「夏加……?」

 女の子の小さい身体を捜し求めながら荒廃した甲板上を歩く。

 突然消えた夏加。

 そしてここに呼び込まれたかのようにやって来た自分。

 自分と同名の記念艦に乗り込んだ三笠は、ここにいる保障などないのに、夏加の小さな頭を捜し求めていた。

 出会ったときから不思議だった少女。どこか普通の子供とは違う雰囲気。

 あの声が言っていた導き。

 三笠は本当にあの少女が自分をここに導いたかのような錯覚を覚えた。

 ふと、三笠の目の前の甲板に、月光によって生まれた影が伸びた。

 見上げると、艦橋上部―――東郷平八郎元帥が指揮した立ち位置―――に、長髪を揺らした鋭く眼光を光らせる少女が、三笠を見下ろしていた。

 その月光に照らされた存在を見たとき、三笠は息を呑んだ。

 上甲板より艦橋上部に吹きわたる強風が長髪を靡かせ、艶やかな太股が白く輝き、全身に受け止めた光を神々しい雰囲気に纏わせたかのような姿。碧眼がまっすぐと三笠を射抜いていた。

 その少女といえる存在が、艦魂だと気付くのに大した時間は要しなかった。

 三笠が呆気に取られている中、彼女の口が小さく動いた。一瞬の呟きを強風が艦橋上部から上甲板のほうに運ぶように三笠の耳に届いた。

 「導かれし魂――――」

 そのとき、少女は舞い上がり、月面にくっきりと影を作ると、それが大きな蝶となった。

 広がった長髪がまるで蝶の羽根のような形の影となり、少女の存在を大きく顕現した。

 ゆっくりと、ふわりと舞い降りて軍服から膨らんだたわわの双丘を揺らして着地した少女は、顔の半分が仮面に覆われ、片方の閉じていた瞳を開き、眼前に立ち尽くす三笠の瞳をその碧眼で射止めた。

 その視線に圧迫されるように感じるも、ぐっと抑えた。

 滲み出た一筋の汗が、頬から顎に伝った。

 雲から顔を出した半月の月光が二人を照らした。

 絶滅した帝国海軍軍人の第一種軍装を着込んだ少女は月光に照らされて神々しく、同じく月光に照らされている自分なんて比べるほどでもないだろう。

 その碧眼が猫のように輝き、鋭い瞳がそこにあった。 

 顔の半分は仮面に隠されているという変わった風貌だが、片方にある碧眼は痛いほどに鋭い。

 横にすこし傾いた首をまっすぐに伸ばし、少女は三笠がなにか言おうとする前に口を開いた。

 「……よく来た」

 その言葉に、三笠は胸の鼓動が一瞬高まったかのように感じた。

 三笠は生唾を飲み込み、ようやく声を絞り込めた。

 「…どういうことだ? …待っていた、ってことか…?」

 三笠の言葉に、少女は返事も頷きもしない。

 「きみは……艦魂か…」

 少女はそれにも応えなかった。

 「きみは…一体……なんなんだ?」

 今まで出会ってきた、見てきた艦魂たちとは違う、別の世界の住人のような変わった雰囲気を身に纏う少女に対して搾り出た三笠のその問いが、三笠にとって一番しっくりきていた。

 「……ふたつの問いに対し、私は肯定とも否定とも返せない」

 ようやく反応した少女の凛と通った声。

 「…どういうことだ?」

 「……ひとつ、私はあなたを待っていたわけではない。ただあなたがここに導かれるか否かを、どちらかの未来を待っていただけ」

 長髪がゆらりと揺れ、碧眼が猫の目のように輝いた。

 「……ふたつ、私は世に文明と知恵を廻らせる人の魂でもなく、世に血と火を世界に染める兵器の魂でもない」

 「…??」

 「……どちらかといえば、かつては後方の存在であった。しかし今はそうではない」

 三笠は困惑しそうな頭を冷静に整理した。

 「…昔は艦魂だったってことか?」

 「……私の存在はある機を境に変化し、それ以降私という存在は双方の存在意義の狭間に行き交う半端な存在としてこの魂に刻んでいる」

 必死に頭を整理しようとしても、やはり艦魂(?)と思われるべき少女の言動は、大半が理解できなかった。

 昔は艦魂だった。しかし今は人間でも艦魂でもない。

 そんな要約が、三笠の頭の中に伝達された。

 「…人間でも艦魂でもない?」

 「……私という存在は一度死に、魂が無にさ迷った一瞬の後、別の存在として再び降り立った」

 日露戦争終結直後に、戦艦『三笠』は佐世保港内で後部弾薬庫の爆発事故のため沈没したことがある。しかし浮揚され、佐世保工廠で修理されて再び日本海軍の連合艦隊に復帰した。

