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<三十> 米戦艦部隊と激突ッ!最後の艦隊決戦

先日まで学祭たるものがあってしばらく更新できませんでした。今回はいつもと短いですが、なんとか更新できました。もっと先の日に更新になるかな、と思いましたが今日中に更新してみました。

遂に護衛戦艦『神龍』が米戦艦部隊と激突、神龍の最後の戦いが始まります。

神龍、そして三笠はどう戦い、どうなっていくのか。

ご覧ください。


 戦乙女たちの魂が天に召された日が闇夜を更け、朝日が水平線から昇った。

 昨日、決死の覚悟で大和撫子たちが戦ったとは思えないくらいの穏やかな朝の海だった。

 波打つ海面は、表上は果てしなく穏やかで、しかし海底は彼女たちの亡骸が横たわっている。生き残った神龍たちは、まだ、彼女たちの墓場である海面上に浮かんでいた。

 連合艦隊司令部の電令どおりに撤退するのは、『冬月』『涼月』『初霜』『雪風』の駆逐艦四隻。

 そして進撃を続けるのは、独断専行の『神龍』、戦艦一隻。

 ―――いや、護衛戦艦一隻。

 『神龍』からは一割の退艦希望の乗員たちが『冬月』『初霜』『雪風』に移乗し、日本本土の方角に艦首を向けた駆逐艦の甲板上、そして沖縄方面に世界一の巨砲と艦首を向けた護衛戦艦の甲板上に、ズラリと乗員たちが整列していた。

 それぞれの艦尾には旭日旗が海風に優しく撫でられるように靡き、それが輝く朝日と重なるようになって、煌きを増していた。

 静寂を支配していた海原で、ラッパが鳴り響いた。

 ラッパの音色に、乗員たちは心にジンと来る感情を浸った。

 艦橋では草津をはじめとした各長たちが敬礼し、甲板上に整列する彼らも、全員が踵を揃えた見事な敬礼を見せた。

 やがて軍歌が海風に乗って流れ、それぞれの艦の煙突から煙が吹き出した。

 そしてスクリューが回りだし、艦尾から波が荒れ、彼女たちは前進を始めた。

 島のように浮かぶ『神龍』からゆっくりと離れていく駆逐艦の彼女たち。

 三笠も、そして神龍も去っていく彼女たちに向かって敬礼していた。

 三笠は敬礼を続けながら、隣に立つ神龍を一瞥した。敬礼を掲げる右手の下にある眼は、普段の彼女からは感じさせない、強い想いが宿っていて、それは炎のように燃え、そして生きた輝きを放っていた。

 それを見て、三笠は口もとから笑みを漏らし、遠ざかっていく彼女たちが見えなくなるまで、ずっと敬礼し、見据え続けていた。

 三笠は片方の左手に抱えた本を、ぎゅっと力を込めた。

 


