<十四> 空母たちとの最後の日。葛城教官の水泳訓練
三笠が『葛城』に一時配属なって数日が経った。
そろそろ三笠が配属期間を終えて『神龍』に帰る頃だった。
明日、病気だった『葛城』の烹炊班班長が身体を治して復帰することになり、三笠は『神龍』に戻ることになった。
神龍はお気に入りの場所である、そして彼との思い出がある、主砲の上に鎮座して湾口の先を寂しげな瞳で見詰めていた。
潮風に吹かれて靡く長い黒髪がさらさらと揺れる。
明日三笠が帰ってくるとわかっても、やはり三笠がいる『葛城』が停泊している三ツ子島方面の先を毎日のように寂しげに見詰めていた。その瞳はどこか悲しそうで、微かに揺れている。
甲板上で兵員たちが訓練している中、神龍は顔を俯けて溜息を吐いた。
やはり寂しさは、消えなかった。
大和や榛名たちのところに居て寂しさを紛らわせていることもあったが、やはり一人になってみると寂しさは湧き出るように心に満たされていく。三笠に出会う前まではこんな感じだったのに、三笠と出会い、そして三笠がいなくなって、三笠と出会う以前の状態に戻ると寂しさがどんどん溢れてきた。こんな感情は初めてだった。
こんなことは彼と出会うまではこうだったんだから…。
彼は明日帰ってくるんだから…。
なのに…何故こんなにも心が寂しいのだろう。苦しいのだろう。
寂しさという感情が、今の神龍を支配していた。
お気に入りの主砲からなんとなくという思いで移動して、神龍は適当に艦内をぶらついていた。廊下を歩くと何人かの兵員たちとすれ違うが、神龍は視線を下げて一目も見ることはなかった。その姿はまるで本当の幽霊のようだった。
やがて、ふと気が付くと、ちょうど目の前で『神龍』副長の吉野逸三中佐が艦長室に入るところだった。神龍は艦長室の扉を微かに覗いて、中を覗いた。
吉野の広い背が見え、そして正面顔の『神龍』艦長の草津重次郎大佐が艦長の椅子に座って片手にコーヒーを持っていた。吉野が何か語り始めると、草津はコーヒーを机の上に置いて眼帯によって封じられた一方の片目で吉野を見上げた。
ここからではよく聞こえなかったが、どうやら兵員たちの訓練状況等の旨を報告しているようだった。吉野の紡がれる言葉に草津は一言も返さずに黙って聞き続け、やがて吉野が語り終えると、吉野は草津に頭を下げて振り返り、こちらに向かってきた。
その際、ふと、こちらに向かう吉野の背の後ろにいる草津と目が合ったと感じた。
吉野は完全に閉めたはずの扉が微かに開いていたのを怪訝に思いながらも扉を開け、退室していった。そのすれ違い座間に神龍が入室する。
神龍の肩越しで扉が閉められ、静寂が部屋を包んだ。
神龍は緊張しながら、チラリと前方にいる草津を一瞥する。草津はコーヒーを片手に持って一枚の書類を見詰めていたが、その視線がチラリと神龍のほうを見た。
まさか…。と、神龍はますます緊張して、ゴクリと生唾を飲み込む。
意を決して、口を開く。
「あの……っ。 草津、艦長…?」
草津の眉がピクリと動き、ゆっくりと書類から視線を上げて神龍を見詰めるようになる。
「…こんにちは。 君はこの『神龍』の艦魂かな…?」
「!!」
神龍は驚愕に目を見開き、草津を見詰める。草津もコーヒーと書類を机の上に置いて、手の指を机上で組んで、神龍のほうを見る。
「驚いたかな? 私は艦魂が見える人間……いや、かつて見えた人間、だな」
「…?」
神龍は草津の言葉に脳内が理解するに至らず、首を傾げる。その雰囲気を感じ取ったように草津がフッと笑う。
「それにしても…艦長が艦魂がわかるお人だとは……驚きです。知りませんでした…」
「ははは。 まぁ、正確には…艦魂が見える人間とはちょっと違うんだがね。これまで色々な艦に乗ってきたが、色々な艦魂にも会ったよ」
「艦魂と話せる人は…三笠二曹だけかと思いました」
「三笠二曹? あぁ…あの烹炊班の料理人か…。彼の作る飯は私にとっても美味なものだ。彼は兵士ではなく、内地で店を開けるほどの料理人だと思うんだがね、私は」
「ふふ…」
神龍はまるで自分が褒められているような、嬉しさを感じて頬を朱色に染めて微笑んだ。
「そうか…。 彼も、艦魂が見える人間なんだな…」
「はい。 三笠二曹にはいつもお世話になっていますし、私もそれはもうお世話してます」
神龍は胸を張って言い、草津は笑った。
「ははは。そうかそうか。 仲が良いんだな」