 歴史の荒波に『三笠』はその身を投じてきた末に、やがて記念艦となって現在に至るようになった。

 「……だがしかし、私は戦艦『三笠』に宿りし魂」

 「………!」

 そのとき、三笠は少女の後ろに現れた二つの影を見た。

 それは見覚えがあり、そして放たれた声も聞いたことがある、それだった。

 「人の子よ。久しぶりね」

 「………」

 白い服を身に纏った長い黒髪を流した少女――棗玖深なつめぐみ――と、そのそばに立つ銀髪の黒いスーツを着た人種と性別さえ分からないもう一人。

 あの米戦艦に収容されたとき、あの夜に出会った二人だった。

 「元気してたぁ?」

 「………」

 歳相応の柔和な顔に笑顔を振りまく少女。その隣には無表情に立ち尽くすもう一人。

 「そんな怖い顔しないでよ」

 くすくすと笑う少女。しかし三笠は気を緩ませるわけにいかなかった。

 出会ったときから奇怪な存在だった正体不明の少女。なにが目的で、なんのために、自分の前に現れたのか。そしてこの少女によって自分はここまで導かれたことを知る。

 「目的? 目的なんて特にないわよ。私たちはただ、全てを知っているだけの存在。…いや、全てを見ているだけの存在…いわば傍観者ってわけかな」

 人差し指を立てて、首を傾げてにっこりと微笑んで言う少女は歳相応の可愛らしい女の子そのものだ。しかしその存在を纏う雰囲気がどこか冷たく、胸をざわざわさせている。

 「……夏加」

 「え?」

 「夏加は、どこだ…」

 自分の裾を摘んでいた小さい女の子。しかし何処に消えてしまった。愛しい彼女に似た柔和な雰囲気をかもし出すこともあった女の子。

 「ああ、あれか…。…あれはただの、あなたをここまで導くためだけのモノよ」

 「……!」

 突然、少女の手に淡い光とともにクマのぬいぐるみが具現化した。それは明らかに夏加がずっと肌身離さず持っていたぬいぐるみだった。

 「あの子はもういないわよ」

 「………」

 信じられないという風に愕然とする三笠に、少女は何も動じることもなく口を開いた。

 「そろそろ本題に入りましょうか」

 立ち尽くす三笠を置いてけぼりにするようにさっさと話し出す少女。

 「今回はどうしても可哀想な子がいたから、気まぐれになっただけよ」

 少女の言葉に、三笠の眉がピクリと反応した。

 「……可哀想な子?」

 「彼女よ」

 「………」

 次の瞬間、彼女のスローモーションのように動いた口から紡がれようとした言葉が、三笠の鼓動を一瞬だけ波高く打った。

 「…あなたの愛しい彼女のことよ」

 「―――ッ!」

 「…そこにいるのよ、彼女」

 少女の視線は鋭く変わって自分を射抜いていた。否、自分を見詰めているのではない。

 自分のそばにいる誰かを、ずっと見ていた……。

 「そばにいるっていう想いが彼女を留まらせてしまっているのよ」

 汗が滲み、顔を青くしている三笠に、少女は追い討ちをかけるように淡々と続けた。

 「あなた、彼女があなたのそばにずっとそばにいるって約束したわよね」

 三笠は闇の中で見た彼女の最後の顔を思い出した。

 なにもない無の世界で、自分は彼女の最期の姿を見た。最後まで笑顔だったが、どこか悲しい雰囲気を隠し切れていない。そして消え往く彼女の口から聞いた「ずっとそばにいる」という言葉がずっと三笠の心に反響していた。

 あの惰性と絶望に生きていた日、雨の日も、確かに彼女がそばにいてくれていたような気がした。

 それだけではなく、何度か彼女がそばにいてくれている気はしていた。

 「その約束が、彼女を貶めている」

 「………」

 「あなたのせいでね」

 「…どういう、ことだよ……」

 三笠はやっと言葉を絞り込んだ。しかしそれはとても弱々しいものだった。

 少女の瞳はいつしか冷淡で鋭い瞳に変わって三笠をその瞳に映していた。

 「彼女はもう艦魂ではない。ただのさ迷う魂よ」

 「ッ?!」

 「死んだ者が、死んだ後もこの世にいることは毒なのよ。この世が生きる者の世界。あの世が死んだ者のための世界だからね。そして、死んだ者がこの世に留まり続けると、悪霊や怨霊といった場合になることも多いわ」

 彼女は死んだ。

 あの決戦の海で、自分を残して、暗海の底に沈んでいった。

 しかしその魂は、まだ自分のそばにいるという。

 「今の彼女はただのさ迷える魂よ。艦魂でも人間でもない」

 自分の艦体からだは沈み、魂だけとなれば、艦魂も人間もない。それは死んだ人間にも同じことがいえる。

 彼女は、他の艦魂たちとは違って、天国にも行かずにこの世に留まり続けている……?

 三笠は崩れるように折れた膝を付き、うな垂れた。

 頭の中が混乱しそうだった。突然現れた、自分の姓と同じ名を持つ戦艦の魂と言う存在と、自分をここまで導いた存在。そして聞かされた彼女の今の姿。

 ようやく死んでしまったことで、戦争という悲しみと苦しみから解放されたと思っていたのに、自分のせいで彼女をここに留まらせてしまっている……。

 そんな事実が三笠を押しつぶしていた。

 「な、んで……」

 「何故って。それは彼女があなたを愛しているからじゃないの?」

 「………」

 少女は小さく溜息を吐き、三笠を見下ろすような姿勢で、腰に手を当てて三笠を見詰めた。

 「でも、彼女。その魂を蝕まれてるわよ?」

 「な…ッ」

 「さっさと成仏させないと、やばいことになるわねぇ。今でも彼女、苦しんでるようだし」

 少女の言葉が、三笠の耳に痛く入ってくる。

 冷静に考えれば少女の言葉のひとつひとつなど、普通信じられないものばかりだが、何故か三笠は全てが真実に捉えることができたのだ。

 自分自身も、確かに彼女の存在を僅かに感じるからだ……。

 「助けたい?」

 三笠は顔を上げ、長い黒髪を流して見下ろす少女の瞳を見た。

 「彼女を、助けたい?」

 少女のはっきりと聞こえた声が三笠に浸透する。

 自分は彼女を助けることができなかった。

 ずっと支え、支えられてきた。愛しい彼女の姿。いつも彼女を助けてやりたいと思っていた。護りたいと思っていた。護りたいものが、彼女――神龍――だった。護りたいものが、そこにあった。

 しかし自分は結局彼女を護ることも、助けることもできなかった。逆に自分だけが彼女に救われたのだ。

 なのに、自分は生き残っても、彼女が死んだ後も、彼女は自分のために苦しみ、自分は助けられずにいる。

 自分は、終始ずっと彼女を助けられないままだった。

 そんなの―――嫌だった。

 「…もちろん。助けたいさ……ッ!」

 振り絞った声が大きくなって三笠の口から吐き出された。僅かに嗚咽が混じっているかのように、その瞳からも涙が滲み出ていた。

 ぎゅっと拳を握り締めて肩を震わせる三笠を見下ろし、ふともう一人の戦艦の魂といった少女を一瞥した。

 半分仮面の片方に露になっている碧眼が少女の瞳と合わさり、その顎が頷いた。

 カツ、カツ、と音を鳴らして三笠のそばまで歩み寄ったそれは、三笠を見下ろして投げかけた。

 「貴様の望むものを言え」

 「………」

 三笠はゆっくりと、その片方だけの碧眼を見詰める。

 「ひとつぐらい、叶えてやろう。私は半端な存在ゆえ、それを叶える力さえ持っている」

 「…俺の、願いは……」

 三笠は、愛しい彼女の笑顔を思い出す。

 それがカメラのフラッシュのように何度も瞬き、そして三笠の心にその願いがいっぱいになった。

 「俺の願いは―――」

 