 撤退した駆逐艦隊を見送り、『神龍』も航海を始めた。三笠は一度、自室に戻った。

 出撃前に可燃物を陸揚げしたのでひどく殺風景だった。

 三笠は手に持っていた一冊の小さな本を見た。

 それは緑色の表紙に半分が血痕で赤黒く染まった、一冊の短歌集だった。

 歴史に名と詩を残す数々の偉人たちの詩が載っている。それが何百回も読まれたのが、一目でわかるほどに使い古していた。

 本を捲れば、眼を細めなければ見えないくらいに小さな字がびっしりと並んでいる。それは一つ一つの短歌だった。千年の歴史の中で紡がれた日本人が唱えた数知れぬ短歌。

 短くも深い情が宿っている。それは人の心を謳うものもあれば、自然を謳うものもある。

 そしてそれを読んだ者の存在も、その本は刻まれた傷で表している。

 これを肌身離さず持ち歩き、そして読んでいた一人の少女は今はいない。

 無口だった彼女は心に何を想ったのか。

 この本を、自分に譲った。

 駆逐艦である彼女たちが別れる間際、雪風が三笠の前にこの本を差し出した。

 「磯風から、二曹さんに……。持っていてください」

 そう言った雪風は、妹を亡くした悲しみから逃れられていないのに無理をしたような微笑みを見せていた。三笠は何も言わないで、頷いて受け取るしかなかった。

 あの時、この本を前に雪風から磯風のもとに返したとき、ただ言った言葉。

 ―――『読んでみたいな』―――

 この一言だけで、彼女は、磯風は自分に本を託した。

 言ったのは嘘じゃない。だけど、これはきっと彼女の宝物だっただろう。自分なんかより、ずっと彼女のもとから手放されてほしくなかった。

 三笠は本の頁を捲り、そして一つの詩に行き着いた。

 瓶にさす藤の花ぶさみじかければ たたみの上にとどかざりけり

 詩人の死を謳ったうた

 届きそうで、届かない。それは悲しい。絶望。そして忍び寄る死。

 何故彼女がこの短歌が好きだったのかはわからない。

 だけどもしかしたら、この詩は表上は悲しく見えても、別の解釈もあるのではないだろうか。あの時、彼女が言っていた言葉を三笠は思い出した。

 ―――『短歌の解釈というものは、人それぞれ』―――

 きっと、彼女なりの解釈でこの詩を好きになったのだろう。

 彼女が好きだった詩が載った本は、こうして自分の手元に残っている。

 彼女とは大した交流はしていない。初めて会ったとき、そしてあの宴会のとき、出撃のとき、これだけでも彼女は確かに雪風や大和たちと同様に大切な仲間だった。

 だから、彼女の血が染まった本の表紙を見ると、ジワリと悲しさが滲み出てくる。

 「………」

 三笠はそっと、大切な宝物のように、それを懐におさめた。

 部屋の扉越しで、神龍が静かに涙を流した。



 その後、三笠はゴウゴウと煮えたぎるような暑い烹炊所で乗員分の米を馬鹿でかい大釜で炊き、握り飯を握っていた。烹炊班の兵員たちが忙しく動き回り、全員分の握り飯をせっせと汗水垂らして握り続け、なんとか突撃前に間に合うように急いだ。

 いつもの場所、いつもの朝食後の時間、お気に入りの主砲の上に、神龍と三笠が握り飯を頬張っていた。

 三笠が持ってきた握り飯だった。真っ白で、米の艶が輝いていて食欲をそそぐ。神龍は満面な笑顔で美味しそうに握り飯を頬張っていた。

 雪風たちもいなくなり、艦魂としては自分一人だけになってしまった。だけど、隣には彼がいてくれる。だから、寂しくも悲しくもなかった。

 「…これが、三笠二曹の最後のお握りでしょうか」

 ふと影を落とした表情を見せた神龍が呟くように言って、隣でぺろりと指についた最後の一粒を食べた三笠は、即答した。

 「そうだな」

 「でも三笠二曹のお握りで元気いっぱいですッ!もう万全ですよッ!」

 神龍は活気を含めて両手拳を握ってガッツポーズを取った。三笠はそんな神龍を見て口もとから笑みをこぼした。

 「そうか、良かった」

 「三笠二曹!」

 突然、神龍が三笠の鼻先に詰め寄り、三笠は一瞬息を呑んだが「な、なんだ?」と訊ねることはできた。神龍は大きな瞳で三笠の驚く顔を映し、朱色に染めた頬を見せ、必死に叫んだ。

