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<二十八> 未来の記録書

 沖縄海上特攻作戦が発動され、『大和』以下第二艦隊は第一遊撃部隊として沖縄特攻に出撃。しかし途中、第一遊撃部隊を発見した米高速空母機動部隊の航空母艦から発艦した米艦上機編隊が第一遊撃部隊に攻撃を加えた。二時間の死闘の末、『大和』をはじめとした艦艇を失い、連合艦隊司令部からの電令によって正式に作戦中止が決定された。

 しかし、護衛戦艦『神龍』艦長、草津重次郎大佐は、司令部からの中止命令を無視。独断で沖縄特攻続行を決断した。尚、これは『神龍』乗組員たちの九割が同意した上の続行であった。

 随伴艦隊の駆逐艦は生存者と退艦を選んだ『神龍』一割の兵員たちを乗せ、命令通りに佐世保基地に帰投することになった。

 駆逐艦は日本本土に撤退し、『神龍』のみが沖縄への進撃を続けた。

 何故、草津重次郎艦長は連合艦隊司令部の命令を無視してまで独断専行を続けるに至ったのか?それには様々な諸説があり、そして沖縄特攻作戦自体と同様に批判の声もある。

 

 元々、『大和』以下第一遊撃部隊は沖縄周辺の敵艦隊を一掃することを目的として出撃した勝算ゼロの作戦であることは、当時も、現代でも、百の承知であり、そして余りにも無謀であった。

 正しく、この作戦は死ににいくようなものだった。

 実際、第二艦隊司令長官伊藤整一中将は頑として断り続け、説得に赴いた草鹿中将の一億特攻の模範となってもらいたいという趣旨の言葉を受け伊藤中将は作戦を了承したとされている。この作戦を了承するという事は、大勢の部下の命運をも決めてしまう苦しい決断でもある。伊藤中将が作戦を中々了承しなかったというのは至極当然である。

 『神龍』が独断で特攻に向かったという前に、まずは第一遊撃部隊の作戦の時点で是非について異論があるのは現代に至ってあるのはわかる。沖縄特攻が正しかったとは断言できないからだ。

 だが反対に否定もできない。この、特攻作戦以外に沖縄を救いにいける術は果たしてあったのだろうか?―――ないと思う。

 たとえ『大和』、そして『神龍』が出撃しなかったとしても、彼女たち戦艦は、遅かれ早かれ大破・沈没・又は着底していたであろう。現に、呉に残っていた戦艦『榛名』『伊勢』『日向』などは、三度目となる呉大空襲の中で敵の空襲を受けて、出撃する願いも叶えられずに無念にも大破着底している。

 日本本土では『本土決戦』『一億玉砕』が叫ばれ、現代の価値観から言えば、そんなことを言われて戦場に送り込まれるなんてたまったものではないだろう。しかし当時の時代と現代の価値観は同じとは言えない。『一億玉砕』と言われ、戦場に往き散っていった彼ら、そして彼女たちを、批判や指摘できる権利が、我々にあるのだろうか?

 仲介国としてソ連に講和の依頼も努めたが、ソ連は既に連合国と密約し、日本との中立条約を破る腹だったので、講和も叶えられなかった。ならば、やはり日本に残された道は、このままでは本当に本土決戦に至る以外になかったのだ。それは内地にいる民間人を巻き込んでしまうことになる。

 燃料と物資不足により、燃料が欠乏しては戦艦も浮き砲台に過ぎない。機会を失えば出撃のチャンスすら無くなってしまう。これは『神龍』艦長の草津重次郎大佐の独断専行の理由の一つでもある。満足に出撃出来る機会はこの時をおいて他になかったのだ。

 『大和』、そして『神龍』に残された選択肢は二者択一だった。

 呉で敵の空襲にあうか?

 僅かな可能性に賭けて沖縄に特攻するか?

 それ以外に、いくら模索しても、やはりなかったのである。

 現代では作戦に批判する声もあるが、では逆に『大和』と『神龍』が出撃しなかったら…?そして『神龍』が独断専行で特攻を続けなかったら…?

