メリー・ハーワイヤードは居座りたい。その2
「その代わり、私をここで養うのよ!君の事情が片付くまで!」
俺の朝食を踏みつけたおかげで、ソースで裾が汚れてしまったローブで、どこから来るのか検討もつかない自信に溢れた綺麗な仁王立ちをし、何か言い張っているその少女に、俺はしばらくの間呆然とした。
……は?養う?
傍若無人そうな、このコスプレ女を?
この胡散臭そうな詐欺師を?
いったい誰が?
……俺が?
いやいやいや。
さすがにそれはダメだろう、年頃の男女が、親の居ない一つ屋根の下で暮らすなんて!
何か間違いが起きたり……は……しないだろうけど。だってどうt……。
いや、問題はそこじゃないだろ!
一緒に暮らすのはまだ許容できる。
患者の病をつきっきりで看病してくれるみたいな話だから、まだそれは理解できる。
相手が詐欺師っぽいのは、馬鹿そうなので目を瞑るとしよう。
だがしかし、私を養えだ?
どう思考すればそういう要求ができる?
なぜ養わねばならない?
なぜそうしてほしい?
確かに、彼女は顔の造形も整っている。
はっきり言って、九割方ストライクゾーンだわ。だが、それとこれとは別の問題。
そもそも金銭的に余裕がない。
アフェだけで稼げる量なんて、今の俺では些細なものだ。
だって、バイトしてないし。
「あ、あの……この呪い(?)を解いてくれるのは非常にありがたいんですけど、その、養うのはちょっと無理かなぁ……って」
そうやんわりとお断りの言葉を繕うと、彼女はその仁王立ちを解いて、自然体に戻った。
(あれ、なんか雰囲気変わった?)
そう思った、その直後だった。
メリーさんはものすごい勢いで土下座をした。
「お願いです!一日だけでいいんで泊めてください!」
「……はい?」
「──というわけよ……。だからお願い!泊めるだけでいいから!せめて一晩だけでも!」
「つまり、自業自得ですね……」
俺は、床でおよよとわざとらしく泣いている彼女に、容赦のない一言を発した。
どういうことかというとつまり、彼女は住んでいた寮の家賃が払えず、追い出されたらしい。
一晩はどうにか公園で凌いだはいいが、それからどうすることもできないので、一か八か、異世界へ転移できるという噂の儀式を行ったらしい。
……どうやらそういう設定らしい。
最近の詐欺師ってのは、ここまでレベルが高かったとは……。
もはや尊敬の域だわ、これ。
とりあえずなぜそんなことをしたのかと問いただしてみたところ、その世界は生存競争が激しく、女子高生が一人生きていくには過酷すぎるから、らしい。
どうやらそういう設定らしい。
「設定じゃないわよ!?事実よ!」
もしや、中二病なのではないだろうか?
俺の中から次第に詐欺師から中二病系残念美少女へとクラスチェンジを果たす彼女は、果たして何者なのだろう?
「ではなぜ、私を養えなどと、強引なことを?」
「あれは、ちょっと気が動転していたのよ。許しなさい?」
いや、あの上から目線は人煮物を頼む態度ではないと思うのだが。
(……追い出された、ねぇ)
まあ、俺としてもかわいい娘とひとつ屋根の下っていうのも、悪い気はしないし……。
それに、もし万が一話していることが本当なら、元に戻れるかもしれない。
可能性は限りなく低いわけだが。
「……わかりました。養うのは無理ですけど、俺のこの呪いを解くまでは、ここで共同生活にしましょう」
俺のその言葉を聞いた瞬間、彼女は目にも止まらぬ速さで立ち上がり、俺に抱きついてきた。
「ほんと!?やったぁ!ありがとう!君、ちっちゃいのにしっかりしてるわね!」
その台詞を聞いた俺は、心の中で何かがはぜる音を聞いた。