BBAB③
ブルームベリーズアンドボーイ。
智志が加わったチームの名前だ。略して「BBAB」。
遥たちアイドルユニット名の「ケルベリーズ」と奏たちのゲームコンビ名「ブルーム」を足したものに智志だけが男性であることから決めたらしい。
結局智志はトイレから戻った後も、十五分ほど待たされることになった。
その間、彼は装備した武器を見ながらスキルの確認をしていた。
スキルスロットというものはなく、装備した武器に応じて設定されたスキル名を発声することで効果が発動するというものだった。
つまりはスキル名を覚えなければ使用が出来ないというシンプルな仕様だ。
設定画面からはスキルの効果と威力を知ることが出来たので、智志は早速使えそうなものからスキル名を覚えることにした。
「お待たせしました」
遅くなった遥たちの謝罪の後、塔ダンジョンへと向かった。
噴水公園の西。
外堀に掛けられた石造りの橋を渡れば、大きなダンジョンの扉があった。
左右に鎮座する獅子と狛犬に似た石像のどちらかにに触れることで、内部に転送される仕組みだ。
早くも他のプレイヤー達が挑み始めており、入り口の周りには人だかりが出来ていた。
キャラクターの外観は性別固定のため、智志たちのチームは好奇の視線にさらされた。
男性メンバーのいるチームは智志たちばかりではないはずだが、時間帯かログインの予定がないからなのだろう。
ダンジョン内部に入ると、けたたましい音楽が周囲に鳴り響いた。
さすがにゲームというべきか、マーチ調の軽快な曲が流れ始める。
内部は床、壁、天井に至るまで煉瓦造りとなっていた。
所々に配置されたかがり火が周囲を怪しく照らし出していた。
入ってすぐの場所はかなり開けており、左側には奥へと続く廊下の入り口があった。
「おお、なんか盛り上がってきた!」
「面白そうですね」
花音と奏が物珍しそうに床や壁を触っていた。
「こういう雰囲気、ちょっと苦手なんだよね」
少し不安な表情の遥の腰がやや引けていた。サバイバルダンジョンを先にしなかったのはこのためなのだなと智志は納得した様子だった。
「音楽のおかげでそんなに怖くないの」
「先に役割分担を決めましょうか、皆さん希望はありますか?」
学級委員長さながらに弥生がその場を仕切った。
特に揉めることがなかったのは、それぞれの希望がうまい具合に異なっていたからである。
前衛を両手剣の智志と片手剣に盾の弥生がつとめ、回復役に遥とその護衛として両手短刀の花音、後衛には魔法攻撃担当に詩織、バックアップ兼詩織のアシスタントに弓装備の奏といった配置が決まった。
「このダンジョンについておさらいをしておきましょう」
弥生が確認のためにと攻略の手順について説明を始めた。
「ダンジョンは一つの階ごとにギミックが仕掛けられています。そのギミックを解くことで上階に続く扉が開き、階段を登って先へ進むことが出来ます。イベント本番でも攻略することになりますが、ギミックそのものは変更されるはずです」
弥生は広間の中央に置いてあったスフィンクスの石像のそばに立った。
「各階にはギミックを解くためのヒントが隠されています。単に階ごとに配置されたモンスターを倒すだけでは上に進むことが出来ません。討伐のための戦闘力はもちろん必要ですが、ギミックを解くことを常に念頭に入れておかなければなりません。練習期間は出来るだけ上に進むことにしましょう」
無言で皆が頷いた。
「注意点ですがギミックが解除できなかった場合は、一度塔を出ることになります。再度入場することでリセットされるので、始めからやり直すことが出来ます。今日はこの階を攻略することに集中しましょう」
「階ごとの地図は確認できるのかな?」
智志は疑問に思ったことを聞いてみた。
「地図そのものはないみたいです。自分達で覚える以外に他の手段はないと思われます」
「まじか」
「それってキツそうですね」
いかにも面倒といった感じの花音と、不安になったのか少しだけ困った様子を口にした奏。
智志は弥生のそばにあるスフィンクスの石像を見つめていた。
「手始めにこの階の間取りとモンスターを確認しよう。ギミック解除はそれからにしてみようか」
誰も智志の意見に口をはさむことなく同意した。
ぴちゃっ、ぴちゃっ、ぴちゃっ。
音を立てながらゆっくりと近づきつつあるモンスターの気配が感じられた。
「それでは皆さん、頑張りましょう!」
弥生の言葉に皆が声を上げた。
ブルームベリーズアンドボーイの優勝までの道程が始まった。