                      ●




 体中が指の先という端まで痛み、しかしすこしずつ感覚も徐々になくなっていく。口の中が鉄の味で充満し、視界もうっすらとぼやけてくる。

 ぼやける視界に、彼の必死に叫んで歪む表情と、その叫びが自分に向けられて鼓膜に響いている。

 愛しい彼に向けて、私はゆっくりと言葉を紡ぐ。

 「三笠二曹、生きてください。これが私の、大好きなあなたへ送る、最初で最後の願いです……」

 そう言って、私は彼の唇に優しく自分の唇をそっと重ねた。

 お互いの唇をただ合わせるだけの時間が長く続き、柔らかさと温もりが口もとを通じて伝わってくる。

 私は最後の瞬間まで彼に私の笑顔を覚えてもらおうと決めた。そして微笑んでみた。うまく微笑むことができたかはわからないけど、彼の瞳にはしっかりと私の顔が焼きこまれただろう。

 そして、最後の力を振り絞った―――

 淡い光が彼の身体を包み、彼がふわりと浮いた。驚く彼は私に対してまた叫んだ。

 「神龍ッ!!」

 私の名前を、彼は最後まで呼んでくれた。

 とても、嬉しかった。

 一瞬、泣かないと決めていたのに涙が溢れそうになった。

 だが、その涙が溢れる前に、彼は私の前から光とともに消えていった。

 「三笠……、菊也さん。……本当に、あなたが大好きです」

 彼の名前を初めて呟く。気恥ずかしくなったが、こんな感覚も良かった。

 でも、こんな気恥ずかしい思いもこれからは感じることはできないのだ。

 ぱらぱらと、彼を包み込んでいった光の粒子が舞っていた。

 それは美しかった。

 「私……死んじゃうんですね…」

 自分の死が間近に迫っていることを知る。

 死ぬのは怖い。まだまだ生きたかった。彼と一緒に。

 もっと彼のそばにいて、一緒に笑って過ごしたかった。彼のおにぎりを、カレーを、彼のつくってくれたご飯を食べたい。榛名姉さんにあげるケーキの作り方を教えてもらったときのように、もっと料理を彼から教わりたい。もっと女の子らしいところを身につけたい。

 それが、私の尊い願い。

 でも、もう叶わない。だって私はこれから死ぬのだから。

 もう……これまでに大勢の仲間を失った。親友たちを失った。いつもそばにいてくれた榛名姉さんたちと別れ、長い時間を一緒に過ごしてくれた親友の矢矧や雪風たち、いつも私を支えてくれた大和さん、みんながみんな、私のそばからいなくなった。

 愛しい彼も離れ、私はここで一人ぼっち。

 一人で死ぬ。

 いいの、これで。彼まで死なせるわけにはいかなかったから。だから、私は彼を死なせない。彼まで連れていくことはできない。

 私の中に、まだ大勢の人たちが残っている。彼らの悲愴な叫びが伝わる。みんな、次々と死んでいく……。

 私は一人じゃないんだ。でも、私の中に残っている彼らも次々といなくなっていく。

 最後には、私一人になっていた。

 やっぱり、私一人なんだな……。

 ぽろりと涙がこぼれる。

 どんどん涙が溢れてくる。

 あれ……なんでだろう…。泣かないって決めてたのに、涙が溢れて止まらないよ……

 雨が降り始めた。

 雨と一緒に頬を溢れる涙が伝っていく。

 雨か涙かわからない、ぼやける視界に彼の純粋な笑顔を思い出した。

 そして最後に呼んでくれた私の名前。

 私は―――彼を本当に愛していた。

 初めて出会った、自分の存在を見てくれる彼。

 初めて出会ったときは、いきなり悪戯されて、でも優しくて、やっぱりかっこよくて、かわいくて、そんなヒトだったけど……

 私は彼のことが本当に大好きだった。

 彼と過ごした日々、他の艦魂たちと彼とともに過ごした時間、大変なときや悲しいとき、嬉しいことも色々とあったけど、みんなが楽しくて、幸せだった。

 彼との思い出、仲間たちとの思い出。走馬灯のように流れていく。

 走馬灯って本当なんだなぁと呑気に思い、クスリと微笑む。

 視界に浮かぶ彼の笑顔に向かって、私は叫んだ。

 自分の命が消え往くのを感じつつ、私は幸せで満面な表情を輝かせた。

 「―――大好きっ」

 その途端、私の視界は完全に闇に支配された。

 私の意識は、どこかに飛んでいった。



                       ●



 彼が泣いている……。

 生きて日本に帰ることができたのに、彼は泣いていた。

 あの時と同じような雨が降る中、私は窓に額を押し付けて泣いている彼を悲しげに見詰める。

 彼の姿を見るのは辛かった。

 でも、私は彼のそばにいなくてはならない。

 私は彼と約束したのだから。

 一瞬、窓の向こうにある彼の視線が自分の姿を見た気がした。

 私はドキリとなる。

 しかし彼は見えているはずがなかった。

 「菊也さん……」

 私は彼の名前を呟いていた。

 降り注ぐ雨の中、私はなにも感じない。雨に打たれているわけではない。だって身体がないのだから。でも、何故だろう……。何故か冷たさというありえない感覚がある。

 自分の腕がどこか痒い……。そこを掻くために、私の腕からはらはらと粒子が舞い散った。


 

                       ●



 彼は雪風や葛城たちと出会い、すこしずつ自分を取り戻していった。

 私はその姿に安堵していた。

 彼は言ってくれた。

 「これからは、強く生きる」

 私は彼がこれから生きてくれることにとても嬉しく感じた。

 彼はそう言ったとおりに、強く生きてみせた。色々とあったけど、彼は生きてくれた。

 私は……こうして彼のそばで、彼を見守るだけでいい。

 それだけで、私は……

 

 ―――本当に、それでいいの?―――


 ……え?だ、誰…?


 ―――答えなさい―――


 ―――あなたの望み、それはなに?―――


 ……私の、望みは…


 その時、私は答えるのを戸惑っていると、なにかに吸い込まれるような感覚に襲われた。

 強力な吸引力に引っ張られるような感覚。頭がぐるぐると回転し、視界が動転する。

 そして私の意識は再び飛んだ。

 

 ………?