 どちらにせよ、もし出撃しなかったとしたら、特攻を続けなかったら、沖縄を見捨てたとして揶揄され、結局批判の声があがっていただろう。

 これは著者である自分の妄想でもあるかもしれないが、もし『大和』や『神龍』が出撃しなかったら、護国戦艦として在る彼女たちは無能とされ、浮かぶ鉄の藻屑と罵られ、もしかしたら作戦次第で沖縄に辿りつけたかもしれないのに何故勇気を持たなかったのか、機会を逃す海軍は無能、と……ほかにも数々の声で批判されるだろう。考えすぎと仰る人もいるかもしれないが、自分はそう考える。

 先ほどにも述べたとおり、現代の価値観で考えれば、死地に赴くことになった彼女たちの乗組員に対して、哀れむ目で見るだろう。普通、死にたい人間などいないのだから。

 しかし、命令であるなら彼らは兵士として彼女たちに乗り込んで往く。もちろん作戦に対する無念や憤りを持つ人間も多かったであろう。しかし死に対してはそんな人間などいるわけないという声もあるが、『大和』の乗組員の一人、臼淵大尉の名言がある。


 進歩のない者は決して勝たない。

 負けて目覚めることが最上の道だ。

 日本は進歩ということを軽んじ過ぎた。

 私的な潔癖や徳義にこだわって、真の進歩を忘れていた。

 敗れて目覚める、それ以外にどうして日本が救われるか。

 俺達はその先駆けとなるのだ。


 作戦に対する疑問と憤りを膨らませ、乗組員の間で今作戦についての議論が行われ、殴りあいの喧嘩にまでなってしまったのを臼淵大尉のその言葉が沈めたといわれている。

 彼らは日本を護るために、日本の未来を護るためにそんな無謀な作戦に出撃したのだ。そして『大和』や他艦艇が沈み、『神龍』が独断で特攻を続けたのも、そのためなのだ。

 司令部の命令を無視してまでの独断専行に、批判の声もある。

 何故ならば、もしそこで命令通りに日本に引き返していれば『神龍』の乗組員たちも死ぬことはなかった、と言うのが批判する者たちの声である。

 しかし著者は、草津の決断に、もし著者がそこにいれば、同意した九割の兵員たちと同様に賛成しただろう。何故ならば、祖国を護るため、それしか方法はないと思うからだ。

 他に選択肢がないならば、その道を進むべき。

 日本の武士は、侍は、己の道を進むべし。

 こんな著者も、作戦を批判する者の批判対象にも入るだろう。彼らが言うように、『軍国主義の美化』『日帝海軍擁護』と言われてもおかしくはない。

 しかし自分はそうと考えるからそう述べる。なんと言われようと、考えは変わらない。自分はいくら批判されてもかまわない。しかし彼ら、そして彼女たち英霊を侮辱することは許されないこと。

 当時の日本には完璧な選択肢など無く、出来る事を実行するしか方法が無かった。その方法自体に異論があることは否定はしない。

 特攻は非人道的とは言え、航空機の場合は戦果の見込みがある。しかし水上部隊による特攻に勝算はない。だがそれが水上部隊として出来る唯一の手段だった……。

 そして奇跡的にも生き残った『神龍』は特攻を続ける。先ほどにも申したとおり、今回しか彼女たちの出撃は、他にない。今やらなければもうチャンスは来ないのだ。このままおとなしく佐世保、そして呉に帰ってしまえば、出撃する機会は二度と訪れることなく、『榛名』たちと同様に日本国内で敵に大破着底される可能性は高かっただろう。

 だから、護衛戦艦として在る彼女のために、草津大佐は、鉄の藻屑になるより、戦艦としての使命を全うする道を選択したのだ。

 そして『大和』が戦没し、独断専行で特攻を続ける『神龍』は、第一遊撃部隊と戦うことを果たせなかった米戦艦部隊の願いを叶えることになり、そして『神龍』の願いを半分は叶えることにもなった。

 機動部隊も戦艦部隊も伊藤中将率いる第一遊撃部隊はおいしい目標であり、どちらとも自分たちが迎え撃ちたいと思っていた。機動部隊など、戦艦部隊が迎え撃つとレイモンド・A・スプルーアンスが発言したにもかかわらず、悪天候でも偵察機を飛ばして第一遊撃部隊を捜索するというくらいに気合が入っていたのだ。

 そして機動部隊が戦艦部隊より先に第一遊撃部隊を発見し、そして『大和』などの艦艇を沈めて、任務を達成したのだ。

 打ち漏らした戦艦部隊だったが、そこに『神龍』が突撃することになるのだった。

 そして、四月八日の朝、『神龍』は単艦で、発見した米戦艦部隊にたった一隻だけで突撃するのだった――――


 ×章 【護衛戦艦『神龍』vs米戦艦部隊】に続く。


 2008(平成二十)年 三月十八日 

 著:初瀬菊代はつせきくよ 四月二十二日発行


 

なんだか今回はただ好きなように書いたみたいな……

神龍の独断専行による特攻は一話置いて書くつもりです。

次回はアメリカ艦魂たちの話です。その次にいよいよ神龍の最後の戦いが始まります。

学生という身分で忙しいせいで、更新が遅いですがご了承ください。

次回は大和たちを沈めることに成功したアメリカ空母の艦魂たちの物語。そして戦艦部隊の艦魂も出てきます。新キャラ出ると思います。

では。


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