メリー・ハーワイヤードは居座りたい。その3
さて、朝食も作った事だし、食べるとするか。
──ドンドンドン!
しかし、それにしてもうるさい。
俺は静かにご飯が食べたいというのに、朝からいったいなんなんだ?
──ドンドンドン!
──ドンドンドン!
よし、もう我慢の限界だ。ちょっと文句を言ってこよう。
──ドンドンドンドンドンドンドン!
──ドン!
「うるっせぇよ!さっさと帰れ!」
俺は先程から連打されるドアを蹴り抜いた。
激しい金属音が木霊して、俺の足は悲鳴をあげる。
「お願いします!お願いします!何でもするから家に入れてください!」
ん?何でも?
何でもか……。
「本当に、何でもするんですか?」
「(コクコクコク)」
まるでロックでも歌っているかのごとく高速で首肯を繰り返す彼女を見て、俺はそれならばと先程思い付いた事を実行することにした。
数時間後。
「えっと、こうかな、ハジメ?」
「はい、よく似合ってますよ、小明さん」
とりあえず彼女は異世界の人間だという話だったので、朝食を済ませた後にメリーというとなんだが外国人ぽいので、日本人名に改名してあげることにした。
因みに小明という名前は、彼女の名前(メリー)が、マーシー(Mercy)の短縮形で、それがメリー(merry)(陽気な)とスペルが同じだったから、そこから派生させたのだ。
漢字は、騒々しいその性格が、少しでも収まるようにと仄かな願いを込めて小という時を使ったわけだが……。
「えへへ、ありがとう!」
俺の目の前には、薄い青色をベースにした衣装に身を包んだメリー・ハーワイヤードこと、早瀬小明がはしゃいでいた。
ハーワイヤードだけに。
「どういたしまして」
その衣服は、あの汚れてしまったローブ一着しか持っていないという彼女のために、わざわざ俺が買ってやったものだ。
無論、俺のこの今の姿で過ごすための服を購入するついでに買ったものなのだが。
俺は頬に苦笑いを浮かべると、世辞に対する返事にそう返した。
(はは……。痛い出費だなぁ、こりゃ……)