 あれ…?


 私、こんなに手、小さかったけ…?


 というか…このぬいぐるみは一体……


 「ほら、行くぞ夏加」

 

 …え?


 目の前に、彼の姿が、そして見上げると彼の微笑みがあった。

 私は目を見開いた。

 しかし彼に映る私の表情はなにも変わらないふうに見えていた。

 彼の手が私の小さな手を握る。

 そして私は彼に引かれるままに夕闇の中を歩いていた。


 


                         ●



 ―――もう一度問おう―――


 あの時聞いた声とは違う、別の声が聞こえる。


 ―――貴様の望みは、なんだ―――


 あの時と同じ質問。


 私は―――――



 ―――そんなので、いいのか?―――


 もちろん。


 ―――それは、あいつの望みと同じものだと貴様は思うか?―――


 …うん。きっと。でも、同じじゃなくても、私はそう願います。でもそれはないと思う。だって彼も私も、互いを想ってるだもの……


 ―――わかった―――


 …できるの?


 ―――できるから叶える―――


 …なんで、私たちにここまでしてくれるの?


 ―――あいつの気まぐれだ。私は付き合いみたいなものだな。それに、貴様は特別だ―――


 特別……?


 ―――貴様は生まれる存在をある者たちの都合で変えられ、そして勝手に生まれ、そしてその者たちに見捨てられた果てに生涯を終えた魂だ。同情するな―――


 …同情してくれるんですね。でも、私は決して自分のことを特別だなんて思ってないですよ?


 ―――何故だ―――


 私は確かにたった一隻ひとりの護衛戦艦でした。でも、それだけ。私は矢矧たちや榛名姉さん、大和さんたちとひとつも変わりません……


 ―――そうか。しかし、なんであれ貴様の望みも変わることはないだろう。望み、叶えてやる―――


 お願いします…。そして、ありがとう……


 ―――奇跡を、与えし―――


 銃口が、ぬっと闇の中から現れ、自分の額にぴたりと押し付けられた。

 そして、渇いた音とともに、自分の意識がまた飛んでいった。


 

                          ●


 「……それが、貴様の望みか」

 「そうだ…」

 半分仮面、片方の碧眼でジッと三笠を見詰める。三笠は先ほどまでとは別人のように立ち上がり、真っ直ぐに睨むように鋭く見詰め返した。

 やがて瞳を閉じ、「そうか…」と頷いていた。

 なにか意味があるような雰囲気だったが、やがて開いた鋭い碧眼は三笠を射止めた。

 「では、叶えよう」

 三笠は向けられたものを見てぎくりとなった。

 それは、拳銃だった。

 細長い銃身の先に開く銃口が向けられ、しかし三笠はぐっと抑えて臆することもなく対峙する。

 「二つの願いが重ねし望みを―――」

 指が引き金に掛かる。

 「叶えよう」

 引き金が引かれ、渇いた音が響いた。

 「後は、自分たち次第」

 三笠の意識は、途絶えた―――


 

 


                         ●

 



 白い桜吹雪が舞う温暖の季節――――

 また桜が舞う春がやって来た。

 白い桜吹雪が舞い散る中で、青年と少女が肩を並べて歩いていた。

 大きな桜並木が立ち並び、ずっと先まで桜が舞う道が続いている。そんな光景を一人の少女が目をキラキラさせている。

 「これが桜ですかぁ。とても綺麗でございまするっ!」

 たたた、と少女が走り出す。

 その後を、青年が微笑ましく歩いてついていく。

 少女はくるくると名前のとおりに舞い、着物の長い裾がひらひらと揺れる。長い黒髪が靡いた。

 「ありがとうございます、菊政どの。おかげで桜を見ることができました」

 「…気付かれる前に戻らなければいけませんがね」

 少女の身体の弱さを思い、青年は苦笑しながら言った。

 しかし今日は特別な日だ。彼女の誕生日である。

 こんな日くらい、彼女を自由にしてもバチは当たらないだろう。

 ……たぶん。

 「どうしたのですか?菊政どの」

 「いえ、なんでもございません」

 彼女は彼の隣に駆け寄ると、彼の腕を取ってぎゅっと抱き締めた。

 「ま、舞?」

 「えへへ」

 桜と同じくらいの桃色の頬を見せて、彼女は微笑む。こちらを見上げて、可愛らしい笑顔を振りまいている。

 二人は寄せ合うようにして、舞が彼の腕を抱き寄せている。大人びた彼女の身体を表している胸の膨らみが腕に当たっているが、それに構う暇はなかった。

 顔を赤くして動揺しかけたが、普段の鍛えられた自制心によって、それを抑えた。

 「…ったく」

 そして溜息を吐く。

 その時、なにか違和感が自分の鼓動を打った。それは既視感というものだった。

 「…どうしたのですか?」

 「…いや、なんでもない」

 「桜、綺麗ですね…」

 「………」 

 笑みを微かに浮かべながら。

 寄せ合うようにして、二人は桜吹雪を見上げる。白に満ちた桜がひらひらと、二人の周りに舞っていた。

 その後、屋敷に帰ると、二人して抜け出していたことがどうやら屋敷のほうにバレていた。

 たまたま、いつも舞がいる寝室の前を通りかかった者が異変に気付き、舞も自分もいないことに気付いて報告したらしい。

 舞は、怒鳴りつけられ張り倒される自分をとても心配げに見詰め自分の名前を呼んでくれたが、他の者たちがさっさと嫌がる舞を無理矢理連れて寝室に連行してしまった。残された自分は仕える主(舞の父親)に怒鳴られ張り倒され叩かれ、そして自分の親にも同じことをされて散々な目に合った。