「そ、そんなことありませんよ…っ! 私が三笠二曹と…えっと……」
神龍は頬を朱色に染めて顔を俯けた。
神龍の恥ずかしがっているような仕草に、草津は微笑んだ。
「えっと…艦長、先ほどの艦長のお言葉で気になった点があったのですが…」
「なんだい?」
神龍は言おうか戸惑う風に見せたが、草津は優しく言った。
「構わないよ。 なんでも聞いてくれ」
「えっと…。では失礼します…。 艦長は、先ほど艦魂が見えるとはちょっと違うということをおっしゃいましたが…どういうことですか?」
「ふむ…」
神龍は聞いて良かったのかどうか迷いが未だに内心にあった。実は艦長のその言葉を聞いたとき、背筋が冷たくなるのを感じたからだ。何か聞いてはいけないことを聞いた気分がして良い気分ではなかった。しかし草津はあっさりと答えに口を開いた。
「実はね…君の声は聞こえ、君の気配は感じ取れるだけで、姿はぼやけて見えないんだ」
「それは、どういうことでしょうか…?」
「…うむ。話してあげよう。 そんな遠くで固くならず、もっと来なさい」
「はい」
神龍は緊張をしながらも、ゆっくりと草津の前に歩み寄る。椅子に座った草津は眼帯とはもう一つの残された片目で神龍を見上げる。しかしその目は、神龍を見ているが見えていないような目だった。神龍のほうを見ているが、神龍の姿を捉えていない瞳だった。
「君は、私がかつてミッドウェー海戦の頃に片目と指二本を失ったことは知っているか?」
「…はい」
「そうか」
置かれたコーヒーからは微かに湯気が昇っていたが、あとすこしで冷めるだろう。しかし草津は全く気にせず、言葉を紡ぐ。
草津は視線を下げ、細い目になって耽るような瞳で語り始めた。
「私は真珠湾からの歴戦の戦士だ。 真珠湾の生き残りといえよう。真珠湾、ラバウル、ポートダーウィンと、数々の戦いを戦い抜いてきた…。ミッドウェー作戦のときも私は前線に立っていた。その時は、私は『赤城』に乗っていた」
「では…」
「ああ…、『赤城』の艦魂、赤城とも親しい仲だったさ…。赤城とは、真珠湾からの付き合いだったからな。最高の戦友だった…」
草津の瞳はどこか哀しそうに目を細めた。神龍は自分が生まれる遥か前に勇敢に戦い沈んでいった栄光の戦姫である赤城に会ったこともないが、大和たちからはよく聞かされたことがあった。主義主張の違いで戦艦と空母の仲が基本的に不仲だった中で、大和と共に戦艦と空母間の仲を取り持った機動部隊旗艦だった赤城、そして真珠湾から歴戦を勇敢に戦い抜いた空母として、語り継がれてきた。
「兵装転換が終わらなくてモタモタしている内に、敵機の襲来。 『赤城』は必死になって舵を切って迫り来る爆弾を避けようとした。だが…虚しくもそれは叶わなかった。吸い込まれるように『赤城』に爆弾が命中して、艦内は誘爆を起こして大火災。連続的に爆発。…そんな艦の魂である艦魂は、どんな風になるか、想像に容易いだろ…?」
「………ッ!」
神龍は想像し、背筋が冷たくなるのを感じた。そして恐怖を感じた。艦が損傷を受ければ、その魂の化身である艦魂も、その身体に艦の損傷を表した傷が付く。
昭和十七年(1942年)六月の日米の逆転劇となったミッドウェー海戦。『赤城』率いる空母艦隊を含めた第一機動部隊は真珠湾から戦い抜いてきた歴戦の機動部隊。それが遂にミッドウェーでも敵機動部隊と火蓋を切った。しかし、度重なる変更の兵装転換によってその隙を突かれ、日本の第一機動部隊は来襲した敵機編隊に襲撃され、『赤城』も敵爆撃機の攻撃を受けた。
飛行甲板に投下された爆弾が命中、爆発。その瞬間、艦魂の身体もその身体から鮮血を迸る。傷が開き、人間のような大怪我をその身に表す。
草津は、当時の、鉄の味が口に染みた味を思い出す。
草津は甲板上で敵機の機銃射撃によって、左手の指二本を飛ばされ、左目を潰された。しかし草津は血みどろになりながらも、這い蹲るように、赤城の元へと向かった。
放置していた爆弾や魚雷が誘爆を起こして艦内は大火災。燃え盛る炎が艦内を支配していた。草津は残された片目で必死に彼女の姿を求めた。艦内が炎で燃え盛り、崩れ、血が滴る左手を抑えながら、熱気が肌を焼こうが、草津は彼女を捜し求めた。
そして、見つけた。
血の海に溺れて仰向けに倒れる、変わり果てた彼女の姿を。
それを見た瞬間、草津は衝撃を受け、一刻も早く彼女、赤城の傍へと向かった。
