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旅立って早々

 朝食を食べ終えた俺とアッシュちゃんは、いよいよ旅に出ることになった。

 準備などはほとんどしない。何でも前もって用意してたものが、まとめて消し飛んだのだとか。

 必要なものがことごとく消し飛んでいる気がするのは、館で使っていた部屋が固まっていたかららしい。

 現状使っている部屋は全部予備として置いていた部屋らしい。物が少ないわけだ。

 運が悪いのか、予備が残った分まだマシなのか、難しいところだな。

 お金にもそれほど余裕がないらしく、俺の希望もあって冒険者として働きながら旅をすることになった。

 冒険者という響きだけで惹かれてしまったのだが、俺以外にも同じタイプの人はいっぱいいるはずだ。

 最初に目指すのは都市国家のトラモント共和国。

 アッシュちゃん曰く、一番無難らしい。


「じゃあ望、準備はいい?」

「ああ」

「さすがに直接は行けないから、トラモントの南にある森に行くよ」


 今俺とアッシュちゃんがいるのは、瓦礫に埋もれていた地下室だ。

 瓦礫はアッシュちゃんが作ったゴーレムが動かしてくれた。魔法が便利過ぎて羨ましい。

 ここには転移陣というのがあって、これを使えばいくつか条件はあるものの、行きたいところに転移出来るそうだ。

 作るのにかなり手間とお金と時間がかかり、一方通行という難点はあるものの、それでも便利なことに変わりはない。

 俺とアッシュちゃんが転移陣の上に乗ると、転移陣が光り、あっという間に俺たちは森に来ていた。緑の匂いが凄く濃い。


「おぉ。転移陣凄いな」

「ここから数時間歩けばトラモントだよ。ついてきてね」


 アッシュちゃんに先導されて歩き出す。

 周辺にある植物に目を遣るが、現実の植物と似たようなものだった。

 あんまりファンタジーしてなくて残念だ。


「木の精霊とか、動く木とか、人でも食べる植物とか、そういうのはいないの?」

「ここらにはいないねー。北の樹海にはいたと思うよ」


 いるのはいるのか。遠目で見るだけでもいいから見てみたいな。食人植物の近くに寄りたいとは思わないから、遠目でいい。


「見れるかな?」

「んー、あんまりお勧めはしないけど、もしかしたら機会があるかもしれないね」


 そんな話をしていると、後ろから音がした。

 振り向けば、そこには「ザ・盗賊」とでも言うべきなぐらいに、盗賊っぽい人たちが七人いた。

 これで盗賊じゃなかったらかなり失礼だが、俺とアッシュちゃんを見つけて下品に笑って、武器――あれはシミターかな――を取り出してるからほぼ確定でいいだろう。

 対する俺たちは丸腰。あれ、やばくないか? いや、アッシュちゃんは魔王なんだから平気か。


「おい、怪我したくないなら無駄な抵抗するな。俺らも商品に無駄な傷をつけたくないんだからな」


 商品ってあれか、奴隷的なやつか。とりあえず、どう対応すべきか判断がつかなかったのでアッシュちゃんの方に視線を向ける。

 すると、アッシュちゃんがかなり険しい顔をしていた。嫌な予感がする。もっと自信満々な顔してると思ったんだけど。


「望、逃げるよ」


 小声で言われて、俺も慌てて小声で返した。


「え、アッシュちゃんなら勝てるんじゃないの?」

「勝てるけど、望は間近で人が死ぬのを見たいの? 僕がどういうものかを知られるわけにはいかないから、戦うとなると殺すしかなくなるんだけど」

「ばれないようには戦えないの?」

「僕のマナは人のマナと比べると異質だからね。前も話したけど、普通にしている分には、望がいれば僕のマナを隠せる。でも、戦うとなると隠しきれないから、間違いなく人じゃないってばれる。その情報が広まるとまずいからね。戦うなら殺すしかないよ」


 前も話したけどってのは、愚痴大会の前にってことかな。だったらごめん、アッシュちゃん。完全に頭から抜けてるよ。

 だが、そうなると確かに逃げるしかないか。わざわざ人が死ぬのを見たいとは思わない。


「おい、こそこそと何話してやがる」


 こっちが話している間に、男たちは半円状になってじりじりと距離を詰めてきていた。

 残り数mといったところか。

 逃げるなら今すぐ逃げないと間に合わない。

 アッシュちゃんと目を合わせて一度頷くと、盗賊たちに背中を向けて、一目散に逃げだした。


「おい、逃げるんじゃねぇ!」


 逃げるに決まってるだろうが!

 数歩足を動かしたところで、顔の横をナイフが通過していった。

 ちょ、危ねぇ!

 というか奴隷として売ろうとしているのに、頭なんか狙うんじゃねぇ!

 当たったら死ぬんだろうか。それとも夢だから死なないんだろうか。

 夢の中で死んだらどうなるのか、若干気になる部分ではあるが、試そうという気にはならない。

 そもそも痛みがあるというのは分かっているのだ。仮に死なないとしても、痛い思いをしたくはない。

 後の事なんて一切考えず、全力で逃げる。

 前方を走るアッシュちゃんは、俺より足が速かった。

 余裕もありそうだし、多分俺がついていけるぎりぎりの速さにしてくれているんだろう。

 俺より足がかなり短いのに、どういうことだ。


「待ちやがれ!」


 待つわけねぇだろ!

 今度は横腹のすぐ脇を石が通過した。

 危ないって!

 それほどコントロールは良くないから助かってるが、これはやばい!

 アッシュちゃんを目印にして、ひたすら逃げないと!


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 木々の間をがむしゃらに走り続けていると、アッシュちゃんが急に止まった。逃げ切れたんだろうか。

 足を止めて振り向くと、盗賊の姿は見えなくなっている。助かったらしい。

 アッシュちゃんが楽しそうに笑いながら俺の前まで歩いてきた。


「望、気付いてる?」

「逃げ切れたことについて?」

「ううん、そのことではないよ」


 他に何かあったんだろうか。それともこれから何かあるんだろうか。

 笑っているんだから、悪いことではないと思うけど。


「誰かが助けてくれてた、とか?」

「僕らと盗賊以外には誰もいなかったよ。ホントに気付いてないんだね」


 どういうことだろう。

 首を傾げていると、美少女が突然オッサンに、つまりアッシュちゃんが突然アッシュさんになった。

 抑えてくれているのか威圧感は感じないが、なんでわざわざこのタイミングで?


「答え合わせをすると、多分望が動けなくなるからな」


 疑問が顔に出ていたのか、アッシュさんが聞く前に理由を教えてくれた。


「なぁ望、お前さ」


 一呼吸、アッシュさんは間を空けた。


「なんでここまでずっと全力で走り続けられたんだ?」

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