 おかげでその日の飯は抜きにされ、牢屋に放り込まれてしばらく彼女と会うことはできなかった。

 日にちが経ち、ようやく解放されたかと思えば、あることで遠征に出っ張られることになっていた。

 どうやら隣の奴らが不穏な動きを見せているとのことで偵察に行けということだ。

 すっかり先日のことで主に悪い印象を植え付けてしまった自分は早速危険な役割を押し付けられてしまった。

 仕方なく了承する以外になかった。せめて最後に舞と会わせてくれと懇願するが、それも怒鳴られて却下された。

 ならばと誰にも見つからないように、夜、舞の寝室に忍び込み、舞との再会を果たした。

 「誰」

 「わたしです、舞さま」

 「菊政どの…ッ!」

 数日会えなかった彼。舞が布団から起き上がり慌てて襖を開ける雰囲気を感じ取る。そして襖が開けられ、数日ぶりに見た彼女の顔を確認した。

 「舞……ッ?!」

 ぎゅっと彼女に抱き締められる。

 手を首の後ろと背に回され、ぎゅっと抱き締められる。鼻に彼女の黒髪のいい匂いがつき、彼女の匂いだと感じた菊政は安堵と温もりに浸った。

 「菊政どの……ッ!菊政どのぉ……ッ」

 彼女の嗚咽が漏れる。

 自分のことをこんなにも心配してくれた彼女の優しさを知る。そして彼も、彼女の優しさと温もりを感じながら、自分からも彼女を引き寄せるように抱き締めた。

 「舞……」

 月光が、互いを抱き締める二人を淡く照らし出した。



 そして彼はまた彼女のそばから離れていった。またすぐ戻ると約束して。

 彼女は陣列を率いて屋敷から離れていく彼を想い、布団の中でうっすらと涙を滲ませた。

 長い陣列を率いて先頭の馬に陣取る彼は、ふと屋敷のほうに振り返り、彼女のことを想った。

 お互いは想いをはせながら、離れていった。



 ―――二人を引き裂くときが目の前まで迫っていた。

 雲行きが怪しい空を仰ぎ、彼は彼女のことを思い出していた。

 身体が弱い彼女。体調を崩していないか心配だった。

 そのせいかわからないが、何故か胸がざわつくのが治まらない。

 なんだろう、この感覚は……。

 「菊政どの」

 呼びかけによってはっと我に返る。

 「なんだ」

 そばに肩膝を折って佇む若武者が、自分の前で真剣な面持ちで口を開いた。

 「おかしいのです」

 「…? なにがおかしいというのだ」

 「報告通りの敵がどこにも確認できません。見張りの兵以外、主力と思われるものは慎重に捜索しましたがどこにも……」

 「いないだと…?」

 自分たちの任務は、最近不審な動きを見せている隣の、将来敵になるであろう者たちの偵察だ。奴らの動向を確認し、その旨を報告する。敵地の奥まで入らなければならないという危険な任務だった。

 胸のざわめきが一層激しくなった。

 「どこにも、いない…?」

 「はい…」

 「…まさか、既に出陣したとか」

 別の誰かが呟く。ザワッと雰囲気がざわつく。

 「出陣って、どこに…」

 「戦に…?」

 「だからどこにだよ…」

 「…まさか」

 兵たちのやり取り。気が付くと、駆け出していた。

 「菊政どのッ!?どこに行かれるのですかっ!」

 兵の呼びかけは耳に届かず、馬を走らせる彼は真っ直ぐに、屋敷へと森を駆け抜けた。

 

 馬を走らせながら、彼は胸のざわめきが苦しくなっていくのを感じていた。

 「はぁ…はぁ…ッ!」

 もう、過ちは繰り返したくない。

 今度こそ、護ってみせる……!

 


 やがて屋敷が見えた。しかしまだ燃えていない。

 あの時、自分はこれより後に気付き、彼女のもとに急いだ。しかし結局間に合わなかった。

 だが今度は違う。いち早く気付き、こうして同じ過ちを繰り返さないために戻ってきた。

 ――しかし、彼は目を見開くことになる。

 屋敷に火の矢が放たれ、それが瞬く間に地獄の業火が大きな屋敷を包み込んでいった。



 「ハァ…ハァ……」

 パシャパシャ、と泥を跳ねて一人の少女が走っている。

 その背後には、暗闇の中で真っ赤に燃え盛る屋敷があった。

 「ゼェ…ゼェ……ぐ…ッ」

 少女は喉の奥から思い切り咳き込んだ。走るという行為は普段の弱い身体にとっては考えられないくらいの無茶ぶりなのだ。

 だが、彼女はそれでも走らなければならなかった。

 いや、逃げなければならなかった。

 「がはッ! ごほごほッ!」

  少女は再び走り出す。いつでも雨が降りそうな空だった。

 「げほっ!…ッ!う、ぐ…ッ」

 地も、先日の雨で泥となっていて走りにくい。喉に生唾が詰まり……いや、鉄の味がする。おそらく血のかたまりだ。咳き込むと一緒に真っ赤な血が微かに飛び散った。しかしそれでも死に物狂いで走った。

 そう、死に物狂いでも走ったのに、彼女は逃げ切ることができなかった。

 「――――ッ!」

 背後から、ぱちゃぱちゃと泥をはねる音。それも複数。明らかに近づいている。

 ふらふらな足取りで走り出すが、限界か、転んでしまった。

 「あっ!」

 ばちゃん!と、大きな音を立てて泥に倒れる。その直後、背後から声が聞こえた。

 少女は立ち上がろうとするが、背後から首の根を掴まれ、その場から動くことができなかった。

 恐ろしくも振り向くと、そこには数人の男たちがいた。一人の男が自分の首根っこを捕まえていることがわかった。

 「い、嫌ああぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」

 少女は叫ぶが、男たちは動じない。むしろ笑っていた。

 抵抗するが、数人の男たちが抑え付けてしまう。数人の男の力の前に女は無力だった。それも少女である。そして動けないまま、一人の男が斬りつけた刀によって服を引き裂かれる。

 恐怖によって悲鳴をあげるが、周りの男たちの大きな手によってふさがれてしまう。

 声が出せない。

 目の前で、男たちの中から奇妙な武士が現れた。

 それは恐ろしいほどに長い銀髪で、本当に人間なのか、性別さえわからない。しかしその瞳はまるで無機質で感情がこもっていないような瞳だった。

 それが握る煌いた白刃を見て、瞳に涙をためながら、彼女はグッと瞳を瞑った。

 そこで、自分の意識が途絶えて死ぬはずだった。

 何故かそんな記憶が一瞬浮かんだ。

 しかし、その記憶にない音を聞いて、我に返った。



 キィィンッッ!!