 「私……頑張りますからッ! 一隻でも多くの敵艦を沈めます…! だから……」

 ぎゅっと、三笠の手を両手で包み込んだ握る神龍。三笠は握られる手から彼女の温もりと高鳴る鼓動を感じ取った。

 「だから、私のそばにいてくださいッ!」

 その瞳は、うるうると揺れていた。しかしその奥には彼女の強い覚悟と意志が宿っている。

 奥に輝く光を見つけ、三笠はフッと笑みを漏らした。

 「当たり前だろ…。俺は、最後まで神龍と一緒にいるよ」

 三笠の優しく掛けられた言葉に、神龍はずっと三笠を大きく見開かれた瞳に映しこみ、そして緑に涙を浮かばせながらも、輝くような笑顔を開花させた。

 「はいッ!」

 それは、まるで透きとおるような湧き出る泉から生まれた、希望の光だった。

 彼女のそんな笑顔を間近で見た三笠はドキリと胸を高鳴らせた。

 頬はみるみる赤く染まり、心臓の鼓動が張り裂けるように脈が強さを増して打ち続けた。

 三笠はぎゅっと高鳴る胸を手で握った。

 「…三笠二曹も、苦しいですか?」

 神龍の小さく、そして優しく掛けられた言葉に、三笠は顔を上げた。

 目の前で見た神龍の頬も、火照ったように朱色に染まっていた。

 可愛い。

 素直にそう思った。

 さらに胸が高鳴って苦しくなる胸をぎゅっと抑え、もう片方の手に神龍の両手がそっと乗った。

 「……私も、三笠二曹と一緒です」

 神龍の甘さを漂わせる声が三笠の身体に浸透するように溶け込んでいった。

 「私も……」

 神龍は三笠の手に乗せた両手で優しく握り、三笠の手をゆっくりと引いた。

 三笠は理解ができぬまま、ただ自分の高鳴る鼓動を聞きながら、握られた手を引かれるままになっていた。その手はやがて彼女によって、彼女に触れられた……。

 神龍は瞳を瞑り、頬を朱色に染めて微笑んでいるような可愛らしい表情で、三笠の手を自分の高鳴る心臓がある胸に触れさせた。

 柔らかく、温かい感覚。そして伝わってくる神龍の生きる心臓の高鳴っていく鼓動。それは自分の高鳴る鼓動と同一するように同じだった。

 「―――こんなに、苦しいんです」

 眼を開けた神龍の瞳は、穏やかな広大の海のようで純粋な淡い瞳だった。

 そっと、高鳴る鼓動が伝わった胸から、手を離された三笠は、優しい笑みを見せた。

 「…そうか」

 ただ、それだけを言った。

 「……ふふっ」

 「…はは」

 やがて、二人は笑みをこぼした。

 自分たちが、なにか繋がったような不思議な感覚と実感。それがどうしてだろうか、とても嬉しかった。

 「三笠二曹……」

 「ん、なんだ?」

 三笠は神龍を見て、再びドキリと胸を高鳴らせた。

 艶のある長い黒髪がサラリと揺れて、柔らかそうな桃色の唇が微かに動く。頬は朱色に火照り、大きな瞳はうるうると揺れていた。

 「私……」

 神龍は、これまでに彼と過ごし、そして繋がれたことを思い出した。あの一緒に寝た夜や、そして今この瞬間。彼の生きていることを表した心臓の鼓動が自分と同一した瞬間もあった。