膝をつき、血の海に溺れる赤城の肩を抱いて必死に呼びかける。そしてようやく赤城の目がゆっくりと開き、その瞳が左目を失った草津の顔を映した。
赤城は草津を見た瞬間、血まみれの表情で、微かに微笑んだ。
その直後、『赤城』艦体に衝撃が走った。再び艦内が誘爆を起こしたのである。その度に、赤城の血まみれの身体から鮮血が迸り、赤城が苦痛に表情を歪めた。
その時の赤城の苦痛に歪む表情と叫び声は、脳に焼き付いて忘れられない…。
草津は赤城を力強く抱きしめ、艦が揺れながら傾いてこようが、赤城の身体から傷が開いて鮮血が迸り再び赤城が呻こうが、ずっと抱きしめ続けた。
その草津の表情は、涙と鼻水で歪んでいた。泣くな、泣くな、と自分に言い聞かせても勝手に溢れてくる。せめて赤城に見せまいと思ったが、赤城がゆっくりと手を草津の頬に触れて引き寄せた。草津の涙で歪む表情を見て、赤城が優しく微笑んだ。
草津は共に死ぬ覚悟だった。その思いを震える声を抑えるような声で伝え、しかしその唇を赤城の唇によって閉ざされた。柔らかく、そして鉄の味がする唇に。
味方駆逐艦の雷撃処分寸前に、赤城の最期の力を振り絞った艦魂の能力によって、草津は味方駆逐艦へと転送されようとしていた。
転送される寸前、光に包まれながらも赤城に手を伸ばす草津が、最後に口を開いた赤城の言葉を、確かに聞いた―――――
―――――『生きて』
草津は光に包まれて味方駆逐艦へと転送された。最後に見た赤城の表情は最後まで優しい微笑みだった。転送され、草津が見たものは、雷撃処分によって艦尾から静かに沈んでいく『赤城』の最期の瞬間だった…。
「俺は、その言葉を忘れずに今まで生きてきた。 彼女の望みどおりに…。治療のために前線から離れ、それから練習艦の教官を経て、こうして艦長として艦に戻って、そしてこれからも生きていく。私は…」
草津の指が左目を隠す眼帯に触れる。
「左目を失い、以後艦魂の姿が見えなくなった…。 声や気配はわかるのだが、姿だけが見えない…」
もう、あんな姿を見たくないと思ったから。だから見えなくなったのかもしれない。
「そういうことだ。 申し訳ないんだが、君の姿も見えない…。だが、私は君の艦長として尽くすつもりだ。これからも宜しく頼む………ッ」
草津は視線を上げ、驚いた。
神龍は、涙をぽろぽろと零していた。
草津は泣いている神龍の姿は見えないが、気配でわかった。悲しみ、揺れる気配が。
「ご、ごめんなさい…っ」
神龍は溢れる涙を必死に拭いながら、口を開く。
「艦長。私は、まだ実戦に出たことがありません……だから、実戦の恐ろしさも知らない…そして何を失うのかも…艦長の話を聞いていると……涙が出てきちゃって……赤城さんの話は大和さんたちから聞いたことがありましたが…赤城さんは、立派な女ですね…」
「そうだな…。あいつは、本当に武人としても立派だった」
「艦長は…艦魂が見えなくなっても……こうして私とお話することができます…」
「ああ」
「それだけでも…十分です……私は、こうして赤城さんのように艦長と接しています」
「………」
「…艦長、生きて…ください」
「………」
「赤城さんの為にもこれからも生きてください」
草津はじっと神龍の方を見詰める。そして強い瞳で、頷いた。
「ああ…そのつもりだ。 私は赤城のためにも、日本のためにも、生きる。そして…」
草津は微笑んで言う。
「神龍も生きろ」
「…!」
「艦を動かす艦長として、その艦長が生きることになるならその艦だって生きなければならない。だから、私も生きるから君も生きろ。約束しよう」
「…はい、約束です」
神龍は涙を指で拭い、ゆっくりと右手の小指を立てて差し向ける。草津もその気配を感じ取って小指を差し向ける。やがて、草津は見えないはずだが、二人のその小指はしっかりと、絡まっていた。
その頃、三笠は『葛城』の近くで、短艇に乗っていた。
訓練でもないのに勝手に降ろしてはいけないので、葛城の能力によって発現されたものだった。何故、三笠が短艇に乗っているのかというと…
「…菊也は泳がないの?」
海面に首だけを出して浮かぶ葛城が、短艇に腰を下ろす三笠に問う。
「いいよ、俺は」
三笠は苦笑して首を横に振る。