 

 涙が浮かんだ瞳を開け、少女は目の前にある広い背を見た。

 それは、見覚えのある広い背中。

 鎧に包まれる背中は、泥にまみれて汚れている。

 「菊政どのっ!」

 彼女の叫びに、彼はちらりと自分の背中に後ろにいる彼女を一瞥する。

 その瞳は安堵したような優しげなものだった。

 「間に、あった……」

 ギリギリとせめぎ合う音を微かに立てて、彼の持つ刀身の白刃と目の前の銀髪の若武者の白刃が火花を散らす。

 「…へっ。お前、か……」

 記憶にある、長い黒髪を流した少女の隣にいつもいた謎のもう一人を見る。

 確か、棗劫火なつめごうかとか言ってたな……

 「……私を倒せ」

 棗劫火の小さくもはっきりと届いた声。

 「…やっと喋ったな。お前の声、初めて聞いたぞ……」

 「私を倒せば、権利が与えられる……」

 「権利、か…」

 「それが私の存在……」

 「わかった…。じゃあまずは周りの邪魔者を斬ってからでいいか?」

 彼の言葉に、聞いていた男たちは怒号を吐きかけ、ひとりひとり襲い掛かってきた。しかし彼は身を避け、一瞬にして斬りかかってきた男たちに血の花を咲かせた。

 ばたばたと倒れる男たち。残ったのは銀髪の若武者と彼の一対一。

 静寂が二人の間に降りる。

 雨が泥となる地と彼らを打ち付ける。

 ザアアアアアアアア………

 激しい雨。泥にぺたんと座り込んだ彼女は不安な眼差しを向けるが、彼は雫が滴る中でにっこりと微笑んだ。

 「今度こそ、護るから……」

 「……はい。あなたも、生きてください…」

 お互いに頷く。

 そして目の前に対峙する敵と向き合い、刀を構えなおした。

 「……一本勝負」

 「……手っ取り早くて助かる」

 それぞれ刀身を握って構え、そして―――

 どこからともなく、同時に泥を蹴って駆け出した。

 その間、まるで無音のような空間が、スローモーションのように時間を感じさせた。

 お互いに雫が当たる白刃を煌かせ、それを相手の身体に斬りかかる―――


 「――――――」


 

 ―――貴様の望みは、なんだ―――


 

 「俺の望みは―――」


 

 彼――三笠――は、静かに言葉を紡いだ。



 「やり直したい」


 「そして……」



 「神龍に会いたい」



 三笠の願いは、光となって彼の魂とともに時空をどこまでも遡った。

伊勢「伊勢と〜」

日向「日向のぉ」

伊勢・日向「艦魂姉妹ゲストお呼び出しラジオ〜」


――本番組は、北は樺太、南は台湾まで、全国ネットでお送りいたします―――

――大本営・海軍省・大日本帝国海軍支援協会・艦魂同盟の提供で、お送りいたします―――


日向「よく続くわねぇこのラジオも……。ラジオかどうかも疑わしいけど…」

伊勢「ここまで続いたのも皆さんのおかげですね」

榛名「…ところで、作者の姿が見えないのだが」

日向「ああ、前書きの時点で縛っておいたわ」

榛名「…今回も客人が来るのだろう?この作品の作者が居なければ失礼な気がするのだが……」

日向「いいのよ。その内勝手にあの馬鹿作者から復活するでしょ。まずは私たちでちゃちゃっとやりましょ」

大和「………」

日向「…? ねぇねぇ、榛名」

榛名「なんだ…?」

日向「私たちの司令長官様は何であんな不機嫌というか落ち込んでいるというか……珍しい表情だけど、いつもと違うのかしら?」

榛名「ああ…。これまでに大和長官は色々と先生がたのところにお招きいただいたからな…。ある時は百合騒動の中で、ある時は野球で、ある時は異空間(?)で。なんとメインヒロインの神龍よりオファー殺到だ」

日向「すごいわね…。変態ってなにかと人気出るわよねぇ」

大和「誰が変態だ」

日向「あら聞こえてた?」

大和「そんなペコちゃんみたいな顔をするのはやめろ」

雪風「お、お疲れのようですね…。長官…」

大和「ふむ、まぁな。各先生殿から招待されたのはもちろん光栄なのだが、行けば行くほどそこには必ず可愛いものたちがいるので、それらをみな愛でているうちに疲れてしまってな…」

雪風「あはは…」

天城「そのおかげですっかり長官の変態ぷりがどこも暴露されてたよねぇ〜」

葛城「…いいところなし」

大和「仕方ないだろうっ!だって可愛い者たちばかりなんだもんっ!クールが崩れてデレッてしちゃうんだもんっ!」

日向「キャラ変わってるわよ……」

大和「…む。こほん。あー…まぁ他にも理由はあるのだがな」

日向「どんな?」

大和「いや…。もう私が他のところに登場するたびに(伊)というものが定着してしまっているのだ」

日向「あー…」

大和(伊)「元々は黒鉄殿の大和殿と区別を付けるために仕方なくこんな屈辱を耐えて付けていたというのに、いつの間にかすっかりこんな間抜けな称号が付けられ……って、今も付いてるではないかっ!外せっ!」

日向「まぁいいじゃない。面白いし」

大和「私は面白くないわっ!」

榛名「まぁ…大和長官がどこに出ても(伊)が付いているのを見つけたときには面白かったがな」

天城「(伊)という称号を付けた神出鬼没の変態艦魂現るッ! …うわ。なんか余計によくわからないものになってるよ〜」

大和「…貴様ら、私を愚弄するか……」

榛名「…冗談です」

天城「にゃはは。めんごめんご」

日向「あんた、痛いわよそれ…」

天城「ゲッツ!」

日向「それ古いとか言う以前に死語だからっ!」

榛名「色々と危ないこと言ってるぞ貴様たち」

伊勢「さて。そろそろ茶番はいいかしら?」

日向「姉さん、サラリと厳しいこと言ったね…」

伊勢「いつまでもゲストさんを待たせてはいけませんよ、皆さん」

大和「そういえば今回は誰が来るのだ?」

伊勢「初登場。今回は零戦先生の『新太平洋戦争』から、空母『瑞鶴』の艦魂、瑞鶴さんです!どうぞ〜っ」

瑞鶴「失礼する。私が瑞鶴だ」

日向「わっ?!いつの間に…っ」

矢矧「全然気配を感じなかった…」

天城「や、やるねこの人…」

榛名「噂どおりだな」

作者「瑞鶴キターーーーー」

日向「わっ!馬鹿作者までいきなりなによっ!」

作者「復活!ふっふっふ、たとえ私は滅びようとも第2、第3の作者が現れるのだよ」

大和「悪役のセリフだぞ、伊東殿…」

榛名「というかいつの時代の魔王だ、それは…」

作者「細かいことは気にしなーい。いやいや、ようやく同じ極上艦魂会の同志のキャラを呼ぶことができたよー」

伊勢「他にも艦魂や人間のキャラはいたのに、瑞鶴さんをお呼びした理由は?」

作者「いやー。ほかのキャラも、もちろんどれも良いキャラばかりなんですが、個人的に空母の中では瑞鶴といった空母が大好きですから。というわけで瑞鶴さんをお呼びしたのです」