 そして自分の気持ちが見えたときが何度もあった。

 どうせこれから自分は死ぬかもしれない。伝えるなら今しかない。

 神龍は意を決して口を開いた。

 「私……三笠、二曹のことが―――」

 「神龍……」

 三笠と神龍は、ジッとお互いを見詰めあい、三笠は神龍の言葉を待った。

 だが、そんな時間を残酷にも運命は与えてくれなかった――――

 「敵艦隊、発見ッ!」

 防空指揮所の見張り員が双眼鏡で前方を覗きながら、叫んだ。

 艦橋にいた草津をはじめとした各長たちも各々の双眼鏡をささっと覗き込んだ。

 草津は急いで双眼鏡を覗き、吉野たちも前方を見詰めた。凝視してみると、確かにそれはあった。

 確かに、前方の遠い海面上に幾つかのマスト、そして艦橋が見えた。明らかに、敵戦艦だった。

 見張り員はよく見つけてくれたものだ。どうやら敵はこちらに気付いていないらしい。

 先手必勝。その文字が草津の頭に浮かび上がった。

 「水上戦闘用意ッ!」

 水上戦闘―――それはまさしく、空母や艦載機と戦うのではない、戦艦同士の戦闘を意味していた。

 「敵戦艦部隊発見!天は俺たちに味方してくれた。幸運なことに敵は戦艦部隊!喜べ諸君ッ!我らの最期の戦いは、艦隊決戦だッ!!」

 草津の言葉に、艦橋にいる各長や士官たちの士気が高まった。そして伝声管を伝って状況が伝えられ、兵員たちの士気も最高潮に高まった。

 双眼鏡を下げた吉野も、口もとから笑みを漏らしながら言った。

 「艦長の仰るとおり、敵は戦艦を主軸とした戦艦部隊。空母は一隻もいません!」

 「……全員よく聞け。願ってもない艦隊決戦だ。『神龍』の最期の戦いにふさわしい戦いにしよう」

 草津がそう言うと、全員が頷いた。

 「艦長、新三式弾ですが……先の戦闘によって既に残存する弾数は一発だけです」

 砲術長の進言に、草津は特に表情を変えずに「そうか」と頷いた。

 「ならば通常砲弾で戦うのみ。なに、あれは元々対空戦闘用だ。なくても戦えるさ」

 そう言ってから、草津は次の命令を叫んだ。

 「主砲撃ち方用意ッ!」

 『神龍』の50口径41cm砲三連装が鈍い唸りをあげながら砲身を上げた。敵艦に砲弾が落ちるように仰角を的確に合わせた。

 「行こう、神龍」

 「……はいッ」

 主砲発射のために総員艦内退去が出された。三笠と神龍は、艦内に走りこんだ。

 途中で伝えられなかった言葉を、後で必ず伝えられることを願って。

 海を滑るように翔ける巨人艦は、機関全速で速力を増しながら巨大な砲身を掲げた。

 「仰角四十五度ッ! 主砲撃ち方始めッ! 撃てぇッ!!」

 『神龍』の巨大な砲口から、海をも揺らす地響きのような大音響と共に黒煙を噴き出して火の矢を撃ち放った。海と同じ蒼い空を切り裂いて轟音と共に放たれた砲弾が敵艦の周りに水柱を上げた。

 その一撃によって敵駆逐艦二隻が大破、巡洋艦一隻が中破した。

 数秒後、双眼鏡で粉砕された敵駆逐艦から立ち上る火柱を見た。

 「敵に命中確認ッ! 次弾装填急げッ!」

 草津が叫び、主砲が次の砲撃を急いだ。こちらの一撃によって敵艦三隻に大損害を与えたが、敵の主力である戦艦は無傷だ。そして敵側もこちらに気付いた。

 次の瞬間、敵戦艦部隊の方角からなにかが落ちてくるような嫌な音を聞いた。そしてそれは轟音に変わる。『神龍』の周りで連続的に五、六発の水柱が立ち上った。

 『神龍』の甲板上に海水の雨が降り注ぎ、ビショビショになる。その中を白波を立てて『神龍』が勇ましく海原を翔けた。

 「機関全速ッ!突っ込めぇぇッ!」

 巨大な身体を動かす心臓部である機関がゴウゴウと音を鳴らし、蒸気を噴出させる。うるさいほどに鈍い唸りをあげた。

 巨大な外見に似合わない速度で海を翔ける『神龍』は、まるで本当の龍のようだった。

 敵戦艦部隊との距離を縮めながら、『神龍』は次なる砲撃を放とうとしていた。

 


 一方、先手を取られたデイヨー司令官の『テネシー』を旗艦とする米戦艦部隊、そして第五艦隊司令長官であるレイモンド・A・スプルーアンス大将が乗った戦艦『ニューメキシコ』を含めた太平洋を制する王者である米戦艦部隊は敵の確認と反撃に追われていた。

 突然の遠方からの砲撃。完全に油断していた。旗艦の大型戦艦と随伴艦隊の数隻を失った日本艦隊は、日本本国に撤退するか、それでも突撃してくるなら小規模の生き残り艦隊で来ると思っていた。しかし、敵はなんと艦隊ではなく、単艦でやって来たのだ。

 一隻の大型戦艦。それだけしか確認はなかった。随伴艦隊もいない。

 最初は信じられなかったが、敵からの砲撃から察すると、確かに戦艦一隻分の攻撃しか来ない。護衛機もない艦隊で突撃するだけでも無謀なのに、一隻だけで突撃するとは、無謀にも程があるというものだ。限度というものがあるだろう。