葛城がまた泳ぐと言い出し、そして今度は何故か三笠まで連行されたのだ。一度は三笠はある理由(後に明かされる)で断ったが、葛城の訴えるような潤む上目遣いによってやむをえなく同意することになり、こうして三笠も海に出て、短艇に乗っているのだ。ちなみに短艇は一人では漕げないので、三笠の他に葛城や天城たちが同行して漕いできたのだ。その時、三笠は彼女たちは短艇のオールを持って漕げるのだろうか、と心配に思ったが、そんな心配は全然無用で、彼女たちは男顔負けの力で簡単に漕ぎきった。これには三笠は驚いた。
短艇というのは、カッターと読んで海軍では『短艇』と表記する船舶や軍艦に搭載されるボートだ。救命艇、連絡艇として用いられる。オールという物で漕いで進ませる手ごきボートの一つであり、そのオールは重い。しかも木製であれば漕いだときに水分を吸収して更に重くなる。漕ぐという行為に重労働を課すものだった。
しかし葛城たちは息もぴったりにオールを漕いだ。三笠もその動きに合わせるのが精一杯だった。
しかも四人で漕ぐなど、無茶に近い。しかし現に漕いでみせたのだから更に驚きだ。
そして今、久しぶりに短艇を漕いだことにぐったりと肩を下ろしている。泳ぐ元気など微塵もない…いや、泳ぐなんて……。
「ひゃ〜。 やっぱり漕いだあとの海の風は気持ちいいねぇ〜」
間延びしたような喋り方をする天城は、身を海の方に乗り出して涼んでいた。
「落ちるわよ…」
その隣で、眼鏡をかけた三つ網の髪型をした少女が溜息交じりで言った。
眼鏡をかけた三つ網を下げる少女は本を読んでいた。磯風のような、空母艦魂の読書少女である彼女は瑞鳳型航空母艦の準同型艦『龍鳳』艦魂―――龍鳳。潜水母艦『大鯨』として竣工し後に航空母艦へ改装された航空母艦の艦魂である。
かつて第三艦隊として君臨した空母だったが、数々の悲劇の末、今はマリアナ沖海戦後の艦載機不足により戦いに参加できず、練習空母として三ツ子島に停泊している。
『大鯨』の頃を足せば戦前から生きる古参兵であるが、その空母の艦魂は本を読む大人しい性格の持ち主だった。
短艇を漕ぐということで、葛城に頼まれて同行してきたのだ。
「龍鳳も悪いな。つき合わせて…」
「いえ。私は葛城に頼まれたものですから…三笠様が謝られることではありません」
「そっか」
「はい」
龍鳳はまた本の頁に意識を集中した。三笠と話すときも視線は本の頁に向いたままだったが、今は全精神を本の頁に移してしまった。こうなると何を言っても彼女には聞こえないと、天城から聞かされている。
「そういえばさ、三笠君は泳がないの〜?」
空母の艦魂たちは、何故か三笠のことを階級を付けて呼ばない。名前でしか呼ばないのである。ここが戦艦と空母の艦魂との違いかもしれない。しかし三笠は全然気にしなかった。逆に階級で呼ばれるより親近感が持てる。
「ああ…」
「なんで〜?」
「短艇漕いで疲れたからな」
「…本当にそれが理由〜?」
三笠はぎくりとした。心臓が一瞬高鳴った。天城の方を見ると、天城は見透かすような瞳でニヤリと笑った。
「う〜ん、三笠君〜。 ちょっと短艇漕いだからって泳げないほど疲れるなんて帝国海軍軍人として情けないよぉ〜。女の私たちだってピンピンしてるんだから、もっとシャキっとしなきゃ〜」
「い、いや…。 お前らは艦魂なんだから…。しかも四人で漕ぐなんて厳しかったろうが!短艇って普通は八人〜十人くらいで漕ぐもんだろっ!?」
「なにを焦ってるのかな三笠君〜」
「うっ…!」
またぎくりとなって三笠は硬直する。冷や汗が浮かび、天城の見透かすような瞳に恐怖した。背筋が冷たくなるのを感じる。嫌な予感を感じた。
「じゃあさ、落としていい?」
「なんでそうなるんだぁっ!!」
「いいじゃん〜。また這い上がってくればいいしさ〜」
「良くないっ!」
「ふふふ、覚悟しゃなさ〜い」
「しゃなさ〜いって何ッ?! うわ、くくく、来るなぁぁぁっっ!!」
予想以上に動揺する三笠が面白くて、天城は更に調子に乗る。
「説明しようっ! しゃなさ〜いの『しゃな』は北海道・択捉島(北方四島)にある『紗那郡紗那村』のことであり、決して炎髪灼眼の少女のことではなぁぁい〜っ!」
「意味がわからぁぁぁんっ!ていうかそのネタはわかる人限られてるからやめろぉぉっ!!」
「だから違うっていってるでしょ〜? てなわけでどーんっ!」
「あっ!?」
天城に両手でどーんと突き飛ばされ、三笠は一瞬、海面に背を向けて宙に浮いた。三笠は顔を青くして海面を一瞥し、天城は満面な笑みを浮かべ、龍鳳は本の頁に意識を集中したまま。
三笠は悲鳴を上げることも許されないまま、水柱を上げて蒼い海へと落ちた。
ドボォォォォンッッ!!