瑞鶴「そういうことだ。私一人だが、よろしく頼む」

伊勢「いえいえこちらこそ…」

作者「この作品はスタート地点から既に瑞鶴や翔鶴が沈んだ後の話だから出したくても出せなかったしな〜…。いつか外伝で書きたいです」

日向「ま、いくつ外伝を書こうと思ってるのか知らないけど頑張りなさい」

作者「どうも」

日向「瑞鶴か…。私たちが知ってる瑞鶴とは全然違うわねぇ」

榛名「作品的に出てきたことはないしな」

大和「…我々が知っている瑞鶴がとっくに戦死した後の話だからな、この作品は」

天城「そういえばこの作品で空母の艦魂って私たちしかいないよね〜」

龍鳳「そうですね」

葛城「………」

天城「三人だけですこし寂しかったけど、また私たちとは別の空母に出会えて嬉しいな〜っ!」

龍鳳「私もです」

瑞鶴「そちらの世界は終戦の年。その時には私といった真珠湾からの精鋭空母たちは既にいなくなっているからな…」

大和「だがそちらの世界ではまだまだ戦争も続いていく段階だな。我々史実の日本軍が攻略できなかったミッドウェー島を奪い、エンタープライズなど日本の宿敵である米空母たちまで捕獲するとは見事といわんばかりだ」

榛名「…本当、羨ましい限りだ」

瑞鶴「なに。確かにあの戦いは辛く激しいものだったが、戦った者たちのおかげだ。当然の結果だ」

日向「頼もしいことねぇ」

瑞鶴「そういえば、お前たちが知っている私とはどんな感じなのだ?」

日向「そうねぇ。ちょっとドジで危なっかしくて、あなたとは正反対ね」

伊勢「だからいつもお姉さんである翔鶴さんのそばにいたわよね」

榛名「…翔鶴の奴は規律に厳しい奴だったな。妹に対しても時には厳しく、そして優しい姉だったと思うぞ」

伊勢「あら。戦艦と空母は不仲関係だった頃なのによく見てたのね、榛名」

榛名「う、うるさい…。たまたまだ…っ」

伊勢「うふふ」

瑞鶴「私も一度そのもう一人の私に会ってみたいものだな」

雪風「あの〜…」

矢矧「…どうしたの、雪風」

龍鳳「どうしました?」

雪風「いえ、その…」

日向「あまりそんなおずおずしているとまた変態に襲われるわよ」

大和「……ジュルリ(ヨダレを拭う)」

瑞鶴「…! 貴様もいたのかっ!」

日向「今気付いたのっ?!」

瑞鶴「(伊)がなかったから……不覚…」

日向「すっかり存在の一部になってるわね、それ…」

大和「…こほん。ふ、また会ったな、瑞鶴殿」

日向「知り合い?」

大和「いやなに、先日ちょっと私もそちらに招かれたことがあってな」

瑞鶴「…またあんなことを仕掛けるとここがどこだろうと容赦なく斬るぞ」

大和「出来るかな…?さて、あの時出来なかったネコミミを……」

瑞鶴「寄るなぁぁぁぁっっ!! ぐあ…っ あ…、ま、またしてもドサクサに紛れて胸を触るなぁ……」

日向「私たちの司令長官様はいつ百合に目覚めたのかしら」

天城「なんだか色々なところに顔を出している間に以前よりパワーアップしてるね〜」

榛名「というか、元々じゃないのか?」

日向「確かにね…」

矢矧「そういえば雪風…なにか言いかけてなかった…?」

雪風「あ、はい…。…えっと、気になったんですけど…」

日向「なに?(ぎゃーぎゃーもみ合ってる二人を置いて)」

雪風「……長門参謀は、どこにいかれたんでしょうか…?」

日向「あー…。そういえば前回からいないわね」

天城「作者に忘れられたんじゃないの?」

葛城「…愚姉、慎め」

榛名「…長門なら阿賀野とかいう男とデートに行くって言っていたぞ」

天城「ほぉー。やるねー。ひゅーひゅー」

雪風「(いない人にひゅーひゅーって……)」

葛城「…私もいつかは菊也と」

日向「だから前回からいないのね。…なんで榛名が知ってるの?」

榛名「う…っ。いや、あの馬鹿に伝えられただけだ…」

日向「ふ〜ん?」

榛名「…なんだ」

日向「べっつにー」

榛名「………」

伊勢「そういえば瑞鶴さんには将人さんって彼氏がいるという情報がここに……」

瑞鶴「誰の彼氏だぁぁぁぁぁっっ!!」

(瑞鶴、神速の動きで伊勢から紙を奪い取り破る)

ベリリリッ!!

