情報の集め方
アーシュライト視点です。
腹立たしい話を聞いてから一日が経った。
望が聞いて来てくれた情報に従って朝から移動し、夕方に僕らはフィル村にたどり着いた。
村に入る直前に深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。
道中は気が急いていたのが自分でも分かるくらいだったからね。
走る必要はないのに走って移動したくなったし、グラスウルフが出てきた時には苛立ちから過剰な魔法を使ったせいで焼け野原ができあがるところだった。
勿論すぐ鎮火したから大事には至ってないけど、それでちょっと反省したよ。
とりあえず、もう着いたんだから順番に探っていこう。
まずは村に入ってすぐにマナの残り香を探ってみる。
マナには、個人個人で差異がある。この差異は同じ種族であれば微妙な違いでしかないが、種族が違えばかなり大きな違いとなっていく。特に、陽族と陰族での差は非常に大きい。
マナを扱うことに慣れた、もしくはマナを感じられる人間であれば、同じ種族の差異を把握することは難しくとも、ほぼ確実に陽族と陰族のマナの違いは理解できる。
僕は長年の経験から個人の違いまで把握できるけど、今しているのは種族の把握までだ。
つまり、本当にここに夢魔がいたのかを知ろうとしていた。
マナって匂いみたいなもので、ある程度滞在してたらその分残留するんだよね。
残留したものから判断するのは難しいけど、僕が今まで慣れ親しんできた夢魔のマナを間違う可能性は、皆無に等しかった。
オーリオの話から察するに、被害者はそれなりの数がいたはず。
であれば、夢魔がここに滞在していた時間も結構あったはずで、一日二日程度でなくなるようなマナではないことは確実だった。
だというのに――僕には、その夢魔のマナを感じ取ることはできなかった。
「……アッシュちゃん?」
「ん、ああ。ごめん。宿屋だよね。早く行こう」
いけないいけない。
思わず足を止めたため、望に心配されてしまった。
でも、夢魔のマナが感じ取れないとはどういうことだろう?
すぐに思いつく可能性としては……
1.そもそも夢魔の仕業ではなく、ホルンたちの勘違いだった
2.漏れ出るマナが全くないくらいにその夢魔が弱い
3.その夢魔が漏れ出るマナを隠す手段を持っている
くらいかな。
可能性1であってくれれば嬉しいね。
でも、正直期待はできそうにないかな。
大雑把な話しか聞いてないけど、該当する症状を起こす存在に心当たりが夢魔しかないんだもん。
調子を悪くするだけなら呪いとかでできなくもないけど、その場合空気がしばらく澱むから、今回は違うのは明白だし。
可能性2は、ちょっと該当する子が思いつかない。
基本的に、マナというのは一定量以上持っていると勝手に漏れ出す。
漏れ出すといっても勝手に消費するわけじゃなくて、体の周囲に留め置かれる感じだから、それほど大きな問題ではない。
ただ、マナ感知ってこの漏れ出た部分を感知することになるから、これがないくらい弱いと感知できなくなってしまう。
しかし、夢魔ってそれなりに強いんだよね。少なくとも僕が知ってる範囲で、マナが漏れ出ないくらい弱い夢魔はいない。
生まれたばっかりの子でもマナは漏れ出てるしね。
仮にそんな弱い子が新しく生まれてたら僕の耳に入らないわけがないので、多分いないと思う。
本当にここで生まれたばかり、とかならあり得なくはないんだろうけど……いや、ないね。正体がばれた時点ですぐに逃げたことから、ある程度生きてるはずだ。
生まれたばかりの子にそんな選択はできない。
となると、消去法で可能性3が残ってしまう。これ一番厄介なんだよねぇ……。
一応、僕が普段から取っている手段もこれにあたる。
それなりに魔力の扱いに長けているのであれば、漏れ出ているマナを体に押し込めることは可能だ。
でも自慢じゃないけど、僕のマナ総量は多すぎて自力では押し込められないんだよね。
そこで僕は、望とのラインを利用している。ラインを通して望の中に僕の漏れ出たマナを押し込んでいるんだ。
普通の人間であれば、漏れ出た極一部とはいえ、僕のマナを押し込めることはできない。それは許容量を超えてしてしまうから。
でも、夢である望は違う。望は自身のマナの許容量など全く知らない。だから、マナの許容量が無限になっている。
そしてこれが、僕が望と行動を共にする最も大きな理由となっていた。
望とラインが繋がった状態じゃないと、僕の漏れ出たマナから陰族とばれちゃうのだ。
まぁ近くにいても魔法使ったらばれるし、このせいでいろいろと望に不便かけちゃってるんだけどね。
っとと、なんか思考がずれてるな。戻さないと。
ともあれ、漏れ出たマナを完全に隠されると、僕みたいに大きい街とかに入りたい放題になってしまう。
そうなってしまっては追うのも難しくなる。うん。困る。
「――ちゃん、アッシュちゃん? おーい」
「ん? どうしたの?」
「宿屋についたよ。これからどうするの?」
おお、本当だ。いつの間にか部屋の中にいた。
手続きとかは望がやってくれたのかな。助かるよ。
しかしどうしようかな。マナを追いかけてさっくりと地獄を見せるだけのつもりだったから、ちょっと困る。
うーん……。
ううーん……。
うぬぬぬぬぬぬ。
よし。決めた!
確実とは言えないけど、記憶を探ろう。ある意味いつも通りだ。夢魔が原因なら、放置はしておけないし。
そうと決まれば、やることも明確だね。
「まだちょっと早いから、のんびりしてていいよ。僕は村人が寝静まってから動くし」
「俺も何か手伝う?」
「気持ちだけもらっておくよ。夢の中で情報を集めるからね」
「夢の中で……? それってどうやるの?」
ああ、そういえば僕がいつもやってる情報収集のやり方について、望に言ってなかったっけ。
「確か、僕は夢をある程度操れるって話はしたことあるよね。この能力を使って、僕が知りたい方向に少しずつ夢の内容を誘導していくんだよ。過去にあったことって夢に見やすいから、上手くやると知りたい情報に関する記憶が見れるってわけ。たまに願望が混ざったりもするから調整が難しいし、思い込みとかで変質しちゃった記憶はどうしようもないんだけどね」
「へぇー。凄い情報の集め方だね。今までアッシュちゃんが一人でやってた情報収集も、同じやり方をしてたの?」
「うん。そうだよ」
ほぉー、と望が感嘆の声をあげる。
ふふふふふ、夢魔としての能力を誇れるというのは心地良いね!
「そういうわけで、今は待機だね」
「そっか。了解。それじゃのんびりしようか」
望は優しく微笑むと、ベッドの上に腰を下ろした。
つまり僕の指定席ができたということになるね。
これは座らないといけない。
僕が指定席に座ると、望がゆっくりと頭を撫でてくれた。
されるがままになりつつも体重を預け、望から得られる活力に癒される。
今日はイライラしてる時間が長かったし、晩御飯まではこうしてゆっくりさせてもらおっと。