水しぶきから本を守るようにして本を抱きかかえる龍鳳は事の事態に気付き、天城は正面から水しぶきを受けて笑う。海面から姿を現した葛城は驚いて三笠が落ちたほうに叫ぶ。
「菊也!?」
三笠が海に落ちて、数秒。
水しぶきも舞い散ることなく、ただ静かに海面は波でせめぎ合うだけ。
三笠の姿はない。
つかの間の沈黙が続いた。
短艇から身を乗り出して海面を覗き込むように天城があれ〜?と首を傾げ、龍鳳は黙って海面を見詰めていたがやがて顔を青くし、事の重大性にいち早く気付いた葛城が慌てて海中へと潜る。
「菊也ッ!」
その後、海底へと沈んでいく真っ最中の三笠を救助した葛城は浮上し、三笠は短艇の上に寝かせられた。
三笠の意識が戻るまでの間、天城は葛城に包丁を向けられて短艇の上は阿鼻叫喚。龍鳳は三笠の容態を確かめていた。
「葛城っ…! 自分の愚姉を追い回してる場合じゃないですよっ!」
「愚姉って…」
「三笠様の息が…!」
「えっ!?」
葛城は天城の首元の包丁を引っ込め、仰向けになる三笠の傍へと寄る。三笠の顔は青く、その口や鼻からは空気が行き来していない。明らかに呼吸がなかった。肺に水が溜まっている証拠だった。
葛城はそれを知って、サーッと顔を青くした。
「…はやく空気を送り込まないと」
「わ、私、この歳で殺人犯っ?!」
天城もようやく事の重大性に気付いて顔を青くして涙目になる。
そんな泣きそうな姉を無視して、葛城は必死に三笠の肩を掴んで揺する。
「菊也っ!菊也っ!」
「葛城!無闇に動かしちゃいけません…っ!」
「菊也!死なないでっ!!」
葛城は必死に三笠に呼びかける。しかし三笠は反応しない。葛城の後ろで天城が泣きそうな顔になって同様し、龍鳳はどうすればいいか頭を巡らせる。
しかし葛城は、三笠の名を呼ぶのをやめると、黙って三笠の青い顔を見詰める。
「………」
「どうしたんですか?葛城…」
「…菊也に空気を送り込まなければ……菊也は死ぬ…」
「うん…」
「だから…人間が溺れた際に必要な応急処置方法を実行する」
「それって……ッ!」
龍鳳は読んだ本の知識からすぐに答えを見つけ、天城も遅れて気付く。
葛城の瞳は真剣で、強い意志が込められていた。そんな戦友に向けて、龍鳳は頷く。
葛城も頷き、三笠に視線を戻す。
葛城はゆっくりと、三笠の青い顔に、自分の唇を近づけた。
そして―――――
「う、うーん…?」
三笠はゆっくりと眼を開く。
視界に最初に入ったのは、心配そうな表情で覗き込む少女の顔、葛城だった。
「菊也…ッ!良かった…」
「か、葛城…?」
葛城はほっとした表情になり、潤んだ瞳で微笑んだ。
今度は龍鳳の眼鏡をかけた顔が見えた。龍鳳の表情も安心したような表情だった。
「良かった、気が付かれたのですね…」
「あれ、俺…」
「菊也っ!」
「うわっ!?葛城…?」
「良かった!良かった、菊也…!」
葛城は三笠に抱きつき、三笠の胸に自分の顔を押し付けて涙をこぼした。三笠は自分の胸におさまる小さな少女の頭を撫でる。
「菊也、死なないで…」
「ああ、俺は死なないよ…。心配かけてごめんな、葛城…」
「菊也が起きて本当に良かった…菊也が謝ることじゃない…。謝るのは、愚姉者のほう」
葛城は三笠に抱きついたまま、背後にいる姉にギロリと殺意を込めた瞳で睨んだ。天城はビクリと震え、肩を小さくして縮こまった。
「…三笠君、ごめんなさい……悪気はなかったのぉ…」
「天城…」
いつもの元気な天城が本当に落ち込んでいた。さすがにやりすぎたと自覚したのだろう。その瞳も潤んでいるのを見て、三笠は首を横に振った。
「謝らなくていいぞ…。俺は許すからさ」
「…本当に、ごめんなさい」
天城はぺこりと頭を下げ、首もとのサクランボの形をした鈴がチリンと悲しそうな音で鳴った。
「…本当に姉者が悪い。反省していろ…」
「ううっ…」
「ほら、葛城。天城も十分反省してるんだから許してあげようよ。三笠様も許してくれてるんだから」
「………」
「葛城、あまり天城を責めないでくれないか。 海軍軍人のくせに泳げない俺が悪いんだ」
「菊也…」
「俺さ、泳げないんだ。情けないよな…帝国海軍の軍人なのにさ…」
「そんなこと…!」
「でもどうしても海軍に入りたくて、海軍学校に進んで入ったんだ。学校の水泳訓練でも苦労したけどな…。艦に乗るのが夢だったんだ、俺」
三笠は空を見上げ、遠い目で語り始める。
「母親も死んで、親父も家にいなかったからな…。海軍学校に入れば学費も全て免除されるのもあって海軍に進んだ。でも同時に艦に乗るのも夢だった。一石二鳥だ。だけど、泳ぎだけは駄目だったんだよな…。料理は出来ても、泳ぎは駄目なんだ」
葛城たち三人は、黙って三笠の言葉を聞いていた。
「だから、泳げなくて情けない俺が悪い。謝るのは俺のほうだ。ごめん、三人とも…」
「…菊也が謝ることじゃない」
葛城は再び三笠の胸に飛び込んで抱きついた。三笠の背に両手を回してぎゅっと抱きしめる。