瑞鶴「誰が書いたこんなデタラメッ!」

日向「あら」

(舞い降りた紙切れを摘む日向)

日向「なになに…。『私の作品に登場する伊勢型戦艦二番艦と同じツンデレキャラ』……」

ベリリリリリッ!!(日向、その紙切れをさらに破る)

日向・瑞鶴「どぅあれがツンデレじゃあぁぁぁああぁぁっっ!!!」

作者「がふぁっ!!」

(作者、☆となる)

作者『みんな、逝ってくるね☆』

キラーン☆

榛名「愚かな…」

雪風「空の彼方に飛んで逝っちゃいましたねぇ」

日向「ふぅ…。あなたとは気が合いそうだわ」

瑞鶴「うむ。あの見事な蹴りこなし。そっちもやるな」

雪風「なんだか固い握手を交わしてますけど…」

矢矧「なにかが結ばれた…」

大和「これはいわゆるツンデレ同盟というわけか。もちろん盟主は釘み……」

榛名「おっと長官。それ以上はいけません」

伊勢「…というか、さっきから変な路線を走ってる気がするわねぇ」

天城「ねーねー。ツンデレってなーにー?」

葛城「…教えてあげようか」

龍鳳「教えなくてもいいんですよっ!」

伊勢「はいはい。じゃあ落ち着いたところでお茶にしましょう」



瑞鶴「ではそろそろ帰るかな」

日向「またいつでも遊びに来なさい」

瑞鶴「機会があればな」

大和「今度はネコミミを……」

瑞鶴「断固遠慮する(即答)」

伊勢「それじゃあ、あちらの作者さんにもよろしくお伝えください。今ここいない星となった私たちの作者さんに代わりまして私たちがお礼申し上げます。今回はわざわざありがとうございました」

瑞鶴「いや、こちらも楽しかった。では」


日向「行っちゃったわね」

伊勢「中々かっこいいかたでしたね」

大和「あと可愛くもある。ネコミミを付ければなお良いと思うが…」

榛名「ネコミミから離れてください、長官…。猫派なのは全員承知です」

雪風「(彼氏、かぁ…)」

矢矧「…雪風?どうしたの?」

雪風「あ、いえ…。なんでもありません…っ」

矢矧「なにか悩んでるみたいな感じだったけど…」

雪風「いえ、本当になにも…」

龍鳳「顔が赤いですよ?雪風」

雪風「ええっ?!」

大和「ふむ…。大方、阿賀野殿とのデートでここにはいない長門殿と、将人殿と瑞鶴殿のことで、乙女チックに彼氏かぁと思いつめていたのであろう(驚異的洞察力)」

雪風「…ッ! …ッ!」

大和「雪風が思いをはせる殿方となると、やはり少年ぐらいしかおるまい」

雪風「…え、えええっっ!!?(顔真っ赤)」

龍鳳「へぇ…。やっぱり雪風、そうだったんですか…」

天城「えー?雪風ったら、意外と大胆ー」

雪風「そ、そんな…ッ!わ、私はその二曹さん…じゃなくて三笠さんとは…ッ で、でも嫌いと言うわけでもなくて…ッ えっとその…っ あうう…っ」

大和「あぁ…、可愛いなぁ…」

葛城「………」

天城「か、かつらちゃ〜ん。目が怖いよー」

雪風「そ、それに…三笠さんには参謀長がいますし…」

日向「そういえばあの二人って結局どうなるのかしら?本編だとよくわからない展開になってるけどそれは私の気のせいかしら?」

伊勢「奇跡は起きるらしいわよ、『奇跡』、はね…」

日向「どんな感じなのかしらね?散々焦らしておいて、期待通りじゃなかったらぶっ飛ばしちゃいましょうか」

榛名「まぁその作者は誰かに吹っ飛ばされてここにはいなんだが…」

伊勢「でも一応こんな事態になると思って事前に作者さんから手紙をもらってるわ」

日向「な、なんて手際の良い…」

伊勢「作者さんも学んでるのよ。最後は自分が酷い目に合うことくらい」

榛名「嫌な学びだな…」

雪風「そ、それでなんて書いてあるんですか?」

伊勢「えっとねー」

(手紙を開いて読み上げる伊勢)

伊勢「『こんにちは、本作品【護衛戦艦『神龍』〜護りたいものがそこにある〜】の作者である伊東椋です。おそらくこれをお読みになっているとき、私はここにはいないでしょう。作者である私が直々に申し上げたかったのですが、誰かさんのせいでそれが出来ないということで、代表して伊勢に公表してもらおうと思います。さて、本作もいよいよラスト目前。二人の間に起きる奇跡とはなにか?というかそれは本当に奇跡なのか?期待通りじゃなかったらごめんなさい。ふッ飛ばさないでね。まぁなんやかんやで、本作もいよいよ次回が最終回一話前。遂に次回でエピローグ編も終了し、次回の次回が最終回!ここまで来れたのも皆様のおかげです。あと二話でこの作品も終了ですが、最後までお付き合いくださいね。伊東より』」


全員「……………」


全員「ええええええええっっ?!!」

榛名「遂にこの作品もあと二話で完結するのか…」

伊勢「…の、予定らしいわね」

日向「あの馬鹿作者っ!そんな重要なことは自分の口で言えボケェェェっ!!」

天城「作者さんを吹っ飛ばしたのは日向だけどね〜たはは…」

葛城「………(溜息)」

雪風「ど、どうなるんでしょうか〜っ」

矢矧「次回までわからない…」

龍鳳「とりあえず、次回の更新を待つしかないということですね。本編やこのあとがきもどうなるのでしょうか…」

大和「次の更新がいつになるのかわからん作品だが、最後までよろしく頼む…」

日向「あぁもうっ!あの馬鹿作者を捜しに行くわよ!」

榛名「随分遠くまで飛ばされたようだが…。というか空に……」

日向「とっ捕まえてみっちり詳しく聞かせてもらうんだからっ!さぁ、行くわよっ!」



その頃、作者は木の枝に引っかかっておりました。


作者「う〜ん…。星が綺麗だー……。こんなこともあろうかと伊勢に手紙渡しておいたけど読んでくれたかなー…。なんだか妙な胸騒ぎがするのは何故だろう…。私の本能が逃げろと訴えているんですけど…。あ、私の口から改めて申し上げます。次回、遂に作者曰く奇跡(あまり期待しなくてもいいですよ涙)が起こり、本作もあと二話で完結です。次の次が最終回ってわけですね。こんな作品ですが、最後までよろしくお願いします。…そういえば、黒鉄元帥の艦魂年代史も完結したみたいですし…。私もいよいよ神龍が終わるのかー…。でも私はまだまだ艦魂を書いていくつもりですよはい!てなわけで、これからも紡がれる物語の最後までよろしくお願いしまーすっ。あ、零戦先生。瑞鶴を出させていただきましたがどうでしたか?なんだか不安なんですが…。良かったら感想とご意見お待ちしておりますっ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネット小説ランキング>歴史部門>「護衛戦艦『神龍』 〜護りたいものがそこにある〜」に投票 ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