 しかし彼らにはそれも関係ないことだった。

 「敵は一隻だけ。何も臆することは無い!簡単に捻る潰してくれるッ!」

 第54艦砲射撃援護戦艦部隊、M・L・デイヨー司令官は言い放った。彼の言うとおりだ。これだけの数の艦隊に、一隻だけとは、前例にない。

 米戦艦部隊の主力である戦艦の数は、五隻。元々は一〇隻だが、さすがに全戦艦を向かわせるわけにいかない。空母を護衛する戦艦がいなくなってしまう。

 そして考慮した結果、戦艦・巡洋艦・駆逐艦を半分に分け、日本艦隊迎撃部隊と空母護衛部隊に分断したのだ。

 『神龍』と対峙する戦艦は、第一戦隊から第五戦隊までの戦艦を一隻ずつ。戦艦『テキサス』『コロラド』『テネシー』『アイダホ』『ニューメキシコ』の五隻。重巡洋艦四隻、軽巡洋艦一隻、駆逐艦一〇隻の大艦隊だった。

 その内、既に『神龍』の放った一撃で軽巡洋艦が中破。駆逐艦二隻が大破、戦闘不能になった。

 レイモンドは、一隻だけで突っ込んでくる戦艦を、呉の空襲や『大和』への攻撃で我が軍に脅威の牙を向けた『モンスター』であることはわかっていた。

 「(あの戦艦に……セイイチ・イトウは乗っているだろうか…)」

 レイモンドは知らなかったが、彼の無二の親友である伊藤整一中将は、『大和』と共に海の底に沈んでいる。

 「……何であれ、確かに一隻だけで突撃とは無謀の度が過ぎた外道な戦術だ。戦術といえるのも怪しい。しかし、彼らの意気込みは賞賛に等しいだろう…」

 レイモンドの言葉を、艦橋にいる全員が静かに聴いていた。レイモンドのそばに立つニューメキシコもそうだった。

 「彼らの覚悟に応えるために、我々も正面から戦おうじゃないか。全艦に伝えろ。気を引き締めていけ。一隻だからといって決して油断はするな」

 「サー、イエッサー!」

 デービス参謀が即座に答え、それに続いて艦橋にいる全員が顔に気を引き締めた表情を見せつけ、了解の声が響き渡った。

 レイモンドは決心した。確かに一隻だけで突撃とは、神風特攻と同様に無謀であると考えるだろう。しかし、神風と同じ、その心意気は感服するにふさわしい。彼らは国を護るために戦っているだけなのだ。同じことが我々にもできると問われれば、おそらくできないだろう。

 国や大切な人を護るために戦うのは、敵も我々も同じ。

 そしてその心は同じはずなのだ。

 レイモンドは彼らを決して蔑んだり罵ったり油断したりしない。正々堂々と、彼らが武士道を貫くように、我々も騎士道を貫いてみせよう。

 レイモンドを中心にした米精鋭戦艦部隊は、単艦で挑む『神龍』に真正面から立ち向かった。



 「神龍、怖くないか?」

 ズズゥン、と轟音が聞こえ、身体が揺さぶられる。近くで敵の砲弾が命中したのだろう。それは連続的に起こっている。こちらは一隻だけ。だからこちらが一発砲弾を放てば、多数の勢力を持つ敵はこちらが次弾装填するまでの間に何発も撃ってくる。

 三笠は神龍の手をぎゅっと握ると、神龍は微笑んで応えた。

 「大丈夫です。だって、三笠二曹がいてくれます。そして私は、戦うって決めたんですから…」

 「神龍…」

 ズズン、と艦が揺さぶられる。水柱が立ち上り、海水が『神龍』に覆いかぶさるが、進撃は止まらない。不思議と『神龍』に直接の命中弾は今のところない。

 「ずっと、そばにいるからな」

 「…はい」

 神龍はにっこりと微笑んで、頷いた。三笠も笑みを漏らした。

 「次弾装填完了ッ!」

 「撃てッ!」

 草津は迫る敵戦艦部隊を見詰め、叫んだ。

 『神龍』の巨砲から再び砲弾が撃たれた。鈍い轟音と共に黒煙を吐き出しながら業火の如く火の矢が放たれ、砲弾が敵戦艦に向かって放たれた。

 そして敵戦艦一隻を隠すように、白い水柱がどーっと立ち上ったのを見た。

 ここに、大東亜戦争最後の艦隊決戦、そして護衛戦艦『神龍』の最後の戦いが米戦艦部隊と火蓋を切ったのだった。

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