葛城は背が高いほうなので、抱きつかれると近い歳の少女に抱きつかれているようで正直恥ずかしい気持ちもあった。しかし葛城の優しさや温もりが伝わる。
「菊也は泳げなくても何であっても、正真正銘の立派な帝国海軍軍人…。主計科という最も苦労する兵科に所属し、その中でも凄腕の持ち主……。それで十分…。泳げないから何がある…」
「だけど、もし艦が沈んだら泳げない奴は死ぬだろ?」
「…我が帝国海軍の艦は簡単には沈まない。しかも、菊也はあの護衛戦艦『神龍』の乗組員…。簡単には死なない……。菊也は、死なない」
「…そんなの、わからないさ。この戦争でこれまでに多くの艦が沈んで、たくさんの人間も死んだ…。いつ自分が海で死ぬかわからないんだ」
「なら…」
「?」
「私が、菊也に泳ぎを教える…」
「ッ!?」
三笠は驚愕し、葛城を見る。顔を上げて三笠を見詰める葛城の瞳は、本気の強い意志があった。
「…菊也といられるのは、今日が最後…。だから、教えたい」
「!」
明日、三笠は『神龍』に帰る。それを知って葛城は最後に三笠と過ごすために三笠を泳ぎに誘ったのだ。
三笠は葛城の思いに気付いて、微笑んだ。
「ありがとう、葛城。こんなカナヅチだが、よろしくな」
「…!」
葛城は明るく微笑んで、コクリと頷いた。
それから、葛城教官による三笠のための水泳訓練が行われたのである。
短艇の上からは龍鳳と天城が見守り、短艇に積んであった救命具を着て海面に浮かぶ三笠の前に、葛城が長い黒髪を海面に広げて浮いていた。
女性に泳ぎを教えてもらう情けない男だと自覚する三笠に、葛城は優しく言葉をかける。
「…菊也は、落ち込まなくていい。私は、菊也と泳ぎたくてこうして一緒に泳いでいるだけ。なにも、恥じることはない」
「…ありがとな、葛城」
「じゃあ…」
葛城は白い手を差し伸べる。三笠はすぐに理解し、自分の手を乗せる。
「………」
葛城はコクリと頷き、ゆっくりと三笠を引く。
二人は海の上を泳ぐ。手を結んだまま。
「じゃあ…バタ足で泳いでみて…」
「わかった…」
三笠はバタ足で前に進もうと努める。手は葛城と握ったまま。バシャバシャと音を立てて水が舞い散る。
「力を抜いて…そう…。泳ぐという行為は、他のスポーツと比べて力を重要視しないもの…。力より、テクニックが必要…」
「それは逆に難しいんじゃないか?」
「そんなことない。人は、泳げる。頑張ろう、菊也」
「…ああ」
「…菊也。進んでる。前に進んでる」
徐々に三笠は葛城に手を引かれなくても前に泳げるようになっていた。
三笠は葛城に感謝の気持ちを抱きつつ、泳ぎ続ける。
「…菊也。救命具を取る。いい?」
「了解だ」
三笠は自分で救命具の紐を解く。救命具は三笠の身体からはずされ、三笠は一気に引っ張られるように海中へと沈もうとする。三笠は慌て、葛城は手を握り続ける。
「菊也。力を抜いて…」
「…ッ!」
「力を、抜いて。耳を澄ませるように力を抜いて」
葛城に言われたとおりに、力を抜く。
不思議な感覚が体中に溢れた。下からゆっくりと押し上げられるように浮かび、澄ませた耳から穏やかな波の音が聞こえる。目を開くと、視界には微笑んで三笠の手を握る葛城の姿があった。
「菊也、浮かんでる…」
「あ、ああ…」
「…菊也のために言うと、浮かばれればそれだけで良いと思う…。何も長く泳げなくても浮かんでいれば漂流して生きていられる…」
「いや、やっぱりすこしくらい泳げなきゃ駄目だろ…?頼む、葛城」
葛城はコクリと頷いた。
「…わかった」
葛城の微笑んだ表情は、とても嬉しそうだった。
それから葛城が教えていくと三笠は泳ぎを上達させた。まったく泳げなかった身体が、浮くことを覚えると後はすこしずつ前に進んで泳げるようになっていた。葛城の手も必要とせず、自力で泳げるようにまでなっていた。
海軍学校の訓練とは違って、一対一で最初から最後まで的確に教えられていたからだった。海軍学校の訓練では一人の教官が大勢の訓練生たちに水泳を教える。そしてその教育はさすが軍隊と言った具合の厳しいものだった。無闇に殴ったり怒鳴りつけたり、そうでなくてもしっかりと教えられなくて、泳ぎが上手くなれるわけがない。
三笠はしっかりと教えれば出来るような人間だった。苦手なものを厳しく教えようとしても覚えるはずがない。優しく的確に教えるのも大事なことなのだ。
すっかりと泳ぎを覚えた三笠は、葛城のもとに泳いだ。
「菊也、すっかり泳げるようになった」
「ありがとう葛城。お前には感謝の仕様がないよ…」
「私はただ教えただけ。それ以上に上達したのは三笠自身の力」
「だけど、お前のおかげだ。ありがとな、葛城」
髪から水が滴り、頬を伝う。三笠のその表情は、優しく微笑んでいた。葛城はどきりとなって頬を朱色に染めた。
「ん、どうした?葛城。顔が赤いが…」
「な、なんでもない…」
葛城は朱色に染めた顔を逸らすが、三笠の両手がぐいっと逸らした葛城の顔を自分のほうに戻す。そして葛城の赤くなった顔を見詰めるように引き寄せた。葛城は驚いて目を見開き、さらに頬を朱色に染めて、心臓がどきどきと跳ね上がり続けた。
