メリー・ハーワイヤードは居座りたい。
とりあえず学校には連絡したので、とりあえず朝食にすることにした。
何を考えるにしても、先ずは腹ごしらえというものが重要なのだ。
人は食わねば死ぬ。それは自然の摂理であって、何も人に限った話ではない。
この世は弱肉強食が基本。
俺は弱い人間だが、弱者が必ず獲物になるとは誰も言ってない。
なる確率が高いだけの話で、知略を組めばそんなことはないのだ。
……まぁ、そんなことを考えている時点で、俺はどうやら冷静さを欠いているらしいんだが。
俺は洗面所からダイニングキッチンに移動した。
今日の朝食は、冷凍のハンバーグと目玉焼きと白ご飯にレタスのサラダである。
主に電子レンジで暖めるだけでできてしまう簡単な料理なので、朝にしっかり食べておきたい日にはもってこいだ。
俺は冷凍庫から、霜のついたパックと、冷凍ハンバーグを取り出した。
身長が幼稚園児並みにまで縮んでしまっているためか、今までより取り出すのに少し苦労した。
やっぱり、生活に支障が出る。
早めにもとに戻る方法を模索しないと。
続いて、食器棚から皿とお椀を取り出そうとする。が、身長が足りない。手が届かない。
まさか、この歳になって、椅子の上に立って食器をとろうとする事になろうとは、微塵も思ってなかった。
ちょっと悔しい。
筋力も相当量減少しているらしく、今まで軽々と持てていた皿が、少し重かった。
ちょっとだけ苦労して、俺は朝食の支度を終えた。
目の前には、湯気をたてて俺のいただきますを待っている朝食。
「……いただきます」
合掌して、そう唱える。
すると、次の瞬間だった。
──ガッシャアン!
「いったぁーい!!」
中空から、何やら魔女のコスプレをした少女が落下してきて、今まさに食べ始めようとしていた朝食の上に着地したのだ。
「……」
唖然も唖然。
開いた口が塞がらないというのはこういうことかと実感した。
(な、なんだ?何が起きたんだ?)
暫く停止した思考回路が、常温で氷が溶けるようにゆっくりと回復し始める。
「うわぁ、何これベトベトぉ~。ていうかここ何処よ……」
少女は立ち上がると、ローブの裾についているソースを気にしながら、そんなことを愚痴った。
「だ、誰?」
漸く現状を理解し始めた俺は、とりあえずそう聞くことにした。
「ん?あぁ、そうね。失敬失敬。私は魔女見習いのメリー・ハーワイヤードよ。メリーって呼んでね☆」
「は、はぁ……」
魔女?
確かに、それを想起させるようなコスを着てはいるけど、それ自分からいうかな……?
「あ、いま胡散臭そうな顔したでしょ?」
少女はそのぬばたま色の髪を揺らして、こちらにズイと顔を近づけた。
「……ん?貴方、呪われているわね?」
すると、ふとその小鼻をひくつかせて、彼女はそんなことを聞いてきた。
なんだろう、セリフだけ聞くと新手の霊媒商法にしか聞こえないんだけど。
……でも、急に空から降ってくるヤツなんて、そんな所にはいないだろうし……。
「もしかして、この姿からもとに戻る方法、知ってるんですか?」
急に現れたと思えばこの展開!
まさしく、棚からぼたもちだ!
いやしかし、青天の霹靂を食らった直後に棚からぼたもちとは、これ如何に?
(怪しい……)
しかし、メリーは肩を竦めるとそれは知らないわと答えた。
「そんなぁ……」
(やっぱり、新手の霊媒商法だったのか……)
最近の詐欺師はレベル高いなぁ……。
「あ、でも、変化の呪文を重ねがけすれば、一時的にでも元に戻れるかも」
「本当……?」
とかいって、呪文教えてあげるからってお金をセビたりしない?
「でも、変化の呪文知らないんだよねぇ……」
そう来たか……。
もうほぼ予想通りだったよ……。
俺は、落胆した風に肩を落とした。
そんな様子の俺を見かねたのか、メリーはテーブルの上から床に降りると、仕方ないわねとため息をついた。
「わかったわ。私、貴方を元に戻すことに協力してあげる」
(うーっわ、胡散臭え!)
そう怪訝そうな顔で見つめ返すと、彼女は心外だと言わんばかりに呟いた。
「何よ?これでも中等部は次席で卒業したのよ?それに……」
「それに?」
聞き返すと、なぜだか顔を明後日の方向へそらした。
……これ、絶対罠があるぞ。
「なんでもないわ。その代わり、約束しなさい!」
彼女はそう言うと、汚れたローブで仁王立ちして、こう続けた。
「私をここで養うのよ!君の事情が片付くまで!」
(ほらやっぱり新手の霊媒商法師だ!)