「やっぱり顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないか?そろそろあがろう」
自分に泳ぎを教えてくれたせいで体調を崩してはいけないと三笠は思ったのだろう。恩がある葛城にこれ以上無理をさせてはいけない。三笠はそう思ったのだが、葛城の頬の赤さは違う理由からだったのを、三笠は知らない。
「だ、大丈夫…ッ!」
葛城は気がつくと、三笠と至近距離にいることに気付いた。彼の水が伝う顔が、肌が、間近にある。胸がさらに高鳴った。
みるみる顔が赤くなり、三笠は更に怪訝な表情になる。本当に熱でもあるんじゃないかというくらい顔が赤い。
「やっぱり熱でもあるんじゃないか?」
「ひゃっ!?」
二人はさらに近づき、三笠のおでこが葛城のおでこと重なる。ぴたりと吐息がかかるほどの距離に、葛城は心臓が胸から突き破るほどの衝撃を受けたのを感じた。
「熱はないみたいだな…。…と、どうした?」
「………」
「…ッ!」
葛城は湯気を頭から上させるようにぼーっとなった。そして三笠は葛城のほうを見ると同時に、あるものを見てしまい、三笠も顔を赤くして逸らしてしまう。
葛城の近すぎる顔を見たとき、白い肌を伝う水が葛城の胸の谷間にすっと入り込んだのを見たのである。三笠は慌てて赤くなった顔を逸らした。葛城はぼーっとしていて気付いていない。
「おーい、どうしたのぉ〜?」
天城が呼びかけ、二人が乗った短艇が三笠と葛城のもとにやって来た。随分と短艇から離れたところまで泳いできたらしい。これも三笠が泳ぎを上達した表れだった。
「…なに抱き合ってるの〜?」
天城はニヤニヤと笑みを浮かべた。確かに抱き合っていると思わせぶりの近さであった。三笠は慌てて葛城の肩を抱いて短艇のほうに泳いだ。
「なんか葛城が顔を赤くしてぼーっとして…。熱があるかもしれない、あがるよ」
「わかった〜」
天城が見透かしてるような笑みで三笠と葛城を迎え、二人は短艇にあがった。
龍鳳からタオルを渡されて「ありがとう」と礼を言った後、タオルで身体を拭く。まだ頬に赤みを残した葛城はいつの間にか天城の膝の上で寝息を立てていた。
「疲れちゃったんだねぇ〜」
天城は先ほどの笑みとは違う嬉しそうな微笑みで言った。自分の膝の上で眠る妹の頭を撫でる。
「こうしているとこんな妹でもやっぱり可愛いよぉ〜。寝てると妹らしいんだけどな〜」
天城が微笑み、三笠も笑った。龍鳳も本を読みつつ微笑んでいた。
「…本当に、今日はごめんね三笠君」
天城が突然暗い表情になり、寝息を立てる妹の頭を優しく撫でた。
「いや、いいよ。お前に突き落とされたおかげで、俺は泳げないのを知られてこうして葛城に教えてもらって泳げるようになったんだからな」
「そだね〜」
「立ち直るの早っ」
「あはは〜」
三笠と天城は笑う。既に水平線に夕日が沈み始め、海をオレンジ色に染めていた。涼しい風が肌に心地よく当たる。
明日になれば『神龍』のところに帰れる。『葛城』にいた頃は数日だったが、今日まで大切な日となっていた。
「三笠君も明日で『葛城』から『神龍』に帰るんだねぇ〜。今まで楽しかったよ〜」
「こっちこそ、楽しかったぞ」
「あはは〜。ま、向こうでも元気でね。結構距離が離れてるからあっちには移動できないし」
「そうだな…。まぁ、また今度会いに行くよ」
「それ聞いたら葛城が喜ぶよ」
「しかし…葛城が寝ちゃって、さすがに三人じゃ漕ぐには無理じゃないか?」
「大丈夫。艦魂の能力で短艇ごと艦内に瞬間移動しちゃうから〜。同時に短艇も消せばいいし〜」
「…なるほど」
改めて便利な能力だと思って三笠は笑う。しかし天城はいつもの悪戯っぽい笑みを浮かべていた。こういう笑みを浮かべている天城は、ろくでもないことを言い出す。
「…なんだよ」
「いや〜。実はさ、三笠君が溺れて助けられたとき、三笠君呼吸してなかったんだよぉ〜」
「そ、そうなのか…」
改めて命の危険にあったことを三笠は思う。
「ていうか、お前のせいだろっ」
「だからごめんってば〜。それでその際に〜葛城は〜三笠君に応急処置を施したんだよぉ〜」
「へぇ…。本当に葛城には助けられてばかりだな…。感謝でいっぱいだよ、こいつには…」
三笠は微笑んで天城の膝の上で横になって寝息を立てる葛城を見詰める。
「その応急処置ってなにかわかる?」
「…は? えっと…溺れた人に対する応急処置といえば、心臓マッサージと…」
「もう一つのほうだよぉ〜」
「…なに?」
三笠はまさかと思い、龍鳳は何故か顔を赤くしてその顔を本で隠し、天城が満面な笑みを浮かべて言った。
「葛城は三笠君に人工呼吸をしたんだよぉ〜」
「………」
「つまり葛城が三笠君にキスしたってことだね〜。いや〜、溺れさせた者が言うのもあれだけど、いい物見させてもらったよぉ〜」
三笠は驚愕に目を見開いて硬直したまま、可愛らしい寝顔で寝息を立てる葛城を見た。
葛城の無垢な寝顔は、頬にすこし赤みを残したまま、どこか微笑んでいるように見えた。
水平線にある夕日によってオレンジ色に染まりつつある軍港、呉。
その水平線に沈む夕日を、主砲の上から榛名が見ていた。
夕日の光によって赤みを増す日の丸を描いたスカーフが夕日から吹き渡る涼しい風に揺らされる。水平線の方から吹く風が肌を撫でる。
しかしその風はどこか冷たかった。
「………」
榛名は歴戦の古参戦姫として、久方ぶりに背筋が冷たくなるのを感じた。
夕日が沈む水平線はこの世で最も美しいものの筈なのに、何故かその水平線から吹く風が妙に冷たい。
「…ふん」
榛名は鼻息を鳴らし、スカーフを翻して踵を返した。そして光に包まれて消えた。
光に包まれる間際、腰に挿す日本刀の刃が微かに覗かせたように見えた。
三月十八日の夕方。日本列島近海の太平洋上。
夕日が水平線に沈んでいき、闇が降りてくる中、精鋭空母部隊を含めた艦隊は白波を立てながら洋上を進んでいた。
空母『エンタープライズ』の飛行甲板では数十機の整備された艦載機が並べられ、艦橋のマストに翻る星条旗が夕日のオレンジ色が半分と降りていく闇の半分に染まっていた。
水平線を見詰める蒼い瞳を持つ女性、エンタープライズが仁王立ちで腕を組んで立っている。そして笑みを浮かべた。
「遂に、念願の日本本土直接攻撃…。待っていなさい、ジャップども…。日本の艦なんて一隻も残らず皆殺しにしてくれるわ…」
エンタープライズが自分たちが迫り来ていることを知らないであろう敵がいる水平線の先を見詰めると、踵を返した。
金髪が靡き、エンタープライズは大股で歩き、光の中へと消えていった。
明日の三月十九日、日本近海に迫り来るアメリカの空母艦隊を含めた大艦隊は、日本本土空襲に艦載機を発進させる予定にあった。
確実に、空母艦隊は、日本本土目前まで迫りつつあった。
<十四> 空母たちとの最後の日。葛城教官の水泳訓練 【登場人物】
龍鳳
大日本帝国海軍瑞鳳型航空母艦準同型艦『龍鳳』艦魂
外見年齢 19歳
身長 156cm
体重 45K
瑞鳳型航空母艦準同型艦『龍鳳』の艦魂。潜水母艦『大鯨』として竣工し後に航空母艦へ改装された。かつて第三艦隊として君臨した空母だったが、初めての南洋への航海の途中に敵潜水艦から雷撃されて結局この年は受けた損傷の修理をするだけで終わったり、翌年には航空機輸送任務や訓練に従事した一年を終えて、更に翌年のマリアナ沖海戦に参加。同じ第二航空戦隊所属の航空母艦『飛鷹』『隼鷹』とともに攻撃隊を発艦させたが、この攻撃は失敗に終わり、攻撃後の撤退途中に敵軍機による激しい攻撃を受け、『飛鷹』は沈没、『龍鳳』は小破という損害を受けた。同海戦後は艦載機不足により戦いに参加することなく練習空母となり、今に至る。数々の悲劇を経験してきた空母の艦魂である。そんな不運に苦労してきた彼女は、眼鏡をかけた読書少女。空母の中では磯風の位置に立つキャラ。磯風のように数多くの本を読み、特に哲学書や図鑑などが好き。磯風のように小説などの文学はあまり読まない。その三つ網の髪型をさげる頭は本から得た知識で溢れている。
赤城
大日本帝国海軍天城型航空母艦二番艦『赤城』艦魂
外見年齢 18歳
身長 160cm
体重 48K
天城型航空母艦二番艦『赤城』の艦魂。姉妹艦の一番艦『天城』は未成(後に『天城』という名は雲龍型航空母艦二番艦『天城』に受け継がれる)。
真珠湾攻撃時は第一機動部隊旗艦として開戦に花を添え、以後数々の歴戦を戦い抜いてきた。草津とは心が通じ合うほどの親しい仲であった。しかしミッドウェー海戦で戦没。沈没寸前、草津に言葉を残して味方駆逐艦に草津を転送させた。大和とも親しい仲であり、当時戦艦と空母間の不仲関係を大和と共に取り持っていたが、赤城が戦没した為に再びその不仲関係が復活したといわれている。
今回は草津の回想として出てきただけなので、これ以降登場予定はない。
登場人物紹介で赤城を出すか出さないか少々悩みましたが結局出してみました。しかし詳しくは載せていません。特に決めてないですからね…。
遂に次回は今までなかった戦闘シーンが描かれます。昭和二十年三月十九日、終戦までに三回続いた呉大空襲の一回目の、呉軍港に停泊する日本艦艇に対する大空襲です。
一応戦争小説でもあるのに肝心の戦闘シーンが一回もありませんでしたが、ようやく本格的な戦闘が今まで実戦経験皆無だった神龍に襲い掛かります。今回の話でちょっと赤城のミッドウェー海戦での場面がチラリと出ましたが、短編ものとして描いてみたいですね。とりあえずこのこれからも長くなりそうな小説すら終わってないですが…。
難しいと思われる戦闘ですが、頑張って描いてみたいと思います。しかしまだ三月十九日…。本番の沖縄特攻は遠いですねぇ…。この調子では遅いかも。早く進めろ自分ッ!
では、金曜日に終業式ですので。他のかたには既に夏休みに入っているかたもいると思いますが、私はまだあと一週間あるんですよねぇ(涙
次回はいつもどおりにおそらく週末かと思われますので宜しくお願いします。